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2011年11月10日(木)
続・18歳未満差別!? 同人イベントにおけるレーティング・ゾーニングを考える

 先に記事を起こしました「18歳未満差別!? 同人イベントにおけるレーティング・ゾーニングを考える」で、取りこぼした事柄が有りましたのと、幸いにしてご意見もいただけましたので、返答も兼ねて、補足部分をまとめさせていただきます。こちらは補足ですので、前記事未読の方は、恐れ入りますが、一つ前に戻って、そちらから読み始めていただけますでしょうか。

 では、取りこぼし部分から。

・同人は「業者」なのか?
 まず、先に抜粋引用した青少年健全育成条例(京都府版)の内容を振り返りましょう。
 【 図書類取扱業者は、第1項の規定により指定された図書類又は第2項各号の規定に該当する図書類(以下「有害図書類」という。)を青少年に販売し、頒布し、貸し付け、閲覧させ、視聴させ、又は聴取させてはならない】(【】内、http://www.pref.kyoto.jp/seisho/resources/1300954947443.pdfより引用)
 「私たちは『趣味』の範疇でやってるんだから『業者』じゃないでしょ」という意見の方、おそらくいらっしゃると思います。しかし、この部分には不安要素が少なくとも二つ存在します。
 一つ、「『業者』でないものは免責する」という文が見当たらないのです。
 ルールが明確化されていない部分については、判定を下す側の胸先三寸に任せられる、という恐れがあります。そして、現在の社会情勢において、同人という文化はけして尊敬されたり好意的に見られたり優遇されたりするものではありません。比較的マシな認識で「何か変わったことする人達がいるみたいね」程度であり、一方でオタク嫌悪やオタクバッシングの風潮は未だ根強く残っています。この状況下での「胸先三寸」が、同人にとって好意的にはからわれるという期待は、私には持てません。
 二つ、現在の同人活動は100%素人の作り上げた文化とは言い難い状況になっています。
 「業者」は、同人活動のそこここに介在しています。印刷業者は言うに及ばず、一定規模以上の同人誌即売会の主催も「業者」の形態をとっているのです。例えば、代表的なイベント主催者であるコミックマーケット準備会は『有限会社』です。Cityの赤ブーブー通信社も企業ですね。今回リストバンドで物議を醸したイベント主催などは、『同人ショップ』の経営者です。大規模イベントでは歴とした「企業」が出品も行なっているわけですから、同人誌即売会は外部からは商業イベントのようにも見做され、実際に商業イベントとしての要素も兼ね備えてしまっています。もはや商業性を否定できない状態にあるのです。
 この状況で、各サークルが「『業者』ではない、『個人』だ」と主張できるでしょうか。
 私たちの認識においては、勿論「個人」です。しかし、部外者はそうは見ないのではないか、と危惧されます。
 各サークルが「販売業者の本を納品する個人事業主」と見做されるかもしれないのです。
 ここで更に大切なのは「判定を下すのは我々ではない」ということです。
 一つ事が起これば、同人の事情に無知な、同人に対して好意的でもない誰かの胸先三寸に任されてしまう恐れがあります。
 前記事の全体の流れにおいて、私は、同人作家・同人サークルが素人個人・素人団体であることに敢えて触れず、「業者」に課されたルールを強く意識するように促しました。何故、敢えて「素人」であることに触れなかったのか、上記の恐れが、私の中に、【前提】として存在するからです。
 理解したくない、納得いかない、かもしれません。けれども、このような視点があることは頭の片隅に置いていただけますでしょうか。

・ご意見に対して
 この項目の内容は、主にはいただいたご意見に対する返答です。
 失礼ながら、発言の前後関係を明確にする為に、URL記載、及び内容の転載をさせていただきます(不都合があればご連絡ください)。
 http://twitter.com/#!/honeyhoney13/status/134233135813627904
※以下転載
 「@ochagashidouzo 基本的におっしゃっていることはその通りだと思いますが、一点だけ。ご自分でおっしゃっているように「性描写が規定の割合を満たさないものは有害図書にはなりません」なので、「R18をつけたら即、有害図書認定される」ということではないです。そこだけご注意を。」
※転載終リ(@ochagashidouzoは私のアカウントです)

 私からの返答は次の通りです。
 先生は同人活動に内情についてご理解があり、温情もおありですから、そのように仰ってくださるのでしょう。
 しかし、有害図書認定を行うのは先生ではありません。
 私でもありません。同人活動の内情をよく知る当事者ではまず有り得ないでしょう。
 有害図書認定を行うのは、十中八九「同人に対する知識の不足した部外者」となると推測されます。その「部外者」の目に『R18』の文字が印刷された図書はどう映るでしょうか。
 シミュレーションしていただけますでしょうか。「どうしてR18ってつけたの?」という問いに対して「18歳未満には有害な図書だと思ったからです」以外に部外者を納得させられる返答があるのかどうか。
 実際には「みんなやっているから」「流行りだし」「自分だけやらないのもなんだか悪いし」という気持ちから付けられているのが大部分でしょう。しかし、「みんなやってる」「流行り」などという気分的な言葉が言い訳として通用するとは、残念ながら思えません。
 有害図書認定をする人が、今まで既に有害指定された図書に対して「あ、これは過剰だったね」と、指定を取り下げたことがかつてあったでしょうか(寡聞にして存じません)。「作者・頒布者が自分で有害だと思うのなら有害なんだろう」で通ってしまう危険の方が高いです。
 前記事では包括指定に主に言及しましたが、例に挙げた条例ですら、包括指定のみを行なっているわけではありません。次の文言が条文の中に含まれます。
※以下抜粋
(1) 著しく青少年の性的感情を刺激し、その健全な成長を阻害するおそれのあるもの
(2) 著しく青少年に粗暴性又は残虐性を生じさせ、又はこれを助長し、その健全な成長を阻害するおそれのあるもの
(3) 著しく青少年の犯罪又は自殺を誘発し、又はこれを助長し、その健全な成長を阻害するおそれのあるもの
※抜粋終リ

 非常に曖昧な基準です。拡大解釈可能です。包括指定に準じた方が事務的に処理できるから作業側も楽な方に流れているきらいがあるのではないかな、と、思われるのですが、指定して良さそうなものが目の前に飛び込んでくれば指定することを躊躇いはしないのではないでしょうか。
 包括指定の割合に満たなくても「上記3項に該当するんだね。作者がそう思ったのなら間違いない」と認識されてしまったらおしまいです。更には、自治体によっては有害図書を個別指定している地域もあります。その場所で「R18と書いてますけど、有害ではありません」と主張してそれが通るでしょうか?
 また具合の悪いことに、『R18』という指定表示は商業表現媒体の倫理指定の流用です。同人独自の表現ではないのです。同人独自の表現であり規定ならば「これは同人誌におけるローカルルールです」と、まだしも言い抜けられる余地もあったかもしれません。しかし、既存の倫理指定を流用してしまっているからには、同人当事者でない部外者の思考においても既存の倫理指定が流用されてしまう恐れは非常に大きくなると思われます。
 より恐ろしい事態として、そこから「これで有害指定していいなら、商業表現媒体に対する締め付けももっと厳しくしていいだろう」と、同人の萎縮が蟻の一穴となって表現の自由の堤防を瓦解させてしまう危険さえも想定し得るのです。
 この点、切にご理解願いたいのですが、私はR18同人誌の存在そのものを否定したいわけではありません。排斥したいわけではありません。無闇に糾弾する者ではありません。同人という存在に情愛があるからこそ警句を発しているのです。
 まるで『R18』のマークが、性表現を含む同人誌の「安全を保証する」ものであるかのような認識、その誤解を解きたいのです。同人活動がより自由となり、商業表現媒体の妨げとならない為にも、危険な誤解と幻想から、皆に目覚めていただきたいと願うものです。

 釈迦に説法になってしまう無礼をお赦しください。
 松文館裁判について先生はよくご存知のはずです。あの裁判は無茶苦茶でした。法律も業界倫理も被告の真っ当な倫理に従った努力も踏みにじって、「潰すと決めたらどんな無理を言っても潰す」と、本来無実であった人を処罰してしまいました。
 私たちが対峙しているのは、そういう危険な存在です。私たちの言い分に耳を傾け理解に努めてくれる優しい隣人ではないのです。
 私は、私達に攻撃をしかけてくるかもしれない人達の思考をシミュレーションして発言しています。かなりひどい事態までシミュレーションしています。理解のある優しい人の視点では危険を見逃すかもしれないからです。ここまでの文章の中には「どうしてここまで攻撃的になるのか」と思われる部分もあるかもしれません。しかし、私は同人を攻撃したくて書いているのではありません。守りたいのです。
 多々、失礼な発言があったことと存じます。まことに申し訳ありません。ですが、私は先生に反発したいわけでも攻撃したいわけでもないのです。頼りにさせていただいているからこそ、ここにいる一人の、同人の片隅で生きている人間の抱える不安を知っていただきたいのです。

・自主R18は誰のせい?
 私の同人活動は、仕事の都合で何年かのブランクをはさみ断続的です。
 私が初めて同人誌即売会に足を踏み入れたのは高校の頃でした。やおい本、いっぱいありました。R18のついた本などほとんど見かけませんでした。手にしたのは現在の即売会では殆どがR18を付けているだろう本でした。しかし、現在の商業表現媒体でもR18は付かないだろう程度の本でした。
 学生の頃をそうした本の中で過ごし、就職して同人どころでは一時なくなり、10年くらい前にまた戻ってきた頃には、まだR18が会場を席巻しているというようなことはありませんでした。
 しばらくネット同人として引き篭って、久しぶりに会場に足をはこんだら、そこら中にR18の文字が踊っていました。いったい何があったのでしょう。
 私の知るあるイベントでは、パンフレットで「猥褻物を頒布しない為の修正の入れ方」を丁寧にレクチャーしていました。R18頒布物の適切な展示・頒布の仕方についてもレクチャーがありました。しかし、修正を必要とするもの以外について特に「これをR18と指定してください」という表現は見えませんでした。「R15指定をしたいんですけれど」という質問に対しては「あなたの判断で行なってください。イベント側としては新たに指定枠を作る予定はありません」との返答が載っていました。つまり、裁量は殆どサークル参加者に任されていました。
 私の見る限りでは、少なくともそのイベントにおいては、「不当」に「過剰」にR18が強要されているようではありませんでした(「これはR18にしなくていいよ」という逆指示もありませんでしたけれど)。
 一方で、(内容的には別に指定要らないんじゃないの、という緩い本だったんですが)フリートークの中で「R18デビューしちゃった♪」みたいなはしゃいだ空気があって、これは流行? ファッション的な? R18がおしゃれだとか格好良いと思ってペタペタ付けてるの? と、ちょっと目眩がしてしまいました。
 前記事で私は、18歳未満の方に「18歳未満差別と叫ぶのは控えてください」と書きました。しかし、正直な気持ち、今の同人の世界には「18歳未満差別」が存在すると思っています。差別しているのは、同人作家であり、同人サークルです。「若い人は面倒くさいから」? 「親からクレーム来たらいやだし」? 「R18って付けないと仲間はずれにされるから」?
 そんな情緒的な理由で「本来は18歳未満が読んでも差し支えのない内容」の本にまで、ペタペタとR18マークを付けているんですか?
 若い人は面倒くさいって気持ちは私にもあります。保護者からのクレームなんて見たくもありません。仲間はずれにはなりたくありません。
 でも私は、アイタタだった高校生の頃、サークルの机の向こうにいらした先輩方の寛容と忍耐に受け止めていただいて、それとなくマナーも教えていただいて、少しはイタいのもマシになって、その時代の同人の世界に育てていただいたんです。
 自分ばかり恩恵を受けて、自分が若い人を受け止めなければならない側になったら「面倒だから」って拒否するって、ひどいじゃないですか。怠惰が過ぎるじゃないですか。
 過剰なまでのR18の濫発、無用なR18濫発は、一に同人そのものにとって危険であり、二に若い人達に対して不誠実だと感じます。
 18歳未満の方は、同人作家やサークルに対しては、「自分達が読んで差し支えない内容のものにまでR18マークを付けないで欲しい」と要求する権利があると思います(もう印刷済みのものについては、ルールの都合上、お渡しするわけにはいかないのですが)。
 頒布する側の「できれば何歳くらいから上に読んで欲しい」という気持ちも分からないではありません。でも、それは、危険な『R18』マークを付けるという形ではなく、「何歳以上推奨」という表示に置き換えるとか、できれば、何故推奨年齢を定めるか説明を提示するなど、18歳未満の人にも交渉の機会を与えていただけませんでしょうか。
 私のように18歳未満から同人を始めた人なら、年上の人から色々と指導していただき、面倒をみていただいた経験があると思います。どうか、そうした交流を自分たちの代で断絶させないでください。
 私は、私自身が描く人間で、書く人間でもあります。もう少し同人界が平和だった頃にはやおいを描いたこともあるんです。現在のような状況になってからは、自分の本にどうしてもR18って付けたくなくて(R18な内容ではないという確信もありましたし)でも現場の同調圧力が怖くて、やおいそのものを描くことも書くこともできなくなっていました。
 今後は、描いたり書く機会がありましたら「12歳以上推奨」や「15歳以上推奨」などという形で出していきたいと考えています。自らの怠惰な気持ちを戒めたいと思います。

※実際にR18が必要な創作物もあります。それについては前記事にて触れております。参照ください。

・蛇足的に…
 件の、一律年齢確認で物議をかもしたイベント主催について、どうも本業の同人ショップ業務の方でも芳しくない評判を聞きました。どちらかというと私は、この「業務がまともにできていない」状態の方に嫌な印象を受けます。
 業務がまともにできていない、ということは、スタッフの質が落ちているのではないかと推測できます。
 質の低いスタッフの運営するイベントというのは、年齢確認がどうのこうのを置いても、何か不始末が起こりそうで心配になります。
 地方では参加できるイベントの種別が少ないとも聞き及びますが、イベント参加は義務ではありません。イベントに行けないというデメリットよりも、危険を回避する、ということの重要性の方が或いは上回るかもしれません。

 最近はコミケも不定期にドサ回り的ミニイベントを開催したりしています。
 頑張ればコミケ以外も招致できるかもしれません(資金やスケジュールの問題や色々ありますが)。
 どうか、特定イベントに執着して気落ちしたり危険な目に遭ったりしないように、より良い同人ライフを送ってください。



2011年11月08日(火)
18歳未満差別!? 同人イベントにおけるレーティング・ゾーニングを考える

・序
 twitterの方で流れてきた情報、「某イベントにおける一律年齢確認」から、衝撃のツイート「18歳未満差別じゃないか!」というやりとりを眺めた上で諸々思うところありまして、各問題及び、私の個人見解をまとめさせていただきました。
 私としては、「年齢確認は手段として好ましいものではない」が「仕方ない面もある」それよりも「頒布されている同人誌のR18指定が過剰になっていないか、そちらを見直すべき」という立場をとっております。
 以下、その理由を述べます。
 途中、気に障る表現があるかもしれませんが、まずは最後まで目を通してください。最後まで目を通した上で「異論がある」というのは構いません。中途半端に文章をつまみ食いして癇に障ったとこだけ異議申立て、というのはやめてくださいね。お願いします。

・R18(18禁)は「18歳未満差別」なのか?
 違います。
 いきなり結論で申し訳ないですが、「R18頒布物を18歳未満に渡してはならない」というのは、各自治体の条例に定められたルールであって、「『差別意識をもって』18歳未満に渡さない」わけではありません。
 具体的にはこういう例があります(京都府版)
 http://www.pref.kyoto.jp/seisho/resources/1300954947443.pdf

 ※何故京都府版を例に挙げるかというと、東京版は条文の判読が困難で、こちらの方が情報が整理されて見やすかったからです。各自治体毎に規定に差異のあることは、念頭に置いてください。
 この例に挙げた条例で重要なのは、条文内13条の2及び、第6章31条の4と6です。PDFファイルを直にあたっていただく方が好ましいのですが、時間の無い方の為に、ここに抜粋します。

****************以下抜粋*******************

第13条の2 知事は、図書類の内容の全部又は一部が次の各号のいずれかに該当すると認めるときは、当該図書類を青少年に有害な図書類として指定することができる。
(1) 著しく青少年の性的感情を刺激し、その健全な成長を阻害するおそれのあるもの
(2) 著しく青少年に粗暴性又は残虐性を生じさせ、又はこれを助長し、その健全な成長を阻害するおそれのあるもの
(3) 著しく青少年の犯罪又は自殺を誘発し、又はこれを助長し、その健全な成長を阻害するおそれのあるもの
2 前項の規定にかかわらず、次に掲げるものは、青少年に有害な図書類とする。
(1) 書籍又は雑誌であつて、全裸、半裸若しくはこれらに近い状態での卑わいな姿態又は性交若しくはこれに類する性行為を被写体とした写真又は描写した絵で規則で定めるものを掲載するページ(表紙を含む。以下この号において同じ。)がその総ページの3分の1以上を占めるもの※京都府は包括指定であることに注意。都は個別指定です。
(2) 映像が記録された磁気テープ、磁気ディスク、光ディスク又は光磁気ディスクであつて、全裸、半裸若しくはこれらに近い状態での卑わいな姿態若しくは性交若しくはこれに類する性行為の場面で規則で定めるものの描写の時間が合わせて3分を超えるもの又は映像が記録された磁気テープ、磁気ディスク、光ディスク若しくは光磁気ディスクの製作若しくは販売を行う者で構成する団体で知事の指定するものが審査し、青少年の視聴を不適当としたもの
3 第1項の規定による指定は、告示により行う。
図書類取扱業者は、第1項の規定により指定された図書類又は第2項各号の規定に該当する図書類(以下「有害図書類」という。)を青少年に販売し、頒布し、貸し付け、閲覧させ、視聴させ、又は聴取させてはならない。
5 図書類取扱業者は、有害図書類を陳列するときは、規則で定める方法により当該有害図書類を他の図書類と区分し、店内の容易に監視することができる場所に置かなければならない。
6 知事は、前項の規定に違反して有害図書類が陳列されているときは、当該図書類取扱業者に対し、期限を定めて、当該有害図書類の陳列の方法又は場所について改善すべきことを勧告することができる。
7 知事は、前項の規定による勧告を受けた者がその勧告に従わないときは、その勧告に従うべきことを命じることができる。

参考:有害図書(R18及び、R18同等に扱うように指定された頒布物)はこのような扱いを受けます。
 http://www.pref.kyoto.jp/seisho/resources/1291195163631.pdf


続いて罰則規定
第31 条
3 次の各号のいずれかに該当する者は、30万円以下の罰金に処する。
(1) 第13条の4の規定による命令に違反した者
4 次の各号のいずれかに該当する者は、20万円以下の罰金に処する。
(1) 第13条の2第4項の規定に違反した者
(2) 第13条の2第7項の規定による命令に違反した者
(3) 第13条の3第2項の規定に違反した者
5 次の各号のいずれかに該当する者は、10万円以下の罰金に処する。
(1) 第13条の3第3項の規定に違反した者
6 第13条の2第4項、第13条の3第2項、第14条の2第2項、第18条の2第2項、第21条から第24条まで(第23条第2項の規定を除く。)又は第24条の4の規定に違反した者は、当該青少年の年齢を知らないことを理由として、前各項(第3項第1号、第2号及び第4号、第4項第2号、第5号、第6号及び第10号並びに前項を除く。)の処罰を免れることができない。ただし、当該青少年の年齢を知らないことに過失がないときは、この限りでない。

*****************ココマデ******************

(可能な方は、PDF本体を参照してください)

 要するにR18頒布物を18歳未満に頒布すると条例で罰せられます。
 「R18を18歳未満にも頒布しろ」という要求は、「18歳未満の欲求を満たす為に、R18製作者・頒布者は処罰覚悟で条例に違背しろ!」と要求しているのも同然です。
 製作者・頒布者にしたら処罰されたくないに決まっています。「罰せられたくない」「罰金なんか払いたくない」「前科者になりたくない」と思うことが『差別』ですか? 私は、それは『差別』ではないと考えます。だって、他人の為に「前科者になれ」と要求されることの方がひどいじゃないですか。

・一律年齢確認の問題点
 私の聞き及んだところでは、一律年齢確認を言い出したイベントにおいては、参加者全員にタグ(年齢確認の為のリストバンド)を付けるよう要求したとのことです。この要求に対する不快感は理解できます。
 タグというものは、対象を効率的に分類する為につけるものですね。それぞれが単純な物体ではない人間を「効率的に分類」しようという試みは、なんだか「人間性の否定」みたいな感触がありますよね。付けられる側としたら「自分の人格を否定された」ような不快感。
 今回の、一律年齢確認に対する強い反発は、この不快感を源としたものだと推測します。そりゃ気分悪いです。
 ただし、「人間を効率的に分類する試み」が赦されるケースというものも、世の中にはあります。
 例えば、最近、病院では入院患者にバーコード付きのリストバンドを付けさせるんですよ。何故かって「投薬ミスがあってはならない」から、予防措置として、対象を誤らないようにデジタルデータで管理するようにしてるんです。
 同人誌即売会におけるタグ付けは「18歳未満にR18が頒布されることがあってはならない」と、ある意味、イベント側のそれだけ切羽詰まった危機感の顕れとも見ることができます。
 「当該青少年の年齢を知らないことに過失がないときは、この限りでない」とはあるものの、何を以って「過失がない」とみなすかが定かではないですものね。処罰されたくない側としては保険をいくらかけても足りない心理状態なわけです。
 不快な方法であることは確かですので、「より不快でない方法は検討できなかったのか」という議論の余地はあるかと思います。ただし、この方法が「絶対的」に「不当」であったり「悪」であるわけではないと、私は考えます。議論は大いに行われれば結構ですが、一方的な(イベント主催に対する)糾弾ではなく、ベターな方法を模索するものであって欲しいと望みます。

・同人誌におけるレーティング・ゾーニングの現状
 実は、私としては、イベント主催の年齢確認要求(イベント側の萎縮)よりも、こちらの方が更に深刻な萎縮状態にあると認識しています。
 私の青春時代―――というと二十年くらい前なのですが―――には、R18マークを付けて頒布されている本というのは、本当に、どの頁を開けても交接シーンが入っているような、まあ分かりやすく一言でいうと「おかず」になるような本に限定されていたのです。現在はどうですか?
 「これからそういうことをやりますよ」と仄めかして暗転(或いは数コマ空け)事後、というような描写のものでもR18マークを付けて頒布されてませんか?
 私はお訊きしたい。この程度の表現は商業誌でも全年齢で販売されています。同人誌だからと言って、これが「より有害」で「青少年の健全な育成を阻害する」と、ご自身で思われているんですか?
 私はむしろ、同人誌即売会場にまで自力で来る能力のある青少年がそんなヤワなはずはない、この自主レーティングは青少年の成長度合いをナメていると感じています。
 或いは、起きるかどうかも定かではない、青少年の保護者との確執を過剰に恐れているのではないかと勘繰っています。
 更に、この過剰な自主レーティング・ゾーニングが別の、より深刻な問題を引き起こすのではないかと懸念もしています。

・自主R18の落とし穴!?
 条例におけるR18含む有害図書については、先に述べていますが、皆さん、製作して頒布する皆さんも「R18」の意味をちゃんと把握していますか?
 「R18」のマークを付けたら、それはもう頒布の仕方に制限をかけなければならないものになる、という意味ですよ、理解していますか?
 「R18」は「18歳未満を追い払う呪文」ではなく、「18歳未満の手に渡ったら、製作・頒布者側が処罰される」という意味ですよ。解っていますか?
 同人誌の流通というのはカオスなところがありまして、どういう経路でR18同人誌が18歳未満の手に渡るか分からない、と、私は懸念します。
 そして「R18」と表紙に印刷されているからには、中身が「商業誌基準ではR18に相当しないくらい刺激の薄いもの」であっても、罰則から逃れられないのではないかと強く懸念します。
 R18のマークを付けていなければ、「個人的な揉め事にはなるかもしれない、けどそのレベルで済むかもしれない」ものが、R18の文字を入れたばかりに条例における処罰対象になり得るかもしれない。これは杞憂でしょうか?
 私は、同人誌が松文館事件のような無茶な法廷に引っ張り出されて欲しくありません。だからこそ、余計に懸念するのです。
 また、みなさんに考えていただきたいのは、今なお続く「有害図書排斥運動」です。かつては「おかず」レベルくらいにしか付かなかったR18を、この有害図書排斥運動はさらに多くの更に幅広くの、自分達の潔癖な気持ちの満足のいく(いつ満足するのかな)領域まで貪欲に広げようとしています。自ら「商業誌ではR18に指定するには及ばない」頒布物にR18のマークを押すのは、この「有害図書排斥運動」の片棒を担うことになっているのではないでしょうか?
 いつか、「自費出版である同人誌ですらこれほど厳しいレーティングを行なっているのに、商業誌のレーティングは緩すぎる」と、同人誌レーティングを『実績』として踏み台として、商業誌に圧力がかけられる日が来ないとも限らないのです。
 過剰な自主規制は私達自身の首を絞めかねません。「流行りだから」「そういう空気になってるから」と言って、安易に「R18」の指定を入れると、却って危険な事態を招くんじゃないでしょうか。
 よく考えてください。自分の作ってる、頒布してる本が本当にR18相当のものなのか、慎重に考えてください。

・何をR18とすべき? また、すべきでない?
 有害図書を個別指定している自治体では、実は「何を以って有害とみなすか」の基準が明確ではありません。心許ないですが商業表現媒体を目安とするしかないでしょう。
 一方で、今回例に挙げた包括指定の自治体においては、性描写が規定の割合を満たさないものは有害図書にはなりません(現時点)。
 ただし、局部を描いて修正を入れたもの(逆に言えば修正無しではイベントでの頒布が許されないもの)は、割合如何にかかわらずR18にしてください。なお、局部を描いて修正を入れないものは「猥褻物」となりますので、レーティングとは関係無く違法となります。

・18歳未満はどう振舞ったらよい?
 とりあえず「18歳未満差別」という発言は取り下げていただきたいな、と、個人的感慨として思います。
 この言葉は、どういう心情によって発せられたにせよ、言葉面だけを見ると「18歳未満だけど18禁見たい!」と要求してるように見えるんです。「そういうつもりじゃない!」って、言われるかもしれませんね。ま、そういうつもりでは無かったんだろうな、と今は私も解釈してるのですが、この言葉を最初に見た瞬間には「なんて我侭な!」「自分さえ良ければ他人が前科者になってもいいというのか!」と、思っちゃいました。
 そういう風に見られるとどうなるか。「18歳未満はやはり感情的に幼い」「未熟だ」「より強固に保護しなければならない」という風に逆効果になる恐れの方が強いんです。
 むしろ、こう訊いてください。「それ、本当に18歳未満に見せられないような『ひどい』内容のものなんですか?」
 意図して「おかず」を描いている人でなければ、こんなことを言われて「はいそうです」とは、答え…られないんじゃないかなぁ?
 また、製作者・頒布者が何を恐れているか理解してください。行政も怖いけれども、第一に怖いのは、保護者からのクレームなのです。同人誌を手にする時には、その本の作者・頒布者を、自分が守る堤防になる覚悟を決めてください。もし同人誌が好きなのなら、愛があるなら、だからこそ自分のものにしたいのだと言うのなら、愛している対象を守ってください。それが…陳腐な言葉になりますけど、「愛の背負う責任」というものではないでしょうか。


・後記―――読み飛ばしてくださって結構です
 なんだか固いことをいっぱい書いてしまいましたが、実のところ、私個人の価値観においては若い子がエッチなものを見たからといって、別に大して害にもならないだろう、と認識しています。薄い本ごときに、そんな誰かの人生を破綻させるような力なんて無いと思っています。薄い本でなくても普通の本でもね。フィクションは所詮フィクションです。
 人間の人生を左右するのは、圧倒的に、周囲を取り巻く人達であり、環境であり、直に交わす会話であり、行為であると考えます。
 刺激的なフィクションに触れた人は刺激に触発されて何か「普通じゃない行動」をしてしまうか? 刺激を受けた瞬間には、そりゃアドレナリンとか出て興奮状態になりますよ、一時的にはね? でも実際の行動をどうするか、は、その人がそれまでに経験してきた事柄や教育や、また持って生まれた資質によって決定されるんです。答えは「人によるんじゃない?」しかありません。万人に絶対的に有害なフィクションなんかありません
 にもかかわらず、ここまで綴ってきたような「お固い」ことを言うのは、私が一方では「既存のルールには従う」スタンスの人間だからです。
 何故、ルールに従うか? ルールに違反するとリスクを背負うことになるからです
 私は出来る限り、無用なリスクは背負いたくありません。他人にもリスクを背負うことを推奨しません。自分が好ましく思っている対象がリスクを背負わされる様は見たくありません。
 だから「ルールは守りましょう」と言うのです。
 一方で、表現規制反対の立場でもあるのですが、これは「過剰なルール拡大は、ルールを守ることを困難にする」からです。守ることが困難になるようなルールは設定しないでください、と、そうお願いする立場です。「ルール」には、あくまで「容易に守れるルール」であって欲しいのです。
 都条例は(悔しいことに)既に設定されてしまったので、表現する者、頒布する者は向こうの顔色を伺いながら出したり引っ込めたりしなきゃなりません。本当に無念です。でも、相手が要求する以上にこちらが引き下がる必要は無いと思うんですよ。むしろ引き下がりすぎると攻め込まれるかもしれない、やばい、と思っています。
 とはいえ、同人というのは個人活動なので、駆け引きの見極めが困難なのがつらいところですね。他力本願はなんですが、どなたか、この駆け引きを優位に運ぶ為の情報共有の場や、相談窓口を作ってくれないかしら、なんて思ってしまいます。私は…この記事を書き上げるだけで息も絶え絶えなんで…、ほんとは、自分では書きたくなかったんですよ。だって、ほら、リスク背負うのは嫌なたちでしょ。チキンなんです。それでも、同人は私にとって守りたい大切なものの一つですし、見渡したところ、問題を整理して提示してくださってる方が、私の視野にはいらっしゃらなかったので、清水の舞台から飛び降りる気持ちで一石を投じてみました。
 どの方面からもフルボッコくらうんじゃないかと戦々恐々ですが、文責として、異論・反論も承ります。
 ただし、私はイベントの運営にも、PTAにも、ましてや行政になど影響を与えられない小市民ですので、「ご意見を承る」以上のことはできません。ご了承くださいませ。
 …何の反応も無いくらい、誰にも届かなかったら…それはそれで、血涙ですね…ふふふ…TT
 ここまで、長々とお付き合いありがとうございました。読んでくださった方には心より御礼申し上げます。