酔陽亭 酩酊本処
いらっしゃいませ。酔陽亭の酔子へろりと申します。読んだ本や観た映画のことなどをナンダカンダ書いております。批判的なことマイナスなことはなるべく書かないように心掛けておりますが、なにか嫌な思いをされましたら酔子へろりの表現力の無さゆえと平に平にご容赦くださいませ。
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2003年06月19日(木) 空を見上げる 古い歌を口ずさむ 小路幸也

 「いつか、お前の周りで、誰かが<のっぺらぼう>を見るようになったら呼んで欲しい」・・・この言葉を残し、兄は20年前、父が死んでから姿を消してしまった。
 そして今、僕の息子・彰が、みんなの顔が<のっぺらぼう>に見えると言い出した。兄に会わなければ! 連絡をすると兄は飛んで来てくれた。そしてあの懐かしいカタカナの町で兄が遭遇した出来事を語って聞かせてくれたんだ・・・。

 うわぁ、これはいいです。もう最後はぽろぽろ泣いてしまいました。物語はどこかに消えてしまった兄が語るセピア色した古きよき時代の日本での出来事。それを読んでいるうちに昔の懐かしい出来事がフラッシュバックのように思い浮かんできました。思い出したことは物語のような小さな頃よりも楽しかった青春時代のことだったのですけど。そういう作用があるようです。
 この作品を読もうと思ったのは、ほぼ毎日通り過ぎる本屋さんで表紙に惹かれたからです。この物語の表紙は、荒井良二さんが手がけておられます。私の好きなイラストレーターのおひとりなのですが、この物語にばっちり合っています。
 内容はラストをどう受けとめるかで賛否両論があるかもしれません。でも遠い懐かしい昔語りを読むうちに心が洗われていく様な、癒されていく様な、そんな素敵な読後感があると思います。オススメです!

「いい友達がたくさんいるんだろ?」
 頷いた。そう思う。
「だから、そいつらとたくさん、めいっぱい遊べ。道草して陣地を増やしてオマエらだけの国をこの町のあっちこっちにいっぱい作れ。それがオマエの財産になるよ」

『空を見上げる 古い歌を口ずさむ』 2003.4.25. 小路幸也 講談社 



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