| 2004年01月06日(火) |
姫野カオルコ『サイケ』 |
私は侮っていた。 姫野カオルコを。 ポップな表紙、キャッチーな帯。 お気軽に暇つぶしに読みましょうと思って、近くのスーパーで手に取った。 しかし、姫野氏、ものすごく頭が切れるうえに策士ですよ。
体裁は作者が幼かったころを思い出し、私的な体験、感覚を通しながらその時代の日本を描く、というようなものなんだけど、そんなのんきなもんじゃございませんよ。
特にそれを感じたのが、「イキドマリ」太っていて、笑わないが、勉強ができたある屈折した男の告白です。
「世の中にはバカの数のほうが多いので、ぼくが会社に入ってからうまくいかなかった原因が、 「太っていて背が低かったから」 だというと、 「どうして?」 と鈍い頭をかしげる人間が多い。 なんでわからないのだろう?太っていて背が低いことは、会社の中では「優」をもらえないとう、こんなかんたんなことが。 数学の「集合」に照らし合わせてみればよい。 小学校、中学校、高校、大学は「学府」という集合ですね。この集合をとりかこむ塀は「勉強」ですね。ならば、この集合では「勉強」の「条件」を満たせばそれで補集合には属さない。しかし、会社は「学府」という集合ではありません。この集合をとりかこむ塀は「情緒」ですね。ならば、この集合では「勉強」の「条件」を満たしていることよりも「情緒」の「条件」を満たさなくてはなりません。「情緒」というのはなにか?それは人間の感情であるわけですが、人間の感情がなにに起因して湧くかというと、ただ一つのことによって湧きます。(中略) それはなにか? 「好きかきらいか」 でしかありません。(中略) では、人はどのような人を好くかというと「印象のよい人」を好くだけのことで、それだけのことで、よって、太っていて背の低い男は、会社という集合では脱落する条件に満たされる。満たされるけれども、 「明るい」 という条件を持っていれば、脱落はしない。では、なにをもって「明るい」というか? そんなのは簡単です。 よく笑う。 声が大きい。 これだけで「明るい」の条件は満たされます。 内容なんか無関係だ。」
この文章にリアリティがあるのは、ほかの作品と、文体が違って、わざと、つたない感じになっていたり、文法的に破綻していたりしているからだ。それをいとてきにやっているんだから、舌を巻く。
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