「ねぇ、聴いても良い?あなたの産まれ…」
とリアラ。
「他の星さ」
ポツリとロフティー。
「ねえ、どうして陸で暮らすようになったのか…聴かせて?」
「…まぁ…いろいろな」
「フㇷ、相変わらずねえ」
無口な彼だった。 彼の心には、複雑な過去が眠る。
親の代に、この僻地へと移住した。 彼らは不毛地帯でも順応できる品種の栽培を試みた。やがて緑の農園が生まれた。
だが、ある夏オのニカマドウマ大発生により、農園は全滅。 一家はやむなく方舟に住み込みで雇われた。 苛酷な労働の毎日だった。 やがて両親は病死。 若いロフティーは真面目によく働いたので、しだいに責任ある職を任されるようになった。 20代半ばになると、同僚からも親方からも一目置かれる存在になった。 彼には生まれついてのカリスマ性があったのだ。
やがて暖簾分けと言う形で小さな方舟を与えられた。 彼は商人も役人も海賊も分け隔てなく歓迎した。 そしてどこよりも繁盛し、分店を増やしていった。
親方から上手い話を持ちかけられた。なんの疑いもなく誘いに乗った。 騙され、濡れ衣を着せられた。 汗水垂らして増やした持ち船全てを取り揚げられ、ギルドからも追放されてしまった。
それ以来、彼は他人を信用しなくなった。 組織を嫌って陸へと戻ったのもそのため。 周りから変人扱いを受けながらも、自由気ままにやって来た。
ささやかな2人の生活にも、転機が訪れる。 穏やかな入り江で、ロフティーが1枚貝の養殖槽の縁を修復していた。 岩コロの中に、奇妙な物が混じっている。 それは……、異国の壷のように見えた。 彼は持ち帰り、慎重に研磨洗浄。 黄金の壷であった。 リアラもこれには驚いた。 2人は翌日から、入り江一帯の岩礁を丹念に調べ歩いた。まるで宝探しの様相を呈する。 ロフティーは、大量のアンティークを少しずつ復元し、古美術商船へ出向た。 このあたりは難破船が多い。 かつて貨物船が難破し、積荷がここへと漂着したのだろうか……?。 人間だって流れてくる。
歳月は流れた。
2人はかなりの財産を築いていた。 ロフティーは中型の外洋船を購入した。 行商の範囲がグッと広まった。
リアラは、方舟や遊郭船で重労働させられている孤児達を買い受けては、自ら建てた孤児院に住まわせた。 子供達は彼女から農業に関する技術、そして遊びというものを教わった。 みな活き活きと陸の生活を謳歌した。 自由がどんなに素晴らしいか……、産まれて始めて知ったのだった。
2人の関係は次第に離れていった。
ある晩、1枚の置手紙を残し、ロフティーは海へと旅立つ。 理由など彼自身にも解らない。 手紙には1輪の押し花と「ありがとう…」とだけあった。
残された9人……。 昆虫撃退にも慣れ、陸での暮らしが身に付いていた。 誰ひとり、どこかの人口環礁へ移り住む……などとは考えはかった。
リアラの願い。
(この土地で暮らそう。なにがあろうと、 今のささやかな幸せを守っていこう……)
つづく
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