池ポエム
ハンス



 綾那争奪戦5

ケース5「蹴散らす人達の場合」

 廊下に土煙というのも、考えてみると異常な現象だった。桃香は箱はやてをその場に下ろして、地響きのような集団に圧倒されていた。
 「な、なんじゃ」
 「地震?最近地震多いよねー、もかちゃん」
 はやてのアホ毛がびよんびよん揺れる。何か妖気を察しているらしい。
 「そう言えば昨日も地震あったよね」
 「へ?いつ」
 「夜の3時ぐらい」
 「う〜ん?知らんのぅ」
 世間話を続けている間にも、足音は近づいてくる。肉眼でも人影がはっきり見えるようになった頃、桃香とはやては同時に叫んだ。
 「あやな(無道さん)!」

 綾那はただ真っ直ぐに、はやて目指して走っていた。はずなのだが、どうにも背中が騒がしい。最初はこんな様子ではなかった。寮の自室を出てすぐのところで、名も知らぬ剣待生が現れた。急いでいるのであまり話を聞いていなかったが、何やら誕生日ルールのポイント目当てらしい。
 何にしろ承諾するつもりはないので、そのまま「断る」と叫んで走り続けた。学校にたどり着いてからも似たような用件の剣待生たちが4、5人行く手を阻んだが、文字通りぶっちぎって来た。だから自分の背後がどうなっているか、省みなかったのだ。男は後ろを振り返らぬもの。女だけど。
 ついに発見した、ダンボールをかぶったはやてと桃香が、盛んに後ろを指差している。
 「あやなっ、後ろ後ろ」
 つられて振り返って、事態にようやく気づいた。
 「なっ!」
 「あやな、鬼ごっこ?」
 呑気にはやてが尋ねてくるので、思わず箱の腹に蹴りをお見舞いする。
 「バカっ、元はと言えばあんたが」
 「むっ、無道さん、後ろの連中が!!」
 桃香が悲鳴を上げる。綾那捕獲団体ご一行様が、立ち止まった隙に綾那に手を伸ばしてきたのだ。ホラー映画の哀れな犠牲者さながらに、後ろに引っ張り込まれる綾那。はやてはとっさにダンボールを突き破って綾那の腕を掴んだ。
 「いやぁぁぁ!!あやながさわられるぅぅ!!!」
 「それを言うならさらわれるだっ、バカ」
 悪態を吐きながらも、次第に後退していく。やはり2対20では分が悪い。必死にもがきながら、そういえば今日は誕生日だっんだっけ、と綾那はうっすら思い出した。そもそも誕生日でなければ、こんな目に遭わずに済んだ。よくよく考えてみると、何も自分に得なことがないではないか。
 瞬間、天地の虎が咆哮した。
 「クロ、やるぞ」
 「おっしゃー!!スタンバイオッケー!!」
 「ちょっ、鐘も鳴ってないのに乱闘はあかんですって」
 桃香の冷静な突っ込みも、二人には届かない。しかしいくらなんでも、星奪り以外の時にこんな大人数とやり合ってはポイントを失うどころか停学にもなりかねない。桃香がはやてを羽交い締めしようと腕を伸ばした時、天に鐘の音が響いた。
 雲ひとつない今日の空にふさわしい、澄み切った音が。

2005年09月24日(土)
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