Tonight 今夜の気分
去るものは追わず、来るものは少し選んで …

2006年09月02日(土) 夏の終わり



「 夏の楽しみは、すべて幻のように去って、秋と冬の暗い日々が

  訪れてくる、叫んでも呼び戻す術はなく、いまはとわに遠く、

  目にも心にも見えない 」

                        ジョン・クレア ( イギリスの詩人 )

Summers pleasures they are gone like to visions everyone
And the cloudy days of autumn and of winter cometh on
I tried to call them back but unbidden they are gone
Far away from heart and eye and for ever far away.

                                   John Clare



これは、詩集 『 Remembrances ( 記憶 ) 』 の中の一節である。

学生時代、夏休みが終わったときの心境は、こんな感じだったと思う。


現在より細身だったせいもあるが、若い頃は、さほど汗もかかなかったし、汗をかいても気にしなかったので、とにかく夏が好きだった。

人生の時は刻々と過ぎ去って、どんなに惜しんだところで、楽しかった夏も、また、誰にも引き止めることができずに過ぎ去ってゆく。

そんな経験を何度も繰り返し、さほど夏に愛着を示さなくなってきたけれど、当時の思い出は、遠い記憶となって心の片隅に残っている。

秋は秋で、また別の楽しみもあるのだが、たとえば、海に飛び込むような、心を解き放った爆発的な衝動に比べると、少し物足りない感じだ。

始業式で、夏の間に、少し離れていた級友と顔を合わせることも嬉しいが、夏休みが終わる寂しさは、なんとも名残惜しい気持ちにさせられてしまう。


神戸で、「 夏休みの宿題が多く残っている 」 ことを苦にした中学一年生の男子が、自宅のあるマンションから飛び降り自殺をした。

この記事を読んで、「 なんだ、そんなことぐらいで 」 と思う方も多いのではないかと思うが、自殺する理由に、上も下もないだろう。

会社が倒産し、リストラに遭ったとか、失恋や、なにかで挫折感を味わったとかで自殺した人も 「 なんだ、それぐらいで 」 という意味では同等だ。

むしろ、仕事でウダツが上がらず自殺する連中よりは、「 夏休みの宿題が終わってない。 あー、どうしよう 」 という気持ちのほうが理解はできる。

もちろん、かといって自殺を肯定できる理由にはならないわけで、無限大の可能性を秘めた若い命が、儚く消えてしまった不幸に変わりはない。


こういう事件が起きたとき、昔なら、「 自殺した人間に問題がある 」 という当たり前の結論まで、ごく簡単に辿り着いたものである。

いまは、「 学校が提出を求めた“ 宿題の量 ” に問題があるのではないか 」 などと、滑稽とも思える筋違いな視点、価値観を追求する人間が多い。

社会人の場合も、「 自殺した人間に問題がある 」 のではなく、「 難易度の高い仕事、多量の仕事を、与えた企業に問題がある 」 などと言う始末だ。

仮に、宿題の量や、仕事の量が、過剰に多かったとしても、「 自殺してよい理由 」 になんぞ、なるわけがないのである。

正気な人間なら、「 死ぬぐらいなら、たとえ叱られたり、罵倒されたとしても、正直に “ やってません ” と答えたほうがよい 」 ことぐらいわかる。


自分が 「 やろうと思えばやれたのに、やらなかった 」 のなら、それなりの処罰は覚悟していたとみるのが普通である。

やるべきことを放棄してでも、他に “ やりたいこと ” があり “ やらなかった ” のだから、責任を問われる場面を前に逃げるのは、卑怯の極みであろう。

あるいは、「 自分の能力が低いために、できなかった 」 のなら、背伸びをせず、能力に見合った学校や、職場に移ることが正しい。

それで偏差値が下がっても、給料が下がったとしても、それこそが本当の 「 自分の価値 」 であり、過去は “ 場違いな所 ” に迷い込んでただけだ。

見栄を張ったところで、「 いるはずのない、もっと優秀な自分 」 が現れたりするわけではなく、そこに気づかなければ、現実の社会に適応できない。


学業成績が低かったり、あるいは、能力が劣るために、人並み程度の仕事ができなかったとしても、それ自体は大きな問題でもない。

問題は、それを真摯に認め、反省することをせず、安っぽい虚栄心を守るために、自殺という手段で、そこから逃避する愚かさにある。

夏が終わる虚しさや、宿題ができなかった不甲斐なさ、人並みに働けない惨めさは、想像に難くないし、たしかに辛いものだとは思う。

だが、( 自殺しない ) 大部分の人間は、たとえプライドを傷つけられようとも、それを認め、正面から向き合い、解決しようとする勇気を持っている。

季節が巡るように、楽しいときが過ぎ、風雪に耐える時期が迫っても、それもまた、いつまでもは続かず、やがて花咲く春が来るのである。






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