.第6話:『Teenage Walk』 

 「あ゛〜〜〜〜〜〜」

 文化祭が終わった数日後、3−Bの教室。

「気−が−ぬーけーたー」

 ファッションショープロジェクトで燃え尽きた感のあるあたし、梢、絵里が思わず吐いた言葉。

「文化祭終わればもう楽しい行事ってないよねー・・・」イベント大好き、軽音も引退した絵里がぼやけば、
「絵里はいいじゃん、もう進路決まってんだから」もうすぐ芸大や写真学科のある専門学校の試験ラッシュとなる梢がつっこむ。
 文化祭のファッションショーに自分のクラスの出し物以上にのめりこんでいたあたし達。
 文化祭が終わった今、気が抜けてなんとなくボーっとした毎日を過ごしている。

 「・・・そーいや、瞳子さんは?」文化祭が終わっても瞳子さんは何かと忙しいらしく、教室にいないことが多い。授業が終わって帰り支度をしたものの、姿の見えない瞳子さんを待っているあたし達。・・・と、その時。
「牧島なら本並先生んところだよ。・・・文化祭終わったからっておまえらたるんでるぞー」その声とともに藤崎が持っていた日誌であたしの頭を小突く。
「いったぁ〜!なにすんのよ藤崎!!」
「たるんでるおまえに喝を入れてやったんだよ」と藤崎はニヤニヤ。

 「それよりも谷村、これを見ろ!」
 得意げに彼が眼の前に差し出したもの、それは藤崎の第一志望の美容学校の合格通知。
「あら〜ほんとに藤崎って美容師志望だったんだ〜」絵里がその通知を見ながら、さも意外そうにつぶやく。
 無理もない。医者の息子で学年で一・二を争う秀才、しかも国公立トップレベルの大学の理系学部に合格間違いなしとの呼び声高く、先生方の期待を一身に集めていた生徒が、実は美容師志望でした、と知ったときのみんなの反応といったら・・・。
「これで春から神戸暮らしだぜ」とうきうきと語る藤崎。
ほんとに神戸、行っちゃうんだな・・・・って、なんでちょっと残念なんだ?

「藤崎、あんた自慢する為にわざわざ寄ってきたの?なんか用事があったんじゃない?」梢の問いかけに。
「おー、すっかり忘れてた。谷村、本並先生が呼んでたぞ」ほんとに忘れてたような藤崎の表情に思わず吹き出しつつ。
「んもー、それを早く言ってよ!!」と、あたしは慌てて視聴覚準備室へ向かうのだった・・・。

 部屋の前に立ち、ドアをノックしようとするとまだ先客がいるらしく話し声が聞こえてくる。
 「・・・そうか、もう決めたのか・・・」
 なんとなく苦しげな、ためいきまじりの本並先生の声に思わずドキッとして、部屋に入ったら悪いような気がして、ドアの外でしばらく待つことにした。
「決めるも何も、昔からの夢だもの」そうきっぱりと言い放ったのは…瞳子さん!?
「お前俺には一言も言わなかったじゃないか」
「担任に対して最低限のことは言ってるじゃない、留学志望だって。」
留学志望!?瞳子さんが?
「違うよ、俺が言いたいのは一応家族なんだから、俺や瑶子にも一言ぐらい相談したっていいじゃないか」
「同居してるわけじゃないんだから、別に関係ないでしょ…」あくまでも瞳子さんはそっけない。
「瞳子っ!」背を向けかけた瞳子さんの手首をつかんで引き寄せる先生。
「…そんなコトしたら、いらぬ誤解されますよ、本並先生。ただでさえ義妹の担任だってことでPTAから変な目で見られてるの、知ってるでしょ」
瞳子さんの言葉は氷のように冷たいけれど、先生からそらした瞳は、たとえようのない切なさをたたえている。
「…というわけで、もうお話終わりですよね?あたし、もう行きますから」
 瞳子さんが出て行くのを、今度は先生は止めなかった。
 鉢合わせするのもまずいような気がして、あたしは慌てて隣の教室に身を隠した。

 しばらくそこに身を隠し、瞳子さんの足音が遠ざかっていくのを確認してから、再び隣の部屋へ。
「本並先生、用事って何ですかー?」出来るだけさりげなさを装って聞く。
「おせぇよ谷村!藤崎が呼びに行ってもなかなか来ないから、もう帰っちまったのかと思ったぞ!」
 先生はもういつもの表情に戻っていたけど、さっきの瞳子さんへの態度がどうしても引っかかる。
 先生の態度が、生徒や妹に対するものとはちょっと違うような気がして。

 「谷村、これが美容学校の願書な。…やっとその気になったな」
 先生が机の中からいくつもの封筒を取り出しながら言うので、もうそれ以上は聞けなくなってしまった。
「もうちょっと決めるのが遅かったら、もう県立の応募に間に合わないところだったぞ」
 あのファッションショーを通して、あたしはやっと、自分の進路を見つけることが出来た。
 遠回りしたけど、美容師になろうと決めた。
 ひょっとしたらずっと前からあたしの中にあった夢だったのかもしれない、でも、今回のファッションショーのスタッフとしてかかわったことで、ちゃんとそのことに気づくことが出来た。
それに気づかせてくれた藤崎には、本当に感謝している。
「藤崎には言ったのか?あいつが聞いたら喜ぶぞ」先生が藤崎の名前を出したので驚く。
「何でそこで藤崎が出てくるんですか!?」
「あれ?お前たち付き合ってるんじゃないのか?藤崎がずいぶん気にしてたぞ、お前の進路のこと。あれだけ素質があるのに美容師の道に進まないのはもったいないって。あいつがあれほど他人を気にするのは初めてみたがな」付き合ってないですよ!!と反論しながらも、なんだかうれしかった。

 …でも、あたしが美容師になると決めたからって、あたしは県立の美容学校志望だし、藤崎はもう神戸の学校に行くことが決まってるから、一緒に競い合いながら同じ道を目指す、ってことは出来ないんだよね…。
          
                    (『Teenage Walk』へ続く)

2003年04月26日(土)


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