「 一般論で言うと、もしお客がいい経験をすれば、3人にその話をする。
悪い経験をすれば、10人に話すだろう 」
リージス・マッケンナ ( 米国 IT業界のマーケティング、PR会社の会長 )
A rule of thumb. If a customer has a good experience, he'll tell three other people. If he has a bad experience, he'll tell ten other people.
Regis McKenna
アメリカでは Elevator、イギリスでは Lift と呼ばれる。
人や荷物を乗せた箱を、垂直に昇降させる機械のことである。
飛行機や電車や車と違って、エレベーターを 「 乗り物 」 だと意識している人は少なく、その 「 危険性 」 を感じている人も少ない。
ビルやマンションには当然のごとく設置されており、動かすのに免許も不要で、小さい子供でも簡単に操作することが可能だ。
だからこそ、それがある日突然、制御不能となり死亡事故の原因になったというニュースには、戸惑いと驚きがある。
普通、エレベーターの事故といえば、故障のため、しばらく閉じ込められたとか、その程度の軽いトラブルが頭に浮かぶ。
複数の安全装置が設置されており、幼児からお年寄りまでが安心して利用できる便利な機械、それが、エレベーターだったはずである。
利用者の不注意によって、ドアに指がはさまるとか、ごく一部の不心得者によって、閉鎖された箱内で犯罪が発生するとか、そういう危険はあり得る。
しかしながら、本来は安全であるはずの装置が、正常な使用をしているにも関わらず事故に至ったことは、製造元にとって大問題だろう。
ところが、製造元のシンドラー社からは 「 原因を調査中 」 と語るばかりで、国民に大きな不安を与えたことへの謝罪もない。
神経質な人は、たとえシンドラー社の製品でなかったとしても、事故以前に比べると、エレベーターに乗ることへの不安や恐怖を感じるだろう。
そういう意味では、粗悪な製品とメンテナンスを提供したことで 「 業界全体の信用を失墜させた 」 責任も、彼らにあるとみて間違いない。
私自身も外資系企業に勤務した経験を持つが、日本の各企業と同様に、外資にも 「 よい企業、悪い企業 」 がある。
よい企業は、お客の信頼と期待に応え、「 よい評判 」 を獲得しようと尽力するが、悪い企業の場合は、利己的に目先の利益ばかりを追求する。
さらに悪い企業は、粗悪品を世に放った後始末すら行わない。
その結果、「 悪い評判 」 が浸透し、やがては市場から追放、敬遠されて、ビジネスを展開する舞台すら失ってしまうのである。
今回の事故にまつわる人々の記憶が消え去るまで、彼らは販売の機会を与えられないだろうが、その期間は、かなり長く続きそうだ。
多くの企業では 「 ヒト、モノ、カネ 」 が経営に重要な三資源だと考えられているが、それ以上に大切な資産が 「 評判 」 である。
潤沢な資金があれば、短い期間で 「 ヒト、モノ、カネ 」 の価値を高められるが、「 評判 」 を獲得するには時間が掛かる。
繰り返し実績を挙げ、継続することによって 「 評判 」 は構築され、その対価としてお客から 「 信頼 」 を預けられる図式になる。
大事なことは、お客からの信頼とは、「 一時、預けられるもの 」 であって、未来永劫まで保障された 「 与えられたもの 」 ではないという事実だ。
長年の努力も、一瞬のミスによって崩れ去る危険を孕んでいる。
努力し続ける企業でも顧客の信頼を維持することが難しい中、努力しない企業が破綻するのは当然の結果である。
過去において、シンドラー社の製品は再三クレームの対象になっていたが、改善される様子がみられなかったという。
小さいミスを放置し続けた結果、今回の大きな事故に至った。
このような企業は 「 存在していること自体が社会悪 」 なのであって、個人、法人をとわず、すべてのユーザーが拒否すべき対象である。
シンドラーのリストならぬ 「 ブラックリスト 」 に名を連ねることが相応しく、その悪評は人々の記憶に刻み込まれるだろう。
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