.第6話:『Teenage Walk』 

「藤崎が、昨日の夜から行方不明なんだ。」

「な…なに冗談言ってるんですか」
だって昨日藤崎はあたしにお守りを届けにきてくれたのに。
あたしに試験頑張れよって言ってくれたのに。
「これが冗談言ってる顔に見えるか?」
本並先生の顔は真剣、いや深刻そのもの。
みんなが慕う、「いつも明るく頼れる兄貴」の顔は、そこにはない。

「今朝出勤したら、視聴覚準備室の俺の机の上に封筒があったんだ。
何が入ってたと思う?」
「……?」全然見当がつかない。
「退学届、だよ」そう言うと本並先生は深く大きくため息をついた。

「退学届、って…だって卒業まで後2ヶ月ないじゃないですか!」
予想もしない言葉にあたしはこれだけ言うのが精一杯だった。
「先生まさかそれ提出したんですか!?」
瞳子さんも知らなかったらしく、本並先生に詰め寄る。
「出すわけないだろ!…出したところで学校側が受理する訳ないじゃないか。
本人に理由聞こうにも本人がいないんじゃなあ…」
「行方不明というからには、おうちの人も行き先わからないんですよね?」
「まあな。家に『しばらく留守にする、落ち着いたら連絡する』と
書き置きを残してたらしいが。
ただ、バイクもなくなってるから遠出している可能性もあるんだ」

確かに、昨夜藤崎はバイクで家にきた。
そういえばお守りを返すのも「今度会ったときでいい」って言った。
その時はあまり深く考えなかったけど、試験は今日だけ、明日には学校で会える。
今度会ったとき、なんていい方は確かにおかしい。
何よりももうすぐ卒業試験なのに、それすっぽかしてまで彼はどこに行こうとしているのだろう。

卒業試験当日になっても、彼の行方はわからなかった。
「さっすが秀才様は違うよなー。卒業試験バックレるだけの余裕があるんだもんなー。
どうせ大学いかねーし、神戸もあんなんだから卒業できなくたってなんとかなるもんなー」

聞こえよがしに言ったのは、藤崎を一方的にライバル視して、
何かあると藤崎の足を引っ張ろう、引っ張ろうとする男・笠松。

誰もがその発言に眉をひそめたそのとき、
「人を中傷してる暇があったら、自分の心配したらどうよ?
それだけ言えるんだったら、センター試験・よっぽど自信があったんでしょうね?」

しんとした教室に、瞳子さんの凛とした声が響いた。
「なっ……!」言葉が出てこないまま青ざめる笠松。
…瞳子さんの「センター試験」という言葉がよっぽど効いたらしい。
「笠松、センター試験がさんざんでさ、第一志望はほぼ無理らしいよ」と、隣の席の絵里がこっそりとつぶやいた。
なるほど、八つ当たりか…あたしは思わず苦笑する。
やがてチャイムが鳴り響き、本並先生が入ってきた。
いよいよ卒業試験の開始である。

…結局、卒業試験が終わっても藤崎は戻ってこなかった。
その日、あたしに美容学校の合格通知が届いた。
何よりも、誰よりも藤崎に報告したかったのに。

学校では連絡もなく姿を消し、
なおかつ卒業試験をすっぽかした藤崎の扱いについて、
連日職員会議が行われているようだった。
特に担任である本並先生は、上のほうからきつく言われているようだ。
いろんな気苦労からか、先生の表情は冴えない。
藤崎のご両親も学校に呼ばれたが、自分の跡を継がない藤崎を勘当したと言うお父様はあくまでも冷淡、
お母様はショックでただ泣いて謝るばかりだったと聞いた。

いわゆるお祭り男・ムードメーカー的存在の藤崎の不在で、
うちのクラスのみんなもなんだか覇気がなく。
いろんな人に心配かけて、自分勝手すぎるよ、藤崎…
そうこうしている内に2月になり、あたしたちは週一回の登校日を除いて、卒業式まで自宅待機となった。

2月の最初の登校日。
やはり、教室に藤崎の姿はない。
授業も何もかも終わっているので、学校に出てきても特にすることのない進路の決まった生徒はなんとなくお気楽ムードだし、
志望の大学に落ちたりして進路の決まってない生徒は先生方に報告と相談、
国公立の2次試験を受ける人は家や予備校で勉強しているのか、学校に出てこない人もいる。

そんな中、校内放送が入る。

「3−Bの牧島瞳子さん、至急校長室まで来てください」

校長室から戻ってきた瞳子さんはなんだか浮かない顔をしていた。
「校長、何だって?」梢や絵里が心配そうに聞く。
「…卒業式の答辞をやれってさ」瞳子さんの口調はどこか投げやりだ。
「答辞って、主席クラスがやるんでしょ?瞳子さん入学式の代表挨拶もしたし、すごいじゃない、光栄なことじゃん」仲間たちは口々に言う。
「いや…藤崎がいたら、あいつが間違いなく答辞読んだんだろうなって思ってさ…。
たまたま今回は藤崎いなかったから成績順であたしになっただけで、
成績だけじゃなくて、生徒会とかで、うちらの学年で一番この学校に貢献したのって藤崎じゃない。
だから、あたし校長たちに言ってきたんだ。
もしも藤崎がこのまま戻ってこなかったら引き受けるけど、戻ってきたら彼にお願いしてくださいって」

藤崎の行方は知れないまま、時間ばかりが過ぎていく。
ついに2月の下旬になり、卒業予餞会、卒業式のリハーサルと、
3月3日の卒業式に向けて着々と準備が進んでいく。

あの日以来・あたしのかばんの中には、藤崎が戻ってきたら渡そうと、
いつでもあのお守りと、バレンタインのチョコレートが入っていた。

けんかばっかりしてたけど、いい友達だと思ってたけど、
彼がいなくなってやっとわかった。
いつの間にか、彼に対しての気持ちが「恋」に変化していたことに。
 
                 (『Teenage Walk』へ続く)



















2003年08月16日(土)


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