| 2006年05月13日(土) |
ある中小企業のリストラ |
「 火熱に耐えられなければ、台所から出て行くべきだ 」
ハリー・S・トルーマン ( アメリカ合衆国第33代大統領 )
If you can't stand the heat, get out of the kitchen.
HARRY S.TRUMAN
プレッシャーに耐えられない人は、重圧に耐えられる人に任せるべきだ。
文句ばかり言ってないで、さっさと舞台から降りることが望ましい。
キャリアカウンセリングをしていて、一番、気をつけなければいけないのは、働く人の能力や適正と、就く仕事とのミスマッチを防ぐことだ。
いくら仕事のできる人でも、すべての仕事に相応しいとはいえない。
殆ど興味の無い仕事や、まったく適正のない仕事を選ぶと、他の仕事では有能な人であっても、その分野に関しては無能のそしりを受ける。
これと同じように、ストレス耐性の低い人が、重圧のかかる仕事をすれば、精神を病んだり、ひどい場合には身体的な不調にまで発展する。
仕事で体調不良に陥る大きな原因は、仕事そのものに問題があるだとか、病気になる人が悪いとかではなく、職業選択のミスマッチによるものだ。
まるっきり仕事に自信がなかったり、自分の能力や経験にプライドを持っていないような人は、多少、仕事がうまくいかなくても深刻に悩まない。
もちろん、仕事が順風満帆にうまくいっている人も深刻に悩むことはない。
悩んだり、嘆いたり、パニックを起こしたりするのは、「 仮想的有能感 」 を抱えながら、それに縛られ、苦悶する人たちである。
本当の自信は行動力と成果によって獲得するものなので、仕事の質と量が満たされていれば、「 仮想 」 ではなく本物の有能感を持つことができる。
しかしながら、体力を使ったり、人前で恥をかくことが苦手だったりする人の多くが、根拠の無いプライドだけをぶらさげて病気になっていく。
某中小企業のオーナーと話をしたが、その社内で 「 変わり者のAさん 」 と呼ばれる人の実態が、まさしくそうであった。
学歴、経歴が華々しいので中途採用した40代だが、成果が思わしくなく、取引先からの評判も悪い。
いつも焦っていて、同僚との協調性も薄いので、ここは 「 焦らなくてもいいよ、長い目でみて評価しますよ 」 と、その社長は励まそうとした。
ところがAさんは、弁明など求めていないのに、仕事がうまくいかない理由ばかりを並べ立て、会社と同僚の批判ばかりをする。
その後は、社長が話し掛けようとすれば席を外したり、社内のミーティングがあるときに決まって外出したりして、話す機会が減ってしまった。
彼の中には、覚せい剤中毒者と同じで、強い 「 被害妄想 」 が生じている。
社長が話し掛けたり、同僚が小声で話しあったりしていると、自分を攻撃しようとしているとか、自分の悪口を言っているように感じるのである。
たまに仕方なく会議に参加すると、成績の低迷を自分の責任として詫びるのだが、原因については、天候など、不可効力的な要素を並べる。
上長から、「 それは誰にとっても同じ条件ではないか 」 という指摘を受けると、途端に不機嫌になり、黙り込んでしまう。
もっとひどいときは、お客が悪い、社内のシステムが悪い、自社製品の品質が劣っている、さらには 「 世の中が悪い、政治が悪い 」 とまで言い出す。
基本的に、こういうタイプの人に 「 営業 」 をさせることが間違っているのだが、専門知識を要する営業職なので、なかなか代わりがいない。
また、社員を信頼し、愛情を注ぐタイプの温厚な社長さんなので、長期的に育てたいと考え、多少の問題があっても、あまり厳しく叱らないのである。
最近では、同僚のヒソヒソ話も本当にAさんの悪口になってしまい、もはや被害妄想ではなくなってきつつあり、かなり困った問題になっている。
噂が飛び火して私の耳にも入ってくるようになった頃、社長から酒席に誘われ、行ってみると 「 どうしたらいいだろう 」 という話だった。
開口一番、酔いの回らないうちに、頭はきれるし、才能はあるので、人格面さえ成長してくれればなぁという話を、社長は寂しそうに語り始めた。
カウンセラーには、我々のようなキャリアカウンセラーと、精神科医のような 「 治癒的カウンセラー 」 の2タイプがある。
つまり、私は仕事上の相談には乗れるが、医師ではないので 「 病気を治す 」 ことなどできないし、目的にもしていない。
雇用している社長や、企業の立場も同じで、仕事上の手助けはできても、彼自身の本質的な問題を解決することは難しく、当然、その責任もない。
本当に彼を 「 なんとかしたい 」 のであれば、専門医の診察を受けさせるのが妥当なのだが、本人に自覚がなければ拒否する可能性が高い。
また、軽はずみに 「 医者に診てもらえ 」 などと告げるのも、精神的に傷つけたり、追い込んだりする危険があるので好ましくない。
大企業なら、もう少し重圧の少ない仕事に配置転換させるとか、いくつかの方法があるのだが、中小企業にはポストが少ない。
余剰人員を持たず、少数精鋭で闘うことが中小企業の宿命なので、たとえ病気や正当な理由があっても、仕事のできない人には居場所がない。
つまり、ここは心を鬼にして 「 辞めてもらう 」 しかないのだ。
失業すると苦しい立場に追い込まれるかもしれないが、かといって、問題を放置したまま残留させたところで彼は 「 ハッピー 」 ではない。
大企業で閑職に配置転換され、給料が下がったとか、ボーナスが少ないと嘆く人もいるが、中小企業で失脚する人は、もっと辛いのである。
もし、社長に親心があって、彼に何かしてあげたいのであれば、そのままの状態で雇い続けるよりも、他に、彼のためになる方法がある。
たとえば、最近は 「 アウトプレイスメント 」 といって、解雇する会社が費用を負担して、人材紹介会社に再就職支援を委託するシステムもある。
人材会社は有料で求職者を預かり、履歴書や職務経歴書の書き方を教えたり、面接のトレーニングをしたり、再就職活動の指導を行う。
さらには、本人の適性検査や希望職種の聴き取りなどをして、できるだけ、ミスマッチのない再就職先を探して斡旋する。
退職金を数十万円上乗せするくらいならば、同じ費用を再就職支援会社に委託し、「 プロの就職ノウハウ 」 を活用したほうが、本人のためにもなる。
それに、こういった人物は、失業して苦労したほうがタフになる。
世間には、�� お金があって幸せな人、�� お金があって不幸な人、�� お金がなくて幸せな人、�� お金がなくて不幸な人 の4種類の人間がいる。
普通に考えると、一番不幸なのは �� のように思えるが、むしろ、�� の人に 「 心の病 」 は多く潜在し、最近は、自殺を図る人もこのタイプに多い。
逆に �� の人は生活に必死で、死のうなどと考える暇もないし、�� の人は、工夫して人生を楽しむ術に長けている。
リストラが不幸の元凶ではなく、仕事にどう取り組み、人生にどう向き合うかが、重要なのだということを、人も企業も考えるべきであろう。
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