池ポエム
ハンス



 すべ雨

 子供たちがわあわあ言いながら山を降りて行った後、子三鞍が木の上から飛び降りてきた。あれで全部帰ったと思っていた子医者はびっくりして立ち尽くす。
 子三鞍は他の子供たちと違って、ただ黙って子医者をじっと見つめた。子医者は、子供にしては整いすぎたその端整な顔と、不似合いな不気味な眼帯に目を奪われた。
 「目、か?じいさんなら今いないぞ」
 自分から他人に声をかけるなんて、ほとんど始めてのことだ。声が上ずっている。老人のところに変わった患者は色々訪れるが、眼帯の子供は見たことがなかった。
 「違う」
 予想よりうんと高い、澄んだ声が響いた。
 相手との距離があと一二歩というところで、頭半分ほど向こうの方が背が高いことに気づいた。
 「お前、男か、女か」
 とても美しい少年にも思える。子医者だって少年にしか見られない容姿だが、それとは全然違う。どちらの性別であろうと、きれいなものはいるのだ。子供ながらにそんなことを考えた。
 「どっちでもいいだろ。君だって」
 「ならいい。聞いて悪かった」
 本当に自分がつまらないことを言い出したと思ったから、いつもはめったにしないのについ進んで謝った。この子供と話すと、普段のいらいらした気分や寂しい気持ちがふっとなくなる。


 「眼帯した子供ぉ?あぁ、あれだろ。三鞍の孫」
 先ほど戻ったばかりの老人に、眼帯の子供のことをぶつけてみた。老人は子供の正体を知っていた。
 「三鞍のじいさんとわしは長い付き合いでな」
 「……」
 「なんだぁ?その疑いの眼差しは。わしにだって知り合いぐらいおるわい」
 この、山奥に一人隠れ住む老人に人間の知り合いがいるなんて想像つかない。子医者がここに来た時から今までずっと、老人は一人だった。
 「で、あの子がここに来たのか」
 何度も首を縦に振る。
 「三鞍の孫はな、色違いなんだよ」
 「?」
 老人の指が右と左の目を交互に指す。
 「左右の目の色が違うんだ。なぜかはわからん。生まれたばっかの頃にじいさんが見せに来たが、わしにはわからん」
 老人は顎をかきながら奥に引っ込んでしまった。
 あの眼帯の下には色の違う瞳が収まっていたのか。それでわざわざ隠しているのだ。謎が解けると、今度は見てみたくなった。また、あの子がここに来ないか。じいさんに聞いても、さぁしらんとそっけなく言われた。


2003年07月10日(木)



 家族を作ろう

 「お子さんですか、だって」
 「何が」
 「三鞍に聞かなかった?今日、千歳連れて歩いてたらさ、店の人に言われたらしいよ」
 「それはつまり、親子に間違えられたってことか」
 「そうそう」
 「やけに機嫌がよかったのはそのせいか……」
 「で、どっちなんだ?」
 「うおっ!」
 「聞いてたんだ、高田」
 「聞いてた」
 「一心不乱に麺食っとるから聞いとるようには見えんかったぞ」
 「で、何がどっちなの」
 「三鞍は、母親か父親かどっちだ?」
 「……」
 「なるほど、親子ね」
 「普通に考えたら母親だろ」
 「そうだねぇ。父親にしてはちょっと子供っぽいし」
 「聞いたか、高田。三鞍は母親だよ」
 「母?なら、父親は誰だ」
 「誰って、千歳は別に実の子じゃないから……」
 「いや、ちょっと待って。この際、むしろ父親は私じゃないかな」
 「なんでアンタ?」
 「だって三鞍はかわいい部下だよ。で、その部下のかわいい子供は私の子供も同然。三鞍が母で父親がいないなら、その役目は上司であるこの私が」
 「異議あり!!」
 「むっ!」
 「そういう理屈なら、ワシにだってある。三鞍とは古い付き合いだからな。忙しくて手が回らないところは、友人としていくらでも手を貸す準備はできとる」
 「うーーん、なら三鞍と子供ができるくらいいろん……!(後頭部に何かがヒット)」
 「三鞍。千歳と出かけてたんじゃないのか」
 「今帰ったとこ。何の話?」
 「?話の内容知ってて社長をかち割ったんじゃないのか?」
 「いや、なんとなく虫の知らせで」
 「そ、そうか」
 「そうだ。思い出したぞ」
 「何を」
 「昔の人の言葉で、母は強しっていうのあったよな、ドクター」
 「んー、あったかも」
 「三鞍は強い!まさにこのことだ」
 「その強さは、母の強さとは違う気がするけどな」


2003年07月07日(月)
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