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みんみん



 虫出づる

朝起きたら枕元に空のコップが置いてあった。夜中にりー氏が水か何か飲んだらしい。

「ぶーぶ ないない」

「今『ブーブ ナイナイ』って言ったよ」
言ったねえ。
述語相当の語として「だいじ(大事)」「ないない(無い、おしまい)」を発していて、これまでもたまに「○○ だいじ」と言うことはあった。


前述の通り、Kにせがまれてりー氏も絵本を読んでやることがある。その読みかたはなんというか活弁の人のように平板で(専門家アクセントのような、つまりなんだか慣れきった風)、心がこもっていないように聞こえる。と書く私もひどいが、もちろん照れはあろう。
ある時部屋に入ったらりー氏がKに読んでやっていたのだが、大げさ(なのもあれだ)ではないにせよ適当に抑揚があった。その本は『エンソくんきしゃにのる』(スズキコージ、福音館書店、1990)で、りー実家最寄りの本屋が閉店する折に買ってきたという1冊である。その時Kは生まれていた。なるほど自分が積極的に関わった本だと比較的フツーの読みかたになるんだな。



お天気いい日。
実はあまり近所を散歩したことがなかった。歩けるようになった(季節的な)タイミングもあるし、車の往来が心配だったりもした。せっかくあたたかくなってきたので、外に出てみた。
お地蔵さんの前を通り、踏切を渡って、お宮さんまで歩いた。「のんの」(神社仏閣仏壇神棚お墓。お参りすることを当地の幼児語で「のんのん」すると言う。Kは石碑の類を見ても「のんの」と言うけれども)と言うのでその都度手を合わせる。神社のお手水に標を結ってあるのを見ても「のんの」と言う。これは、きれいきれいにしようねのしるし。
家のあたりは人の往来もあって郊外というわけではないけれど、農家があったり、在所の雰囲気を大いに残す地域だ。家を構えるとなるとそれはそれで新参者にはいろいろ気遣うこともあろうが、借家住まいの気楽さだ。
子供を連れていると話しかけられることは多い。今日も行き来のあいだに、じいちゃんばあちゃんたちや小学生の女の子と話した。うれしかった。特に小学生の女の子と話せたことが。
女の子はテニスの壁打ちをしていた。それを見たKが「ばん ばん」と言った(最近「ん」音が楽しいらしい。パンを食べる時には「ぱんー」、車に乗っていて段差を感じたら「どんー」、と、強烈な鼻濁音の「ん」を発してみせる。ほとんど「ぱん(ぐ)ー」「どん(ぐ)ー」といった具合で。)。そしたらラケットとボールを差し出してくれた。Kは、はにかんだ。
こんな出来事があると、場所に愛着がわく。

2008年03月08日(土)
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