Tonight 今夜の気分
去るものは追わず、来るものは少し選んで …

2006年06月29日(木) 庶民感覚



「 この国をどうしていけばよいかを知っている人たちが、皆、タクシーを

  走らせることや散髪などの瑣末なことで忙しいのは残念なことだ 」

                 ジョージ・バーンズ ( アメリカのコメディアン )

Too bad all the people who know how to run the country
are busy driving taxicabs cutting hair.

                               GEORGE BURNS



タクシーの運転手さんや床屋のマスターの話には、共感できるものが多い。

大衆の普通の暮らしの中にこそ、国家の問題点が浮き彫りになっている。


そういう意味では、冒頭の文章に 「 なるほど 」 と思えるところもあるのだが、ジョージ・バーンズ氏は一つ 「 大きな勘違い 」 をしている。

タクシーの運転や、髪を刈る作業は、けして 「 瑣末なこと 」 ではない。

人々の日常に欠かせないサービスや、モノをつくる作業は、プロスポーツや政治家、芸能人のような派手さはないが、最も大切な仕事である。

彼らはまた、一般消費者としての側面を持ち、働いて収入を得て、消費し、市場経済の主役として、生産者と消費者の両方の立場を理解している。

それこそが 「 庶民感覚 」 なのである。


日銀の総裁が村上ファンドに出資していた事実を受け、投資の全容や資産背景などについて、各方面から批難を浴びている。

資産総額の3億5094万円も、村上ファンドで儲けた1473万円も、さほど驚くべき大きな金額とは思わないが、野党、マスコミは大騒ぎである。

年金が778万円というのは、たしかに民間と比べて高額な気もするが、総裁以外の日銀関係者も、手厚い制度の恩恵を受けているのだから仕方ない。

問題は、景気の動向に影響を与える立場でありながら、個人的に株の売買に参加していたことのほうで、追求はその一点に絞るべきだろう。

各種のデータを集めすぎて物事の本質が見えなくなっているような現象が、この問題には起きているように思う。


よくわからないのは、総裁の資産を知り 「 庶民感覚がない 」 と怒っている野党議員の発言である。

お金を持っている人は庶民感覚に乏しく、貧乏な人は庶民感覚があるなどというのは 「 無知な人の思い込み 」 であり、実際にはそんなことはない。

私の知る A さんは日銀総裁よりも資産を持っているが実に庶民的な人で、B さんは無一文に等しい貧乏人だが、まったく庶民感覚がない。

この A さんは中小企業の社長で、さほど大きな商売はしていないが堅実に儲け続け、私はいま、息子さんに経営を委譲する為の相談に乗っている。

先方のほうが私よりも年齢は20歳以上も上だが、なにかと気が合うので、20年以上の付き合いがある大切なお友達である。


A さんは気前がよく、会えばいつも食事をご馳走してくれるのだが、あまり値段の高い店に連れて行ってくれることはない。

倹約家で、普段の生活も 「 収入に見合っている 」 とはいえない。

かといって、従業員の給料をケチったり、投下すべき経費を出し渋ったりすることはないので、いわゆる 「 ケチ 」 ではない。

彼が贅沢をしないのには、二つの理由があるという。

一つは、「 自分のような者が、贅沢をしてはいけない 」 という控えめな態度にあり、それは、謙虚で誠実なビジネスの姿勢にも好影響を与えている。


もう一つは、彼が 「 友達を大事にする 」 姿勢にある。

70歳を前にした今でも、学生時代の仲間と食事をしたり、旅行に出かけたりしていて、昔の友達と遊ぶのが A さんにとっては一番の楽しみだ。

仲間の中には、ビジネスで成功した人もいれば、そうでない人もいる。

だから、お金のかかる食事や、海外旅行などはせず、費用の安いプランで誰もが参加しやすい企画を、常に心がけているという。

裕福な立場の者が 「 施し 」 をするのではなく、皆が対等の立場で楽しめるようにすることこそが、本当の配慮なのだと A さんは教えてくれた。


数十年前、当時の二大政党は、与党:自民党と、野党:社会党であった。

あるとき、「 国鉄の初乗り運賃を値上げする 」 という審議にあたって、野党の社会党は大反発をし、「 庶民の生活を守れ 」 と息巻いた。

面白かったのは、あるマスコミが 「 現在の初乗り運賃を知っていますか 」 という質問を、与野党の議員にした場面であった。

与党議員も野党議員も、ほとんど答えられず、ある社会党議員などは 「 500円 ( 実際には60円か80円ぐらいだったと思うが ) 」 と答えていた。

庶民の生活を知らずして 「 庶民の生活を云々 」 と言うのは問題だと記者が追求すると、「 だって、切符を買ったことないし 」 と開き直った。


日銀総裁に 「 庶民感覚 」 が無いのは、資産を持っているからではなくて、職業的な面や、立場の違いにあるのだ。

その仕事に 「 庶民感覚 」 など要求したり、期待するほうが間違っているのであって、どう考えてもおかしいのである。

必要なのは、日銀総裁としての手腕と、倫理観であり、今回の騒動に関していえば、いささか後者に問題があるということだ。

野党やマスコミが辞職を求めるのは自由だが、あまり論点がずれていると 「 アホ 」 かと思われるので、気をつけたほうがよいだろう。

このあたり、彼らの資質には辟易してしまうのである。


さらにいえば、日銀総裁にかぎらず、基本的に 「 金融 」 を生業としている人たちには、総体的に 「 庶民感覚 」 が乏しい。

額に汗してモノづくりに携わったり、サービスに努めたりする職種に比べると、為替や証券のやりとりで儲ける仕事には生活感がない。

銀行も一種のサービス業といえなくはないが、現状をみるかぎり、利用者に満足を与えるサービスを行う志があるとは考え難い。

もちろん、お役人や、金融屋さんや、政治家にも立派な人はいるが、彼らの持ち味は 「 庶民感覚 」 とは別の場所にあり、それが重要でもない。

辞職させたところで、どうせ後任は金融業界や関係省庁の人間がなるのだから、庶民感覚よりも、素行と能力に絞って人選をすべきであろう。






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