池ポエム
ハンス



 

 「チャックに手がかかった時が一番燃えるね」
 色んな意味で燃えている陸路がコップを振り回しながら言った。
 「あー、あの首まである上着ね。あれが降りるのが浅葱の合図なのか」
 隣で千歳が口を緩ませてうなずく。何かを想像しているらしい。
 「?」
 その隣では佑が一人ウーロン茶を手に曖昧な顔をしていた。
 「それでさ、癖なのか知らないけど、目ぇ逸らしてゆっくり下げてくんだよ。真っ暗な中で、シーンとしてんのに、時間かけて」
 「うわ」
 状況が鮮明に千歳の脳裏に浮かぶ。いや、暗闇に徐々に浮かび上がる白いものという連想が頭に貼りついた。今話題にのぼっている彼女の肌の白さを独り占めしているかと思うと、目の前の同僚がややうらやましい。
 「よく待ってられるね、陸ちゃん」
 「千歳さんならその瞬間に飛びかかってるか」
 「その通り」
 目だけで笑って、二人はうなずきあう。妙なところで気が合うのだ、といわれているが主に気があっているのは変態さだけなのではないかと思う。佑はウーロン茶を注ぎに立ち上がった。かれこれ一時間居座っている陸路は帰る気配を見せない。陸路が帰らないと、佑はうるさくて眠れない。
 「ふぁ〜」
 台所であくびをする。黄色と橙の皿とコップを流し場に置いて、明るい光が漏れてくる方をぼうっと見やる。ぼそぼそとした秘密の会話が少しだけ耳をくすぐる。内緒話をする声は少しも静かではないのに、無性に耳の回りを撫で回されているようだ。そのまま椅子に座り込む。台所に座り場所がない、と突然言い出した千歳が昨日買ってきた木製の椅子だ。
 「先輩はオレンジとか茶色とか、そういう色が好きなんだな」
 白い肌に灰色の髪、青い目なんかしてると自分にない色を好きになるのかもしれない。
 [つづく]

2003年01月12日(日)
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