宿題

目次(最近)目次(一覧)pastnext

2005年04月10日(日) 目利きのヒミツ/白洲正子×赤瀬川原平
白洲 本当に、あなた、小林さん知らなかったんですか?

赤瀬川 僕は全然知りません。三年前かな、天皇がお亡くなりになる直前くらいなんですよ。僕自身もあのころから日本的な……利休も始めていたし、例えば日本の宗教とか神道とか天皇とかに関心が出てきちゃったんですよ。

白洲 そうですよ。仏教なんて借りものみたいなもんよ。借りものっていうよりも、日本人が利用したもの。日本の神様は黙ってんのよ。黙って何もしないんだけど、仏教が入ってきたとき、極端に言えば仏教をうまく利用してますよね。お能だってそうですよ。本当はみんな神様、あるいは自然宗教、アニミズムみたいなものなのよ。

赤瀬川 そのへんがすごく気になるんですよ。ただ僕は勉強が苦手だから、勉強したいと思うけどなかなかできなくて。で、そのころ友人が、小林秀雄さんがカセットテープで天皇のこともちょっと言ってるよっていうんで、エッ?と思って。

白洲 なかなか言わないのよね。

赤瀬川 言わないって言いながら、けっこう長い時間言って(笑)。その感じを他人から聞いて、それは何か面白そうだなと思って聞いたんですよ。それまでは僕は本当に読まないほうなもんだから、よけい小林秀雄というとそびえてるでしょ。

白洲 そんな人じゃないですよ。大丈夫よ。

赤瀬川 ただ外から活字だけみるとね。それに惑わされてたんですよね。

白洲 小林さんは「おれなんかは誤解されっぱなしだから」って言ってたもの。

赤瀬川 日本の科学技術に感謝しますよ。あのカセットがなきゃ、僕なんか小林秀雄って一生知らずにいたかもしれない。聴いたとたんに大好きになっちゃって。暮れの大掃除のときに天井の掃除をもそもそしながら、耳からは小林先生に怒られて、実にいい年末を過ごしました(笑)。僕が一番こたえたのは、科学批判といいますか。

白洲 そうだけども、ほんとうは非常に科学的なのよ。

赤瀬川 ええ。それが一番身にしみましたね。

白洲 あの方はすごく頭がよかったから、そうじゃない方面……だから青山二郎さんと付き合ったみたいなとこもあるんだけども。

赤瀬川 横道が好きなんですね。

白洲 出がフランス文学ですからね。なんにも知らないで、明治大学で日本の歴史を教えるっていっちゃうのよ。教えるとなったら一生懸命になっちゃう人だから。明治大学で教えてたのって数年だと思うけど、フランス文学ならよく知ってるのよ。だけど、知ってるものは教える必要ない、勉強する必要もない、と思っている人だから。一番知らないものは何かと思ったら日本なのよ。それで日本の歴史を教えるって言っちゃって。

赤瀬川 それはいくつぐらいですか。

白洲 若いときよ。大学出てから少したったころ。

赤瀬川 じゃ、三十とかそのくらいで。

白洲 そうそう。それでしゃべるほうも下手だった。それは自分で書いてるのよ。一番初めは大阪でもって講演頼まれるの。そうすると意気揚々とやるんだけど、見物人には一つも通じなかったの。これじゃいかんと思って、そうすると一生懸命になる人なの。パーフェクトにしなくちゃいやで、志ん生の全集で勉強した。間から発音の仕方から勉強したのよ。鎌倉の海岸を歩きながらお稽古したんだって。

赤瀬川 すごい(笑)。

白洲 徹底的にやるのよ。骨董だってそうですよ。あの方は頭と目玉と両方うまくいってるの。うまくバランスのとれた人なの。


★目利きのヒミツ/白洲正子×赤瀬川原平★

マリ |MAIL






















My追加