「 勇気とは、窮しても品位を失わないことだ 」
アーネスト・へミングウェイ ( アメリカの小説家 )
Courage is grace under pressure.
ERNEST HEMINGWAY
私好みの作家は、やはり 「 私好みの名言 」 を遺している。
どうせ一度の人生なら、“ こうありたい ” ものだと思う。
冒頭の文の 「 勇気 」 を、「 紳士 」 に変えても教訓は成立するだろう。
私のことを 「 紳士 」 という愛称で呼んでくださる方もいるようだが、実際は窮地に立って右往左往しているので、ちっとも紳士などではない。
もちろん 「 勇者 」 でもなく、ごく普通の中年男である。
ただ、そのように生きたいものだとは思うし、右往左往する自分を抑えようと努力はしているつもりである。
いつかは “ その領域 ” に達したいと思うし、そこまでは達していない自分を情けなく思うより、“ まだ成長する余地がある ” と思うようにしている。
欧米のアクション映画などを観ていると、絶体絶命のピンチに陥った主人公が、落ち着き払って、軽妙なジョークを呟く場面などをよく目にする。
たとえば、『 007/ゴールドフィンガー ( 1964英 ) 』 の冒頭で、主人公のジェームズ・ボンドが、ねんごろの女性にキスをしようとする場面。
実は、この女性は敵の一味で、ボンドの気をそらしておいて、背後から悪党が斧でボンドに襲いかかろうとしている。
間一髪のところで、キスをしようとした女性の瞳に敵の姿が映り、敵の存在に気付いたボンドは、とっさに反応して返り討ちにする。
敵を仕留めたボンドは一言、「 女性の目は恐ろしいね 」 と呟く。
実に紳士的で、勇気と、ユーモアの才覚がある。
もし私がボンドならば、「 こらお前! もうちょっとで死ぬとこやったやんけ! どアホ! われ、グルか?! しばくぞ! 」 と、ぜいぜい言いながらわめく。
まったく紳士的ではなく、臆病丸出しで、何の洒落っ気もない。
もちろん、英国情報部はそんな人間を雇わないだろうから、そうなったときの心配などする必要もないのだが、同じ男としてなんとも情けない。
私なんぞが馴染みの BAR で、品よく女性を口説けるのは、自分の背後に “ 斧を持った敵 ” がいないとわかっているからで、ボンドとはまるで違う。
そこまで極端でなくとも、平時には出来ている事柄が、緊急時には冷静さを失い、ときに 「 品格 」 まで貶めてしまう事例がある。
なるべく、そんな 「 みっともない 」 姿は晒したくないので、気をつけてはいるつもりだが、これがなかなか難しいものだ。
仮に表面上は上手く取り繕えたとしても、激しく感情が乱されたり、平常心でいられないことが、実際には多いような気がする。
まったく喜怒哀楽が無くて無表情なのもどうかと思うが、ちょっとしたことで慌てたり、一喜一憂してうろたえているようでは、立派な大人といえない。
紳士への道程は遠く、まだまだ修行が足りないようである。
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