ぼくたちは世界から忘れ去られているんだ

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2002年04月30日(火) 吐き気。
 文章で一人称が「あたし」になるとき、そういうときってあたし、そうとう取り乱してたり腹立ってたりするんだけど、今のあたし、ほんとに「あたし」って気分。
 見るからに頭のおかしそうな男が一人。
 あたしとケイ子のそばをハエのようにぐるぐるとまわっている。あたしは、気色が悪い、と思う。それは本当に止められないことなのだ。
 あいつも、昔はあんなんじゃなかった。いや、昔はあたしがあいつがおかしいって知らなかっただけかもしれない。
 あいつが腕をばたばた、飛ぶ鳥のように動かす。あいつは知らないんだと思う。自分が飛べないって事を。ケイ子が、もういこうよ、と云う。あたしも、そのとおりだ、もう行かなくては、と思う。
 でも、どこにいったらいいのか、わからない。
 あたしたちが何処に行けると言うのだ。迷路だったら、壁に右手をついて歩けばいい。でも、あたしたちが今いる場所は?絶望と悲しみに満ち満ちた丸いだけの空間じゃないか。それこそ、あいつのように飛ばなくてはならない。




 ごめんなさい、こんな文章、本当は書くべきじゃない。でも、あたし、今、割と、追い詰められてるんです。

2002年04月29日(月) 企画小説最終回
テーマ「ギビさん自身のこと」


 さて、しばらくの間、テーマを募集し、それに答えて小説を書く、というようなことをやってきたんだけれど、それも今日でおわり。
 わりと、楽しかった。普段出てこないようなアイディアも、なにか一つのキーワードを与えられる事によって、リボンがほどけるみたいに生まれてくる。テーマを送ってくださった皆さん、どうもありがとう。
 と、いうわけで、今日はわたしの話をしようと思う、いや、しなくちゃいけない。。なんだろう、敬語にしたいような気分なんだけど、それは良くない。
 わたしのことを一言で表すと、とかよくやってる人っているじゃない?わたし、あれって結構な愚かな事だと思う。だって、一言、だよ?そんな、その人はそんなに奥行きのない人間なわけ?わたしはそういう風に、心の中に広がるもやもやを、悲しい、とか一言で表現してしまうのがすごく嫌いで、それで頑張って小説を書いているというわけ。
 わたしのことを、好きになってくれる人ってのも、まあ世の中には結構いる。不思議な話なんだけど。その人たちにいろいろと訊くと、どうやらわたしには長所といった長所、要するに、これが良い、と、一言で言えるような部分は無いみたいで、それはどうやら相手の人たちにとって不可解なことらしい。
「紹介とかしにくい」らしい。「なんかこう、君らしい、というのが一番の特徴、というような」と、みんな云う。ようするに、そういうことらしい。なんか、さっきから、らしい、らしい、と、曖昧な事しか書いてないのだけれど、幾ら書こうと、自分の事なんてやっぱり不可思議なまんまで、こりゃあ難しいテーマをいただいたものだ、とノートパソコンに向かって、手を叩いたりしている。
 わたしにはカミングアウトするような事は無い。いや、隠してることぐらいたくさんあるんだけど、別にそんなこという必要ないなあ、というのが本音。よくいる、「わたしって繊細なの!もっと見て!」みたいな文章を書こうと試みたのだけれど、全然できなかった。
 好きな言葉の引用、ってのも前にやっちゃったし。あれ、自分でもかなりいいことあつめてあるなあと思ってたんで、よかったら見てね。でも、実はあれの「19か20」の歌詞、間違ってます。なんか「夕べの彼女はヘビにキス」とかいうのだったよ。全然違うじゃん。
 しかしあれだね、こうやって語りかけ口調で文章を書くってのは、気恥ずかしいね、ほんとに。照れるよ。でもこうやって誰かが前にいると思って文章を書いて、それで誰も見てなかったとしたらおもしろいなあ、滑稽だよ、わたしが。
 だからテーマを送った人は、感想を下さい。ほんと、ほしいんだ、感想。
 怖いんだよね。アクセス数だけ上がっても、無言だと。なんていうか、本当に読んでるのかな?みたいな。誰かが何度も何度もリロードしているだけかもしれないという恐怖。かといって、掲示板をつけるのはどうかと思ってるんだ。わたし、自分の興味の無い話題を広げるっての、苦手だし。もともとトークがおもしろくないし。あと、昔リンクをたどってわたしの個人情報の一端をつかめたのをいいことに嬉々としてプライバシー侵害なことを書き込む輩とか、いたんだよね。それで、もううんざり。詩投稿掲示板、とかも考えたんだけども、どう考えても自己満足、あるいは自己顕示欲がポタージュ状になった、詩ともいえないような言葉の羅列全てに、一つずつ微妙に違う、けれど要約すれば全て同じような丁寧な言葉の感想をつけるなんて、無理です。わたしが日々詩を投稿している掲示板の持ち主のみなさまごめんなさい。才能が無いのは罪悪なんでしょうか。
 インターネットで知り合った人間の中にも、当然好き嫌い、ってあると思うんですよね。
 わたしはメールとかで話してる人の公開してる日記読んでげらげら笑ったりするし。すごい嫌な奴なのです。わたしって多分友達にしたくないタイプ。
 けれど、やっぱりわたしは好かれたくて。我侭だ、って事ぐらいわかってる。
 もっと皆さん、わたしを好きになってください。そういうの遠まわしに友人に云うと、すごく笑われる。わたし、人に笑われるの、大好き。
 好かれたい。もっと。
 あ、好かれたい、と、スカーレットって、似てる。嘘だ、似てない。


 わたしに、どうして小説を書くのですか、と訊いた人がいたので、答えます。
 それは、楽しいからです。小説書くの、すんごく楽しい。ストレス発散になる。だから書いてる。才能無いから、ほら、プロなんて無理無理なわけじゃん。それはわかってるから、ネットで公開するんだよ。


 もう疲れた。




 わたしが、日々思っている、一番怖いこと、というのは、実はわたしなんて存在しないんじゃないか、ということ。誰か他の人のみている夢に出てくる、登場人物に過ぎないのかも知れない。


2002年04月28日(日) 企画小説第七段
テーマ「己惚れやの話をその人の視点で」 
 昨日、わたしの世界が崩壊した。




 わたしは所謂作家志望、要するに勝ち負けが割とはっきりしている職業なのだ。いや職種でいうと無職なんだけれど。
 新人賞、というものが世の中にはたくさんというほどでもないが、ある。それに、わたしは送ったのだ。何人かのこれまた作家志望の友人とともに。関、岩田、ルミ、わたし。わたしは密かに思っていた。こんなかで一番才能があるのはわたしだよね、などと。人間誰しも自分には底知れぬ才能が秘められていると思い込んでいて、大きく冷たい現実とのギャップに苦しんで、悔し紛れに働いたりして生きているのだ。でも、わたしは、違う。この間応募したものでは、わたしは第二次まで受かった。第三次で落ちてしまったのだけれど。それは、結構すごいことなのである。因みに、関とルミはは第一次で、岩田は第二次で落ちた。
 ところが、だ。今回の結果が、だ。
 わたしは、第一次で落ちた。嘘だろ、と思わず呟いてしまった。しかし、それは嘘ではなかった。ところが、関、岩田、ルミは、全員一次は通った。しかも、今、ルミの書いたものが最終選考に残っている。どうすればいい。このまま、ルミの作品が受かってしまったら。
 その予感が、昨日的中し、そしてわたしの、ないしはわたしたちの世界は崩壊した。
「おめでとうございます」で始まる電話が、ルミのところに来たのだ。
 ルミははしゃいだ。そして緊張した。
「ねえあたしどうしよう。なんかパーティとかあるっぽいし。怖いから、一緒に来て!」
 そう云ったルミの目は今までとは随分と違う、狡猾で計算高い目だった。
 次の日、わたしと関は二人で会った。薄汚いくせに照明だけはぎらぎらと光るファミリーレストランで、わたしたちはルミの悪口を言い合った。
「どうせ偶然だよ」
「一発屋になるよ」
「それさえも無理かもよ」
 などとわあぎゃあぴゃあだあと、騒いだわたしたちは、いつのまにか満たされた気持ちになり、店を後にし、ストレス発散だ、などとカラオケに行った。アルバイトの給料がまだなので、所持金はかなり少なかったが、三時間半歌いつづけた。関が年甲斐も無くモーニング娘。を歌った。しかしだんだんと、どっちが相手の知らない歌を知っているかの対決になって、わたしはバンドの曲を、関は所謂似非歌姫系の歌を歌いまくった。関はたまに英語の歌を歌った。随分と流暢な発音で、わたしは、なんとなく負けたな、って気分になってしまったのだ。
 最近わたしは、なんとなく負けたな、って思いっぱなしなのだ。それも身近な人々に。
 ルミの事だってそうだ。どうしてくれる。わたしの世界は徐々に壊れてゆく。


「そんなに自慢ばっかりしてると、友達無くすよ」
 中学の時に言われた言葉。
 それから、自分自身を抑えて生きてきた。それだというのに。
 そんなこと云ってても仕方ないので、わたしはパソコンに向かい、小説を一つ書いた。世界がばらばらに崩れる中で、自分の居場所を捜す女の話だ。
「あたしはいつだって、畏れていた。自分が自分でなくなってしまうことを。けれどそんな事は無く、結局世界が、壊れていく」
 なんというか、凄く傑作な気がする。今だったら、どうとだって書ける気がする。


 ああああはははは。
 よく判らないのだけれど、笑いが止まらない。


 わたしは今からルミの受賞パーティへ。


 来年のルミの顔がみたい。



 わたしはすごいわたしは絶対わたしは負けない。
 そう唱えてから、ルミに云う。
「おめでとう」


2002年04月27日(土) 企画小説第六弾
テーマ「そんなのあたしに関係ないじゃん」が口癖な人の話


 すごく嫌な夢を見た。

 わたしは、サリと、崖っぷちに立っている。と、地面が大きく揺れ、わたしは崖から崩れ落ちるのだが、なんとか地面の端っこを掴み、留まっている。だが、だんだん手の力が抜けてゆき、わたしはサリに助けを求める。助けてよ、と、わたしが云うと、彼女は嬉しそうに、だが傲慢な香りさえする微笑を返して、彼女の口癖を云った。
「そんなの、あたしに関係ないじゃん」
 そうして、彼女は去って行った。そこで、目が覚めた。
 いけない、なんというか、いけない。この夢をみてから、わたしは、サリをなんとなく畏れていて、そして、彼女のあの口癖、「そんなの、あたしに関係ないじゃん」というのが、今までは別にどうとも無かったのだが、突然、恐ろしいもののような気がしてきて、わたしの心はぎりぎりと締め付けられた。
 学校に、日が翳る。下校時間、というさよならの時間が迫ってきている。クラブ活動であるところのバレーボールを楽しんでいたわたしとサリも、うちに帰ろうとしていた。同じ方面の電車に乗る、ということからわたしとサリの関係は始まった。サリはいい奴だ。だが、とても投げやりで、全ての事を、例の口癖で、ほっぽって仕舞おうとする。けれど、反対にわたしは、一つの物事に物凄く固執するタイプで、サリに時折イラついたりするし、サリもそうだろう。けれどわたしたちはなんとなくうまくいっている。愛称、という奴なのか。
 緑色の電車の吊革を玩びながらサリは突然笑い出した。なんなのか、と、わたしが訊くと、また笑って、「いやぁ、なんとなく、すごく可笑しくなって」などと、云うのだ。どうしていいのか判らない。
「なんかさ、ほら、急に可笑しくなっちゃったりすること、あたし、あるんだよね。そうなると本当色んな事どうでも良くなっちゃうんだけど」
 あのサリの口癖は、どうやらその辺から来ていたらしい。
 と、電車が、ごとり、という大きな音を立てて横転した。車掌のアナウンスが入る。
「えー、只今、事故が、発生、というか、横転、しました」
 相当焦っているようだ。
「救出を呼んであります。そのうち来るので、みなさん、心配しないで下さい。あ、出られる方は、もう逃げてしまってください」
 逃げよう、とわたしたちは云い合い、窓を開けて逃げようとした。
 そのとき。
 また電車が大きく揺れた。そして網棚がぐにゃりと曲がり、わたしは網棚と床に挟まって逃げられなくなってしまった。
「サリ!助けて!」
 窓から体を半分出したサリにわたしは助けを求めた。
 おかしなタイミングとしか云い様が無いのだが、わたしが、て、という音を発したあたりでサリは急に笑い出した。爆笑した。
「なによ、助けてよ」
 もう窓の向こうに降り立ち、スカートを平手で払いながらサリは云った。
「そんなの、あたしに関係ないじゃん」
 すごい、正夢だ。笑いが止まらなくなり、先ほどのサリのように笑いを爆発させているわたしのもとに、救出隊の人がやってきて、わたしを助け出してくれた。
 その向こうでまた、サリが笑っていた。
「へぇ、助かったんだ」
 そう云って。

2002年04月26日(金) 企画小説第五段
テーマ「安部公房の『プルートーのわな』を読んでなんか書け」





 しかめっ面で、口だけにたにたと笑っているよくわからない男が、これを読め、と云って、ずい、と、本を突き出した。
 わたしはさささと読んで、男につき返した。
「どう思いましたか?」
 男は聞いた。
 別に。どうも。あぁそうですかって感じ。
「そっかぁ、これならうまくゆくと思ったのですが」
 そういってすごすごと去っていく、背の低い男の後姿を、わたしはみつめていた。


 次の人が、わたしの前に来る。
「これならどう?」
 さっきの男と同じ本。ふざけるな。
「ぷ、ぷ、ぷ、プルートーのわな、という本だよ。か、か、考えさせ、ら、ら、れ、るから。ど、どう、ぞ、読んで、く、く、く、くだ、さい」
 それ、さっき読んだから、と、突っぱねる。
「も、も、もういちど、読めば、違った感想が、でて、くる、と、思い、ます、よ」
 いや、いいよ。

 どうしてわたしがさっきからこんなにいろんな男のもってくる本を読んでいるか、君に説明しよう。
 それはわたしが皇女だから。
 ディーラ・メーラ・レシュポン国の第三子、レジーラ姫。はっきり言って、こんな身分、バカバカしいってことぐらいわかってる。
 なんだって、ジャポンとかいう東洋の国の人間が書いたよくわかんないお話を読まなきゃならないのか。それはようするに、わたしがバカだから。
 わたしがバカだから、知性をつけ、そしてゆくゆくは結婚するため。
 うちの国はどうも変な国で、結婚の際に、詩か小説を朗読しあう、っていう謎の風習があって、それで使う小説、あるいは詩を、公募してあるのだ。そうして賞金目当ての生活の苦しい自称文学を解する者が、わたしの玉座の前に列を作り、目をぎらぎらさせている。
 と、次の男の番がやってきた。
 ふうわりとした髪のとても美しい青年だった。わたしは、今度結婚する予定である大金持ちのことをふっと忘れ、その青年に見入った。

「皇女様、わたくしは、自分の作った詩を、差し上げます。
『愛してる
愛してる
そこにいて
それだけでいい
愛の歌歌ってよ
その声でうたって
あなたの歌
わたしへの歌

愛してる
愛してる
そばにいて
ずっとずっと
そこにいて』
 陳腐なものだ。けれど、その詩を読み上げた青年の声は朗々として、あまりに美しかった。そしてその詩を読み上げているときの瞳。星空みたい、そんなバカみたいな比喩がごくごく自然に飛び出す。これは、恋、だ。いや、違うかもしれない。だけれど、恋にすごく似ている。初めて海辺の空気を胸いっぱいにすいこんだときにも似ている。もうだめ。とめられない。
 父さま、と、わたしが呼びかけると、父王がこちらを向いた。
「わたし、この詩に、きめました。そしてこの詩は、あの婚約者以外との結婚式で、読み上げたいのです」
 ふと、青年の目の色が変わった。いけない。わたしの声は、すごく、なんていうか、そう、綺麗なのだ。自負している。澄み渡る湖のほとりの木々の風にゆれる音のようだ、と、詩人があらわしたほど。
 目と目が合う。
 見詰め合う。そんなことで、胸が高鳴る。
 父王が、言う。
「それはどういうことだ?」
 それは、その、つまり、婚約破棄を。むしろ、皇女の地位なんて捨てちゃいたいなあ、なんて。
「それはならぬ」
 当たり前よね。逆らえるわけなんてない。だって父さまはこの小さな国の王様なんだもの。
 わたしは当たり前のように諦め、初恋に別れを告げた。
 さようなら。でもその詩を使うから、結婚式には出席してもらえる。
 さらって、くれないかなあ。


 けれど彼はわたしを当日さらってはくれなかった。
 明日から、旅にでるのだと、言う。
 そう、とわたしは精一杯美しい声で返答した。そうだよ、と、彼は響き渡る声で言った。

 さようなら。

















 これが、母さまの、秘密のお話。
 いい?一つだけ言っておくわ。
 あなたは、好きな人と結婚しなさい。

「はい、母さま」
 かわいい娘が言った。
 今日、わが国の、王制が崩壊しました。
 あのとき旅に出た彼は、詩人として、有名になりました。
 これがわたしの胸のうちに残るたった一つの、真実のお話。




2002年04月25日(木) テーマ小説第四段
テーマ「蜘蛛」

 僕は今病的に片付け尽くされた部屋の角のところで何をするでもなくたたずんでいる。この部屋の持ち主ユーリはまだ帰らない。ユーリはいい娘だ。僕がいるってことに気付く。ただ、すこし、他の人に自分の陥っている状況を知らせるのが下手なだけ。
 あ、ユーリが帰ってきた。なんだか顔をしかめているように見える。眉間に皺を寄せるユーリはマリアさまのようだよ。キリスト教はよくわからぬけれど。
「ねぇ、聞いて」
 ユーリが首を傾け片足でぴょんぴょんと跳ぶ。プールのあとにするように。
「なんだか耳のなかに何かいるみたいなの」
 耳掻きを鏡台からとって耳掃除をする。
「また蜘蛛がいるんだ」
 ユーリは泣き出した。僕はその涙を爪を引っ込めてぬぐってあげた。この間も、ユーリの耳の中に蜘蛛が入った。ユーリは両親に助けを求め、両親は耳鼻科に彼女を連れて行ったのだけれど、なにも発見できません、と行って眼鏡の医師は首を傾げて、涙するユーリをほっぽってしまった。僕たちは家に帰ってからいろいろな事をした。蝶々を僕が捕まえてきて、ユーリの周りを飛ばせると、蜘蛛ははっと飛び出して、蝶々をさらってどこかに消えた。
 けれどユーリのなかの嫌な気持ちは消えなかった。そして、それはユーリのパパとママも一緒だった。精神病院、精神鑑定、遺伝子。そんな嫌な言葉の並ぶひそひそ話を僕は二人の口から何度となく聞いた。いや、それは盗みぎき、というのかもしれない。だって彼らは僕の存在に気付かないから。
 ユーリは勘の良い子だ。すぐに察して大粒の涙をこぼしながら僕に、あたしおかしくない、と、幾度となく訴えた。僕は勿論知っている。だけど、それを上手にはいえない。
「ユーリ、僕、蝶々を捕まえてくる」
 そう?とユーリは泣き止んだ。
 僕は窓から飛び降りて、蝶々を探しに行った。春なんだか夏なんだかそれともよくわからない空気が僕を取り巻いた。ビルの間から女が飛び降りた。その女から飛び出す飛沫は真っ赤な蝶々だった。僕はそれを捕まえて、ユーリの部屋に持って帰った。ユーリは死んだ女にそっくりな目で僕をみた。
「つかまえてきてくれた?本当に?嘘でない?」
 嘘じゃないさ。僕は蝶々を飛ばした。本当に美しい蝶だ。
 と、ユーリの耳の中から、なにか出てきた。蜘蛛ではない。黒い煙のようなものだ。
「なにこれ、気味が悪い」
 ユーリが発した「気味」という言葉が、「君」に聞こえた。僕は本当にどうしようもない。
 黒い煙は渦をまいて、次々と出てきて、窓の外に消えていった。蝶々も一緒に。
「なんだか、体が軽い。どうしてだろう。なにかあったのかしら」
 そういったユーリの目は、僕なんかみちゃいなかった。さっきまでとは違う。僕はそういうの、すごく鋭い。すごく。すごく。
 ユーリは僕を蹴飛ばして、パパとママのいる部屋に向かった。


 そしてさっきの蝶のような真っ赤な夕日が暮れていく。

2002年04月24日(水) 企画小説第三弾
テーマ「孤独に溺れる人の話」


 わたしの目の前に、一つの水槽がある。ネオンテトラが数匹ゆったりと泳いでいて、底にはビー玉が敷き詰められ、嘘っぽい水草が揺らいでいる。人工的に泡を出す機械だってある。そうだ、これを小さい頃、わたしはぶくぶくと言っていた。
 そしてわたしの軽く掴んだような右手の中。
 そこにあるのは、睡眠薬である。なんだかよくわからない病院で処方されたもので、物凄くたくさんいっぺんに飲むと、死んでしまうこともあるらしい。が、わたしは別に、ものすごくたくさん飲もうなんて考えてるわけじゃない。これで、ちょっとばかり、遊ぼうと思っている。それだけである。と、言っても、イエーイスニッフー、とか思ってるわけでもない。確かに今から粉にするのだけれど。乳鉢で、ごりごりと、する。できた。粉末になった。それを薬包紙で包む。そしてまた、ネオンテトラの水槽の前にやってくる。
 その粉末を、水槽の中に、入れる。魚たちが寄ってくる。が、魚たちは少し食べると、逃げてしまう。けれどこの薬は水に溶けるのだ。あはは、楽しい、と、台詞を言ってみる。阿呆みたいだなあ。
 と、わたしは急に自分とこのネオンテトラたちしか地球上に存在しないような気分になっていた。「宇宙船地球号」とかいうバカバカしい言葉があるが、まさにそんな感じ。
 悲しい悲しい悲しい、バカみたいに呟く。何度も何度も。すると、本当に悲しいような気分になるから、不思議だ。わたしは机の上からお気に入りの香水を取ると、それを何度も何度も吹きかけた。どうしようもないぐらい、甘ったるい匂いがわたしを包む。甘い。甘い。それでいい。甘い物だけ食べて、虫歯になって死ねばいいのだ。
 と、ネオンテトラがぷかぷかと浮き出した。あ、死んでる。やっぱ死ぬんだなあ。そんな風に至極冷静な自分は、別に驚きでもなんでもない。当たり前だ。どうだっていうのだ。ぅあたしの可愛いネオンテトラちゃんが死んじゃったのぉ。くぁわいすぉうなのぅ、などと、泣けとでも言うの?誰に、というわけでもなく語りかける。たぶんこれは罪悪感。
 水槽のとなりにある、小型のとってつきの、笊みたいなもので、ネオンテトラちゃんたちを、掬う。いや、救う。数えながら。へぇ、七匹だったんだ。ラッキーセブンじゃん、やったあ。バカか。
 わたしはネオンテトラ(ちゃん)を、笊ごと、ベランダから捨てた。ベランダの向こうにはちゃっちい花壇が広がっている。そういやそろそろマンション全体の草むしりだわ、なんて思って。
 わたしはコーヒーを煎れると、砂糖を砂糖を四杯入れ、かき回さずに飲み干し、あとに残ったコーヒー味の甘い甘い砂糖を、香水の甘い匂いの中で食べた。
 するとさっきの「悲しい悲しい」というおまじないがきいてきたのか、急に胸の中に悲しみやさびしさ、あるいは虚無感のようなものが満ちてきて、泣いた。
 涙は甘くなくて、しょっぱくて、まずくて、なんだか、生きているって、甘いわけじゃないんだね、と、知ったような口ぶりで、わたしは花壇のネオンテトラたちに、ベランダから愛について語った。

2002年04月23日(火) 企画小説第二段。
第二段。テーマは「自分を不幸だと思い込んで自意識過剰になっちゃってる人の話」




 大掃除、というものをやるとなると、大抵、てきぱきとこなし夜半には紅茶なぞをのみ、ああ疲れたしかし充実していた、などと思う人間と、引出しを開けた際に昔のものが見つかり、ああ手紙だわあアルバムだ、などと時間を無駄に使い、気付けば夜遅く、また明日やらねば、と思うような人間に、だいたい分けられる。リョウナは、間違いなく後者である。今現在彼女は、新学期も始まって半月たち、だいぶ落ち着いてきたことも理由となって、自分の部屋の大掃除をしているのだけれど。彼女は見つけてしまった。それは小さい頃に友人たちから貰った手紙の束である。少しだけ少しだけ、と云って、彼女は読み始めた。ところが、はまってしまった。抜け出せない。気付けばもう夕方六時半。
 ああ、あたしっていっつもこうなんだわ、と思い、リョウナはため息を大げさについた。あたしって不幸、というのがリョウナが日々縋っているたった一つのキーワードである。あたしって不幸、ならびに不遇。そう思うことでリョウナは自分を特別化し、それでどうにかこうにか生きているのである。
 このときはまだ、人生、楽しかったな。
 ドラマの主人公のように白々しく独りごとを云う。子供郵便局といって、彼女の学校では生活科で郵便について学習した児童が校内で手紙配達を請け負う、というイベントがあった。そのときにきた手紙が束になっている。
「こんにちは。りょうなちゃん、お元気ですか。
 わたしは元気です。今日のきゅうしょくはカレーでした。やったあ。
 それでは、さようなら
 エリコ」
 そんな手紙が見つかった。エリコ、というのは小学校のときからの親友である。
 リョウナは急に過去の自分に嫉妬した。このころは、給食がカレーなぐらいでうれしかった。このころは今みたく、エリコとギクシャクしてなかった。
 エリコとリョウナは、最近、なんとなく避けあっている。小さい頃からお互いを知り尽くした二人は、なんとなくなんとなく、そんなのってバカだよなあ、などと思って、さけあっている。今日も勇気を出してエリコに話し掛けたリョウナを、エリコは、海藻の間を魚がすり抜けるように受け流した。
 そうして、リョウナのなかの、あたしって不幸、という気持ちがむくむくと膨れ上がってきたのである。


 もう一通、手紙が出てきた。今度はちゃんとした郵便で、消印によると、四年前、十歳の時のものである。これもやはりエリコから。

「絶交しましょう。もう、大嫌い
 エリコ」
 とだけ、さっきよりはやや大人っぽくなった字で、書いてある。
 あ、とリョウナは思わず云った。なんだか今の状況みたい。このときはどうやって仲直りしたんだっけ。始まりは確か些細なことだった。そうだこのときはあたしが謝って謝って謝って、許してもらったんだ。どうしよう、謝ろうかな。
 けれど、リョウナの中にはまだ、不幸でいるのもいいわ、などという甘ったれた感情が残っていた。リョウナにとっての不幸というのは、子供のときに憬れていたブラックコーヒーのような苦く、熱く黒く、かすかに甘味のするようなものなのだ。けれど周囲の人々、特に最近のエリコにとって、リョウナの不幸は、最近はもう飲みなれた、クッキーを食べたあとの油が浮いた、冷めたインスタントコーヒーのようなものなのだ。その周囲とのずれもまた、リョウナにとっては「不幸」だった。
 あーあ、あたしって不幸。と、声に出してリョウナは云ってみた。あまり上手くいかなかった。もう一度云ってみた。あーあ、あたしって不幸。今度はすごく上手に云えた。満足なような、本当の悲しみのような、不思議な気持ちが、リョウナを包んだ。と、フローリングががたがたとなった。メールが来て、携帯が震えたのだ。折りたたみの携帯をあけ、中を見る。エリコからだった。
「今日はなんか無視しちゃってごめんね。
 明日、帰りカラオケいこ」
 急に胸の中が破裂しそうになった。あたたかい、煎れたてのコーヒーの匂いのようなものが充満していく。
 リョウナはまた台詞を云った。




 なんだ、あたし、幸福じゃん。

2002年04月22日(月) 企画小説第一弾
 企画第一弾。テーマは「今日もメールは来なかった」条件は、「主人公は男性」




 いいかい、ここはジャングルだ。僕は豹だ。君はシマウマだ、と、ジェントルメンが言った。その可憐な足で走り回っておくれ、と、ジェントルメンが地下鉄の中らしいひそひそ声で言う。
 シマウマってなんて鳴くのかしらシマー、とか、鳴くのかなあ。ジェントルメンは嘆いた。シマウマは鳴かないよ。何も言わずにひっそりと豹に食べられてしまうのだ。へぇ、その、食べられるってのは、比喩?
 ジェントルメンが急に深刻そうな顔で言った。
「比喩ではないのだ。君はシマウマだ。だからもう、食べられて死ぬしかない」
 ジェントルメンのその顔を見て、僕は急に恐ろしくなった。
 ジェントルメンの言うことは絶対なのだ。ジェントルメンは世界で唯一の本当を知る男なのだ。
 ジェントルメンは次の駅で降りるよ、と僕に言った。
 僕は頷いた。これからさきしばらく、サマーバケイションの時まで、こうやって、ジェントルメンの言葉に頷くことも、ないのだろう。僕は、寄宿舎に、行く。さようなら、ジェントルメン。身寄りのない僕を十の時まで、ここまで、育ててくれたのは、ジェントルメンです。
 ありがとう。
 さようなら。






 僕の前に一台のパーソナルコンピュータ、ようするにパソコンがある。
 これは僕が十三のときにこの寄宿学校に導入されたもので、各々にメールアドレスが配布されている。僕は毎日、ジェントルメンと、メール交換をしていた。
 ジェントルメン、という名前で登録してある。
 僕はジェントルメン、という呼び名を変えたことはない。父親でもないし、いまさら呼び名を変えようと思ってもどう呼んで良いかわからない。
 物心ついたとき、僕は訊いた。それまではずっと、あなた、とか、ねぇ、とか、呼んでいた。
「ねぇ、あなたは、僕の、お父さんではないのでしょう?じゃあなんなの?」
 紳士さ、と、ジェントルメンは笑った。それ以来僕は彼をそう呼んでいる。
 僕は「メールチェック」というボタンを押す。
 ぴぴぴぴぴ、ぴぴーん。
「メールはありません」という文字がばん、とモニタに浮かぶ。
 ジェントルメンは一週間ほど前から僕にメールを呉れない。
 ちょっと前まで日々のくだらないことや、感動した景色、テレビの感想なんかを書いたメールがきていたのに。ジェントルメンになにがあったんだろう。

 心配な気持ちがどんどんと募り、僕は気付くと公衆電話の前で十円玉をいくつもいくつも投入していた。ちゃんと覚えている番号。ジェントルメンに、電話する。
「もしもし、僕だけど」
 あぁ、元気かい?と、ジェントルメンがやさしい声で言う。メール、呉れないんだね、と、僕がいった。パソコンが壊れてるのさ、と、ジェントルメンは笑った。そう?ならよいんだけど、と、僕は答えた。けれど気が気でなかった。どうしよう。ジェントルメンはきっとパソコンを修理には出さない。彼はそういう性格だ。じゃあ、どうなるんだ。僕は。メールという、形の残るもので、ジェントルメンを感じたいのに。
 嫌な空想ばかりが広がる。
 僕のたった一人の家族が。









今日もメールは来ない。

 僕はもう、ジェントルメンに会いに行こうと思う。
 僕は先生方に外出届を提出し、地下鉄に乗った。
 ジェントルメンの携帯に、電話する。
「もしもし、ジェントルメン、僕だよ、すぐに駅に来て」

 そしてジェントルメンは、僕のもとにけして現れなかった。

 雨。視界の悪いトラック。小走りのジェントルメン。彼はいつだって黒いコートを着ていた。見えにくかったろう。



 葬式は、酷く静かで、みな穏やかな顔のジェントルメンの写真を見て声をあげて泣いた。ジェントルメンの恋人と、久しぶりに会った。相変わらず美しい人だった。今までありがとう、とその人は言った。


 そして、今僕の前にまたパーソナルコンピュータがある。
 葬式のあと出逢った、恋人からメールが来ていた。かわいい娘だ。だけれど、僕はジェントルメンのほうが素敵だった、と、思ってしまう。
 ジェントルメンとの思い出は、日に日に美しくなっていく。
 僕はそれにとらわれている。いけない、と、思いつつ。





 そして今日も、ジェントルメンからのメールは来ない。





2002年04月21日(日) 企画。
企画を、やろうと思います。
ここのHPを見てくださっている皆様、わたくしに、「こんなテーマで小説かけ!」というのを送ってください。
かきます。
もし来なければ、「あぁ今日も来ない」という「しょうがない送ってやるか」という気持ちになるような日記を毎日書きます。
よろしく。

2002年04月20日(土) アーサーラッカムラッカは塗らぬ



 君が、恋文をくれた。
 あたしはうざったくてしょうがなく、ゴミ箱へ捨ててしまおうかと思った。
 けれど、なんとなく、なんとなく、忍びない気持ちになってしまった。
 間抜けな音を立てて、チャイムが鳴り、わたしの部屋にリョウが入ってきた。
「やあ」なんて言って、ベッドの上に座る。手にバスケットを持っている。
「なにそれ?」
 リョウがバスケットをあける。其処には艶やかな赤の苺が新入生のようにきっちりと並び、脇には牛の絵が書いてある、見るだけで口の中が甘くなるようなコンデンスミルクが入っていた。
「食べよ」


 ひやりと冷たく、コンデンスミルクの甘味。どろりととけて、残る苺の酸味。香る、太陽。
 わたしたちは夢中で食べた。
 と。
 リョウが訊いた。
「なに、それ」
 先ほどの手紙だ。
「高木がさ、くれたの。読んでもいない」
 へぇ、と、リョウが言った。はっきりと口に出して。突然、すごく残酷な目になり、手紙をびりびりと破く。
 コンデンスミルクをたっぷりとかけ、リョウは恋文を食べてしまった。
 

「まずいね」
 そういって、咳き込んだリョウの吐息は甘ったるいようなインクくさいような不思議な匂いだった。

2002年04月18日(木) 「僕はいい人」
 君が、いい人みたいに笑った。
「ねぇ、いいひとみたいだね」
 そんなこと無いくせに、と、付け足す。君が今度は、思い切り嫌な奴のように笑った。
「ねぇ、その顔。ずぅっとその顔してて」
 あたしは君のその世界全てが絶望で縁取られていることを知った子供のような、大量殺戮人形のような、君の笑顔が大好きなんだ。
「いやだよ。こんな顔してちゃ、みんな僕のことをやな奴だって思う」
 眉間に、ぐぐぐ、と皺を寄せて、俺は苦悩してるんだぜ、というようなわかりやすい表情になる。
「じゃぁさ、鉢巻きをつければいいよ」
 鉢巻き?と、君がまたいやらしく笑った。あぁその顔をしていて欲しい。
「僕はいい人です、嫌な奴じゃぁございませんよ、って書いた鉢巻きをいっつもつけてればいい。そしたらみんな、君のこと、ああ、彼はああ見えていい人なんだな、と思ってくれる」
 そう?といってきみは、鉢巻きを締めた。白い鉢巻き。
 きゅうきゅうと締め上げる。締め、あげ、る。
 君の頭はぽひゃんと破裂して、跡にはなんにものこらない。

2002年04月17日(水) マネキンが手を差し伸べて。
「さあ、デパートメントストアーにゆこう」
と、君が笑った。
獣か何かのように舌をだらりと垂らして、にたにたと。
デパートメントストアーに行って、きらきらと光る指輪が欲しい、と、君が歌う。でたらめな節回しで、舌は垂らしたままに。

僕たちはデパートに行った。デパートの中には頭の悪そうな目をひん剥いた人々が集まっていて、僕は少し吐きそうになった。
指輪を買ってよ、と、君が甘えた。僕の最近太りぎみの二の腕に華奢な白い指を絡ませる。指輪?と、僕が尋ねる。それはなんだ。永遠の愛、とか、結婚記念日、とかそんなバカバカしいアニバーサリーを祝うのか。
指輪を買ってよ。
君はそれしかいわなくなった。「ゆびわをかってよ」ということばをロボットみたいに繰り返す。僕は君が悪くて、ティファニーの指輪を買ってあげた。
「うわあうれしい」と、君はわざとらしく言って、右手の薬指にそれをはめた。

帰りに喫茶店で一口飲むたんびにどきどきぐるぐるするピンク色のとろとろしたジュースを飲んだ。
君はそのジュースに指輪をいれて、えいと飲み干した。
「クレオパトラみたいだね」と、僕があきれると、君は笑いながらグラスを叩き割り、僕に詩をささげてくれた。
それは、ようするに、あたしはあなたがすきです、というようなクダラナイ詩だた。

2002年04月16日(火) レディ スパークリング ディスティニ―
 何時か来るであろう世界滅亡のときに備えて、いろいろと準備をしよう。
 ビョウ子にわたしは呼びかけた。と、ビョウ子は大きな目をさらに大きくして笑った。
「あんたバカじゃないの?世界滅亡?何いってんの、やっぱあんたっておもしろいねー」
 猫みたいだから、ビョウ子。ようするに、猫子。好きな歌手はビョーク。まるで呑気な奴。
「ねぇねぇ、あんたの予想だとその世界滅亡の日ってのは、いつやってくるの?ねぇねぇ」
 判らないから、備えなくてはならない。そんなの、当たり前じゃないか。バカはお前のほうだ。と、わたしがまったく当然であり、常識的な観点から見ても程よい罵倒を含めた知的な言葉を投げ掛けてやったというのにビョウ子は依然として阿呆のような面構えでわたしの方を見ている。
「大丈夫だって!すくなくともあたしたちが生きてる間は来ないよ!ほんと、ねぇもう、なんだろうねぇ、あんたってば」
 なんだろう、などといわれても返答の仕様が無い。わたしは竹内リョウヤである。
「大丈夫?あんた頭よすぎておかしくなっちゃったんじゃないの?」
 嗚呼わたしの頭脳レベルはついに一般人には理解し得ないところまで来てしまったというのか。おかしいなあ。わたしの売りは親しみやすさなのに。わたしは夢想した。新宿駅中央南口前の、大きな横断歩道の所に選挙カーのようなものを設え、その上に立ってマイクを力強く握り締め、演説しているわたし。世界滅亡というのは、いつかはやってくるものなのです!皆さん、今すぐに準備を!ところが下賎で低俗、識字率も全体の人数の一パーセントを切ったような国民(のなかでも東京都民という一等おかしな奴ら)は「あははー、何言ってるのかわかんなーい」などと言い、カラオケデパートゲーセンライブハウスといった、世の中の何の役にも立たぬ施設へと嬉々として向かう。途方にくれるわたし。
 と、わたしの現実的かつ危機感に溢れる想像を打ち砕いたのはビョウ子の甲高いなかなか魅力的な声であった。
「ねぇえ、リョウヤ、あんたなに考えてんの?ほんと、バカみたい。大丈夫だって、世界滅亡なんて来ないから。ね。ノストラダムスだって大はずれだったじゃん。ねえ、そんなこといってないで、遊びにいこうよ。カラオケ行こう」
 カラオケ?そんな低俗なものなど!と、わたしは嘆いた。
「ねえ、リョウヤ、あんたキャラ変わってない?昨日までは普通にカラオケとか行ってたじゃん。それに何?今日は制服のブラウスのボタン上までぴっちりしめちゃって。茶髪も黒く染め直しちゃうし。一人称も俺からわたしになってるし。キモいよ」
 わたしの過去のことなど言わないでくれ!確かにわたしはつい先日まで一般庶民として世間の汚いヘドロに塗れて暮らしてきた。が、気付いたのだ。このままではいけない。なんとかしなくては。そして思考も論理的になり、身だしなみも整えたというのに!
 かたやビョウ子。
 米国人などでもないくせに金髪で、醜い足を見せびらかして歩いている。なんということだ。
 と。そのとき。
 校庭のほうでものすごい音がした。ごごご、というようなががが、というような岩と岩がぶつかり合うような音だ。これは、世界の終わりだ!ついにきたのだ。わたしはみんなに知らせまわるために叫びながら廊下を走り回った。
 と、A組の前でわたしを呼び止めるものがあった。
「リョウヤー、お前ぇなにやってんだよ。あたまおかしくなっちまったのか?なにが世界の終わりだよ。単なる工事の音だろ」
 爆笑の嵐。みながみな口を大いに空け、頭の悪さをアピールする大会ででもあるかのように笑っている。
 工事、か。
 そうか。
 わたしなど必要でないのか。
 昼休みの教室。工事。工事。わたしから、俺に、戻ってしまおうか。低俗に塗れてしまおうか。
 ビョウ子がわたし、いや、俺の肩を叩いていった。
「リョウヤー、超うけるよ。マジ」
 そういうと、風船が破裂するようにビョウ子は笑った。ごわごわした紙のようなものを扇子のようにちらつかせる。







「帰り、カラオケ、行こうぜ」
 ぜ、などという語尾がまだ不自然であるが、わたしは俺に戻った。



 俺にとっての日常がぐるぐるとせわしなくめぐってゆく。

2002年04月15日(月) 百の質問ギビの場合。
質問本体は、昨日の日記にあります。
てゆーか、これかいてるときはまだ十四日です。


まずは基本を
1あなたのハンドルネームとその由来を教えてください。
ギビ。Give itという意味です。「ギビツミ」という歌からとりました。
2あなたのハンドルネームを変えるとしたらなんとしますか?
2℃。映画ゴーストワールドのイーニドから。それか、ロコビ。「喜び」という意味。
3あなた自身を思いつく限り褒めちぎってください。
ギビさんほど、自分に素直な人間はなかなかいない!やる気が無いんじゃない、すごい。
4あなた自身を思いつく限り罵倒してください。
死んでしまえばみんないい人だったって言ってくれるから、はやく死んじゃえ。
5あなたの自慢できるものを一つだけ教えてください。
福耳。
6嫌いな人、と言われて思いつく人は何人いますか。
多分百人ぐらい。
7好きな人、と言われて思いつく人は何人いますか。
十五人ぐらい。
8インターネット上で、だったらどうですか。好きな人は?
三、四人。
9嫌いな人は?
二人ぐらい。
家族について
10両親は好きですか?
大好きです。
11兄弟はいますか?
一つ上の兄が一人。
12子供に名前をつけるとしたら、何がいいですか?
苺子(まいこ)衣良(いら)マンガからつけるなんてバカだなあ。
13その名前は、自分がつけてもらいたかった名前ですか?
いいえ。
14結婚、してみたいですか?
してみたい。
15結婚したあとの苗字はどうしたいですか?
旦那さんの苗字のほうがいい。今の苗字は好きじゃない。
16離婚、してみたいですか?
ちょっとしてみたいかも。
17新婚旅行はどこに行きたいですか?
ハンガリー
18結婚式はどのようにやりたいですか?
小さい所で好きな人だけ集めてわーわーやりたい。
19お葬式はどのようにやりたいですか?
ガーデンパーティ
20遺骨はどうしてもらいたいですか?
水族館でお魚の餌にして欲しい。カルシウムたっぷり。
インターネットについて
21インターネットをやってて、楽しいことはなんですか?
いろいろな人の意見が読める。
22反対に嫌なことは?
バカも意見を堂々と言える。
23ネット上での詩や小説をよんだりしますか?
少しだけ。
24ネット上での小説や詩はやはり出版されているものより劣ると思いますか?
劣ってる。
25掲示板の書き込みは何を心がけてしますか?おもしろさ?正しさ?それとも自分の存在をアピール?
アピール。
25ホームページ、もってますか?
もってます。
26どうしてつくりましたか?そのホームページは。作らない人は何故?
暇だったから。
27ネットの匿名性について、何かご意見を。(適当でいいです)
匿名だからいえることもあると思います。
28ネット恋愛、どう思いますか?
ありだとは思うけど……わたしはやだなあ。
29現実での知り合いの人にホームページつくってるんだ、といっていますか?
いってない。言う必要ないし。つまんないし。
30回線とプロバイダ、使い心地を教えてください。
ISDNで、ソネット。けっこういい感じ。
あなたの好きなもの
31好きな芸能人(男)を教えてください。
爆笑問題。仲村トオル。TOKIOの皆さん。タモリ。ホンジャマカの石塚。グッチ祐三。
32好きな芸能人(女)を教えてください。
菊川怜。紺野あさ美。
33好きな歌手を教えてください。
Cocco、ゆらゆら帝国、忌野清志郎。
34その歌手を好きなのは何故ですか?
なんでだろう、聞くとどきどきする。
35その歌手を好きだ、ということをどう思いますか?(ミーハーだなあ、とか)
気持ち悪い。Coccoファンには気持ち悪い人が多い、というイメージ。
36好きな花を教えてください。
つつじ。
37野生の花、花壇、人口の花畑、花束、花瓶の中の一輪の花。どれが一番好きですか?
花束。
38好きな言葉、あるいは座右の銘を教えてください。そしてそれはどこからとってきたものなのかも。
「たたかうことをおぼえないうちは自分の顔はもてません」。ムーミンのミイのセリフ。
39好きなファーストフードはなんですか?
モスバーガー
40ハンバーガー屋でご飯を食べるとき、セットと単品のどちらが好きですか?
単品であれこれ。
41好きな映画を教えてください。
ゴーストワールド。ヘドウィグアンドアングリーインチ。
42その映画をわたしが観たくなるように紹介してください。
ゴーストワールドは、思春期の人、あるいはかつて思春期だった人で、自分の言いたいことが空回りするつらさや、何をしていいのかわから無いのに不満と時間ばかりたまっていくジレンマを知っている人なら見るべき。
ヘドウィグアンドアングリーインチは音楽が最高。
古めのロックが好きな人、あるいはいい音楽なら無条件に好きな人は見るべき。
パワフルだけど切ない、ヘドウィグの用に力強く生きたい。
男も女も見るべきだ!
43好きな俳優を教えてください。
ソーラバーチ。(大好き)スティーブブシェミ(最近好きなだけ)
44好きな本を教えてください。
「つきのふね」(森絵都)「ラムラム王」(武井武雄)「ちいさなちいさな王様」(アクセルハッケ)
45好きな小説家を教えてください。
森絵都、梨木香歩、梶井基次郎、町田康、サリンジャー、武井武雄、アクセルハッケ
46好きなエッセイストを教えてください。
中村うさぎ。向田邦子。
47好きな詩人(歌手もありです)を教えてください。
Cocco、ゆらゆら帝国の坂本慎太郎、忌野清志郎、宮沢賢治。
48好きなホームページをアドレス付で教えてください。
名づけられた森。http://cgi2.html.ne.jp/~minori10/
49音楽再生装置はなにが一番好きですか?
MDウォークマン。
50自分の体の中でどこが一番好きですか?
耳。
51好きなアルファベットはなんですか?

52好きなひらがなはなんですか?

53好きなカタカナはなんですか?

54好きな漢字はなんですか?

55好きな電車はなんですか?
ゆりかもめ。
56好きな駅はどこですか?
新宿。
57好きなデパートはどこですか?
伊勢丹。
58好きなセレクトショップはどこですか?
ジャーナルスタンダード
59あなたの好きな人はどんな人ですか?
素敵な人。
60好きな数はなんですか?
175(百七十五、ということ)
その他諸々超個人的質問
61自分を擬音で表すとなんですか?
でべでヴぇ
62鞄の中に入ってないと落ち着かないものはなんですか?
財布携帯定期入れ、あと鍵
63携帯電話のメールをやっていますか?それは何のためにですか?
やってる。大好きな友達たちとのコミュニケーションのため。
64日本語を、愛していますか?
愛してます。言語の中でもっとも好きです。
65英語を話せますか?そしてそれは何故ですか?
話せません。勉強してないからです。
66何故、学校というのは無駄な勉強をさせたがるのだと思いますか?
無意味さこそが勉強のよいところであるから。
67腰までの髪のある男の人をどう思いますか?
オッケイ。ゆらゆら帝国の亀川千代さんとかいい意味でキモい。
68丸坊主の女の人をどう思いますか?
うーん、ちょっとイヤだ。
69「禿げ」って、どうだと思いますか?
人による。キューピーさんみたいな禿げのおじさんの知り合いはひどくキュートだ。
70自分は将来禿げると思いますか?
ちょっと危ういかも。髪少ないんだよねー。
71現在の髪の色、髪型を教えてください。
天然の茶色でボブ。
72今日の服装をブランドまできちんと教えてください。
アズノウアズのワンピースの中からニューヨーカーのボーダーティーシャツを覗かせてアナスイの帽子にポーターのバッグを装備し、コンバースのとんがりスニーカーを穿いてゴー!
73本屋さんでの移動順序を教えてください。
雑誌→マンガ→新刊→文庫→また雑誌→会計→出る。
74マンガばかり読んでいると本当にバカになると思いますか?
思わない。ものによるでしょう。
75明日目が見えなくなるとしたら何がみたいですか?
好きな人全員の顔。
76明日耳が聞こえなくなるとしたら何を聞きたいですか?
好きな人全員の声。
77明日皮膚の感覚がまったくなくなるとしたら、何を感じたいですか?
人の肌。抱きしめあいたい。
78持病がありますか?それについてどう思いますか?
アレルギーです。めんどくさい。花粉の季節は鼻をナイフですっぱりと切り取りたくなる。
79なにか大きな検査をしたことはありますか?(身体でも、心理でも)
MRIやったことあります。
80今飲んでいる薬はありますか?
アレルギーの薬となんかよくわかんない心が落ち着くとかいう薬。
81かみさま、といわれて思い出す人はだれですか?
いろんな人のにこにこした顔がぱああと思い浮かぶ。
82好きな人と話すとき、何を考えていますか?
好きだ好きだって気持ち。心の中で風船みたく愛が膨らむ。
83恋をするときの自分は、好きですか?
嫌いです。
84人を傷つけたことをいつまでも憶えていますか?
はい。
85「オタク」についてどう思いますか?
キモい。
86「心の病気」についてどう思いますか?
どうでもいい。
87上の二つであることを自慢気に語る人についてどう思いますか?
すっげーいやだ。
88秋の雨は好きですか?
大好き。
89辞典、辞書は好きですか?
大好き。暇なときぱらぱらと眺めます。
90今いる部屋はどこですか?どんな感じでどんな匂いがしますか?
自分の部屋です。さっきまいたルームスプレイのおかげで素敵なハッカとミントの匂いがします。結構綺麗です。
もしもの話。
91もし自伝を書くとしたら、書き初めと書き終わりはどうしますか?
初め
予定日よりも一週間以上わたしはお母さんのおなかの中にいた。
だから今でも水の中が好きなのかもしれない。
終わり
生きてくってすんごいめんどくさいんだけど、わたしはやっぱりどうにかこうにか不平を言いつつ生きています。
92もしなにか大きな賞をとるとしたら何賞がいいですか?
芥川賞。
93もし自分に生き別れの兄弟がいたら、会って一番最初になんと言いますか?
「こんにちは。よろしく。多分好きです」
94もし大嫌いな人に「わたしのことが好き?」と聞かれたらなんと言いますか。それがどうでもいい人だったら?それが好きな人だったら?
嫌いな人→「全然」
どうでもいい人→「そこそこ、かな?」
好きな人→「大好き。わたしのことも好きでいてくれるとうれしいです」
95もしモーニング娘。にはいっていたとしたら、あなたは誰のポジションにいると思いますか?
保田圭だと友人に言われました。それはどういう意味ですか。ムカ。
96もし夕焼けが緑だったらどうしますか?
油絵にチャレンジしてみたい。
97もし恋人に変な性癖があるとしたら何なら許せますか?
耳フェチ。いくらでも触らせてあげる。あと土踏まずフェチとかも。
98もしあなたが大予言家だったら、なんと予言しましたか?
みんなきっと幸せでしょう。
99もしあなたが総理大臣だったら、なにをはじめにやりますか?
辞任。
100もし、最後に一言、と、死ぬ前に言われたらなんと言って死にたいですか?
ありがとう。大好きです。



「絞って僕の真っ赤な血を全部
 乾かして汗も涙も血も全部
 もう一度頭絞って滲み出てきた緑の液体が
 僕の全てさ
 バカだろ?」
(ゆらゆら帝国「発光体」)



2002年04月14日(日) ギビからの超個人的百の質問
君のことがもっと知りたい。


まずは基本を
1あなたのハンドルネームとその由来を教えてください。
2あなたのハンドルネームを変えるとしたらなんとしますか?
3あなた自身を思いつく限り褒めちぎってください。
4あなた自身を思いつく限り罵倒してください。
5あなたの自慢できるものを一つだけ教えてください。
6嫌いな人、と言われて思いつく人は何人いますか。
7好きな人、と言われて思いつく人は何人いますか。
8インターネット上で、だったらどうですか。好きな人は?
9嫌いな人は?
家族について
10両親は好きですか?
11兄弟はいますか?
12子供に名前をつけるとしたら、何がいいですか?
13その名前は、自分がつけてもらいたかった名前ですか?
14結婚、してみたいですか?
15結婚したあとの苗字はどうしたいですか?
16離婚、してみたいですか?
17新婚旅行はどこに行きたいですか?
18結婚式はどのようにやりたいですか?
19お葬式はどのようにやりたいですか?
20遺骨はどうしてもらいたいですか?
インターネットについて
21インターネットをやってて、楽しいことはなんですか?
22反対に嫌なことは?
23ネット上での詩や小説をよんだりしますか?
24ネット上での小説や詩はやはり出版されているものより劣ると思いますか?
25掲示板の書き込みは何を心がけてしますか?おもしろさ?正しさ?それとも自分の存在をアピール?
25ホームページ、もってますか?
26どうしてつくりましたか?そのホームページは。作らない人は何故?
27ネットの匿名性について、何かご意見を。(適当でいいです)
28ネット恋愛、どう思いますか?
29現実での知り合いの人にホームページつくってるんだ、といっていますか?
30回線とプロバイダ、使い心地を教えてください。
あなたの好きなもの
31好きな芸能人(男)を教えてください。
32好きな芸能人(女)を教えてください。
33好きな歌手を教えてください。
34その歌手を好きなのは何故ですか?
35その歌手を好きだ、ということをどう思いますか?(ミーハーだなあ、とか)
36好きな花を教えてください。
37野生の花、花壇、人口の花畑、花束、花瓶の中の一輪の花。どれが一番好きですか?
38好きな言葉、あるいは座右の銘を教えてください。そしてそれはどこからとってきたものなのかも。
39好きなファーストフードはなんですか?
40ハンバーガー屋でご飯を食べるとき、セットと単品のどちらが好きですか?
41好きな映画を教えてください。
42その映画をわたしが観たくなるように紹介してください。
43好きな俳優を教えてください。
44好きな本を教えてください。
45好きな小説家を教えてください。
46好きなエッセイストを教えてください。
47好きな詩人(歌手もありです)を教えてください。
48好きなホームページをアドレス付で教えてください。
49音楽再生装置はなにが一番好きですか?
50自分の体の中でどこが一番好きですか?
51好きなアルファベットはなんですか?
52好きなひらがなはなんですか?
53好きなカタカナはなんですか?
54好きな漢字はなんですか?
55好きな電車はなんですか?
56好きな駅はどこですか?
57好きなデパートはどこですか?
58好きなセレクトショップはどこですか?
59あなたの好きな人はどんな人ですか?
60好きな数はなんですか?
その他諸々超個人的質問
61自分を擬音で表すとなんですか?
62鞄の中に入ってないと落ち着かないものはなんですか?
63携帯電話のメールをやっていますか?それは何のためにですか?
64日本語を、愛していますか?
65英語を話せますか?そしてそれは何故ですか?
66何故、学校というのは無駄な勉強をさせたがるのだと思いますか?
67腰までの髪のある男の人をどう思いますか?
68丸坊主の女の人をどう思いますか?
69「禿げ」って、どうだと思いますか?
70自分は将来禿げると思いますか?
71現在の髪の色、髪型を教えてください。
72今日の服装をブランドまできちんと教えてください。
73本屋さんでの移動順序を教えてください。
74マンガばかり読んでいると本当にバカになると思いますか?
75明日目が見えなくなるとしたら最後に何がみたいですか?
76明日耳が聞こえなくなるとしたら最後に何を聞きたいですか?
77明日皮膚の感覚がまったくなくなるとしたら、最後に何を感じたいですか?
78持病がありますか?それとはどういう感じで付き合っていますか?
79なにか大きな検査をしたことはありますか?(身体でも、心理でも)
80今飲んでいる薬はありますか?
81かみさま、といわれて思い出す人はだれですか?
82好きな人と話すとき、何を考えていますか?
83恋をするときの自分は、好きですか?
84人を傷つけたことをいつまでも憶えていますか?
85「オタク」についてどう思いますか?
86「心の病気」についてどう思いますか?
87上の二つであることを自慢気に語る人についてどう思いますか?
88秋の雨は好きですか?
89辞典、辞書は好きですか?
90今いる部屋はどこですか?どんな感じでどんな匂いがしますか?
もしもの話。
91もし自伝を書くとしたら、書き初めと書き
終わりはどうしますか?
92もしなにか大きな賞をとるとしたら何賞がいいですか?
93もし自分に生き別れの兄弟がいたら、会って一番最初になんと言いますか?
94もし大嫌いな人に「わたしのことが好き?」と聞かれたらなんと言いますか。それがどうでもいい人だったら?それが好きな人だったら?
95もしモーニング娘。にはいっていたとしたら、あなたは誰のポジションにいると思いますか?
96もし夕焼けが緑だったらどうしますか?
97もし恋人に変な性癖があるとしたら何なら許せますか?
98もしあなたが大予言家だったら、なんと予言しましたか?
99もしあなたが総理大臣だったら、なにをはじめにやりますか?
100もし、最後に一言、と、死ぬ前に言われたらなんと言って死にたいですか?



ありがとう御座いました。答えた方は、メールで言ってくれるとうれしいです。

2002年04月13日(土) わたしを支える言葉たち
好きな言葉。好きな詩。好きなセリフ。好きな人。






「ひとつのグミとひきかえに、雨樋の十一月末王の黄緑色の冠を描いた絵を一枚もらえる身分だぞ。
そんなやつが、不幸せなはずがあるものか!」
(アクセルハッケ作「ちいさなちいさな王様」より)





「この人はおこることもできないんだわ」
と、ちびのミイはいいました。
それから、ニンニのそばへよっていくと、こわい顔をしていったのです。
「それがあんたのわるいとこよ。たたかうってことをおぼえないうちは、
あんたにはじぶんの顔はもてません」
(トーベヤンソン作「ムーミン谷の仲間たち」より)



               「これは仮定だけどそんなときはぼく
                さっと身をひきさっと台所まで走りさっとミルクをわかす
                そしてきみにわたす
                『さあミルクをのんで』
                『心がなごむよ』
                そうするときみはおちついてうなずいて
                『またあしたね』というだろう                」
               (大島弓子作「バナナブレッドのプディング」より)


  「じいちゃん、ぼく知ってんで
   こういうときは笑うんや」
  (西原理恵子作「ぼくんち」より)




         「ラムラム王の一生というものはただ不思議であったというだけで、
          世の中に別段何の教訓も遺したとは思われません。」
         (武井武雄作「ラムラム王」より)



「今までしてきた悪いことだけで僕が明日有名になっても
 どうってことないぜまるで気にしない
 君が僕を知ってる」
(RCサクセション「君が僕を知ってる」より)


   「15で世界は光り出し
   19か20で終わりそう

   眠れないのに用も無い
   夕方六時に食べたパイ
   ジュースやケーキじゃ踊れない
   踊れないぜ」
   (ゆらゆら帝国「19か20」より)




                           「この目さえ光を知らなければ
                            見なくていいものがあったよ
                            体が ああ あなたを知らなければ
                            引きずる思い出もなかった」
                           (Cocco「雲路の果て」より)




「私はお前にこんなものをやろうと思う。
 一つはゼリーだ。ちょっとした人の足音にさえいくつもの波紋が起り、風が吹いてくると漣をたてる。色は海の青色で――御覧そのなかをいくつも魚が泳いでいる。
 もう一つは窓掛けだ。織物ではあるが秋草が茂っている叢になっている。またそこには見えないが、色づきかけた銀杏の木がその上に生えている気持。風が来ると草がさわぐ。そして、御覧。尺取虫が枝から枝を匍っている。
 この二つをお前にあげる。まだ出来上がらないから待っているがいい。そしてつまらないときには、ふっと思い出して見るがいい。きっと愉快になるから」
(梶井基次郎作「城のある町にて」より)




    「こんにちは こんにちは こんにちは こんにちは こんにちは
     こんにちは こんにちは こんにちは こんにちは こんにちは
           アイとセップンをおくります チャルズ         」
    (サリンジャー作「エズミ」より)




昨日の背の高い男がまたやってきた。
「ありがとう」といって、またツーステップで去って行った。

2002年04月12日(金) ほとんど無断です。問題あったらいってね。リンク企画。
 だれかとつながっていたい。
 でも、つながっているのに、すごく、遠くて。


四重華
リエン
 両手をバレリーナのように曲げる。
 その中は完全に彼女の世界。わたしはけしてその中には入れないし、その世界に石を投げ入れることさえ、できるかどうかわからない。わたしはそっと彼女の背後に忍び寄る。彼女の世界を覗き見る。子供の頃に見た、深夜の静寂のような、不思議な世界。



名づけられた森
不破海路
 わたしの心の中に降り積もる言葉の群れを、解き放っていいんだよ、とやさしく云ってくれたのは、彼女でした。言葉は、自由だと、彼女は教えてくれました。
 森の中に何があるのだろう、そう考えたとき、わたしたちはもう森の中にいます。
 言の葉を彼女は集めて、やがてリースをつくるでしょう。それのために、そっと言の葉を彼女に手渡したい。


サーカス
上野川
 たゆたうように、彼はどこかで生きている。それがどこなのかはわたしにはまるで判らない。けれど彼はきっとどこかで生きている。わたしは彼の文章に会いに行く。彼に会いに行く。それだけでいいんだろう、と思う。


いやごと
使用後
 オタクを嫌悪しながらも、彼はその世界にのめりこんでいく。彼が彼でいられるのは、ゲーム内、あるいは脳内だけだという。
 しかし、わたしは彼の描く文章を知っている。緻密で、大胆で、過激で、悲しい。
 フィクション、だということを忘れそうに、リアル。目をそらしたくなるほど醜くて、目が離せないぐらいにおもしろい。
 彼はこれからどこに行くのだろうか?

猫を起こさないように
小鳥猊下
 流れるような文章のパロディで綴られた、すさまじい物語の数々。
 それらは、アニメの、ゲームの、マンガの、ロリータコンプレックスの、要するにおたくの、物語である。
 目が痛くなるまで、わたしは読みつづける。
 初め、わたしの中で(所詮)インターネット上のテキストだ、として始まった文章はいつしか、溢れ出る愛と憎悪の逸話となって、わたしに押し寄せてくる。


君と僕
水谷
 彼女の体は透明だ。
 心臓が動き、腸が動くさまがよく見える。心臓はゆっくりなったり、はやくなったり。叫ぶように話してみたり、苦しいほどに言葉を吐き捨てたり。生きてゆかなければならぬことの面倒くささ。居心地の悪いジャングルジムの中。
 彼女は必死に、けれどだらだらと、わたしなどいないように、(じっさい気付いてはいないだろう)なぜか耳を傾けずにはおられないような言葉を浴びせ掛けてくる。



 背の高い男がふらふらとわたしに近寄り、眉間に皺を寄せて云った。
「あなたは孤独ですね」
 わたしは驚いた。わたしのどこが孤独だというのだ。わたしはたくさんの人と手をつないで輪になっている。わたしは独りじゃない。
「あなたは孤独でできている。つなっがっていても、離れていても、あなたの心の中の孤独は消えたりなどしない」
 男はツーステップのような歩き方で去って行った。
 わたしと、となりの人との間にさびしさにも似た空虚が漂っていた。

2002年04月11日(木) ピンクというのは君が思ってるほどかわいい色じゃないんだ
 休み時間、肯定のすみで倖子と喋っていた。
 沈黙が訪れた。
 AからZまで、アルファベットを順にすぐ、言えるかい?
 と、倖子がまるで歌のように恰好をつけて訊いた。
 わたしはABCDEFG、で始まる歌を歌わないとアルファベットを全部はいえない。
 歌っちゃダメ?と、訊くと、ダメ、という。倖子はしょうがないなあ、とため息をついてから鶯の舌でも移植したのではないかと思うようなほど美しい声で明朗にアルファベットをあげていった。
「ABCDEFGHIJKLMNOPQRSTUVWXYZ」
 アメリカ人もイギリス人もオーストラリア人も多分かなわないであろうその発音。
 一音一音きっぱりとしていながら一筋の流れとなって、鼓膜をなぜるように震わせる。わたしは時々倖子の声を聞いてどこかに逃げたくなる。でもずっとそこにいたくなる。厚ぼったい耳たぶよりもっとずっとわたしの脳―これは、心といってもいいのだろうか―のそばに在る鼓膜を、衝いて欲しい。温めたミルクに浮かぶ薄い膜を舌で破るみたいに。そうされたら、わたしは泣くだろうか。よくわからない。泣かないかもしれない。うれし泣きかもしれない。
 それぐらい、倖子の声は美しい。
 美しい、という言葉を日本一の書道家が一生の思いを込めて書いたものさえ陳腐に見えるだろう。わたしは美しい、なんてバカみたいに連呼していてなんだか自分が嫌になる。脳ないに倖子の声がクリヤー^に浮かび上がるくらいに美しい比喩、なんて在ったらいいだろうな。
 倖子が、ポリシーをもってけして短くしない制服のスカートを、開花の悦びをはじめて憶えたチューリップのように翻して、はやく教室もどんないと、次英語、外人の先生くる時間だよ、と告げた。
 外人の先生はリサといった。ハーイ、といったその顔はこの間みた映画に出てきたエルフの皇女に良く似ていた。胸に着けたローマ字の名札をつけて生徒を当て、次々と質問していく。
 倖子をアメリカ式に指して、ミズスチュワートは尋ねた。わたしにはそれは単なる、アルファベット、あるいはもっと単純に考えればカタカナの連なりにしか思えない。
「ハーイ、サチコ!ウェアドゥユウリブ?」
 そんなものだ。
 倖子が答えた。
「アイリブインシブヤ」
 それは、[I live in shibuya]と、意味を持って聞こえた。わたしは何度も心の中で、その酷くかんたんな英文を繰り返した。一度、声に出して小さく小さく云ってみた。
 アイ、リブ、イン、シブヤ。
 おかしいと思ったのか、前の席の紺野が振り向いた。
 いや、練習だから、なんてごまかす。




 わたしのなかで渋谷に住みたいという願望がピエロの膨らますペンシルバルーンのように膨らんだ。

 本当に、わたしの鼓膜を、破って欲しい。
 その指で。

 その声で。

2002年04月10日(水) 手を、するりと
 わたしたちはお互いに、がんばろうね、と言って走り始めました。
 顔が確認できたのは、エツ、ヨウコ、サナミ、その三人だけだったのだけれど、わたしの周りにはたくさんの仲間がいて、まるでマラソンのスタートのようにいっせいに走り出したのです。
 けれど、今、わたしはたった一人で走っています。
 ガラス張りの、下に海の見える道を、どんどんと重くなる足をなんとか動かしながら、わたしは、走っています。

 一人、なのか、独り、なのか。そんなことは考えないように、と自分で決めました。
 楽しかったことばかり思い出されます。
 わたしの好きだった人のこと、わたしの嫌いだった人のこと。
 どうして楽しかった、といえるのでしょう。


 わたしは走っています。

 いつかみることのできるだろう、はてしなく透明な湖のために。
 あるいは、たった一人の人のために。


2002年04月09日(火) 比喩サーカス
 わたしはランニングさせられていた。
 どこだかよくわからないグラウンド。わたしはジーンズにティーシャツという、いかにも運動中といったようなシンプルな恰好をしていた。走るたびにだらしなく伸びた髪が頬に当たる。邪魔だなあ、なんて思って、何か縛るものはないかとポケットの中をごそごそと探る。半透明のピンクのラメをまぶしたビニルでできた簡単なゴムが見つかった。それで髪を一つにまとめる。もちろん走りながら。反対、左のポケットもみる。冷たい感触。そっと取り出す。ナイフだった。多分バタフライナイフという奴。わたしはキャンプなどにも行かないし、人を殺したいほど憎んだことも無い。いや、そういえば、大きな病院に友人を見舞いに行って、そのとき林檎をむいた、記憶がある。そのときも同じジーンズを穿いていた気がする。だから、入ってるんだな、と、わたしは自分を納得させる。
 自分の周りを見渡す。他にも同じような年格好の男女が走っており、みな一様に妙に元気だ。そういうわたしも何週もしているはずなのに、何故か疲れていない。もっと走りたい、もっと速く、という欲求が腹の底から湧き上がる。まったく健全だ。昨日まで不健全な中学生だった、はず。うん。確かそうだ。あれ?わたしの名前は?確か、ミキ。どんな字だか、忘れた。
 グラウンドを一周した。
 黒い帽子を目深に被った男、多分男、が、手を上げた。
「あと、二十七パーセント!」
 無感情に、まるで軍隊の人間のように叫ぶ。二十七パーセント、何が。と、わたしは思う。男のそばに何人か、わたしより少し幼いぐらいの女子がならんでしゃがんでいて、あと少しよー、などという。何がどうあと少しなのだろう。
 と、また男のいる地点についた。おかしい。十秒ぐらいしか走ってないはずなのに。いや、確かに一周した。
「あと、九パーセント!」
 男がまた叫ぶ。きゃーがんばって、あと少しー!と、女子たちが叫ぶ。あと少し、あと少し、と、野球の応援のように妙なリズムと抑揚をつけて、女子たちがはしゃぐ。よくわからない。
 とにかくあと少しなんだな、と、わたしは走りつづける。
 右、左、みぎ、ひだり、と、足を交互に出し腕も交互に振る。ちょうど左手を後ろに持っていったとき。
 誰かがわたしの手首をつかんだ。その手は異様に冷たかった。
 誰?と、後ろを振り向く。そこにいたのは五歳ぐらいの少年だった。わたしと同様に、走っているのだが、走っていられるのが奇跡のような細い肢体。
「待って、待ってよ!」
 か細い、けれど叫び声で少年が呼びかける。
 けれどわたしは走らなければならない。わたしの足は止まらない。
「ねぇ、何で僕をおいて行っちゃうの?酷いよ」
 酷い、と云われてもわたしはあんたなんか知らないから、と、わたしは突き放してまた走りつづける。少年はまたわたしの左手首をつかむ。
 何よ、止めて、なんていっても少年の力は増すばかり。
「僕は、こんなにつらいのに。どうして僕を置いていくの?僕はこんなに悩んでいるのに。君のせいで僕がどんなに傷ついたか、知っているの?」
 少年はだらだらと喋りつづける。
「僕は、君と違って、繊細なんだ、壊れやすいんだ、儚いんだ、弱いんだ。どうしてそんなことも忘れてしまうの?」
 そんなこといわれても、と、わたしは走るスピードを速める。
「君のそのずぼんのポケットにナイフが入っているだろう。僕は知っているんだ。それは僕を殺すためなんだ。君は僕に嫉妬しているんだ。僕は繊細で美しいから」
 何を言ってるんだろうねー、などと誰に言うとでもなく問い掛けて、わたしは走りつづける。
 また男のいるポイントについた。
「あと、一パーセント!」
 男が叫ぶ。それはわたしのことなのだろうか、わたしに付きまとうこいつのことなのだろうか。それとも二人のことなのだろうか。応援していた女子たちはいつのまにかいなくなっていた。
「ねぇ、殺してよ。僕を殺してよ。そのナイフでさぁあ。判るだろう?僕の、首を、すっぱりと、切っておくれよ」
 五月蝿いうるさいウルサイ。
 少年がわたしの左ポケットのあたりを探りだした。
 やめてよ、気持ち悪い、と、言うと、少年は絶望的な声で言った。
「気持ち悪い?僕が?そんなわけない。そんなわけないでしょう?」
 気持ち悪いから、あっち行ってと、わたしはまたスピードを上げる。
 冷たく乾いた風を切る。
 少年はそんな、そんな、といいながら、どろどろに融けていった。土の上に水溜りができる。
 わたしは気にも留めず走りつづけた。水溜りにナイフを投げ入れて。
 と、液体化していた少年がふいに固体状、ようするに人間の姿に戻り、ナイフを持って追いかけてきた。けれどわたしは逃げきれる、という確信を抱いて走りつづけた。
 何秒走っただろうか。
 男のいるポイントまできた。
「終わり!」
 と男が云った。不意に世界の色が変わった。少年はもういなかった。
 世界はマーブル模様に瞬き、空はどろどろに溶けている。マシュマロのようだ。
 わたしは呼吸を整えるためにゆっくりと歩き出した。
 男がわたしにタオルを投げる。
 その重みに耐えかねて、わたし、トーストの齧られた部分のように沈み込み。




★☆★
 ここを読んでる人、一言でもメールするとかメッセで話し掛けるとかしてくれると嬉しいでーす。
 この間好きなサイトの管理人さんにメール送ったらかなり丁寧な返事が来て嬉しかったです。

2002年04月08日(月) さよなら、ドッペルゲンガー
 安っぽい全国チェーンのコーヒー屋で、僕は一人、アイスコーヒーを啜っていた。意味の無い行動だ。別に、誰かを待ってるとか、そういうわけではない。ただ、夕方まで時間をつぶさなきゃならないんだ。鞄の中から文庫本を取り出す。カバーがついていたとしても、やはり外ではもう少し頭の良さそうな本が読みたいなぁ、などと考えながら僕は元歌手の書いた小説を読んでいた。
 僕が座っているのは窓際のカウンター席だ。窓の下には道路が流れていて、そこをたくさんの俯いた人々がいったり来たりしている。ここに突然台風かなんかで川が流れたら、すごく楽しいだろうな、と、僕はぼんやり考える。
 となりに、男が座った。
 僕と同じぐらいの年格好で、なにやら英語の書いてあるティーシャツにだぶだぶのズボンをはいている。
 ふと、座りますよ、とでも云うように彼は僕のほうを見た。
 そこにいたのは、僕だった。
 嘘、と、唇のはしっこからことばが零れ落ちる。相手は黙って大きな目をよけいに大きく開け、口は半開きになっている。
「あの、あの、あの、その、その、」
 あの、その、しか云えない。だって、僕の隣でトレーにキャラメルマキアートを乗っけて今丸い椅子に座ろうとしてる、その人間は、紛れも無く、僕だ。
「お名前は?」
 妙な発音で相手が言った。
「俺は、ユウジだけど」
 割に親しげな口調だ。僕は、コウイチ、と、なるべくはっきり聞こえるように云った。けれど僕の声はおどおどとしたものだったに違いない。
「ドッペルゲンガーってやつ?」
 と、同意を求めるユウジ。ただのそっくりさんだといいのだけれど。
「いつ、生まれた?ドッペルゲンガーだと、ぴったり一緒だ」
 1987年7月24日の、夜中、と、僕はかなり詳しく答えた。
 コウイチは、俺もだ、と云ったきり、黙りこくってしまった。
 ドッペルゲンガーに会うと、生きてはいけないという。死ぬのだ、と、おどろおどろしい声で小学校のときから一緒だったタジマが言ったのを僕はよく憶えている。
「死ぬのかな?」
 死ぬんじゃない、と僕が答えると、随分と楽観的だな、と、皮肉っぽくコウイチが答えた。コウイチはグレイの携帯電話を取り出し、卵を割るように開いて、
「携帯の、番号と、アドレス教えてよ」
 と、云った。僕は自分の番号とアドレスを暗唱した。鞄の中で携帯が鳴った。
「ワン切りして、メール送ったから」
 俺、今から会う人いるから。また会おう。といって、コウイチはもうすっかり冷め切ったキャラメルマキアートを一息に飲むと、颯爽と立ち去った。
 僕の心の中には、もやもやとした、時に友人が校庭裏で吐き出す紫煙のようなものが残った。





 翌日、僕が学校から帰り、部屋で昨日の小説本の続きを読んでいると、携帯電話がカナリヤのように鳴いた。
 コウイチの、親だという。
 コウイチは、死んだそうだ。








 ドッペルゲンガーはコウイチでなく、僕だったのだ。

2002年04月07日(日) 浜辺にて。
 海の見える丘でわたしたちは出合った。
 彼女は長い髪を風になびかせ、人魚のようだ、と、わたしは思った。
 随分と陳腐な発想だとわたしも思う。けれど小さい頃読んだアンデルセンの挿絵をわたしはありありと思い浮かべることができた。
「ごめんなさい、ちょっと、あなた、その双眼鏡、貸してくれる?」
 わたしは首から双眼鏡をぶら下げていた。鳥をみに、この丘まできた。
 わたしは彼女に双眼鏡を手渡した。
「海が、見えるね」
 あたりまえだ。
「海に、泳いでいる、人がいる」
 まだ三月だ。そんな人、いない。
 あの人は、死んだ人よ、と、無感情に彼女は云った。
「そんなことないでしょう?」
 いいえ、あれはわたし、と云って彼女は去って行った。
 双眼鏡を手渡してから。
 
 もう一度会いたい、とわたしは思った。
 わたしは海まで降りていった。砂浜を歩くのは均衡がとれないようでいて、足のうらに確かな砂の感触を感じる。
 彼女が、いた。

「ねぇ、なにしてるの?」
 彼女は髪をさらさらとなびかせて振り向き、わたしの目をじっと見た。瞳の奥の網膜が刺激される。
「これから、帰らなくちゃ」
 そう、残念、とわたしは云った。また会いたいから、とでも云っておこうか。
 いやしかし、女同士のナンパなんて気色悪いし。

 悩む私を彼女は見ると、またアンデルセンの挿絵のように笑って、海に入った。
 え、なにするの、ちょっと、寒くないの、などとバカのように叫ぶわたしなどかえりみず、彼女は海の遠くの遠くまで泳いでいった。
 夕日がゆらゆらとゆれて、わたしは何かの歌みたいだ、と思った。

2002年04月06日(土) 今日は雨でした。今日は奇跡が起きました
 雨が降っていた。
 嘘です。関東地方は今日も晴れ。良かったね、お百姓さん、良かったね、ファミリの人たち。

 もうすぐ春休みが終わります。

 終わらないと思っていたのに。
 終わらない、というのは、すこしだけ怖いね。

 揺花が笑う。君はいつもそうだね、と。たしかにそうなのかもしれない、とわたしは同意をするのだけれど、そう、というのがなんなのか実はよくわかっていない。指示語は難しい。
「国語のテストみたいに考えれば簡単な話だよ」 
 と、艶かしい赤のつやつやきらきらをぬりたくったまるで魅力の感じられない子供じみた唇をゆりかがはっきりと動かした。
 国語のテスト。それ、とか、そういう風、と在ったら、すぐ前を見なさい、ということ。「すこしだけ怖いね」が、正解だね、とわたしがあまり自信などないくせに面倒くさいものだからさも本当だと言う風に答えると揺花は笑って、
「ぶっぶー」
と、子供のように言った。いや、ここでは云った、というのが似合う気がする。なんとなく。
 わたしの部屋には両手を広げたぐらいの幅の本棚があって、高さはちょうど天井に届くぐらいなのだけれど、そこにぎっちりと入った本、あるいは、マンガを、わたしは国語のテストのときのように読め、と言われたら、きっとぶっぶーなのだろう。ぶっぶー、と、わたしは声に出してみた。声に出すと自分の考え、あるいは行動が不正解なのだという虚無感がよけいに募り、わたしは焦ったように心の中でぴんぽんぴんぽーん、と、何度も繰り返していった。揺花はそんなわたしをわらった。わたしの何がわかるのだ、と、すこし憤りを覚えたけれど、揺花は国語が得意だ、きっとわたしの分析などできているのだろう。
「なんでそんなに、黙ってるの?黙ってると思ったらぶっぶー、だなんていうし」
 さぁなんででしょう、とわたしは他人行儀に訊き返した。さぁなんででしょう。と揺花が云った。
「あ、私の真似などしないで下さい」
「あ、私の真似などしないで下さい」
「そんなことをしたらまたわたしは黙るだけですよ」
「そんなことをしたらまたわたしは黙るだけですよ」
「もう、腹が立つ。もう黙ります。手を三つ打ったらわたしは一生揺花の前では黙っている」
「もう、腹が立つ。もう黙ります。手を三つ打ったらわたしは一生揺花の前では黙っている」
 とん、とん、とん、と、やわらかい音を立ててわたしは手を叩いた。
 揺花もまねをした。けれど揺花の拍手は、ぱん、ぱん、ぱん、と、甲高い音がした。
 わたしは考えていた。今なったのは、左手か、右手か。
 いや、わたしなのか、空気なのか。
「バカなこと、考えてるね」
 揺花はわたしの考えをよんだのだろうか。エスパーと言う奴か。じゃぁこれから揺花のことはマミと呼ぼう。マミ、マミ、マミ。よし、これでいい。
 マミが云った。
「あんたは、いつもバカなことしか考えない」
 マミは憎たらしい奴だ。おい、マミ、お前、今から死んでしまえ。この歩道橋から飛び降りて死んでしまえ。マミ、お前はエスパーだろう。
 マミはにたにたと笑っている。
 マミ、マミ、マミ。
 あれ、マミ?それって、わたしじゃん。やだなぁ。バカみたい。
 わたしは下品に笑って揺花の肩を叩くと、歩道橋の上から車のたくさん通っている高速道路へとダイブした。

2002年04月05日(金) ベイビーとあたしは気取った発音で
病院の待ち時間は
そうだようするに
病人、お前はいつだって死を待つ身さはははと
偉い人が笑っているのだ

ベイビー、そうだろ?
なんて、気取った言い方を
ベイビー、なんてダサいよね?
でも好きだなこのことば。

ベイビー、だってさ
もう一度
赤ん坊に戻って
あたしたちやり直そう


眼鏡の奥の目は
とても優しいから
茶色い髪が風に揺られ
そうだあたしはまた
信用してしまう

ベイビー、知ってたかい?
病院の花屋では
「シクラメン」を「サイクラメン」というんだ
いいじゃないか「死苦ラメン」で
あたしはことばってものが大好きだよ


みどりのきりん(リンクの仕方わかんないようコピアンドペーストでいってね
http://www.geocities.co.jp/HeartLand-Renge/3366/

の、日記の本日の更新、要チェックですよ!
わたし、にゃんちゃん、未羽ちゃんの合作メッセンジャー小説「わたしたちのすべて」がアップされています!
しかもまだ前編だぁ!
おぉっとこれは読むしかない!
読んでください。
おもしろかったです。

2002年04月04日(木) lunch and knife ルンチとクニフェ
 日記を書くっていうのは、いいことだね。あぁ、わるくない。
 ことばなんてほとんどしらない無学なわたしはにやにやと笑いながら今日も自分の欠片を唇のはしから指の先から垂れ流す。
 それはやがてみずたまりとなりわたしを動けなくさせる。
 ヘドロの匂いのなかでわたしは幸福にわらう

 橙色の芋虫の中でわたしは急いでいる。
 Kとの約束におくれている。早くしなければ。けれどいくらわたしがあせろうと芋虫は一定のスピードでごとごとごとごと線路の上を進む。あせりをけそうと本を開きヘッドホンはいつでも標準装備、暇つぶし体制に入る。昨日読んだ本を、また読む。帰りに本を二三冊買おうと思う。
 と、ごとり、という振動がわたしの内臓を震わせる。車掌からの放送を待つ。音楽は一時停止。
 JR関係者特有の鼻詰まり声で面倒くさそうに車掌が言った。
「えー、ただいま、代々木駅の線路にて、お客様が線路に御降りになられましたため、中央線、総武線ともに止まっております。お急ぎの所申し訳ございません。今しばらくお待ちください」
 うしろにで、お客様、お客さま、という声が聞こえる。代々木からの無線か何かだろう。ざわざわのなかで、唯一聞き取れる、お客様、という声。いらだった叫び。いらいらとざわざわが雑じりあって、じわじわとわたしを責める。約束の時間はとうにすぎていった。
 線路になんか、落ちるなよ。落ちたくて落ちたんだろうけどさ、でも、迷惑だよ。
 見知らぬ「お客様」を心の中で罵った。お客様と、あいつがわたしの中で、共鳴、シンクロする。思い出したくもない、けれどわたしに絶えず絡まり付くあいつ。やめて、と、誰にわたしは言えばいい?あいつ、「お客様」、それとも、誰?
 走ってKのもとに行く。今日は塾でテスト。まったくくだらない。だけれどこれを受けなければ塾に通うことはできない。横暴だ、だけれども、正論だ。
 わたしは試験会場に遅れて着き、遅れて問題を解き、時間内に解き終わった。
「意外に簡単だったね」
 Kがかわいらしい唇を快活に動かしていった。そうだ。簡単だった。
「C先生、いたね」
 C先生というのは数学科の偉い先生らしい。説明会のときに相談に乗ってもらい、わたしとKはC先生を随分と気にいっている。爽やか、朗らか、優しい。
「てゆーか、質問ありますかって、あれだけのためにきたのかなぁ」
 そうじゃん、とわたしが言うと、Kが笑いながら
「五分前にこられても、って感じだよね」
 と言った。わたしもあわせて、ねー、という。
 新宿駅西口でJRと地下鉄で、二人別れる。
「じゃーね」
 じゃぁね、また、なんていいながらわたしはまたオレンジの蛇のような電車に乗り込む。
 Kはなんていい奴なんだろう、だけど、わたしは、どうなんだろう。
 電車は嫌いだ。でも電車に乗らなければどこにもいけない。ヘッドホンがないと、中途半端な静寂がわたしのお腹の中を捏ね繰り回す。粘土のようにわたしはなって、溶けていく。その上を俯いた、朝から疲れた顔をした人たちが歩き回る。
 すぐに降りる。
 本屋によって、文庫を二冊買う。これで明日まで持つかな、なんて考えているわたしは孤独だ。しかし欲が孤独を凌駕する。
 次に乗った電車はすいていて、わたしは本を読んだ。
 読みながら時折、流れていく景色を眺めた。展望台なんかに行って、遠くまで広がる海だとか、泥の中にビーズをまぶしたような摩天楼を眺めるより、ずっと、心が休まる。

 今日の昼食はサンドウィッチだった。わたしはナイフで切って食べた。
 ナイフ、knife。ケーエヌアイエフイー。クニフェ。orangeは、オランゲだ。lunchはルンチだ。
 英語なんて話せるようにはならないだろう。
 話せたら、いいな、とは思うのだけれど。
 だけれどわたしはきっと、相手が日本人だろうと米国人であろうと、あるいは世界ウルルン滞在記などに出てくるような人々であろうと、本当に、好きになることなんて、できないんだろう。

2002年04月03日(水) 日記のサイトなんですか、だって。えぇ、そうですよ
 橙色の電車の中で小説本を読んでいた。
 小説の中で世界は壊れてゆく。
 二つめの駅でオレンジの虫の中からわたしは脱出し、長いエスカレータで地中深くへともぐりこんだ。
 前には、金髪の頭。毟り取ってやろうか。蹴飛ばして、ドミノ倒しにしてやろうか。
 ヘッドホンの中で声の良くとおる女が暴力的で純粋な愛と欲望の歌を歌っている。わたしは聞きほれる。
 地下鉄。立ちっぱなし。隣の斑の髪の女、まるで人間ではない。その目、その唇、それはいったい何のものだろう。わたしは本を開く。
 隣の女、わたしの本を覗き見ると顔をそむける。
 この本は、いけないんだろうか。読んでると恥ずかしい本なのかしら。
 かしら、だって。バカみたい。心の中で演劇部のバカどものようにつぶやく。
 ヘッドホンの中の女、美しい声で、そう、バカかしら、と囁く。
 不安になり、巻き戻す。けれどそこに在るのは女のファルセットの苦痛そうな叫び。
 席が空く、なんとなく座る。隣のスモッグ色のスーツを着た中年男が寝息を立てている。すぅ、すぅ、すぅ、ふぅ、ひゅぅ、すぅ、すぅ、すぅ、しゅぅ、しょぅ。
 まるで動物が鳴くみたいだ。わたしは怖くなって席を立った。
 いつもの駅、降りてマンションへ。
 誰もいない夜の道。ヘッドホンの声にあわせてわたしはうたった。まるで変質者。しかし怒涛のような快感が。うぅー、とヘッドホンの中でうめくように歌えば、うぅー、と私も繰り返す。
 いかにも、といった金髪の男とすれ違った。
 私を見ると金髪は、テレビの夕方のニュースでたまに特集が組まれる多重人格者を見るような目でわたしを見た。
 わたしは速く歩いた。
 裸の街路樹にキックをする。
 名前を付けてあげよう。そうだ、あのこはサリーだ。
 サリーはもう死んじゃったの、と、心の中でつぶやく。
 今度は声に出す。
 俯いて上目遣いで外国映画のこ憎たらしい子役のような眼つきで、サリーはもう死んじゃったの、と、いいながらマンションに入り、一回にある我家までダッシュでむかった。

2002年04月02日(火) 親指が疲れた。あんたに打つメールはもうないよ
設定に説明の要るような世界は嫌い
例えばファンタジーとかね

わたしを嫌う人は嫌い
たとえばAさんとかね

ピンクのベルトは短すぎた
あんなんじゃ届かない


かみさま、Sはどうしていますか
Sの慰謝料はSの太った父親が払い終えたのだろうか
Sの家に取材をした週刊誌の記者はSのことを忘れただろうか

わたしにとってSというのはまったく特別な
アルファベットなのだ
これが、何を意味するか、わかるかい?
君の陳腐な答えなど期待しちゃいない
君の答えなんて予想できる

SSSSS

なんだか最近わたしの書く文章がどんどんと腐っていく

こんにちは、とかく。
昔だったら、それは相手に会えた喜びに溢れて輝く喜びの言葉だった。
それが今はなんだ。
こんにちは、といったって、相手のことをまるで心のそこから憎んでいるようじゃないか

あいしている、とか、すき、とか、世の中にはたくさんすばらしい言葉があるんだと思う。
でもわたしはそれを拒む。

嫌いだ、とか死ね、とか、醜い言葉ばかりをわたしは使う。

わたしのなかに浮かぶ妄想は、最後、死のようなあるいは放り投げのような結末で終わることが多い。
それはどうしてなんでしょう。



Sは寝てるのかなあるるるらららと歌いながらスキップでキッチンに行って清涼飲料水を一口のみ、わたしは本を読みメールを書き、寝る。
寝る。
寝る、と、死ぬ、は似てるよ。
寝る。
S、良い夢をみてください


こんなふうに、たった一人にむけた日記があってもいいよ。
終わらないラブレターをわたしは涙で書くんだ。

そのラブレターを君は、よんでくれる?

2002年04月01日(月) 今日電車の中で考えていたこと。パートツー
 津軽を読むわたし。
 なんてみっともないんだろう。
 わたしは本当は週間少年ジャンプなどを焦点がやや手前になった目で読むような人間なのに。
 地下鉄の中で津軽を読む私。
 ジャンプを読む青年は、きっとわたしを嘲っている。
 太宰治を読む私。
 死んじゃった人の書いた本だ。死んじゃいたいなぁ。

 死んじゃいたいなぁ。

 なんてね、死ぬわけないじゃん。考えてみただけ。

 ほら、痛いのやだし。

 あの快速電車には乗りたくない。
 線路にはまだきっとあのこがいる。

 津軽を読む私。

 ヘッドホンの中の音楽が急に遠い世界のもののように感じられる。
 どうして?

 「糞爺」と、わたしは心の中で罵倒する。
 「クソジジー」ではなく、「くそじじい」と、きれいな発音で。
 ははっ。なんでこんなバカなことを考えてるんだろう。
 津軽はとっくに消えた。
 



 ヘッドホンの中の音楽は、いったいわたしに何をさせるんだろう。

 タンポポの茎をひらいて乾かして

 わたしの頭も開いて乾かしてほしい。








 仲のよい友達と笑いあいながら何度も何度も学校の屋上から飛び降りる夢を見た。



 わたしの頭開いて乾かしてちょうだい


My追加


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