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| 2002年05月14日(火) | 羽を無くした女と羽を得た女。 |
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モリノ、羽をなくし、うなだれてしかしスキップで家に帰る。 羽といってもそれは天使のようなふわふわのものでも、鳥のような空を飛べるものでもなかった。喩えて言うなら蝉のそれのような、一センチほどの小さく薄い、少しすけた、上質のシルクのような羽を、モリノはなくした。 モリノにとって、羽をは自分自身の象徴だった。人と違うのなんて、それぐらいだった。羽がある。飛べないけど羽がある。それがモリノのささやかな、けれど大変重要な支えだった。 自分が生きている価値なんてないんじゃないのだろうか、彼女はそう考えて、陸橋の上でぼんやりしていた。すぐ下は国道で、トラックやら乗用車やらが行き場所のない孤独を紛らわすかのように猛スピードで行き交っている。 と、一人の女がモリノの肩を叩いた。 「ねぇ、あなた、どうしたの?なんだか今にも飛び降りそうな顔をしてるわよ」 は、と見透かされてモリノは恥らった。 「なにかあったのなら、話してみたら?ほら、知らない人だから、噂をするってこともないし」 モリノは小さく、本当に小さくため息をつくと、 「大切なものを失ったんです」 と、告げた。すると長身の女がふいに残酷な目をして、 「生きてる価値、無くなっちゃった?」 と訊ねたのでモリノは恐怖感を感じて、首を振って逃げ出そうとした、が、女の長い腕がモリノの細い手首を掴んだ。 「ねぇ、死んじゃったら?」 モリノは逃げた。走って走って走った。 と、体がふうわりと浮いた。モリノの背中には美しい大きな羽が生えていた。 モリノはこんなんじゃ恥ずかしくて生きていけない、と、羽を毟った。 血は出なかった。 「それ、あたしに頂戴」 と、女はいい、半ば強引にモリノの羽を手にいれると、大きくジャンプをしてまっさかさまに落ちていった。 |
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