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■ ヒノエウマ
「千歳」 「何?三鞍さん」 珍しく恩師に呼ばれた。ずっと望んでいたのに、なんとなく不慣れで困る。それでも相手に向いたこの顔は、ご主人に呼ばれた犬みたいなんだろう。 「ちょっと」 手でも招かれる。側に来るなとは言わないが、おいでともあまり言わないこの人が。くすぐったい。素直に寄って行く。尻尾があれば振っている。 「珍しいね」 「何が?」 相変わらず見えない目元。薄くだけど笑ってる口元。心から楽しそうに見えないのはどうしてか。愛弟子が側にいるのに。 彼女は黙って背中に手を回した。おとなしく伸びてきた腕に巻かれる。気づかれないように息をする。どんな静かな呼吸も、背に沿った両手で感じ取られると思うけど。 「大きくなったなぁ」 「……久しぶりに再会した父と息子じゃないんだから」 身体に取り込まれそうな抱擁だ。 何か、目的を失いそうなくらいだ。熱い。この人に何がして欲しかったのか、忘れてしまった。離れて見ていた時は確かにぶつけきれない程たくさん何かがあった。 たまにはいいだろ、と軽く言うと彼女は簡単に離れた。
2003年05月26日(月)
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