冒険記録日誌
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2021年04月07日(水) ギリシャ神話アドベンチャーゲーム1 アルテウスの復讐(P.パーカー他/社会思想社) その6

 翌朝になり、豪華なベットの上で目が醒めると、女神の姿は消えていた。
 アフロディテ殿の言っていた重要な情報とはなんじゃったのだろうか。
 せっかくの女神のもてなしにもかかわらず無意味に憔悴した体をひきずって館を出る。
 ティリンスの町を抜け旅を続けると、ほどなく分かれ道にたどり着いた。1つは前回の冒険に通った
 ミケーネの町へつながる道のりじゃな。ならば今回はもう一つの医神アスクレピオスが見守るエピダウロスの町へ進む道のりを歩こうかの。
 ほこりっぽい道のりを歩いていくと、朽ちかけた皮の鎧を来た骸骨が転がっていた。守り神のアフロディテ殿に「拙者の運命がこの者より幸運であるように」と祈らずにはいられない。
 不幸な冒険者の剣を拝借しようかと思ったが、錆びていたので断念した。前回の冒険では運良く斧を手に入れられたのじゃが、今はまだ貧弱な棍棒しかないのが不安でござる。
 やっとたどり着いたエピダウロスの町は繁栄しているらしく、沢山の人々でごった返していた。じゃが、その割に町の人々の表情はさえない。むしろ神に見放されたように暗い顔つきだ。
 通行人の1人に訪ねてたどり着いた宿は、むさ苦しそうなちっぽけな建物じゃった。窓には厚いほこりがたまり、くさった食物のような臭気がたちこめていた。内心では吐き気を感じながらもカウンターまでたどりつくと大声をあげた。
 「たのもう!一夜の宿を所望いたしたい!」
 太って無愛想な親父が二階の鍵を差し出した。拙者の隣にいた老人が話し掛けてきた。
 「お若いの、さっさとこの町から出て行くことをお勧めするよ。この町には盗賊団が我が物顔でのさばっているんだ。医神アスクレピオスの神殿だって危ないだろう。ましてや余所者のあんたなんかすぐに殺されちまうさ。それともあんたは英雄面しているようだから、盗賊を退治してくれるのかい?」
 そこまで言うと老人は下品にヒャヒャと笑いこけた。盗賊団が勝手気ままにのさばるのは、町の住民にも原因がありそうだと考え、うんざりしてしまう。
 つまらぬ挑発にのらずに今夜は部屋に入り、小汚いマットレスに身を沈める。疲れと昨夜の寝不足で、すぐに拙者の意識は遠のいていった。
 「起きろ!」
 体を荒々しくゆさぶられたかと思うと片腕まで掴まれたのは不覚であった。目を開くと薄暗がりの中で見知らぬ男が2人いるのがわかる。どうやら老人の言っていた盗賊団らしい。
 「この町にやってくるとは馬鹿なやつだ。だが余所者の命まではとらぬ。とっとと失せろ!」
 拙者はわざとまだ寝ぼけているかのように動きながら、床に置いた棍棒に近寄った。
 瞬間、身をねじって拙者を捕まえている男の顔面を殴りつける。相手も負けじとナイフを突き出し、拙者のわき腹をかすめる。傷にはかまわずにもう一度殴りつけると、男は悲鳴をあげてもう1人の背後に隠れた。“重傷”を負ったらしい。
 ぐずぐずする暇はない。もう1人の盗賊の胴体目掛けて棍棒を振りまわす。敵も当然のごとく反撃してきたが、拙者ももう一撃を受けると“重傷”状態になる。名誉点を3点ほど消費して一時的に防御力を増やし、これを防いだ。次の瞬間、敵の肩に当たった棍棒の一撃で勝負は決まった。
 「命ばかりはお助けください。あなた様を安全に神殿まで案内いたしますから」
 武器を投げ出して降伏をする2人の盗賊をじっと見下ろす。信用できるとは思えぬが、殺すべきか?

 少し考えて肩の力を抜いた。
 「お主たちも拙者の命まで取るつもりはなかった。ならば拙者もそういたそうではないか。さあ、神殿まで案内をしてくれ」
 名誉点を6点得る。

 武器を失った盗賊どもを従えて、拙者は階段を降り宿を出て行った。
 少し歩いて宿の方を振り返ると、宿の主人が目を丸くしてこちらの様子を見つめていた。
 「ささっ、神殿はこちらです」
 へりくだった態度になった盗賊どもの案内につれられたどり着いたのは、一点の汚れもなく白々と輝く神殿だった。
 ほぅ、これは素晴らしい。
 拙者は高くそびえる神殿を柱を眺めて感嘆の声をもらしていると、ふいに物音がした。
 瞬時に夢想から現実に引き戻されたが、すでに盗賊達の姿は消えていた。
 逃げられたか…。まぁ、よいわ。
 神殿に近づくと、医神アスクレピオスの彫刻が苦しげな表情をしているのに気が付いた。そばの泉は流れる血で赤く濁っている。
 拙者は怒りに手足がふるえた。これは神への恐るべき挑戦、許されざる冒涜でござろう。
 「下司な盗賊どもよ、出会え出会え!聖所を汚し、その代価を払わずにすむと思っているのか!」
 拙者は声をはりあげながら神殿の中に突入すると、暗がりから盗賊どもが襲ってきた。
 しかし、なんたること!拙者は最初の攻撃を外してしまった。必死で戦況を立て直そうとするが、たちまち拙者は“重傷”になってしまう。こうなっては仕方がない。
 無念ながら降伏を申し出たのだが、盗賊どもは拙者を血の泉の方へひきずっていった。泉に顔をつけて溺れ死にさせようという魂胆らしい。なんと卑劣な。
 こうなっては守り神の力にすがるしかない。心の中で必死に祈るとアフロディテの鈴が鳴るような声が聞こえてきた。(名誉点を2点消耗する)
 「さあ、私が足止めをしている間にお逃げなさい。アルテウス。世話のやける子だこと」
 突如、泉の水が噴きあがり、盗賊どもの顔に浴びせかかった。
 このスキに拙者は素早く身をあげると、脱兎のごとく走って町を抜けた。
 なんとヒドイ展開であろうか。盗賊退治は失敗し、武器も失ってしまった。
 しかし、やるだけのことはやったのだから恥辱点を負うこともなかった。何より命は無事なのだ。今はそれで十分だと考えるしかなかろう。

by 銀斎


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