冒険記録日誌
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2005年06月21日(火) ニフルハイムのユリ(林友彦/創元推理文庫)

 ネバーランドのリンゴの続編。ニフルハイム地方に温暖な気候をもたらしていた魔法のユリが盗まれてしまい、それをティルトが取り戻すという冒険です。
 ネバーランドと同じく、住民はブーカやトロールなどの妖精族ばかりです。
 ユリのなくなったニフルハイムは、寒風吹きむさぶ豪雪地帯と化していて、そのうえ温暖なときには活動できなかったグールがあたりをさまよっています。
 このグールはなかなかやっかいで、戦って傷を負うと、聖水で止血しないかぎり出血が止まりません。傷がもとで死亡した妖精は、グールとなって復活するあたり吸血鬼のような存在だと思っていいでしょう。

 このように冒険をする舞台こそネバーランドとは違いますが、世界観と絵本のように素敵な雰囲気は同じです。
 1000というパラグラフ数、ティルトの復活が認められている点、第一部のアドベンチャー部分と、第二部の単調な迷路、魔法システム、ティルトが強くなりすぎて後半で崩れる戦闘バランスなど良くも悪くも前作通りです。裏技的なルートはさすがにやめたようですけど。
 個人的には第一部のアドベンチャー部分が、シナリオと謎解きが前作以上に強化されてこちらの作品の方が面白く感じますね。TVゲームなら中ボスにあたる花の城の城主との戦いは盛り上がるし、ヤガー婆さんなどの登場人物がこれまた雰囲気を出しています。特に宿に泊まればベットが空を飛んで宿を飛び出すという奇想天外な仕掛けなんか好きです。こんな展開がギャグ以外に許されるのはこのシリーズだけでしょう。

 魔法のことについても書きましょう。前作を遊んでいた場合でも、所持品や能力値は新たなものでスタートしなくてはいけないのですが、前作で覚えた魔法だけは本シナリオでも使用できるようになっています。ニフルハイムでは覚えることの出来ない魔法も多いので、シリーズで遊んだ人だけの特典なのです。
 ただ、これが戦闘以外にはたいして役にたたないのがもったいないところです。特に相手にキスをしてかけられた呪いを解く魔法なんて、まったく使いどころがありませんでした。呪われてトロールの姿にされた領主が登場するのに、なんで使えないのだ。
 それからニフルハイムで新たに取得する魔法は、牙に向かって呪文を唱えるとその生き物を召還できる魔法と巨大な灰色狼に変身する魔法が印象的です。灰色狼に変身する呪文は、その後に林友彦さんが執筆した「ウルフヘッドシリーズ」の原型になったとも思えて興味深いところですね。

 無事に魔法のユリをとりかえすと、ニフルハイムはみるみる温暖な気候を取り戻して住民は歓声をあげます。ただ、ベットで安らぐティルトにネバーランドで地震の被害があったと少し気になる情報が入るところで本書の物語は終わりになっています。次回作の伏線と思われ私は続編を非常に楽しみにしていたのですが、その後「ネバーランドのカボチャ男」という番外編のような作品が発表されただけで、残念ながらこのシリーズが真の意味で完結することはありませんでした。


山口プリン |HomePage

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