くじら浜
 夢使い







空を飛びたい   2003年06月30日(月)

いつもいつも思っていた
知らない世界への憧れは今も同じ
ナツダイの木から屋根に伝って
龍郷湾を眺め
黄金の舟を待っていた少年は
海から空は繋がっていることを知っていた
空は垂直であり
海は平行だから
海から眺めるその空間はとても窮屈で
雨をよけたあの舟の下は
とても窒息しそうで
ここから空に飛べると信じていた
空間は窮屈で
とても窮屈で
ぽっかり空いたそこからもいちど雨に濡れ
平行に浮かんだ僕は顔をいやという程叩きつけた
雨が走り去ると
今日もナツダイの木から屋根に伝り
空を跳ぶ






ぅじ   2003年06月26日(木)

人里離れた場所にあるその家
今にもくたばりそうなぅじが一人で住んでいた。
ぅじはひとりで飯を食う
ぅじはひとりで散歩する
ぅじはひとりで糞をする

みんなから煙たがられているぅじ
ぅじの家に遊びに行くのは僕しかいない
ぅじはほんとはとてもお喋りだ
今日もぅじの戦争時代の話が始まった
ぅじの家はとても汚い
臭い
ぅじはみんなから嫌われている

それでも
ぅじはひとりで生きている。


ぅじからお菓子をもらった
帰ったら母ちゃんはそれをポイッとゴミ箱に捨てた。
「もうぅじの家には行くな」
と言った

でも僕はこっそりと遊びに行った
「ぅじ!また戦争の話しせー!」
ぅじの話はおもしろかった。


ぅじの禿げかかった頭には白髪がたくさんあった
その白髪から覗く頭皮には黒いシミがたくさんあった
ぅじの顔は皺だらけだ
両方の頬っぺたがだらしなく垂れ下がっている

ぅじ
あなたは今日もひとりで顔を洗っているのですか


ある日
ぅじが泣いていた。
ぅじの戦争話を聞きに行ったのに
ぅじはひとりで泣いていた
僕は
ぅじが泣き止むのを待っていた
ぅじが話を始めるのを待っていた

ぅじは長い間泣いていた
僕は長い間待っていた

ぅじ
あなたの話を聞かせてください

しばらくしてぅじは泣き止んだ

僕の掌を静かに掴むと
その上にお菓子を乗せた
ぅじ
僕はお菓子よりあなたの話を聞きたいのに
ぅじ
今日は話はしないのですか


ぅじの背はとても曲がっていた
ぅじの足は棒っ切れのように細かった
ぅじは散歩に出るときはいつも草履だった
ぅじは歩くのがとても遅い
風が吹けば飛ばされそうだ

でもその足はしっかりと大地を踏ん張っていた。


ぅじはひとりで爪を切る
ぅじはひとりで屁をこく
ぅじはひとりで布団を敷く

ぅじはひとりで散歩する

ぅじはひとりで空を見る
ぅじはひとりで星を見る
ぅじはひとりで息をする
ぅじはひとりで瞬きする

ぅじはひとりで顔を洗う


ぅじ
今日もあなたの話を聞かせてください






うろこ雲に想う   2003年06月10日(火)

いつも見る空は高いと思う。
いつも見上げる空は青いと君が言った。
うろこ雲を見ながら君が言った。





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