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■ すべ雨
子供たちがわあわあ言いながら山を降りて行った後、子三鞍が木の上から飛び降りてきた。あれで全部帰ったと思っていた子医者はびっくりして立ち尽くす。 子三鞍は他の子供たちと違って、ただ黙って子医者をじっと見つめた。子医者は、子供にしては整いすぎたその端整な顔と、不似合いな不気味な眼帯に目を奪われた。 「目、か?じいさんなら今いないぞ」 自分から他人に声をかけるなんて、ほとんど始めてのことだ。声が上ずっている。老人のところに変わった患者は色々訪れるが、眼帯の子供は見たことがなかった。 「違う」 予想よりうんと高い、澄んだ声が響いた。 相手との距離があと一二歩というところで、頭半分ほど向こうの方が背が高いことに気づいた。 「お前、男か、女か」 とても美しい少年にも思える。子医者だって少年にしか見られない容姿だが、それとは全然違う。どちらの性別であろうと、きれいなものはいるのだ。子供ながらにそんなことを考えた。 「どっちでもいいだろ。君だって」 「ならいい。聞いて悪かった」 本当に自分がつまらないことを言い出したと思ったから、いつもはめったにしないのについ進んで謝った。この子供と話すと、普段のいらいらした気分や寂しい気持ちがふっとなくなる。
「眼帯した子供ぉ?あぁ、あれだろ。三鞍の孫」 先ほど戻ったばかりの老人に、眼帯の子供のことをぶつけてみた。老人は子供の正体を知っていた。 「三鞍のじいさんとわしは長い付き合いでな」 「……」 「なんだぁ?その疑いの眼差しは。わしにだって知り合いぐらいおるわい」 この、山奥に一人隠れ住む老人に人間の知り合いがいるなんて想像つかない。子医者がここに来た時から今までずっと、老人は一人だった。 「で、あの子がここに来たのか」 何度も首を縦に振る。 「三鞍の孫はな、色違いなんだよ」 「?」 老人の指が右と左の目を交互に指す。 「左右の目の色が違うんだ。なぜかはわからん。生まれたばっかの頃にじいさんが見せに来たが、わしにはわからん」 老人は顎をかきながら奥に引っ込んでしまった。 あの眼帯の下には色の違う瞳が収まっていたのか。それでわざわざ隠しているのだ。謎が解けると、今度は見てみたくなった。また、あの子がここに来ないか。じいさんに聞いても、さぁしらんとそっけなく言われた。
2003年07月10日(木)
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