Tonight 今夜の気分
去るものは追わず、来るものは少し選んで …

2008年03月29日(土) 自暴自棄が生み出す 「 間接自殺 」 という殺人



「 終始一貫して、私が自分の漫画で描こうとしてきたのは、

  次の大きな主張です。 “ 生命を大事にしよう ” 」

                                手塚 治虫 ( 漫画家 )

What I have been consistently trying to depict in my cartoons is
the big assertion “ Let's respect life ! ”

                                  Osamu Tezuka



殺人事件における動機の大半は、「 怨恨 」 か 「 私利 」 に起因する。

逆に、それ以外の動機であれば “ 殺人事件 ” と呼ぶのには抵抗がある。


たとえば、闘病に苦しむ家人を不憫だと感じて、安楽死させようとした場合、これも一種の 「 殺人 」 ではあるが、その動機に悪意は見当たらない。

本当に “ 不憫 ” だったのか、実は積年の恨みがあったのか、介護に疲れたから殺したのか、その証明は難しいが、事実ならば気の毒な話である。

ヤクザには、被害者への怨恨、殺害によって生じる利得がなくても、恩義を受けた第三者の利益を目的として、誰かの生命を奪うケースがあり得る。

あるいは、得体の知れぬ新興宗教に洗脳され、やはり、怨恨でも欲得でもなく誰かを殺害する事件、無自覚で殺人に関与した事件なども起きている。

同じ 「 殺人 」 でも、このように 「 怨恨 」 と 「 私利 」 に因らない場合には、概ね “ 情状酌量 ” が加えられ、寛大な処罰が下されやすい。


では、相手を特定できない無差別的な 「 通り魔事件 」 の場合、「 怨恨 」 や 「 私利 」 が目的じゃないから寛大な処遇かといえば、それは違う。

不特定な誰かの生命を狙う愉快犯は、人が死ぬことに快楽を求める行為が、彼らの欲望を満たす 「 私利 」 に繋がるわけで、酌量の余地などない。

それに、完全な 「 無差別殺人 」 というケースは稀で、大抵は無差別なように見えても、ある程度、大雑把に対象者を絞っているものだ。

アルカイダによる無差別テロも、主に、白人や、キリスト教徒に打撃を与えることを目的としているわけで、まったくの無作為とはいえない。

相手をまったく選別せず、怨恨も私利もなく、無計画に成り行きで人が殺せるのは 「 精神異常者 」 だけであり、常人には実行不可能な行動である。


茨城の土浦で連続殺傷事件が起きた直後、岡山駅で見知らぬ他人を転落させ、死に至らしめる事件が起きたが、二つの犯行には共通点がある。

それは、いづれの犯人も、犯行動機を 「 誰でもいいから殺したかった 」 と語っている点で、事実、特定の誰かを狙っていたような形跡はない。

この 「 誰でもいいから殺したかった 」 という動機は、事件が無差別殺人であることを裏付けるようにみえるが、それは違うと思う。

普通、殺意というものは 「 被害者を攻撃しよう 」 とし企図されるものだが、この場合、被害者の命運に興味を示している気配が感じとれない。

重要なのは 「 殺す相手 」 じゃなく、「 自分が殺すこと 」 であり、被疑者は、その行為に関連して逮捕されることや、死刑になることを強く望んでいる。


社会心理学では、このように自暴自棄な発想から引き起こされた殺人は、「 無差別殺人 」 でなく、一種の 「 間接自殺 」 とみている。

自殺する度胸もなければ、正しく生き抜く勇気もない輩が、司法に生殺与奪の判断をなすりつけ、不名誉な末路を 「 他人のせい 」 にしたいだけだ。

つまり、他人を殺傷する結果になったが、自分の人生を終わらせることが本来の狙いであるから、動機を辿っていくと 「 自殺 」 の領域に達する。

なぜ、見ず知らずの人間を殺さねばならないのかなどと、他殺を前提として分析すれば複雑難解だが、自殺の一手段と考えれば簡単に説明がつく。

自殺に関して、「 他人を殺傷するわけじゃなく、自分の命なんだから好きにしていいじゃないか 」 という意見の人もいるが、その論旨は誤りである。


圧倒的に、自殺を企図する人間は、しない人間に比べ 「 他殺率 」 も高く、自分の生命を大切にする人は、他人の生命も疎かにはしないものだ。

日本国内で、異常な犯罪が増えている背景には、生命の尊さを自覚していない 「 自殺者の増加 」 が絡んでいることを、改めて認識すべきである。

不況や、所得の格差など、自殺の原因を社会構造に求めるのは 「 痴漢ではなく電車が悪い 」、「 強盗ではなく銀行が悪い 」 という論旨と同じだ。

されど、自殺者に肝要な日本の社会 ( 自殺企図者を罰しない、自殺未遂経験を公然と恥じらいもなく語れるなど ) には、大きな問題があるだろう。

エコロジーに対する意識が高まる昨今、もっと重要な 「 命を大事に 」 という意識改革に社会がつとめなければ、かような異常犯罪は減少しない。






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