「 会話の名手とは、相手の言ったことを覚えている人ではない。
相手が覚えておきたいことを言う人である 」
ジョン・M・ブラウン ( 陸軍将校 )
A good conversationalist is not one who remembers what was said, but says what someone wants to remember.
JOHN.M.BROWN
言葉は意思を伝え、ときには相手に多大な影響を与える。
だから私は言葉を大切なものだと考え、強い関心を持ち続けている。
不用意に放った一言が、相手を傷つけてしまうこともある。
それを恐れて、あまり神経質になり過ぎてもいけないが、カウンセラーという仕事をする人間は、少し慎重に言葉を選ばなければならない。
自分の発する 「 言葉のコントロール 」 がよくないと、カウンセラーに適任とはいえないわけで、その点が極めて重要なところであろう。
野球の投手に例えると、それほど速い球は投げられなくてもいいが、狙ったところにピタリと投げ分けられる制球力が求められるのだ。
もちろん、それ以外のスキルも必要だけれど、この 「 言葉のコントロール 」 こそが、技術的に不可欠な要素ではないかと思うことが多い。
野球の投手と同じように、成果を挙げようとするならば、ストレート、カーブ、シュート、フォークボールなど、球種は多いほうがよい。
言葉の場合は、語彙、ボキャブラリーがそれに当たるだろう。
特に日本語の場合は、同じ意味合いを示す言葉でも、微妙に受け取られ方が異なったりもするので、場面に応じた繊細な使い分けが要求される。
言葉の文化が繊細なせいか、欧米人に比べると感受性や、神経の細やかさといった点も、総体的に日本人はデリケートな部分が多いように思う。
それを面倒がらず、巧みにコントロールしようとする気質は 「 対人能力 」 の重要な側面であり、そこに関心が薄い人はカウンセラーに適さない。
その点、言葉巧みにお客の関心を惹く 「 水商売系のホスト、ホステス 」 といった職業の人には、カウンセラーの素質があるかもしれない。
実際、繁盛店を切り盛りするクラブのママさんや、一流のホステスさんには、さほど親しくもないお客から、深刻な相談を持ちかけられる人も多い。
彼らは 「 信頼を与える話し方 」 に精通していて、お客の財布だけではなく、心を開く手法を心得ているので、自然とそのような結果に繋がっていく。
もちろんそれは、「 いい人 」 という証明にはならない。
水商売もカウンセリング業も、いづれも 「 商売 」 としてやっていることで、仕事と割り切っているからこそ、出来ることもあるのだ。
私の場合も、仕事では相手を傷つけないように万全を期すが、私生活では惚れた女性に不用意な発言をしたり、相手を傷つけたという経験も多い。
仕事のように冷静な判断が下せないのは、そこに自分の感情というものが在る証拠で、いちいち論理的に計算して付き合ってはいないからである。
なるべくなら相手を傷つけないほうが良いけれども、ロボットのように感情を持たず、お客をもてなすように接することが正しいとも思えない。
素直な自分自身を開き、たとえ相手の気分を害してでも、本当の気持ちを伝えることが相手への 「 誠意 」 となる場合もあるはずだ。
たとえストライクゾーンを外れて 「 暴投 」 になっても、計略などない素直な言葉を投げないと、相手の胸に届かない、記憶に留まらない言葉もある。
過去に交際した女性の一人から電話をもらったので、近況を話した。
カウンセラーをしていることを告げると、興味深く話を聴いてくれたのだが、「 熱くなる性格なので、相手を傷つけないか 」 ということを心配していた。
それは、相手に対して 「 個人的な、特別な想い 」 があったからそうなったのであり、いくら重要な相手でも、貴女とは立場が違うという説明をした。
釈明のつもりでそういう話をしたのだが、いつの間にか電話が 「 いい感じ 」 になってしまい、気がつくと今度の日曜日に会う約束をしていた。
何も計算などせず、目をつぶって投げても、無意識に偶然 「 ストライク 」 を投げていることもあるようで、言葉とはミステリアスなものである。
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