池ポエム
ハンス



 失せ者

 わんと元気よく鳴いた子犬が主人の元に駆けてった。茶色の柴犬だ。
 浅葱と別れてここに来てからしばらく経つ。いつの間にか、簡単に時間は流れてしまうらしい。彼女がいないのに耐えられないかも、なんて思ってたのは余計な心配だった。
 葬列のための花を運んだ。あの人のではない。
 久しぶりにみた弔いの花は鮮やかに咲いていた。きれいな門出になるだろう。一年前の雨の中で見た花よりいい。太陽に映える。この人は幸せだ。
 たまに見かける。似たような髪を、少し縛った人を。ああ引っ張りたいと思う。そして、振り返って若作りな顔をしかめるのだ。本気で。そういう幻を何度も見た。でもいやではない。
 嬉しい幻覚はいい。幻覚でも。楽しくないよりは。
 「陸」
 「路、を忘れないでつけてくださいよ」
 巨体がこちらを見下ろしていた。犬のように呼ばれたい。偶然はち会わせたこの人は、その望みを聞いてくれる唯一の人だった。呼び名のわけは知らない。尋ねたら、なんとなくとはっきり言われた。
 「何してるんですか」
 巨体の持ち主は表情のあまりない顔で笑う。
 「仕事で来たんだ」
 「車は?」
 「別のヤツが見てる」
 クラクションが鳴る。向かいの通りに止まっているワゴンから、若者が手を出している。
 「早く行ったほうがいいんじゃないですか」
 大きな手が伸びて、頭をかきまわした。
 巨体の人は黙ってガードレールを越えて、無造作に迫り来る車をふらふらと避けて、待たせていたワゴンで去って行った。
 名を呼ばれても追いかけない犬。
 結局、離れてしまった。何があっても離れないと言ったけど。離さないと言った人はいなくなったし。
 今、あの人に呼ばれて、ついていけたら。
 少しはマシだっただろうか。
 見知らぬ町で一年。少しだけ離れた場所で、引っ張り出してくれた人をなくして一年。


2003年06月30日(月)



 あなたの隣にほら百合が

 百合カップル目撃話でもひとつ。
 朝10時半、市バス内。前から四番目と五番目の一人掛け席に座っていた友人同士らしき学生(何学生かはノーコメント)。朝は誰でもテンション低めだが……この二人は何やら楽しそうにアップテンポな会話を繰り広げていた。他のグループとの違いを察知し、素早く真横に立ちつり革につかまる自分。ウォークマンをしてるから話を盗み聞いているようには思われまい。顔は見なかった。どうやら、後ろの席の子が前の子にいちゃいちゃちょっかいを出してる。後ろの子はなんというか、かわいいキャラというか、端的にいうと誘い受け風味というか。前の子はそんな後ろの言動に引かず、鋭いつっこみこそないが暖かく受け流してる。やがてバスは学校に近づき、二人の会話はクライマックスを迎えた。前の席の子が「未来のお婿さんが気の毒」みたいなセリフを言った。すると後ろの子、「未来のお婿さんは○○(前の席の子の名だと思われる)」。なに?今なんて言いましたか貴方。ベタな小説みたいな展開。世の中ってすごいなぁ。どうやら前の席の子は後ろの子にとっての理想の身長でもあるらしい。後ろの席の子も165センチあるらしく、女の子にしては大きいとかなんとか言っていた。前の席の子の恋人の理想の身長は177?という発言も。ほほう、前の子はノーマルですか。そして二人はバスを降り、傘を差して雨の中校舎へと向って行った。その後姿を見て更に驚いた。さすが、理想身長の持ち主だけあって、前の子は大きい。紛れもなく女性だとは思うが、170は越えている。それに体つきもがっちりしていて(not太い)たくましい。黒のパンツに真っ白なカッターシャツみたいなのを着ている。どことなく服装も男っぽいではないか。後ろの子は今時珍しいくらい女の子服装をしていた。草原を駆ける少女というか、民族衣装風というか、フォークロアというのか、言葉はわかんないけど茶髪では似合わなさそうな服だ。実際、髪は真っ黒。肩ちょい下ぐらいの長さ。こんなにいかにもでいいんだろうか。まるでマンガみたいな人物像に感慨と疑念を覚えた。後ろ子の片恋から始まり、紆余曲折を経て前の子が後ろ子の思いに気づき、一度は拒絶しつつも後に受け入れハッピーエンド……そんなドラマが起こってもいいかもしれません。
 ところで栄地下で手つないで歩いてる女の子二人を見た時も片方は派手めがね&もんちっちショート(茶)のボーイッシュと女性らしい女の子だった。ボーイッシュ&ガーリッシュというのは創作上のパターンだけではないのだろうか。


2003年06月25日(水)
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