.第6話:『Teenage Walk』 

 いよいよ本番一週間前。
 ファッションショーの衣装もほとんど出来上がり、今日は衣装のポラ撮りのために梢や写真部の人たちが、部屋のあちこちでシャッター音を響かせている。

 あたしと藤崎以外のメイクスタッフは、由衣姉や藤崎のバイト先の人たちが参加することになっているので、参考の為にメイクスタッフ用のアルバムと、文化祭終了後に希望者に配るメイキングアルバムを作成する為に、梢たちは常にカメラを持ち歩いて準備に追われるスタッフ達の姿を撮影しつづけていた。

 「ハイ、これで全部だよーん」
 梢が出来上がった衣装のアルバムを2冊差し出す。一冊は藤崎と藤崎側のスタッフ用、もう一冊があたしと由衣姉用のもの。
「ごめんねー、メイキング作るだけでも大変なのにー」あたしが言うと、
「いやー、こういうことでもないと部活らしい事しないからねぇ。
フィルム代は実行予算内で見てくれるって言うからみんな張り切ってるわよ」
梢はまだ動き回っているほかの写真部員を見ながら笑う。と、そのとき。
「ごめん、藤崎いるー?」
視聴覚室のドアがいきなり開いて、入ってきたのは富田と楓。
入口近くに立っていたあたしと梢に気がつくと、その表情が一瞬曇る。
「おつかれ!藤崎なら本並先生んとこにいるよ」そんな彼等に笑顔で答える梢。
あたしはその光景を不思議な気持ちで眺めていた。

「ねえ、もうなんともないの?」あたしは恐る恐る聞く。
「何が?」
「富田と楓の事」あたしの問いに、梢はああ、と短くつぶやくとかすかに苦笑いした。

 梢と富田が別れたのは昨年の夏休み前。
 別れを言い出したのは梢だった。
 ただ別れただけじゃなく、ひそかに思いあっていた楓と富田の橋渡しまでして。
梢は富田と楓を責めたりはしなかった。
だけどさすがに気まずくなったのか、それまで一緒につるんでいた楓はいつのまにかグループから離れていった。
 3年に進級してクラスも別々になって、今では会う事も話す事もほとんどなくなっていた。
 
 二人が別れた事を聞いたとき、あたしは梢のしたことが理解できなかった。
 まだ相手(富田)のことが好きなのに、自分から別れを言い出しただけでなく、いくら友達とはいえ恋敵(楓)と彼をくっつける真似までするなんて、と。

 だけど、今ではなんとなく理解できる。
 あたしも、彼とあんな別れ方をして痛いほどわかった。
 好きなだけじゃダメなんだ。って
 すっごくすっごく好きなのに、どうしようもない事もあるんだ、って。
 梢は、きっと苦しんで、悩みぬいてああするしかなかったんだ、って。

 「あの二人を見てて全然平気、っていったら嘘になるよ。
でも、付き合ってるままで、夏樹の気持ちがどんどんどんどん楓に向いていくのを見てみぬふりは出来ない、そっちのほうがずっと辛い、って思ったらああいう方向に行くしかなかったの」好きなままで別れちゃったから、まだちょっと次にいけないんだけどね、とてれて笑う梢。
「でもね、夏樹を好きになって得たものがあるんだ」
「何?」
「これ」そう言って胸元にぶら下がっていたカメラを指し示す梢。
「最初はさー、堂々と夏樹の写真が撮れる、ってすっごい不純な動機で写真部入ったんだけど、夏樹と別れても写真は嫌いになってない自分に気付いたのね。写真展で賞をもらうようになってたし。
写真関係の仕事が出来たら、って将来の目標が出来ただけでもすごいと思わない?」
「うん、すごい」・・・本当に素直にそう思った。
確かに梢の写真の実力は誰もが認めるものだし、うまくいえないけどものすごく何かを伝えてくれる、そんな写真を梢は撮るのだ。

 「それはそうと、あんたはどうなのよ、麻衣」
 ひとしきり話が終わると、今度は逆に聞き返す梢。
「どうなのよって、何が?」
「決まってんじゃないの、新しい恋♪」
「あー。なんかどうでもいいやぁ、って感じ。今はそれどころじゃないしね」
 これはあたしの本音。彼と別れてもう何ヶ月もたつけど、別に引きずるわけもなく、だからといって好きな人が出来たわけでもなく。
「あれ?藤崎といい雰囲気だと思ったんだけど、違うんだぁ」意味ありげに笑う梢。
「なんでそこで藤崎が出てくるのよ!?・・・確かに、彼と別れた時助けてもらってから藤崎のイメージってすっごくよくなったけど、そんなつもりで見たことないわよ?」思っても見なかった梢の言葉に思わず目をむく。
「だって藤崎があんなに女の子と親しげにしゃべってるのって、滅多に見ないもん」
「瞳子さんとか市原さんとかともよくしゃべってるじゃない!」
「あれはある意味業務連絡だから、でしょ?藤崎が自分から話し掛けたりするのってあんたぐらいだって。
少なくともあたしがこれに関わるようになってからはそういう風に見えるけど?
あたしはともかく、レンズは嘘をつかないわよ?
まあ見てごらん、いい顔してるよ二人とも。」
そう言って梢が差し出したのは一枚のポラ写真。
そこには、子供のような笑顔の藤崎と、彼としゃべるあたしが、いた。

              (「Teenage Walk」┐愨海)

2003年01月27日(月)


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