「 世界で最高の教育は、名人が仕事をしているところを見ることだ 」
マイケル・ジャクソン ( 歌手 )
The greatest education in the world is watching the masters at work.
MICHAEL JACKSON
優れた師との出会いが、著しい成長のきっかけになることは多い。
逆に、ヘンな師に出会うと、ちょっと 「 ややこしい 」 ことにもなる。
夕方、次のアポイントまで時間が空いたので、一人で喫茶店に入った。
隣のテーブルでは、30歳位の男性が20代前半とおぼしき二人の男性に、なにやら熱弁をふるっている最中だった。
声が大きいので、かなり細かい内容まで聞こえてくる。
どうやら彼は、ちょっと怪しげな 「 マルチ商法 」 ぽいビジネスへ参加するように、若者たちを勧誘しているようである。
若者たちは 「 乗り気 」 のようで、かなり熱心に傾聴している。
話し手は、しきりに 「 夢 」 という言葉を多用し、私と共に店内にいた15分の間に、おそらく 「 20回 」 は連発していたように思う。
あとは、「 周囲の意見を気にするな 」、「 非常識でいこう 」 という台詞が、何度となく繰り返され、かなり印象深かった。
彼いわく、「 非常識な成果を求めるには、非常識な感覚が不可欠 」 だそうで、「 俺なんてさ、非常識街道まっしぐらだよ 」 と付け加えていた。
帰る間際、「 この店、暖房が利きすぎてるよな。少しは考えればいいのに 」 と、伝票を片手に席を立った。
ずいぶん 「 常識的なことを求める 」 じゃないかと、突っ込みたくなった。
彼が去った後、二人の若者はその場に残っていた。
二人は 「 すごいよな 」、「 頑張らなきゃな 」 と、決意を固めた様子で、文字通り 「 目からウロコが落ちた 」 ような顔つきである。
大学を出てサラリーマンになったが、つまらないし、一攫千金の魅力に誘われて、参加することに決めたらしい。
彼らもまた、「 夢が大事なんだよ 」、「 夢のためだ 」 などと、憑かれたように 「 夢 」 という単語を繰り返し、繰り返し、何度も口に出している。
彼らの 「 夢 」 とは、一体なんなんだろうか。
先日は、別の若者から興味深い話を聞いた。
彼は24歳で、大学を出てから企業に就職したが、辞めたいのだという。
辞めてどうするのかと尋ねると、私と同じように 「 経営コンサルタント 」 になりたいのだと言う。
同業者の参入を阻止する気はないが、圧倒的に経験不足だし、その若さで 「 なにも、そんな “ ジジ臭い仕事 ” を選ばなくても 」 と、遺留しておいた。
けして 「 無理 」 とは言わないが、いくら学業が優秀だったからといえども、実務経験が無ければわからないことも多いし、企業からの信頼も得難い。
彼も、それは 「 夢 」 のためだという。
企業に属していたのでは、自分が本当にやりたいことができず、あまり興味の無い仕事にも従事しなければならない。
そのすべてを無駄とは言わないが、時間がもったい気がするらしい。
いまならば、失敗しても親の経済力に頼ることができ、生活の不安はないし、成功すれば、勤め人では考えられないような報酬にありつける。
それが、彼のいう 「 夢 」 なのだそうだ。
幸せになる方法は人それぞれで、どれが正しいとはいえない。
ただ、「 幸せになることを急ぎすぎる 」 と、失敗することが多い。
それに、彼らが 「 夢 」 という単語に託した 「 成功し、お金持ちになる 」 という目標、そんな結果だけが、はたして重要なのだろうか。
山登りをする楽しさが、もしも 「 頂上に立つ 」 という行為だけならば、誰も険しい山道を登らず、ケーブルカーやヘリコプターを利用するはずだ。
そうやって簡単に入手した 「 成果 」 に、達成感、満足感はあるだろうか。
実力主義社会の中において、「 結果 」 は 「 プロセス 」 より優先される。
それは事実だが、プロセスを省いて偶発的に結果だけを手にしたところで、次の成功への道順は、誰に教わればよいのだろう。
棚ボタ式に得た成果も、たしかに 「 結果 」 ではあるけど、その人の仕事の 「 実績 」 としては、キャリア面の評価をしにくいものがある。
けして、「 若いうちは冒険するな 」 だとか、「 修行中の分際で 」 とは言わないけれど、地道にキャリアを積む作業を避けては、成長が期待できない。
ライブドアの社長のように、若くして華々しい活躍をする人もいるが、彼らの立場は 「 投資家 」 であって、一般的な 「 ビジネスマン 」 ではない。
将来の 「 夢 」 を追いかけて、冒険することも間違いではない。
しかし、その理由が 「 下積みが嫌だから 」 とか、人に使われるのが面倒だからというのでは、成功する見込みも薄いし、応援する気になれない。
いつも楽なことばかり選んでいても、いつか困難に直面するだろう。
逆に、困難に挑戦し続けることが、幸せを呼び込む手段となり、結果的には成功へ通じる近道になるような気がする。
それに、嫌な仕事でも、やっているうちに熟練し、面白さを見出し、経済的な豊かさだけでなく、心と魂を豊かにしてくれるものではないかと私は思う。
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