冒険記録日誌
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2016年10月30日(日) カイの冒険(健部伸明・山下武師/創元推理文庫)

 原作は「ドルアーガの塔」の続編、物語としてはドルアーガの塔の前の話しとして、有名なゲームです。
 私は実際に遊んだ事はなく、ゲームセンターCXで取り上げられていたのを見たくらいですね。
 ジャンプのみのどちらかと言えばシュールなパズルアクションゲームが原作だけに、そのままゲームブックに移植はするわけにはいかなかったようで、ゲームブック版は大まかな世界観を生かした以外は、ほぼオリジナルのものとなっています。もっとも、創元推理文庫のナムコゲームブックは全てそうなのですが。
 原作との共通点と言えば、主人公がギルの恋人のカイで、ドルアーガの塔を登っていくという設定くらい。原作のゲーム要素と関連している部分は、登場敵キャラの多くは原作に登場するモンスターであること、カイの能力値としてジャンプという他のゲームブックにあまりないポイントが存在すること、ドルアーガの塔2階でスライムに体当たりして相手を倒すという相打ち戦法が登場することくらいでしょうか。
 あと、創元推理文庫のゲームブックとしては珍しく、本文中にまともな挿絵がなぜか一つもありません。カイが主人公のゲームブックだけに、むしろ普通のゲームブックより、イラスト化すべきところなんですが、なぜなんだろう。

 さて、ゲームルールとバランス面のことですが、これには少し難があります。
 最初に能力値として8点を、器用度、ジャンプ力、奇跡の力の3つに好きなように割り振るのですが、器用度、ジャンプ力は判定に使用するのに対し、奇跡の力のみ判定用ではなく、イシターの力を借りることができる残り使用回数となっています。
 実はこの奇跡の力があまり使えません。まったく役に立たないわけではないのですが、先日20数年ぶりくらいに再プレイした時は、一度も奇跡の力を使うことなくクリアできてしまいました。主人公は巫女という設定にふさわしい能力と思うだけに、死にステータスと化しているのは勿体ない話しです。
 また本作では、サイコロは使わず、神々の絵が描かれた6枚のカードを切り取って使います。(トランプの1〜6でも代用可能)
 カードは全て引き終えるまで、シャッフルしなおさないので、残りのカードを見て、そろそろ悪い事がおこりそうだとか、本当に未来を少し予知できる仕掛けとなっています。これは面白い工夫ですが、実際のプレイでは「残りが良いカードだから、ここは強気の選択をしよう」という風に、残りカードを参考に選択肢を選べるような余地がほとんどなく、こちらもあまり機能していません。
 私は発売当時のプレイでは、本当にカードを切り取って遊びましたが、今は勿体なくてできませんし、そもそもカードを広げるのも面倒。というわけで、再プレイではアミダクジを作って代用して遊びました。

 次に、ゲームブックの「カイの冒険」で登るドルアーガの塔は、ギルの登ったドルアーガの塔とは完全に別物で、1つの大部屋だけで成立する小さな階層があるかと思えば、広大な砂漠となっている階もあり、いろんな次元が交差している不思議空間となっています。
 いろんなミニ世界を旅していくシュチエーションは、小説ならグインサーガ外伝の「鬼面の塔」を思い出しましたし、ゲームブックでも「ウェイレスの大魔術師」とか「展覧会の絵」など沢山ありますが、カイの冒険もそのタイプです。
 詰将棋のようなパズルを強いられる階だったり、塔の住民である怪物たちと交渉や戦闘をするミニアドベンチャー的な階があります。印象的なのは泉の階で、この階のクリア条件はただ泉に飛び込むだけなので、全フロアでも最短で通過が可能です。この階では泉の扱い方次第で、カイが神の気分を味わうことも可能ですがゲーム攻略的には何の意味もなく、ただお遊び要素の為だけに多くのパラグラフを使っているのですね。
 1階1階の冒険は短めです。パズル要素のある階では失敗した展開もパラグラフを多く裂いて書いていますが、解法がわかっているとあっさり通過できてしまいます。3階など、むしろ多少失敗した方が緊張感のある展開を楽しめる、という作りの階もあります。パズルの難易度は低めで、自分には丁度いい感じでした。
 パズルで失敗したり、戦闘で負けてもすぐには死なないし、死んでもドルアーガのいる最上階を除けば、女神イシターの姉であり死の世界を治める女神エレシュキガルによって、ペナルティと引き換えに復活させてもらえる親切設計です。あまり失敗を繰り返したり、大きな判断ミスをすればゲームオーバーにはなりますが、普通にプレイしていれば一回でクリアできる可能性は高いでしょう。ちなみに私の再プレイでも一発クリアできましたが、後半部分で女神エレシュキガルのお世話に2回ほどなりました。

 ストーリー的には原作の「ドルーガの塔」シリーズ(バビロニアンキャッスルサーガ)の世界を支えるイシターを始めとする神々が、作者独特の解釈により深くかかわってくる展開でして、この少し幻想的な世界観が合うならとても楽しめると思います。
 途中で仲間になる謎の盲目戦士の存在のおかげで、ストーリーを引き締めることに成功していますし、ラストのドルアーガとの決戦は結構盛り上がます。
 ただ、エンディングは原作通り、悪魔ドルアーガの力によりカイは石にされるというバットエンドで、カイが見事ドルアーガを倒すという、IFの展開は存在しません。(別の神を倒して、カイが神に成り代わるってエンドはありますが。)
 それでもカイの活躍により次元を断ち切られ、天界まで征服するというドルアーガの野望は絶たれたという終わり方は、原作よりは意義がある結末です。
 エピローグではギルがイシターにより、不思議時空と化していたドルアーガの塔もただの建造物に戻ったことを告げられます。そしてギルがカイを救出にいく本編が始まるという風に物語はつながるわけです。

 このゲームブックは、読者が何を期待してプレイするかで、評価が変わる作品だと思います。当時、鈴木直人のドルアーガの塔シリーズのようなものを期待して、ガッカリしたファンもいたようですが、そのあたりは創土社から久しぶりに鈴木直人氏の新作が出たけど、期待したのはこれじゃない的意見も散見された「チョコレートナイト」に近い現象かもしれません。
 ネットでの評価はさほど高くない作品ですが、私はかなり好きな方で、創元推理文庫のゲームブックで再評価してもらいたい3大作品の一つですね。(残り2つはベルセブルの竜と眠れる竜ラヴァンス)
 これを前哨戦として、時間がとれれば、そろそろ鈴木直人氏のドルアーガの塔に再挑戦しようかな。



おまけ

 パラグラフ333に明らかに世界観の違う変なキャラがいます。
 隠しキャラ的に登場した、別のナムコゲームのキャラだろうとは思ったのですが、自分にはわからず、これが謎でした。
 結局ミクシィで聞いて教えてもらいましたが、みなさんは何のキャラかわかりますか?

(登場シーン抜粋)
 しばらく見ていると、そこへ奇妙な生き物が現われた。姿そのものは人間なのだが、腕や足、さらには首までが伸び縮みし、それで敵を倒しているのである。奇妙な衣服に身を包み、赤いマフラーと四角い眼鏡、それに兜についた奇妙な突起物が印象的だった。しかもその戦闘力は強く、一撃で何人ものスーマール兵を倒していく。やがて、スーマールの兵士が絶滅すると、その奇妙な生き物は高らかに笑って去っていった……。

 なお、このパラグラフに到着する方法も実はまだわかっていません。こいつを呼び出す手順を知っている人がいたら教えてください。


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