池ポエム
ハンス



 幻想水滸伝第5回『家族』

 グレミオは先ほどから一定間隔で窓に映る茶色の頭を気にしていた。すぐに声をかけに行きたかったのだが、何しろこの時間帯は夕食の支度に忙しい。映る度横目で見つつ、声をかけるタイミングを探していた。
 鍋を火にかける前までの下準備が終わった。台所を適度に片付け、少年のところへ行くために外へ出た。ちょうど裏戸の辺りを少年は通りすぎようとしていた。グレミオに気付くと、彼はちょっと戸惑うような顔をした。
 「テッド君、中に入って待っていたらどうですか。」
 「あー・・・見つかっちゃったか。」
 テッドと呼ばれた彼は苦笑いした。あれだけ長時間家の周りをうろついていて見つからない方が珍しい。子供っぽい仕草はこの少年の特徴だ。年はソラと同じぐらい。ソラの遊び相手、そして親友。
 「坊ちゃんならじきに帰ってきますよ。」
 柔和な態度で中へ招き入れる。れっきとした男性ながら、どこか人の心を和ませる物腰をした男だ。マクドール家の下男で、グレミオという。テッドはもちろん、誰も彼を嫌う者などいないだろう。金髪に端整な顔立ちながら、どこか愛嬌のある青年だった。
 「びっくりさせようと思ったのにな。」
 口を尖らせて中へ入る。そんなテッドを見てグレミオは苦笑した。テッドはいつものように、二階のソラの部屋に勝手に上がっていった。家の者は彼がこのマクドール邸でうろうろしてようと、決して何も言わない。家族ではなかったが、家族同然のものとして、家に馴染んでいた。グレミオは階段を上がっていくテッドの後姿を見送って、また台所に戻った。この家は、一階に父テオの部屋と部下二人の部屋、台所があり、二階に大広間とソラの部屋がある。帝国将軍の邸宅としてはかなり地味な方だ。同じ帝国将のミルイヒ・オッペンハイマーなどは薔薇の花咲き乱れる華美な自宅を構える。もっとも、彼ぐらいなもので残りの帝国将たちは至って地味な家を持っている。質実剛健な国風のせいかも知れない。
 グレミオは今日のこの日のためにいつも以上に料理の腕をふるっている。彼の料理は絶品で、そこいらの料理人にも劣らない。マクドール家は地味だが、宮廷の料理に勝るとも劣らない食事が食べられる点では、帝国将たちの中では抜きん出ている。ソラはそんな愛情のこもったグレミオの食事で育った。食事だけではない。グレミオという男の持ち合わせている愛情そのものをありったけ受けて育った。母のいないソラに、それは有り余る幸せだった。

2002年03月02日(土)
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