.第6話:『Teenage Walk』 

 3月3日、ついに卒業式の日がやってきた。
 
 やっぱり、教室に藤崎の姿は、ない。
 
 ひとつだけぽつりと空いた藤崎の席。
 どこに行ったか知らないけど、今日だけは帰ってきてほしかったのに・・・。そんなことを思いながら主のない席を見つめる。

 やがて、式の時間になり、体育館へ移動する。
 長ったらしい校長と来賓の挨拶を経て、卒業証書授与。…と言っても、ひと学年約400人いるので、全員の名前を読み上げるものの、もらうのは各クラスの代表者が壇上で全員の分を受け取るのだけど。
 
 B組も、本並先生が一人一人読み上げていく。
「・・・以上・3年B組43名。代表・藤崎千尋・・・代理受領・牧島瞳子」

 ・・・え!?
 一瞬、自分の耳を疑った。クラスのみんなからもざわめきが起こった。リハじゃ先生はこんな言い方しなかった。藤崎の名前は挙げずに代表・牧島瞳子とだけ言っていた。
それがどうして・・・。

 当の瞳子さんは何食わぬ顔で壇上に上がり、証書を受け取った。
 マイクの前に立ち、それを見守る本並先生の表情も少しも変わらなかったのだけど。
 あんな不自然な言い方したのには、何かわけがあるのだろうか・・・。


 「…卒業生代表答辞・総代・3年B組牧島瞳子」

 瞳子さんがすっ、と立ち上がり、壇上にたつ。
「春三月の良き日に、この伝統ある城山高校から旅立つ私たち・第33期生412名は…」凛とした彼女の声が、しんとした体育館に響き渡る。
 もしここに藤崎がいれば、彼があそこにいたかもしれないんだよなあ…そんなことを考えながら、壇上の瞳子さんを見ていた。

「先輩たちによって受け継がれてきた、文武両道・やるときはやるの精神は、
私たちに素敵な学園生活をもたらしてくれました。
特に私たちの三年間は、本当なら、今日ここにたっていたかも知れない、
一足先にここから旅立ち、遠く離れた地で頑張っているある一人の同期生によってかなり充実したものになりました。」

 瞳子さんのこの言葉で、あたしは確信した。
 本並先生と瞳子さんは、藤崎について何か知っている、と。
 
 「・・・この3年間、楽しく、そして有意義な日々を、時間をともに過ごした仲間達、私たちを導いてくださった先生方、今日のこの日を迎えるにあたり、18年間育ててくださった両親そして家族・・・私たちを見守ってくれた全ての方々に感謝します。
ここで学んだ、この伝統ある学び舎で培った『城山魂』を胸に私たちは新しい世界へ歩いてゆきます。

平成七年三月三日・第三十三期卒業生代表・三年B組牧島瞳子」

 …藤崎のことはともかくとして、すごく心に響く『答辞』だった。中には感極まって泣き出す子までいた。
 やがて式は終了し、あたしは瞳子さんたちにさっきの疑問をぶつけてみようと思ったが、卒業式後の混雑で聞けないまま教室に移動し、ついに最後のHRが始まった。
 本並先生の手によって一人一人に卒業証書が手渡され、今度は生徒それぞれが思い出やこれからのことを語り、その次には本並先生と副担の話があって。
 ところが、もうこれ以上することはないだろうと言う段階になっても、本並先生は帰りの号令をかけない。不思議がるあたしたちに、先生が言う。
「これから予定があるかもしれないけど、もうしばらく待っててくれないかな」

 とりあえず後ろで待ってる父兄の方々には、一言断って帰ってもらうことにしたが、教室には全員が残って待っていた。

 しきりに時計を気にする先生、教壇に残された卒業証書と思しき紙…まさかあれは藤崎に渡すもの…?そう思ったときに、遠くのほうからえらい勢いで走ってくる足音が聞こえた。
 それはだんだん近づいてきて…やがて足音の主が、勢いよく教室の後部ドアを開けた。


「すみません、おそくなりました!!」


息を切らして駆け込んできたのは…藤崎だった!


かなり急いできたのだろう、制服のネクタイは曲がってるわ髪はぼさぼさだわ、
それでも、間違いなく藤崎がそこにいた。

「おせぇよ藤崎!卒業式には間に合うように帰って来いって言っただろうがっ!」
本並先生の声が響く。
「ひでぇよ先生その言い草。神戸からこっちにくるのって今何時間かかると思ってんだよ!」
負けずに言い返す藤崎。

神戸!?

 ぎょっとした顔の生徒みんな(正確に言えば瞳子さんを除いた全員)に本並先生と藤崎が説明をはじめる。
「この馬鹿、地震で凄い状況になって、いても立ってもいられなくてバイクで被災地まで行ったんだと!
で、現地でボランティアスタッフをしてたのをやっと見つけてな。
とにかく今日だけは帰って来いって言ったんだ。
バイクじゃ危ないから電車でもなんでもいいから無事に帰って来いって。」 
「俺が金がないって言ったら、先生が送金してくれて。感謝してますよ!」
「ばか、あれはくれるんじゃないぞ!出世払いで必ず返せよ」

そんなやり取りの中、あたしは瞳子さんにそっと聞く。
「いつ知ったの?」
瞳子さんは肩をすくめて答えた。
「昨日の夕方。ひょっとしたら答辞読まなくていいんじゃないかって期待したんだけどね」

「よーし藤崎、席に着け、おまえが帰ってこないとB組の卒業式は終わらないんだぞ」
藤崎は乱れた髪と服を直し、自分の席につく。
そして、本波先生が教壇の前に彼を立たせ、卒業証書を読み上げ、手渡す。
深々とお辞儀して藤崎がそれを受け取ったとき、教室はみんなの割れんばかりの拍手で包まれた。

       (『Teenage Walk』へ続く…あと2回(の予定)です)

2003年09月14日(日)


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