一人の男が、小さなスクラップ屋を営んでいる。
廃品から使えるパーツを選び、新品同様の製品を組み立てている。
彼の腕前は並外れていた。
同業者よりも仲買人の買値は３倍以上であった。
彼はここへ来る前のことを、誰にも話さない。
スラムに住む者にとって、過去はタブーであった。
今日も仲買人と酒を酌み交わしながら、気安く世間話などしていた。
「なぁ、もう聞いたか？」
「……」
「南の島が、海賊共に略奪されたんだとよ」
「例の、鉄壁の街がですか？」
「そりゃァ〜、並大抵のことでは落ちっこない。
だがな、ここんとこの海賊ときたら食い詰めてヤケだからなぁ。
死に物狂いなんだろうよ」
「ここも…じきですね」
「陸からの傭兵派遣は期待すんなよ…。」
「そうなのですか？」
「ここのブルジョアは、とっくに逃げ出しちまたった」
「私達は、船さえ持っていませんから逃げ様がないです」
「まぁ、女子供と病人だけは今のうちに北の町へ送ってな、
おいらたちゃ団結して海賊と戦うしか無さそうだ」
「…ほぅ」
「こう見えて若い頃にゃ海賊とやりあったもんさ。ㇸㇸ」
何処までも身振りが大きくなる老人を相手しながら、酔えない表情でムリに笑う彼。
昼酒の上のホラ話かどうかは、キルマーの関心事ではなかった。
だかしかし、
本当に略奪されたとしたら…。
自分はどうするべきか？
何ができるのか？
別の海域にて……。
強力な海戦装備を備えた自警団が組織されていった。
構成は、海軍OGにブルジョアの子息、難民、それから脱走した海賊も。
彼らをまとめ上げた人物は、元農民との噂。
産まれ持ったリーダージップで、その雑兵を巧みに束ねる。
大船団を組織し、頻繁に各海域の海賊を一掃して廻る。
その噂は、時とともにギルド上層部の耳に入る。
やがて「謎の自警団」として、海原の果てまで浸透いった。
世界はかつて生物兵器によって不毛の地と化す前。
物流は、海運に頼っていたが、
度重なる地殻変動により無数の海底火山と暗礁海域が生まれた。
それは、複雑なルートを辿らなけれぱ航海は出来なくなることを意味する。
そうしたなかで自然発生した方舟は海原に浮かぶ補給基地であり、安宿もであり、又社会そのものような存在。
しだいに……。
方舟のギルドは政治的発言力を強めていく。
盛んに行われているビーコン設置は、
ギルドの存在意義を根底から覆しかねない破壊行為でもある。
対抗手段に秘密裏の妨害工作を働く彼ら。
キルマーの母艦も、その被害に遭った。
穏ギルドが息のかかった子息を中央へロビイストとして送り出しているとの噂もある。
つづく
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