.第6話:『Teenage Walk』 

 いよいよ本番当日。
 実行委員の特権!?をフルに発揮した藤崎と瞳子さんのおかげで、あたし達の出番は最終日の一番最後。
 体育館の地下を特別に楽屋として使い、舞台のセリなどを利用してすぐ上の舞台に上がれるように学校と演劇部にかけあったのも藤崎と瞳子さん。
二人がいなければこの企画が実現しなかったといってもいいくらい、二人の力は大きかった。
 もともとは手芸部長の市原さんがこういうことがやりたいと瞳子さんと藤崎に持ち込んだのがきっかけで、たった3人で始まった企画がいまや手芸部のみならず、美術・写真・軽音・吹奏楽・演劇・放送の各部を巻き込んだ一大プロジェクトにまで発展した。
 作品(衣装)製作側の責任者として活躍した市原さんも含め、こういうイベントをやるには企画力と、それを実行できるだけの能力を備えた人がいるだけで、盛り上がり方も違うんだな−と、3年のスタッフは最後の全体打合せの時にささやきあったものだ。

  本番一時間前。
 スタッフと、一番最後に登場する本並先生以外のモデルが舞台下に集結した。
「えー、いよいよ本番となりました。手芸部3年生にとっての思い出作りのための企画が、こんなに立派なプロジェクトになってとても嬉しいです。このプロジェクトの最大功労者である藤崎君と牧島さんにはほんとに感謝してます。
それでは、本番、頑張りましょう!!」
手芸部部長・市原さんの言葉に拍手が起こる。

 あたし、藤崎、由衣姉、うちの店のスタッフ、藤崎の店のスタッフの人たちはいっせいに準備に取り掛かる。
 あたしと藤崎と由衣姉はメイク担当、他の美容師さんたちがスタイリング担当。
出来上がったモデルさんから順に美和子や手芸部の人たちが衣装を着せていく。
美容師さんたちが鮮やかな手つきで髪型を仕上ていくのに、あたしと藤崎はみとれていた。
 素人のあたし達じゃまねできない、まるで魔法のような手つき。
 特に藤崎は、美容師さんたちの手元を食い入るように見つめている。
その真剣な横顔をしばらくじっと見つめていた。
「ほら、二人!観察は後!!次がくるわよ」由衣姉にたしなめられ、慌ててあたし達は持ち場へ戻る。
やがて開演の時間となり、一組目のモデルさんたちが舞台セリ、袖、体育館の入口とそれぞれの登場場所へスタンバイする。

「おまたせいたしました。ただいまより手芸部によるファッションショーを開演いたします」

アナウンスの後の一瞬の静寂。
鳴り響いたBGM。
次の瞬間、割れんばかりの拍手と歓声を聴いて、あたし達はこのショーが大成功になるであろうと確信した。

出番を終えたモデルさんたちが戻ってきて、次の衣装の為に急いでメイクがえと髪型を直すメイクスタッフ。
息つく暇もないほど忙しいのに、なんだかとても楽しくて、わくわくしたきもち。
予定通りにショーは進み、いよいよ(瞳子さんには内緒の)ラストステージが近づいてきた。

「あー終わったーお疲れー」
自分の出番を終えた(と本人は思っている)瞳子さんが楽屋に降りてくる。
衣装を脱いで髪形を元に戻そうとした時 、市原さんの鋭い声が飛んだ。
「瞳子!まだよ!!!」

「へ?」瞳子さんの瞳が大きく見開かれたまま固まった。
「これで終わりじゃなかったっけ??」
「いーや、もう1着あるの。ささ、こっち来て」美和子が瞳子さんを衣装の方へ引っ張っていく。
「なにそれどういうことよ〜〜〜〜〜〜〜!?」事情がよくわかってない瞳子さんに無理やり着替えさせる着付けスタッフ。

「おっ、さっすがよくにあうねえ」ウエディングドレス姿になった瞳子さんに、市原さんがニヤニヤ笑いながら言う。
「市原・・・あんたなに考えてんのよ、だましたわね!?」そんな彼女をぎりっ、とにらみつける瞳子さん。
「だってあんたに事前に言ったら嫌がるかと思ってさ。これを着るのはあんた以外に考えられなかったから」
あくまでも淡々と語る市原さん。あの瞳子さんにここまでいえるあたり、さすがである。
「さ、もう時間ないんだし相手役も来るから。藤崎、谷村さん、あとよろしく〜」
無理やりメイク用の椅子に瞳子さんを座らせ、去っていく市原さん。

「よくもやってくれたわね〜〜〜〜」
鏡越しににらみつける瞳子さん。それだけでも威力十分なその目に、思わず苦笑する。
「市原からのお礼だってさ、素直にうけとれよ牧島」瞳子さんの髪を梳かして、結い上げながら藤崎が言う。
「何でこれがお礼になるのよ〜!?ウエディングドレス着るにゃまだ早いんだけど!」瞳子さんが珍しく駄々をこね始めた、そのとき。

「市原〜これでいいか!?」その声とともに入ってきたのは本並先生。
濃紺のタキシードが長身の先生によく似合って、いつものスーツ姿とはまた違う感じで、ほれぼれするほどかっこいい。
「お!ばっちりじゃないですか!! じゃあちょっと髪形直しますんでこっちにお願いします」
市原さんに連れられてメイクスタッフの方へ歩いてくる先生。瞳子さんが座っている場所をとおりざま、
「さすがにそうしてると瑶子(ようこ)に似てるな。綺麗だよ」瞳子さんに向かってそうつぶやいて、少し離れたいすにすわる。
「ねえ、ひょっとしてさあ・・・・・あたしの相手役って本並先生?」耳まで真っ赤になった瞳子さんが小さな声で聴く。そうだよ、と答えると。
「市原にやられた・・・・・・・でも、ありがと。」瞳子さんは怒っているのか、笑っているのか、照れているのかなんとも言えない複雑な表情でつぶやいた。

瞳子さんのヘアメイクが全て出来上がり、頭にヴェールと小さなティアラを乗せて、準備完了。
「じゃあ、ラストステージ・お二人さん、行ってらっしゃい!」
市原さんの掛け声で、その場にいた全員が拍手で送り出す。
その後姿を見送りながら、隣にいる藤崎に小声で問い掛ける。
「あのさぁ藤崎、瞳子さんの好きな人ってひょっとして・・・本並先生?」
「谷村もそう思った?市原のプレゼントってこういう意味だったんだな・・・粋なことしてくれるよな、市原も」

しばらくして、今までで一番大きな歓声と拍手が聞こえてきて、楽屋のあたし達も手を取り合って大喜び。
感極まって泣き出す子までいて、この大きなプロジェクトを見事大成功に収めた達成感と喜びが楽屋中に溢れていた。

 うちの学校の文化祭はアンケートを取って、舞台発表、展示・販売部門でそれぞれ表彰を行うのだが、あたしたちのプロジェクトはクラス単位ではないので表彰の対象にはならなかったが、アンケートでは最高得点をマークし、発案者である市原さんをはじめ、プロジェクトチーム全員涙を流さんばかりに大喜びしたのだった・・・・。

2003年03月28日(金)


≪back title list next≫

menu

最新の日記
メール

enpitu menu

My追加

My追加
enpitu skin:[e;skn]

Copyright (C) shi-na, All rights reserved.