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■ 真夏の夜の悪夢5
転げている社長は、それでも何事もなかったかのように起き上がった。しばらく地べたに座ったまま、やっぱり動かない傍らの老婆を眺めている。 「どうすると思う?」 ちょっとわくわくした声で三鞍が言った。仮にも仲間が幽霊に対面してるという危機的状況下において、楽しそうでいいのか。 「さすがに気付くんと違うか」 医者の声も明らかに好奇心で満ちていた。楽しくていいらしい。 「何に気づくんだ?」 一人だけ、普段とまったく変わらない調子で高田が怪訝な顔をする。 「何って、あのばあさんの正体だけど」 「正体?ばあさんはばあさんじゃないのか」 運転席という、この場合の特等席で高田は目を凝らした。 この人は一人だけ気付いてない。視力は2,0なのに、夜でもよく目が見えるという特技を持っているというのに。 「高田?念のために聞いておくが、国道1○○号に幽霊が出るって話は知ってるんだよな」 「ああ、そんなような話を聞いたな」 高田はあの晩、医者と一緒にいたのだ。 「周りに街や村がない、この道のど真ん中で、夜、老人が一人。加えて幽霊の噂。さぁ、どうでしょう」 一つ一つ指を立てながら三鞍がにやりと笑った。 「どうって、それがどうかしたのか」 「思いっきりしとるだろうが」 助手席から医者がツッコんだ。 「?」 「あのばあさんは幽霊なんだよ」 後部座席から静かな声がした。言ってしまってから、我ながらぞっとしないセリフだと思った。まだ盆には早いというのに。いや、そもそも生涯で霊体験をするなど、三鞍の予定にはなかった。多分、医者の予定にもない。高田と社長は知らない。限りなく白紙に近いから、何が起きても予定内で予定外という可能性がある。 「それなら、早く乗ってもらった方がいいんじゃないか」 「はぁ?」 「乗せるんだろ」 そのために今、幽霊相手にナンパを繰り広げている人間が目の前にいるのだが。 「乗せるって、幽霊乗せてどうする。体がないなら意味ないだろう」
2003年06月22日(日)
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