ぼくたちは世界から忘れ去られているんだ

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2003年11月27日(木) トゥルウトゥエンティフォウ
「どれぐらい前だったかしら。ふいに、思ったのよ。あたし、あたしでなくなりたいって。そんで貯金全額おろして整形したわ。絵を描いてね。それに似せてもらったの。それから逃げてるの。逃げてる間に髪も伸びたわ。あなたがあまりにチヨコ、以前のあたしね、に、似てたから、つい話しかけちゃったのよ。でも、それが失敗だったわね。本当だったら、逃げ続けなくちゃいけないのに。チヨコの呪縛から」
そういうと笠木、いや、チヨコ、あれ、笠木チヨコ、は、髪をかきあげると、大仰に「ふう」と云って、こちらを見た。
「ありがとう。聞いてくれて。これで、忘れて。あたしのことは。さよなら」
そう云って、笠木チヨコは去ろうとした。それを、わたしが捕まえた。
「だめ。だめったらだめ、そばにいてくれるんでしょう?チヨコだろうが笠木だろうが関係ないよ」
笠木はじぃっと、本当にじぃっとこちらの目を見つめて、ささやいた。
「一緒に死なない?」
わたしはノリでウィ、と云った。本当にノリだった。
「心中よ。くるしいわよ。きれいじゃないわよ。それでもいいの?」
「笠木さんと一緒にいられるなら、いいわ。それでいい」
そういうと、わたしはぐっと決意が固まったような気がした。
「じゃあどこか遠いところへ行きましょ」
笠木がこれ以上ないくらいの極上の笑みを湛えて笑った。


それからのことは、話すのがちょっとつらい。
でも、死にそうに甘ったるくて、切なくて、つらくて、きらきらした笠木との日々。


わたしたちは安いアパートを借りた。日当たりが悪くって、じめじめしてて、笠木は、最高じゃない、と、云って、喜んだ。もちろんわたしも喜んだ。心中前に住むのにはぴったりの場所だ。
自炊、といっても、毎日簡単な料理だった。カレーとか、炒飯とか、本当に簡単なもの。でも、二人で小さなテーブルについて食べる食事はなんだかやさしい味がした。
どうやって死のうか、笠木が云った。今流行ってる練炭がいいんじゃないかしら、と、わたしは提案した。(言葉使いも笠木のがうつってしまった)
笠木は、それじゃあロマンティックじゃないわ、と首をかしげた。
「やっぱり、海に飛び込むとかがいいわ。きれいじゃない、ねぇ」
そうかなぁ、とわたしは思った。
「できるだけ苦しいのがいいわ」
笠木はうっとりとした。わたしはできるだけ楽に死にたいと思っていた。
「苦しんで苦しんで、あたし、ずっとサキのこと考えてるわ」
それはちょっと、とわたしが云うと、笠木はしばらく口をきいてはくれなかった。




そして、その日がやってきた。












2003年11月22日(土) トゥルウトゥエンティスリイ
帰りの電車の中で笠木は云った。
「嘘ついてたわ」
なにを?
「チヨコってね、あたしなの。あたしのことなの」
わけがわからないことを言い出すものだ。
「整形してね、誰にもわからないようにして、逃げてるの」
続く


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