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■ 歯が抜ける夢
右側の前歯に違和感があった。 (あ、なんかヤバい) 根元がグラグラする。左右の歯と比べて、少し浮いてる感じ。歯が抜けると、そこがスカスカするし、抜けたばかりの歯茎が気になるからイヤだ。うっかり舐めてしまうと血の味がする。 意味はないけど、手で抜けそうな歯を無理やり押し込めてごまかす。昔、乳歯から生え変わる頃、そうやって抵抗していたら親に笑われた。無意味でも、応急処置にすらならなくっても。痛いのはイヤだ。 手を伸ばして、歯を押さえたい。なのに今だけは両手が持ち上がらない。焦ってバタバタと意識だけで暴れたら、ペリッと音を立てて、ついに前歯は剥がれてしまった。 「っ!」 真っ暗闇の中に、勢いよく起き上がる。その拍子に左手をベッドの柵に打ちつけた。ゴン、といい音がした。ハッとなって隣を見る。こんな時間に起こしてしまったら申し訳ない。 「……紅愛、寝てる」 わずかに身じろぎをしただけで、眠り続ける刃友。みのりは今度こそ指で前歯を押さえた。まだ、そこにあった。血の味もしない。 「よかった〜、夢か〜」 歯が抜ける感触が嫌いだから、夢でよかった。強く押しても引いても、歯はビクともしない。胸を撫で下ろしていると、背中を柔らかく包むものがあった。 「みのり?どうしたの」 半分寝ている紅愛の体温。昼間より少し温かめ。前に回された腕を握り締める。ぼんやりと紅愛が頭を肩に預けてくる。 「ごめんな。起こしちまって」 「いいの……怖い夢でも見た?」 「ん……」 気持ちの悪い夢。 紅愛の体の方が温かく感じるなんて珍しい。自分で思うより怖かったんだな、と後から少しずつ染みてくる。微かな震えに気づいたら紅愛が、更に体をくっつけてくれる。 「歯が取れちまってさ」 「え!?どこの」 「ちが、紅愛、夢ん中で……うがっ!」 遠慮なく紅愛の指が口をむぎゅっと開いて、真剣な顔で覗き込まれてしまう。うーうー、と幾度が呻いた。紅愛は奥の方に目を凝らしているらしい。暗いから、どうせ見えないと思うけど。紅愛は、勘違いしている。みのりのトレードマークの、あの歯と。 「ふへは……ちはふ……夢で」 みのりが歯といえば、あの歯。 (あたしの歯はそこだけじゃねーんだけどなー) 剣待生は歯が命。ようやく事情を理解した紅愛が手を離してくれた。 「もう……驚かせないでよ。てっきりみのりの八重歯が抜けちゃったのかと思ったじゃない」 「ごめんなー」 早とちりでも真剣に心配してくれる刃友のおかげで、いやな気分も吹き飛んでいた。
歯が抜ける夢(上の歯)ってのは、精神的な脱皮等を表すらしいっす。
2007年02月01日(木)
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