| 2005年05月17日(火) |
「 甘さ 」 という企業悪 |
「 失敗は罪ではない。 罪とは低い目標を持つことだ 」
ジェームズ・ラッセル・ローウェル ( アメリカの詩人、外交官、大学教授 )
Not failure but low aim is a crime.
JAMES RUSSELL LOWELL
詩人で、外交官で、ハーバード大学の教授とは、実に多才な人物だ。
駐スペイン公使、駐イギリス大使の他、雑誌の編集者も務めている。
ちなみに、今は亡き私の母親は、私を 「 外交官 」 にしたかったそうだ。
母親を早く亡くしたことは残念だが、そんな 「 退屈そうな仕事 」 に就かなくて済んだのは、不幸中の幸いといえるかもしれない。
ただし、外交官にもいろいろなタイプがいて、この人のように詩を書いたり、大学で近代語文学を教えたり、ただの 「 堅物 」 ではなさそうな人もいる。
そういう人だからこそ、冒頭のような 「 気の利いた名言 」 を遺した。
今夜は、この名言を 「 お題 」 として話を進める。
JR 西日本の 「 ヒット商品 」 の一つに、「 新快速 」 という電車があり、その名の通り、スピードが速いことを売り物にしてきた。
京阪神にお住まいの方なら、大阪駅から京都駅までの間を、僅か29分で結ぶこの電車を過去に利用された方も多いのではないだろうか。
少し発着地点は違うが、競合する阪急、京阪などの特急電車で同じ区間を利用する場合、1.5倍前後の時間が掛かる。
たとえば、阪急の特急で梅田から河原町まで行く場合、42分掛かる。
片道料金は、阪急の390円に対し、JR は540円と高いのだが、時間的に余裕のないビジネスマンなどに人気が高く、私もよく利用している。
この 「 新快速 」 の走行速度や、発着本数を見直す動きがあるらしい。
理由はもちろん、先般の脱線事故による 「 安全性の見直し 」 であり、利用客にとっては残念な気もするが、いたしかたない事情も理解できる。
ただ問題は、「 運賃は下げない 」 というところにある。
普通、商品を販売する場合に、理由はともあれ、提供者側の事情で商品の 「 品質を下げる 」 ということになれば、値下げは当然のことであろう。
電車の場合、その速度は 「 品質の一部 」 とみるのが妥当で、安全走行も品質の一部だが、それは 「 以前から保証されていた 」 はずである。
けして 「 ケチくさいことを言う 」 わけではなく、品質を維持したまま安全性を強化しない姿勢、品質を落として利益を維持する姿勢を疑問に思う。
あれだけ多数の死者を出しておきながら、まだ事故原因が明確になっていない以上、「 JR の体質が悪いとも言い切れない 」 という意見がある。
たしかに、車体自体に欠陥があったり、JR の主張した 「 置石 」 といった可能性が、まったく無いとは断言できないだろう。
しかしながら、前述の 「 新快速 」 の問題や、事故後も各地で運転士のミスによる オーバーラン が相次いで起きていることも、また事実である。
利用者を無視した政策変更、運転士の技量、集中力の欠如といった点からみても、「 JR 西日本は問題の多い企業 」 と判断して間違いない。
基本的に、「 人が操作する以上は、失敗も起こる 」 のであって、すべての運行を自動制御できる仕組みにするのが理想的だ。
一昔前に、「 日本航空羽田沖墜落事故 」 というものがあって、精神疾患を患った機長が飛行中に 「 逆噴射 」 をし、大惨事を招いたこともあった。
現代は 「 人格障害者の時代 」 であり、精神科に通院までしていなくとも、心の病に冒されている者はそこかしこにいて、まるで珍しくもない。
数百名、数千名を超える運転士の中に、「 精神疾患のある者は一人もいない 」 ほうが奇跡に近く、統計的には、ほとんど期待できない数字である。
もし、精神に異常をきたし、「 乗客を道連れに死ぬ 」 という運転士が暴走した場合でも、機械的に制御できる仕組みを持つことが望ましいだろう。
それが費用の面で無理だというなら、せめて航空機並に 「 適性検査 」 を充実させ、少しでも不安な乗務員には運転させないようにすべきだ。
今回の事件では、ミスをした運転士に JR が叱責し、心理的な圧迫をかけたことが悪いかのような報道もあったが、その論理はおかしいだろう。
乗客の生命を運んでいる以上、技能の未熟な者、適性の無い者には運転をさせないのは当然の措置であり、むしろ 「 甘かった 」 ぐらいだ。
航空機のパイロットは、技能、身体能力から精神面に至るまで、その何倍もの審査をクリアーし続けないと、操縦に関与できない規定になっている。
前述の 「 羽田沖墜落事故 」 以後は、特に厳しくなった模様である。
自動制御は経費が掛かるし、運転士の質を向上させるのも面倒だし、しかしながら、世間の目もあるから安全対策を講じなければならない。
失敗から学び、反省し、改善しようと試みるのは立派だが、単純に速度だけ落としたり、ダイヤを減らすだけでは 「 目標が低すぎる 」 気がする。
この 「 甘さ 」 は企業悪であり、利用者、マスコミは追及すべきだ。
いくら速度を落としても、ダイヤを減らしても、この 「 甘さ 」 があるかぎり、再び惨事は繰り返されるのではないだろうか。
やはり、この企業は 「 体質そのものに問題がある 」 ようである。
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