冒険記録日誌
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2005年04月15日(金) 悪夢のマンダラ郷(鳥井加南子/祥伝社)

江戸川乱歩賞受賞作家!
鳥井加南子!
書き下ろし!

 以上の3つの単語が燦然と表紙カバーに煌くゲームブック。裏面にも江戸川乱歩賞受賞作家が書き下ろしたゲームノベル“悪夢シリーズの第二弾”と盛んに書きたてています。もうこれ以外には宣伝できる箇所はないと言わんばかりに。
 ゲームブックブーム当時もこのシリーズの存在は知っていましたが、怪しげでB級っぽい雰囲気に手を出していなかったのですが、ネットでは最高に面白いという意見もチラホラ見られるので一応読んでみました。
 でもねぇ。別に有名小説家が書いたからといって面白いゲームブックになるとは限らないし。あの鈴木直人だって、小説家ではなくプログラマー出身という噂だし。この作品の評判がいいのは物語の雰囲気が秀逸なのかも。私はどちらかというとゲーム性が優れている方が好みなんだけどなぁ。
 まあ、そんなことを思いつつ読んでみたわけですが・・・・・・すいません、なめていました!これは面白いです。久しぶりに本気で熱中して遊べるゲームブックを読みましたよ。

 ちょっとこの作品のストーリーとルールを説明しますと、主人公は日本に住むいかにもな一般人です。失恋して泣く泣く家路を歩いている情けない姿から物語は始まります。
 その途中でゴミ捨て場に置かれた阿弥陀様の仏像を拾ったのが運の尽き。阿弥陀様が主人公に語りかけたあげく、惚れ薬となる媚薬を手に入れることができるとそそのかされ、不思議な力で“悪夢のマンダラ郷”へと主人公は旅立ってしまうというストーリーです。
 ルールは最初に阿弥陀様の正真正銘のアミダクジを引いて、“運命数”という数値を決めます。続いて読んでいる日の日付を足して、“バイオリズム数”という数値が決まるのです。この作品にはサイコロなどのランダム要素がない為に、これが所持品以外では戦闘や行動の成否に影響する唯一にして重要な数値となります。運命数はゲーム中は変化しませんが、バイオリズム数は日付によって変わるわけで、明日読んだらまた違う展開にもなるという少し変わったシステムです。
 他にも所持品や入手した情報のメモが必要ですが、そう覚える量もないので暗記でも楽しめると思います。見方によっては、必要最小限のルールで展開の変化も楽しめるという、とても優れたルールじゃないかと思います。

 それにしても、この悪夢のマンダラ郷がもう滅茶苦茶に統一感のない世界でして、スタートからどこかのジャングルに放り出されたかと思うと、中国にあるような山岳を越え、氷に覆われた海をわたり、イスラム風の町へたどりつき、エジプトの遺跡地帯をこえ、今度は熱帯の海を潜水して・・・と世界中の場所が一箇所にごった煮になっているのですね。登場人物も首刈り族から仙人から女神から、謎のチェーンソー男から、考古学博士から、工事現場のおっちゃんまで登場、実にバラエティー豊かで混沌としています。
 一言で言うと何に例えたらいいのかな。“不思議の国のアリス”ならぬ、“不気味の国のキミ”というところ。主人公はこの奇妙な世界をひたすら脱出するためにただたださ迷うという印象です。
 いつ内容が破綻してもおかしくない設定なのに、妙に読者を引き込む魅力があるのは、江戸川乱歩賞受賞作家の名に恥じずに、しっかりした文章を書いているからでしょうか。文章って大事なんだな、とこの作品を読んでいてしみじみ感じました。もちろん全体にただようユーモアのおかげもあるかと思います。

 このゲームは基本的に一方向システムですが、ゲームをクリアするために必要な正解ルートはほぼ完全な一本道です。ヒントはあるのですが、最初からクリアできる可能性は皆無でしょう。正解ルートを見つけ出すのがゲームの目的のようなもので、そういう意味ではリビングストン作品などに近いかも。
 この作品が素晴らしいと思うのは、ゲームオーバーになるのもまた面白いということ。先程もいったように、この世界をさ迷うだけでも面白いから、苦にならないのです。
 また、選ぶとクリアが不可能になるという選択肢の先でしか入手できない情報もあるので、初めから繰り返しプレイを前提としているのは明々白々です。正解ルートはガチガチな一本道ですが、何度も繰り返して攻略していくという意味では、かなり自由度が高く遊べると思います。
 はまりにならないように徐々に正解ルートがわかっていくようなヒント配置や、簡潔なルールや所持品管理が最大限効果的に使われている点は、よく練られているなと感心。
 それから、死ぬと阿弥陀様が現れてぼやきながらパラグラフ1へ戻してくれるところがブレナン作品の「14へ行け」を連想してしまうのです。脱力ものの展開で死んでしまったりするところなんかに、また苦笑。
 この作品をゲームブックの最高峰という人がいるのもわかる気がするなぁ。ストーリーは適当でも、簡潔なルールで、ブレナン作品風のユーモアと、日本人作品風のキッチリしたゲームバランスを表現しているのだから最強です。
 ルールも簡単ですし、本書を入手できる機会があるかたは是非お試しあれ。


山口プリン |HomePage

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