| 2006年05月11日(木) |
経営不正行為における罪の意識 |
「 まず正しいところに足を置くよう気をつけなさい。
それから、しっかり立ちなさい 」
エイブラハム・リンカーン ( アメリカ合衆国第16代大統領 )
Be sure you put your feet in the right place, then stand firm.
ABRAHAM LINCOLN
他府県に比べると、大阪の人は 「 せっかち 」 なことで知られている。
私も大阪で生まれ、現在も暮らしているので 「 せっかち 」 なようだ。
大阪人の 「 せっかち 」 な気風は、テキパキ動くとか、なんとなく活気があるような印象を与えるという点において、プラスの側面を持っている。
しかしながら、公衆道徳においては時折、マイナスの面が顔を出す。
上京して、東京の駅ホームで電車の到着を待っていると、必ずといっていいほど、降りる人が降りてから、秩序正しく乗客が乗り込む姿を目にする。
東京の人にしてみれば、「 当たり前じゃないか 」 と思われるかもしれないが、大阪でしか電車に乗ったことのない人から見れば、新鮮な光景である。
今日も大阪で電車に乗ったが、降りる人を押しのけて、われ先にと乗り込む人の姿を多く目にする。
車を運転する場合にも、この 「 せっかち 」 な性分が、交通マナーの悪さに直結することが多く、大阪では事故やトラブルの原因につながっている。
信号待ちをしている車の運転手は、目前の信号よりも、交差する別方向の信号を気にしていて、そちらが赤に変わるタイミングを見計らい発進する。
いわゆる 「 見切り発車 」 というものだが、あまりに多くの運転手が見切り発車をするために、正しく信号を待っている人が追突される場合もある。
車のみならず歩行者も、信号を守らない人が多い。
一昔前には 「 赤信号、みんなで渡れば怖くない 」 というギャグもあったが、大阪の人は周囲に誰もいなくても、危険がなさそうなら渡る人が多い。
かつて私もその一人で、よほど大きな交差点は別として、道幅の狭い道路などでは、車が来ていないことを確認すると、赤信号でも渡っていた。
他府県、特に関東の人などが一緒にいると、「 赤だよ 」 と言って、信号が目に入っていないのではないかと、警戒を促されることが多かった。
それで、意識的に気をつけて赤信号を守るようにしていると、今度は大阪の知人から、「 どうしたの、早く渡ろうよ 」 などと首を傾げられる。
これを、「 大阪は交通マナーが悪い 」 とか、「 公共のルールを守らない 」 と言われると、たしかにそうなのだが、なかなか改善されそうにない。
言い訳みたいだけれど、あまりにも多くの人が 「 そうしている 」 場合には、ルールがどうであっても、罪の意識を持たず、それに従ってしまいやすい。
ルールは人によって制定されるが、習慣もまた、人によってつくられる。
あるいは、「 習慣が人をつくる 」 ということもある。
習慣的に赤信号を守らなかった私が、ある日を境に守るようになったのは、立派な先生から、交通マナーや、ルールを説かれて悟ったからではない。
ある女性に、「 貴方は車の接近を確かめて渡っているので、たしかに危険は少ないだろうけど、子供が見て真似たら危険でしょ 」 と言われたからだ。
お恥ずかしい話ではあるけれど、恥をかいたり、痛い目に遭ったり、そんな失敗をしないとピンとこないような 「 罪の意識 」 というものもある。
金融庁は、カネボウの粉飾決算事件で、所属公認会計士が逮捕、起訴された中央青山監査法人に対し、一部の法廷監査業務を停止処分とした。
監査法人というのは、会計監査を専門に行う会社のことで、企業の財務処理の監査をして、監査証明を発行することを仕事にしている。
資本金が5億円以上あるか、負債総額が200億円以上ある企業は、公認会計士の監査を受けることが商法では定められている。
そのような企業では、必然的に大規模な監査業務が必要とされるために、いづれかの監査法人が業務に就くことになる。
中央青山は最大手で、所属公認会計士がやったこととはいえ、不正を防ぐ内部管理体制の不備が組織として問題視され、処分の対象となった。
ライブドアも粉飾決算容疑で捜査が進められているが、この手の不正は、横領とか、収賄などに比べると、関与した人間の 「 罪の意識 」 が低い。
伝統的に日本人の民族性は、「 私利私欲を目的とする不正行為 」 に厳しいが、会社全体の利益や存続のためというと、わりと寛容な部分が多い。
個人が私腹を肥やすために行う不正は、周囲も容赦しないし、手を染めている当事者自身も、たいていは、後ろめたい気持ちでいるはずだ。
それが 「 会社のため 」 とか、「 重要な取引先のため 」 なんて理由になると、けして正しいとまではいわないが、「 仕方ないかな 」 などと甘くなる。
どちらも不正であり犯罪行為なのだが、耐震偽装問題しかり、今回の問題しかり、会社という背景が絡むと、個人の罪悪感が軽減される傾向にある。
逆にいうと、こういった不正は氷山の一角であり、逮捕された当事者以外も 「 日常的、慣例的に、頻繁に行われている 」 という可能性が高い。
むしろ、今回の逮捕者だけが、周りは誰もやったことなどない前代未聞の計画を、独自に遂行したという話のほうが、信憑性に欠ける気もする。
そういった意味も含め、当事者だけではなく監査法人自体にも処分を課し、全体にお灸をすえるような形としたのではないだろうか。
企業に忠誠を尽くすことを批難はしないが、自分の一生を棒に振って会社のために不正をはたらいても、会社は個人を救えない。
組長の代わりに人を殺して刑務所に行き、「 帰ってきたら金バッジ 」 などと褒美をもらえるヤクザの世界のほうが、よほど良心的である。
不正や犯罪にまで抵触しなくても、企業で働いていると 「 上長の指示とはいえ、良心の呵責を感じる 」 などという事例は多い。
そこで誰かの言いなりに動くようでは、その人の価値などない。
逆らえば解雇されるからなどと反論される方もいるだろうが、マトモな会社なら、従業員に、ロボットではなく、高度な期待を寄せているはずである。
それに、「 正しい方法で成功する 」 ことを目的として、その仕事を選んだのであれば、不正に関与して会社に残ろうとする行為自体が間違っている。
無垢な子供に見られても、「 これが正しい姿 」 と胸を張れるような仕事をすることが、本当は継続的な成功への近道なのである。
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