重い空の下には、キルマと巡視艇船の姿があった。
「自沈……」
胸元へボソと囁く。
救命ボートから振り返ると、 波間には、命令に逆らおうとする舳先が残る。 パートナーとして尽くしてくれた老体へ、彼は敬礼をした。
波消しブロックから這い上がったキルマは、救命ボートをその隙間へ隠した。 背囊を背負い、閉まりかけるゲートへ急ぐ。
足取りが重い。
彼の虚ろな瞳には、哀しげな眼差しで微笑む何かが見えた。
その頃、遠く離れた大陸では……。
紅い鳥に導かれるに、海岸へと走る大男がいた。薄暮の浜辺に一人の少女が打ち揚げられているのを見つける。
(……まだ息がある。)
大男に運ばれた彼女は、やがて体調を取り戻すと、見たことのない作物の世話を教わった。
そして……、時の流れとともに、二人は夫婦のようになっていった。
彼女の心には別の男の温もりが消えない。
しかし、海の上の生活しか知らない彼女にとって、ここでの生活は新鮮なものに感じられた。
ある夜、オニカマドウマの群が農作物を荒らしに来た。
城壁のように畑に張り巡らされた通電バリケード。厚い甲殻をまとった彼らに、弾丸は無力なのである。
境界線を越えて来る侵略者達を、手製の電撃ロッドで待ち構える屈強な大男と華奢な少女。
やがて東の空が赤く染まる。
安堵の息をもらすふたり。
高く晴れ渡る空の下に、小型船を操り方舟へ農作物を運ぼうとする大男がいた。
彼の澄み渡る瞳には、明るく輝く波間の乱反射が映っていた。
つづく
|