冒険記録日誌
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2008年07月14日(月) 戒厳令のトルネイド(富沢義彦/双葉文庫)

 ルパン三世のゲームブックシリーズ最終巻の作品です。ルパン三世のゲームブックシリーズはすでに全作品とも、以前の2004年7月の冒険記録日誌ですでに紹介しているのですが、この「戒厳令のトルネイド」は私の中で別格にお気に入りなのでもう一度取り上げてみます。
 まず、この作品はルールが簡単で、他のルパンシリーズ作品のように能力値の存在がなく、所持金やアイテムなどの管理もありません。(ただし、単純な分岐小説というわけではなく、選択肢だけでなく、フラグで分岐することがあるので、どこそこで何をしたということは覚えておく必要はあります)ストーリー重視の作品といえるでしょう。
 それで肝心なストーリーですが、あの銭型警部も所属するICPO(国際刑事警察機構)がルパン逮捕のため、かつてないほど大規模な捕獲作戦を展開する中を、ルパンたちが必死に逃げ切ろうとするもの。しかも、今回の事件の陰には旧ナチス勢力が一枚噛んでいるらしい。こうして次元を主人公にすえて、今までのシリーズはおろか、アニメや原作でもめったにないようなハードボイルドタッチの連続で物語が展開します。文章もイラストもシリーズ中でも最も渋格好いい出来で、気持ちよく世界に浸ることができます。
 物語は明確な区切りはないものの、大きく3部構成になっています。最初は消息不明のルパン三世と合流するべく情報を求めながらルパンを探す次元の単独行動のシーン(ルパンの居場所を知らないなんて相棒の名折れ?いやいや、次元曰く、“冗談じゃない。俺は奴のお守り役じゃない“だそうだ)、続いてルパンと合流してから決戦の地であるニューヨークまで移動するまでのシーン、そしてICPOによる厳戒態勢に陥った夜のニューヨークの街を、ルパンと車で駆け抜けながら、不二子が人質になっている自由の女神の元まで目指す、双方向システムのシーンです。
 この作品では次元が主人公というのが、最大のミソ。なぜならルパン三世の魅力はその神出鬼没っぷりや、奇想天外な技、たとえばTVなどでおなじみの、敵に囲まれていてもルパンの口から膨らんだチューインガムから秘密兵器が登場して、危機を脱出するシーンなどにあると思うのだが、ゲームブックの主人公がルパン自身だとどうしてもそれが味わえない。あえてルパンが脇役になることで、逆にルパンの魅力が発揮できるというわけです。もちろん主人公は次元ですから、タバコを切らしてあせる場面や、情報屋とカードゲームで運を試すシーン、不二子にメロメロのルパンに対して舌打ちするシーン、宿命の敵との一騎打ちの銃撃シーンなどなど次元自身の魅力や見せ場もたっぷり。それに次元はルパン一家の中では比較的常識人なので、次元視点だと読者が感情移入しやすいというメリットがあります。
 逆にこの作品の難点をあげれば、敵の正体に関する説明が少なく、事件の全容がわかりにくいうえ、敵役の影がやや薄いこと。それと五右衛門の登場シーンがわずか1パラグラフ(それも選択肢によっては登場しない)なので五右衛門ファンにはちょいと残念というところ。もっとも五右衛門が登場しないぶん、ルパンと次元のコンビっぷりがより強調されているとは思いますが。
 ところで、この作品は銭型警部が本来の設定どおりの切れ者として描かれています。ルパン三世のファンの中には、この銭型警部の扱いを作品の出来不出来の判断材料にする人がいるようですが、その点でも文句なしの出来です。銭型と次元の対決シーン(なんとすでに銃を抜いている次元に対して、投げ手錠で瞬時に手の自由を縛ってしまう。しかも”雑魚に用はねぇ”とそのまま立ち去ってしまう圧勝ぶり)や、共通の敵の裏を欠くために次元に言葉を使わず協力を求めるシーンなぞしびれます。
 まさにこうゆうルパン三世を見たかったー、という感じ。本気でこれを原作にアニメにしてほしいくらい好きな作品なのでした。


山口プリン |HomePage

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