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■ 綾那争奪戦3
ケース3「エロい人たちの場合」
半分引きずりながら、それでも懸命に走って来たのだろう。少女の顔つきは必死で、息が上がって途切れ途切れになりながらも訳を説明している。背中には、少女より長身の人間が一人。まずおんぶするなら逆のポジションだろう二人だったが、今は仕方がない。 背負われているほうは、明らかに気を失っていた。鼻血も出ている。半泣きでピンク髪の少女は訴えた。 「あたしが、チューを、あやな……が、頭突きで」 なんとなく想像のつくような、つかないような。とりあえず二人を中に入れて、二人がかりでベッドに寝かせた。無道綾那。確かにこの部屋の住人で、ベッドの下の段の使用者である。 上の段使用者の順は、今まさに登校しようとしていたのだが、緊急なのでそれはパス。肩を落として綾那を覗き込んでいるはやてを見る。 「あやなぁ」 はやては自分が鼻血を出すのには慣れているのに、相方の出血にはいたく衝撃を受けたらしい。 「大丈夫だって。綾那は頑丈だから、ちょっとやそっとじゃ壊れないよ」 はやて自身、前に百人乗っても大丈夫だと言っていたような。そんな物置き並に頑健な綾那の眼鏡をそっと外して、はやてに渡した。 「じゅんじゅんの言ったとおりやろうとしたんだけどな」 「あたしは頭突きしろとは言ってないけどね」 二人の綾那好きは、昨晩当人には内緒で密談を交わしていた。 時刻は八時。綾那本人がいると殴られたり張り手されたりバイオレンスが忙しいので、いない隙にするに限る。まぁ早い話がちょっとエロい話とかを。その時も、ちょうど風呂に行っていて、待っている間暇を持て余していたはやてに、獣のお姉さんが近づいて来て言った。 「明日、綾那の誕生日なんだよ」 今年で出会って三年目。誕生日だからってそれがどうした、な態度を取る綾那でも、同室の友人ともなれば情報はばっちり。刃友のはやては知り合ってまだ数ヶ月だから、応援する気持ちで教えた。が、はやては胸を張って誇らしげに言った。 「ちっちっちっ、甘いなじゅんじゅん」 ハードボイルド風はやてと化して、どこからともなく手帳を取り出した。 「この“あやな帳”にばっちり書いてあるもんね!」 「あぁ、確かに“あやな帳”」 黄緑色の表紙には、きれいに縁取りした文字でそのまんまの題が書かれていた。中をめくると、まだ一ページ目しか使っていない。 「じゃあはやてちゃん、何か計画してるんだ?」 順があやな帳を覗き込みながらそう言うと、はやてはものすごい自信満々な顔で言った。 「ううん、全然」 「……セリフとリアクションが合ってなくない?」 「ねぇ、じゅんじゅん。あやな、何したら喜んでくれるかな」 今度は少し、真剣な色を帯びた声音だった。 「何、か。綾那は結構難しいかもねぇ、そういうとこ」 順自身、はやてに正面から聞かれて、すぐには思いつかない。同室三年目の腐れ縁でもこうなのだ。綾那という人は、わかりにくそうでわかりやすく、そしてやっぱりわかりにくい人だと、順は思う。 「ゲーム、は綾那は好きなものは自分で買っちゃってるからなぁ」 発売日に買って、やるかはともかく手には入れてしまうタイプ。やってないソフトも相当あった。 「8月から誕生日ルールあるし、はやてちゃん大変かもね」 誕生日ルールのことは、剣待生全員に通達があった日から、律儀に施行されていた。その内容は、ちょっとばかり聞いた感じの内容とは違ったが。 「誕生日ルール……」 はやての顔が一層引き締まる。 「『何だっけ、それ』っていうボケはなしね、はやてちゃん」 「すごーい、どうしてわかったの!ウスパー!?」 「それを言うならエスパーね。っていうか、やっぱり知らなかったんだ」 はやてがまだ学校に来て間もない頃、相方となった綾那は星奪りルールをはやてに叩き込むのに苦心していた。炸裂した技の数と流れた血の量は計り知れない。新しいルールが一つ増える度、綾那とはやてコンビは血の滲むようなやり取りをして(比喩でなく)、理解していった。 「ま、簡単に言うとだね」 誕生日の人間を連れて星奪りに参加して勝つと、ポイント4倍。 順は「大サービスだよね、まったく」と言って片手の指を四本立てた。 「すごー!」 「だから誕生日の人間は、その日一日『刃友以外の人から誘われる』ってわけ」 「え?」 無邪気に目を輝かせていたはやての顔が、一瞬固まった。 「でも、でもあやなの刃友はあたしなのに」 「もちろん、本来の刃友だってOKだよ」 ただ、第三者から誘われて、共に戦うことが可能なだけで。はやての頭にも、事の重大さが届いたらしい。そのまま固まってブルブルと頭を抱えている。 「いやだぁー!あやなは誰にも渡さないぞー!」 両腕を上げて、ガッツポーズを決めるといきなり外に飛び出て行ってしまった。残された順は口をあけて、呆然とはやてが出て行ったドアを眺める。 「大丈夫かな」 興奮して落としていったあやな帳を拾い上げて、ため息をついた。
2005年09月18日(日)
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