十夜一夜...Marizo

 

 

物より人でお願いします。 - 2006年11月07日(火)


すっごい昔、昔に
清水の舞台から飛び降りるぐらいの気持ちで
傘を買った。

そう、傘。日傘じゃなくて雨傘。


それまでの私の傘は赤とか黄色とかの
色が一色だけで手元のボタンみたいなのを押すと
バーンと広がる傘だった。

それが18歳で会社に入った時に
会社の先輩方が持っていた傘は
花柄だったり幾何学模様だったり
綺麗で華やかな色の傘ばっかりだった。


私もその華やかな傘が
すごく欲しかったんだけど
傘よりも先に通勤の時に着るOLらしい
服や靴やかばんを買わなくてはいけなかったし
なにより私が欲しいと思った傘は
ブルーのチューリップ柄で五千円もしたのだ。

当時の私にとって、たかが傘ごときに
五千円は高価すぎて手が出なかった。


入社した年の冬のボーナスが16万円だった。
当時、うちの会社は現金支給だったので
それまで一万円札を16枚なんて持ったことが
なかったからすっごい嬉しかった。


父と母にそれぞれプレゼントを買って
そしてやっと欲しかったブルーの傘を買った。


あの時は嬉しかったなぁ。
早く雨が降らないかなぁと本気で思った。


そしてやっと待ちにまった雨の日
その五千円もする高価な傘を無くした。



あの時は悲しかったなぁ。

地下鉄のトイレに忘れて
気がついて戻った時にはもう無くなっていた。
駅の事務所にも問い合わせて
忘れ物センターにまで見に行ったけど
届いてはいなかった。
ちょっと泣きながら家に帰ったんだよね。
いや、ほら、子供だったしさ。


その後、しばらくして新しい傘を買った。
でもそれはいつ無くしてもいいようにと
バーゲンで安売りしていた
グレイに黒い線が入った
全然華やかじゃない傘だ。



その傘を気がついたらもう20年も使っている。
内側の針金はところどころ錆びているけど
使えないことはないし
何よりどこに忘れても(←特に飲食店)
必ず戻ってくるのだ。


華やかなものには縁がなくって
暗くて地味なものに縁があるのかなぁ。
本当に欲しいと思ったものには縁がなくて
どうでもいいやと思ったもの達と一緒に暮らすのかなぁ。


こんなこと考えてちょっと
おセンチになっちゃうのって
やっぱり秋だからかなぁ。
Marizo









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