しゃぼん暮らし
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2004年06月27日(日) ワン・ノート・サンバ〈3〉

このひとはふところに
あるいは腕のしたのあたりに

さざなみを抱えているのではないか

夕暮れ時に駆けこんで
三宅榛名さんのピアノ演奏を聴いた
完全即興60分

そっきょうろくじゅっぷんって
どんなだろう

最初の鍵盤に落ちる指は
なにをしってるのか

音が音を呼ぶのか

とにかくすべてのひとが
たかい天井に響きわたる音色に耳を傾けていた
しろいおおきな窓にはうすい布に写真が
焼きつけられている
手や
足や
踊るひとのパーツが
やわらかくひきのばされて

《KazuoOhnoDayコンサート》

ピアニストの三宅氏は
数多くの舞台で舞踏家・大野一雄さんと共演されている

途中 ピアノから離れてちいさな机のところに
さっと布をとった
それがわたしのすぐ目の前

どきどきする

箱のようなアコーディオンのような
あれはなんて楽器?
ちいさなちいさな鍵盤を弾きながら
ぎゅっと蛇腹を押しながら
楽器とひとの呼吸が伝わってくる



すべてを激しく優しく弾きおえたひとは
アンコールを請われて
指を遊ばせるように弾いた


『野ばら』


泣きそうになる




《大野一雄フェスティバル2004》は7/4まで開催中
BankART1929ホールは
元銀行であった建物で 吹き抜け、回廊、石造り、たまらない空間です
すごく贅沢な企画
http//www.bankart1929.com




2004年06月26日(土) ワン・ノート・サンバ〈2〉

見えない

と思ったら浮きあがってくる線があり

ひかり、の物語


150枚の児童画とその絵そのままの刺繍
クレヨンと糸の
150×2

一枚一枚ていねいにみてゆく
隣でふうちゃんママが寝ているちいさい子をだっこしながら
やはり一枚一枚じっと見ていた

不思議な光景だ

《母と子の表現展・初日》

どの絵にも子供がはじめに色を落とした線があり
わたしたちが追いかけはじめた
ひとさしがある
出来上がっていろんなひとの手によって展示され
そこにみているひとがいて

派生するもの

コラボってほんとうに面白い




わたしの書もかたすみにあった

大好きな天窓と木の園舎に
わたしのやんちゃな文字たち

嬉しい


後日
ふうちゃんママが

わたしの顔を見たとたん
ぱっと口にした

「あ、ひろたさん、よかったよ!」

「えっ?」

「あれは虹でしたか」

「ああ」

「あれ、あれ、ああ、って思ったよ」



(部分借用してすみません)

(基調音はこちら)





あれは虹でしたか薬屋の奥の庭にこどものあなたいました/東直子





2004年06月25日(金) ワン・ノート・サンバ〈1〉

夥しい「十」

階段の踊り場から教室まで
壁いちめんの「十」
お習字だ

くろいむれ

なんて生々しい堅固な十字架

すこしひるむ

三年一組のみなさんは帰り支度をしている
ひとりにひとつずつ箱をもって教室を出てゆく 二日分の葉を手に手に
蚕はいまや週末毎にやってくるのだ ケースのなかにはトイレットペーパーの芯を1/2に切ったものがセットされている



「カイちゃん(仮名)、どう?」


成長がはやい びっくりするほど大きくなっている
ユイの箱のなかをのぞきこんでいると
周りに子供達がやってきて
「僕は」「わたしは」と報告しだした

「見た!」と

゛脱皮目撃゛゛がこのところのクラスのブームらしい 
みんな わたしに脱皮のことを言いたいのだ


帰宅してしばし観察
呼吸のリズムにあわせて背中をいっぽんの線が走る
うすくなったりこくなったりしながら

夜 眠る前に 蓋をあけると
虫はまるい芯のなかに入り込んで
動かない



ゆっくりと 


糸を吐きだしている



ああ、と 


このときのカイは五齢


解説によると
一齢で一眠、そして脱皮〜二齢で二眠〜脱皮〜三齢 三眠 脱皮〜 四齢 四眠 脱皮〜そして熟蚕、五齢になって一週間くらいで糸を吐きだす

(ユイは脱皮を目撃できなかったわけだ)

三人でくっついてプリントをながめて
せつめいしながら
昨日
発声練習でやったソルフェージュを思い出していた
黒い記号を
長2度 短2度 増2度 短3度 減3度 完全4度 重増4度 完全5度 短6度 長6度〜〜長9度〜〜〜

楽譜に散っていた音のつぶ






「おやすみなさい」


2004年06月23日(水) ウサギリンゴ、まえへならえ

あしたはお弁当リンゴいれて

と前の晩さんざん洗脳されていたせいか
水曜はお弁当いらない日なのにこしらえてもたせてしまった 
ああ またやっちゃった、気づいてはっとする

朝の時間



暑いあつい 帰り道 炎天下の公園のすみで
お弁当をひろげる子供


施設の作業やおつかい、市役所など

日焼けしてる なんとかしなければ
焼けるよ

(ておくれ、かも)


荷物をもって信号変わるのを待っていたら
うしろからきゅっと指を握って
約束させられる

「こんどのにちようびのよる、さんぽしようね」
「ゆびきりげんまん♪」
と子供

「わたしの指をかってにきるなーっ」
と横断歩道



お風呂にはいるとき
娘たちは最近ゴーグルつけて水着


なんなんですか
出たら脱いでください

わたしは壁にくっついてフォルムの稽古
逆立ち


すいようび


そういえば横断している
いろんな手紙



はたされずに燃えるウサギ


2004年06月22日(火) 「予感を表現すること」

絵本のひととき

園の講演会 今回の講師は
福音館書店で本をつくってらした
荒川薫さん

いつもは読んで聞かせるお母さんたち
今日はいろんな絵本を読んでもらって
いきいき、顔がほんわあり、してしまう

絵本づくりのABCから
優しい語り口であっというまの二時間


バージニア・リー・バートンが来日した際
木炭で機関車を描いてくれたお話など
楽しかった






2004年06月21日(月) ビフォア・ザ・レイン

このところ
『ビフォア・ザ・レイン』(マンチェフキー監督)を観ていたな


「雨がくる」、と


三時ごろはまだ あつい空で
歩きながら気配を感じた
ぽつりぽつり、雨粒が草の葉にあたるのを横目に

ユイの学校へ

裏道から校庭を横切るときには
すでにつよい雨が降っていて

ゆきかう下校の子供たちは
胸の前で手をあわせるように
傘を おりたたみの傘をお皿のようにまあるくして
それが色とりどりで可愛いのだ


させない


玄関でユイをみつけて歩きだすけれど
しばらくすると 背面の布がぴたりとカラダに張りついてしまう
汚れてもいい洗濯しやすい衣服を
いつも着用している故である

途中 数人の女の子たちが一列に並んで
「しっかたないー♪しっかたないー♪」と唄いながら歩いていた
ずぶぬれ

たけだけしい笑顔


(センパイッ、すごいっすよ!)
誰にともなく呼びかける

雨上り決死隊、って誰がつけたの?
お笑いのひとたちだっけ?
なんの隊?

などとぐるぐる考えながら 帰宅

着替えてから
きょう歯医者さんどうしようね、と言いながら
三人でバスに乗る
姉妹、わくわくしている

バスから降りたとたん

傘ごと
もっていかれる子供たち

横っ面をひっぱたかれるように
小動物はひっくりかえって歩道にうずくまった

笑っている

もっていかれることの
なんて見事なことだ

見惚れてるくやしがってる

場合じゃない


ほんのすこしの距離なのに
まるで海難事故にあってきたような私達
受け付けのひとのみならず 看護婦さんたちも総出で
拭いてくれて
冷房のスイッチを切ってくれて

しろいタオル


みんなお母さんのようだった




2004年06月20日(日) にちようの身頃

「あれ?けいちゃん」

「あ、レイちゃんママだー」「おはよう、はやいねー」
「うん、ラグビーの練習にゆくんだよ!」

けいすけ君 えっへん!という感じで答える
パパと手をつないでいる ごっついパパだ

「レイちゃんママは?」
「う、えっと、わ、わたしもれんしゅう」

肩にさげているヘッドキャップの
まるいカタチが見えた なかにおさまるはずの頭の空間の
ちいさい ちいさくて一瞬こわくなる


ちびラガーマン
地下鉄へ


きょうの稽古場は近所の地区センター 

開館前にベンチのところでぼんやりしていたら
おばさまに話しかけられる
五十代からスキューバダイビングに目覚めたという
「別世界よっ!」初対面のわたしに情熱的に語られるのだった

ああ べつせかいって そんなに
いいのでしょうか・・・


みんなが来るまで小一時間ほど
カラダをほぐしながら 声を出していた
ホーメイや合唱や演劇の発声や 
そのつどひびかせるところが違う
ひとりでえんえんやっていたら
水道屋さんのおじさんが水漏れ修理にきたり隣室のひとが「ノブがとれたー」と廊下で騒いだり(ふるい建物なんです)
可笑しかった(わたしの声のせいではない)


「ふつかよいー」と言いながら
大谷さんヤマザキさんが到着

ここからは声のない訓練

いままでの動きのこまかく分解しながらやってゆく 
ひとつずつ要素を
気づくのはカラダ

「単純なことを力強く」「離れる、ぶつかる、ここの距離を、しのぐ」「ぶつかってから壁の材質、カタチを感じる」「じぶんの範囲をこえる」「べつせかいっていやあ冬の山もいいぜ」「両足で立ってても不安定、なんだろ」
「もっていかれる練習」


終わってから夏の稽古予定をかくにん
すぐ8月ですね


お知らせはこちらから

●劇団新人類人猿・紙のPスペース●
〈http://www.amy.hi-ho.ne.jp/f6961300/〉



2004年06月18日(金) メッシュのチョッキ

あか(ばらチーム)

   みどり(さくらんぼチーム)

       あお(そらチーム)

           きいろ(ハムたろうチーム)



子供たちはメッシュのチョッキをつけて

走る


わたしたちはマフラーに



早朝の園庭

おんなのこチームと
ママさんチームの練習試合



キック・オフ


風ふきっぱなし

ボールかるい
 
とめるとめる とめながら

走る


2004年06月17日(木) 木曜事情聴取

この青い制服の男に

つつみかくさず話さなければならなかった
でも微妙なところは言えないのであった


娘はもっとぼんやりしている
忘れている

わすれて



十日ほど前

夕方
携帯で写真を撮られたよ、と帰ってきた娘

しらない誰かに おいで、と

「ちっともいやじゃなかったよ」
とけろりとしている


わたしはびっくりして

もうほんとうにびっくりして


「どうして?しゃしんとられただけだよ」


あわてて外へ出て近所を走り回って見回って
交番の前でじっいっとしていたけれど
帰宅して
ひろたさん(夫)にメール
ふだんは家を一歩出ると音信不通の彼

この時ばかりはすぐ電話がきた

「ど、どうしよう」
「うーん」
「交番とか学校に報告すべき?」
「うーん」
「防犯ベルとかもたせるべき?」
「うーん」
「このへん怪しいひとがおおいって」
「・・・どんなひとだったって?」
「あのね、おじさん、よんじゅっさい、くらいの・・」
「うーん」
「ひろたさんじゃないよね」

「は???」

「・・・ひろたさんならよかったのに」

「・・・」




そして

つい昨日
同じ男に会った娘
目があって あ と思って
「今度はぴゅーっと帰ってきたよ」と


(まちぶせ??)


担任の先生に相談したら
パトロール強化してもらったら、ということで
電話したら わざわざ自宅まで警官が来てくれたのだった

ちいさい子をただ連れ回す事件が
すこしはなれた所である

お願いしますとにっちもさっちもおねがいする
いたたまれない気持ちで
公園でフミちゃんのママに思わずこぼす

PTAが取り組んでいるCAP指導について
いろいろ教えてくれた

「しらないひとと話すときは相手が手をのばしてもふれない距離で」「これはしつれいな距離じゃないよ」
そしてなにかされたときは「大きな声を出す」
権利がある 
これは対大人、子供間、も、いじめなど
「君はけっして悪くない」「大きな声を出してもいいんだよ」
「起きた時点で声を出す」
言えない子供がおおいそうだ
男の人が男の子に、という事例では特に、という




しばらく送り迎えの毎日

そして夕方五時ごろ単身パトロール

家のまわりを歩くすべての男が
怪しく思えるひとときである



2004年06月15日(火) ゴミをもったまま

ゴミをもったまま
舗道に出て
泣いている朝もあった

「いってらっしゃい」と言いながら


ほんとうに去ってしまう、
と そのときは思う


ふりかえって
二、三歩だけ戻って名前を呼んで
やれやれ、と出かけるひろたさん(夫)


赤十字募金の小計がやっとあった

町内会の会長さんに わたし会計じゃないのになあ
たのまれて集める
ひとくち500円、で
各家庭に頼む、のです

募金があわないとふあんになる




2004年06月14日(月) オルゴールをきいてから

はいしゃの待合室の百合は
靴箱のうえに置かれていて座るとわたしの

あたまのうえ


こころなしか


先週より香りが減っている


姉妹が奥の診察室でくすくすと おしゃべりしながら
歯に薬を塗ってもらっている

「これから死ぬまで使う歯だから」

と看護婦さんの声




もう


帰る時間 妹はぱっと外へ出て
「したでまってるからーっ」
わたしは受け付けでカードを受けとって
ユイを急かした



娘はきんいろの柱時計をみあげている

もう、あとすこしで 

5時


お人形仕掛けの時計
おんがくが鳴るのを待っている


受け付けのひとが優しい声で「あと3分、くらいだね」



「レイちゃんしんぱいだから下で待ってるね、きいてからおいで」わたしはエレベーターにひとりでのった



階下の駐車場で待っていた妹は
とびはねて
わたしを急かす



ユイがおりてきた


「きいてきた?」



「うん」


2004年06月13日(日) 《フラジャイル》以後

三鷹・文鳥舎にて

佐藤りえさん、飯田有子さん、伊津野重美さんによる
《フラジャイル朗読会》にでかける

地下のこじんまりした空間、そこらかしこに
さり気なく配置されたものどもが
しぶい 文壇カフェふう
いるだけで気持ちが落ち着くかんじ 

紺野卓海ちゃん、カメラの日野由紀子さんが
テキパキと立ち働いている

ほどなく満員に

朗読がはじまった




実はあんまり憶えてなくて

『夢十夜』の第一夜とか それこそ
夢見ごこちで聞いていたわけだけれど

そのうち
いつのさんが朔太郎を読んだ


ぶっとぶ


そのなかの『遺伝』

わたし高校生のころ
この詩にいまわしいなつかしい思い出がありまして
録音されながら
教室で『遺伝』を読んだ


何度も何度も




  のあある とあある やわあ




なんだろ 音
              音の記憶


  ぎょっと する



(えみちゃん、はんそくーっ)
と心のなかで叫んでしまいました



しかし、 

わたしの思い出のほうが虚構だったのだ


それくらい 

声が、せまってきていた



(わたしのほうが反則なのだ)

とすぐ思いなおした





飯田有子さんの声は
むきだし感 果実っぽい

『歌をつくれなかったときの日記』はスリリングだった
どっかでおっこちそうな、零れそうな感じがずっとあって
ピーンと微かに張っている線が
たしかに あって


佐藤りえさんは
淡々としていて素潜りしている声
『アカルイアクム』では
ぱたんぱたん短歌がゆきつもどりつ
読まれてゆく 頭のどっかがくすぐられる


飯田/佐藤の『質疑応答』も
今までにはない試み
どのへんまで用意されているのかな
微妙な受け答えのはしばしが楽しい



最後の
いつのさんの挨拶は聞いていて
とてもとても嬉しくなった

ゆけゆけ、どこへでもーって気持ち

わたしもわけもなく
がんばろうと思いました



みなさん、お疲れ様でした


2004年06月12日(土) おはつ


〈勝夏・・・・無制限受講〉

ひらひらと垂れ幕
品川駅乗り換えの階段から
某進学塾の広告がたなびいている 

ううむ、カチナツ、こわい・・・


稽古場へ

8月の『ハムレット・マシーン』再演へむけて稽古開始
去年の11月の東京公演もそうだったけど
今回わたしはいろいろとさらに綱渡り状態です
(いま外堀からうめています)

しかし 誰も台本もってきてなくて可笑しかった
いちおうハイナー・ミュラーふたたび、なのに 前回かぞえるほどしか引用しなかった言葉が、言葉どーすんだろー、
いちだんとタイトなものになりそうである
きつい

「三歩走り」「生理をみせない」「不自然なほうへ」「じぶんのなかでズレをつくってゆく」「スピードときれ」「腿のうしろの筋肉」「マツダ(わたしのこと)、踊りすぎ」「マツダ(わたしのこと)、えらい息あがってるぜ」

わたし、だいじょぶだろうか、夏

そういえば夏木君がきょうは参戦、演劇、というより運動部みたいな稽古につきあってもらい
胸を貸してくれた


おわってから
なんか、カラダ痛てぇ、と思いながら
冷やし中華を食べる 

この夏おはつの冷やし中華
は しかしおいしかった




2004年06月11日(金) 花を束ねて

すこしまえの新聞を手渡される
朝なのに ひろたさん(夫)しゃべっている
「これ」と

あ お父さんの、
佐世保の事件で亡くなった女の子への父の手紙だ

読んで、記事を切り抜く


ほんじつは花の日集会
エプロンをつけて園へお手伝いに

ひとりひとり いろんな花をもってくる子供たち
ブーケふうのもの、抱えきれないほどのヤマユリ、一輪のガーベラ、
花屋さんで、おばあちゃん家の庭で、
さまざまだ
花と自分をはこぶ姿も

「わすれたー」とあわてて走ってもどる母と子も


包みをとって水に放す




こどもたち消防署、警察署、刑務所などに届けにゆくのである


お母さん達 仕分けして
花を束ねはじめた


ていねいに水を拭いている




2004年06月09日(水) お姫さまたち、天敵、

施設のベランダへ何度もいったりきたりして
そして空をみあげている

あいまに
山本昌代、堀江敏幸、保坂和志、など再読
頁をめくったりぼんやりしたり
小説ひさしぶり

老人達をお姫さまだっこすることがふえた
じーさまでもばーさまでもお姫さまだっこというのである

何故だろうか

こすりあう骨、白樺の木肌よ

ディ銭湯へゆきましょうよ、65歳以上をさそって
大衆浴場の高齢者専用昼風呂サーヴィス
さくら湯、菖蒲湯はおわったから 次は えっと、七夕湯、金魚湯??
(そんなものはありません) 
暦を調べたら桃葉湯、枇杷葉湯、夏の湯のなまえ
とうようとう、びわようとう、とうとう、とう


入浴前のかるい老人体操をじぶんかってに考案中
食堂のすみの窓ガラスで全身をうつして
タオルや洗い桶を使ったぬるい振り付けをしていたら
やたら楽しくなりむちゅうに


そこを
天敵に目撃されていた

この天敵のわるいところはおしゃべり
いいところはすぐ忘れるところ
いっしゅんの天敵である
天職、とか、天分、などもかようなものであろうか


雲の流れるのがはやい
だれかに報せたくなるほどだ


2004年06月07日(月) 小さな窓

柔軟剤でやさしく手洗いして
四隅ぴんと伸ばして
半乾きのまま糊付けして

アイロン

まできた

(児童画刺繍・6・仕上げ)

感想文も提出せねばならず ほほえましい母の苦心談みたいなやつ
かこうとして 
なんだか言葉が散ってゆく


こいつら なんとかしなきゃ


夜おそくなってから
墨をすってお習字をした



こいつら


ゴミみたいにふえてゆく文字たちをみながら
わたしって あまるなあ

じぶんの口元が笑っている 笑ってるな、おまえ、わかってんだよ

と思いながら

明日 刺繍提出のとき
園長先生にプレゼントしよう
ほんの数枚



置いて逃げるよ


ふふふ


2004年06月05日(土) 《日々》採集

朝から陽ざしがつよい
レイとふたり
ひまわりミラーのある坂の下 
つくりものの花びらでふちどられている標示ミラー

「とりにゆこう、とりにゆこう」

昨日 お兄ちゃん達がミラーと並ぶ木に登って実を山分けしているのを目撃したらしい
草ぼうぼうの斜面でちびを持ち上げようとしたが
難しい 休日のこんな朝から汗だらだらで木登りしてる母子って、うう・・・

登るのか、どうしても・・・

「あかい実、とりにゆこうよ!」

レイぐうぜん向日葵の花のプリントされたワンピースを着ていた
袖無しから出ているかっちりした腕 ガードレールのうえにでーんとのっかって
裸ではないがふんいきが
はだか
ちんまりぷっくりした足を木にかけて奇声をあげて(よいこは真似してはいけません)しがみついて手をのばして しかし
熟した実まではとおい
それでも
むらさきの実、かたいあかい実、
を袋にいれて持ちかえる
わたしはシャツについた緑のねばねばや葉ををはらいながら 
帰る
はだかの女にはなにもついていないようだ
収穫にきぶんがいいらしい 鳩胸を空にむけて歩いてゆく

        ○    ○    ○

帰宅したら郵便受けに
本田瑞穂さんの歌集『すばらしい日々』が届いていた 
ああ できたんだあ、と思う
採集前からこの手に届くなんて、と
じーんとする
包みをひらいて 
ふたたびじーんとする

去年のN市の夏を想いながら
うたのこと歌集のことを話すほんださんの
表情を

沈殿しているきれいな色素を

思い出しながら

頁をめくりながら

でも そのうち それらは消えていて

言葉


「よかったね」ひとりのひとにむけられる言葉を聞いているひとがいる

巻き込んでしまう けれどもできるだけバスはカーブをちいさくまがる

八階の窓から見える艶のない街にコップの水をかけたい

絵葉書をポストにそっと落とすとき闇が一枚分だけ浮かぶ

のぞきこむようにライチをむいている答えがひとつまた閉じていく

すばらしい日々を半音ずつ上がり下がりしながらやがて忘れる

ぬけおちたまんなか抱えながら聴くあなたの生でやさしい声を

        『すばらしい日々』(本田瑞穂)より


2004年06月04日(金) 蚕連泊

授業参観 暑くて
廊下にしゃがんだりしながら
参観

お父さんお母さん、熱心に子供達をみつめているけれど
全然かんけいないひと紛れ込んでいないかしら
ぼうっと考える


めまいがする

懇談会をさぼって帰ろうとしていたら
ユイが廊下で女の子から箱を手渡されていた
蓋に針でさしたようなこまかい穴がいくつもある
ふたりとも緊張した面持ち
先生があわてて階下へ走る 職員室から鍵をとってきて
三年生の教室のすぐ前の理科室をあけて
ごそごそとくろい袋をとりだした

「ユイちゃん、あさひるばんね」

「あさひるばん、あさひるばん、」
と娘は葉を受け取った

班で育てている
蚕を、

週末なので自宅であずかる ユイの順番が巡ってきたらしい

すこし困ったような顔をしながら
手をさしあげて蚕の箱を運ぶ

ゆっくりとすすんでゆく

ふうふう


まゆ


って女の子がでてくるお芝居
昔々、お父さんがかいてね、


ふうふう


おそるおそる
箱に手をかけて「だいじょぶかな、かいこ」


ふうふう

せめて日陰をあるきましょうよ


とてもへんてこなお話でね
まゆは糸をだしてお城をつくるの
わたしまゆのお母さんで娼婦の役だった
時空を越えて?会いにくるんだよ

ながいながい台詞をおぼえたよ
今はいっこも思い出さないけど
なつかしい言葉のてざわりは憶えている


ふうふう
「あけて」


そのお話のラストはね


炎天

途中みたび立ち止まり
じいっーっと見つめた

しろい幼虫を


「どうしよう」





2004年06月03日(木) 虹晴れ

ほんじつは正当な緑
幼稚園の親子遠足

だだっぴろい野原に放されて
どこへでも走ってゆく子供たち

まいにち教室を飛び出しているという逃亡者シュート君は
すこし発達遅滞気味、らしい
お遊戯の時間になっても走り回ってぶつかって

(あぶない、けがをするよ、)


(えっ)


ぴょいっと

とっさに

むつみ先生が少年を空にほおり投げた、

肩車する


がっちりした、でも、お、女のひとなのに
(ちなみにギターの名手)
頭上で子供の腰と腕をささえて
子供達の輪の中心で踊っている

いっしょに
たちまち汗びっしょりに

もう逃げられない男の子は
足元をみんなの頭にぎゅっと囲まれて
空にいちばん近いところで てれくさそうな

笑顔

「わあ」「すごい」「ほれるねー」とママさんたち

むつみ先生が飛び上がるたびに
なにかが破裂しそうだ

わたしはすこし苦しいような

なんてきれい

(生かす、って)

(こんなこと、できるんだ)





ヘリコプターの音がしている


どらねこロック、ニワトリ競争やドン・ジャンをして遊んだあと
なんと綱が登場、ママさん対抗綱引きだ

「いい?みんな、よい、しょっ、よい、しょっのリズムよ!」
とゲキをとばしはじめたのが
ふうちゃんママ(きゃしゃで富田靖子似の美人)

可笑しかった な、なぜ、とつぜん???
ヒトミがらんらんと燃えている

綱引きは綱を引くんじゃない 土を蹴るんだ、と学ぶ
ばらB組の淑女達ははつなつの杭みたいになって

圧勝


木の数だけ木陰がある

お弁当の時間になって手洗い場へむかう途中
空に虹の円

はじめてみた
まるい虹
天空の円
ほそい飛行機雲も二本

みんなで手をかざして見た




○あとから調べたら 虹ではないのですね、
暈(かさ)、日暈、月暈というらしい。

巻層雲を透して太陽や月を見るとその周囲に虹のような輪や弧、柱が見えることがあります。『空の名前』より





2004年06月02日(水) 「ケチ」と「スカ」

横浜開港記念日
ガッコはおやすみ

姉妹シールが欲しいと言うのでサンリオ・ショップへ
キティを売る女の子たちも衣替えしてる

(ややっ夏服ですか?なかなかシック)


デパートの屋上で遊んで
エレベーターにのりこもうとすると

わたしだけ挟まれる

「ケチだね、このエレベーター」とユイ



電車に乗って図書館にいったら
整頓の日で
休館日


ふたりは競争するように
扉の前まで走って 
ふたりはそれを見つけて
飛び上がって


「スカだー」

「ママ、スカー」







2004年06月01日(火) 唐黍方向

間断なく雨音
ふっと目をさまして あ と思ったら
姉妹も早起き

遠足は延期になった

遠くの緑のなかで皆で食べようよ とっとこう
と言ったけれど
姉妹にねだられて
早朝から遠足用の玉蜀黍をゆでた
ちいさく切ってぽんぽんと湯にいれて
すぐ浮かんでくる

競うように食べている

わたしは枇杷をむいた
豆乳を飲む
豆乳は美白にいいって、とママさんともだちが
くれた
びはく、ってよくわからないのだが

びはく、と想いながら
雨をみていた

傘を閉じるとき
雫があつまるでしょう

例年のごとく大量に送られている枇杷を
老人達におすそわけたら
剥くのに苦心させてしまった
ちゅうちゅう甘味を吸うだけのひともいて
楽しい


午後
めずらしくレイがお昼寝して
淑恵さんと電話で話す

真夏のハイナー・ミュラー・サミット
(金沢芸術村ドラマ工房)
お祭りだ 夜店はでないのかしら
はいなーはいなーって売るの

夏の『ハムレット・マシーン』再演のこと

すこしくらくらする


夕方

あしたはフローズン・ヨーグルトをつくろうよ

とユイが言う




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