日曜日の事。 - 2004年02月01日(日) ※ 重要な事 「自死」に関する記述があります。 うつ病の方は病状を悪化させる事も 考えられますので 読まないで下さい。 珍しく 家族三人が揃った日曜日。 前日の土曜日から 「排雪」(除雪のもっと大掛かりなもの)が 入っていた為 朝から近所中のおじさん、おばさんが 家の周りの雪を道路に出し 持っていってもらう為に 外に出ていた。 寒かったけれど、朝から晴天であった。 姉が「お昼どうする?そうめんゆでるけど 食べる?」と言った。 「食べる!食べる!」 時刻は12時を過ぎていた。 母が外から帰ってきた。 姉が作った三人前の そうめんが出来た。 姉が「ゆず胡椒」がないと言い 冷蔵庫の中を捜していた。 「ゆず」が好きではない私は 知らん顔でそうめんを食べていた。 「なんで?なんで?なんでないの?」 「あんなに残ってたのに・・・」 ピーピーと冷蔵庫からの電子音が響く。 「あっっ!!あったっっ!!!!」 「コチュジャンかと思ってた。」 「あーもー のびちゃった。しょんぼり。」 知らん顔の私はすでに三分の二ほど食べ終えていた。 電話が鳴った。 一番近くに私が座っていた。 受話器をあげ 「もしもし」と言い終わらないうちに 女の人の笑い声が聞こえた。 いたずら電話かと思った。 「ん?えいこさん(仮名)?」 「あーあーあー お父さんが、お父さんがぁ 死んじゃったぁ。 たすけて、たすけてぇ〜」 慌ててはいけないと思った。 立ち上がり 自分に言い聞かせるように 「落ち着いて、救急車は呼んだ? いますぐ救急車を呼んでっっ」と叫んだ。 「助けてー早くきてー」 「大丈夫。今すぐ行くから」 笑い声だと思ったのは 近所のおばさんの 悲鳴に近い助けを求める声であった。 電話を切った私を無言で見つめる母と姉。 「近藤さん(仮名)のおじさんが 首つったみたい」 母は すぐさま先ほどまで着ていた 除雪用のジャンパーを手にしていた。 姉が「ママちゃん。携帯持っていって」と叫ぶ。 「どっちの家?」 「上の家?」 「火を消さなきゃ」 「鍵持ってる?」 すでに母は家を飛び出していた。 「今、12時58分」なぜか私は時刻を口にしていた。 歩いて3分ほどのその家に近づいた時 開けっ放しの玄関から 「おとーさーん、あーおとーさーん」という 声が聞こえた。 思わず玄関の扉を閉めた。 二階だ。 階段を駆け上がった。 そこには あきらかに不自然に 宙に浮いているおじさんの足と そのおじさんにすがって泣いている おばさんがいた。 「どうして、お父さん あー居れば良かった。家にいれば良かった。 どうしよう、どうしよう」 遅れてきた 福田さん(仮名)のおばさんが 二階に上がってきた。 「えいこさん(仮名)・・・」 と言ったきり おじさんの姿を見た瞬間に 言葉にならずに 目をそむけた。 怪我人でも病人でもない 限りなく 死体に近い人間を はじめてみた。 恐かった。おじさんもこの場所も すべてが恐かったけれど 確かめずにはいられなかった。 私は手を伸ばし おじさんの手にさわっていた。 冷たい。冷たいけれど 柔らかい手だった。 必死に脈を探った。 人がその脈を打たなくなって どれぐらいで 冷たく硬く 魂の抜け出た 物体となってしまうのか そんな事は知るはずも無い。 「硬直してないっ! 硬直はしてないっ!」と叫んでいた。 一足先に来ていた母がかけた 119番から折り返し電話が来ていた。 「おろしていいかどうか聞いてっ!」 「おろしていいかどうか聞いてっ!!」 姉が「おろしていいって」と叫びながら 階段を駆け上がってきた。 納戸の中には おじさんとその横には梯子と 梯子の下に おじさんのものであろう スリッパとそして 目の前の棚には スーパーの透明な袋に入った ビニール紐の束があった。 「はさみ、はさみ、 誰かはさみ」と叫びながら 手当たり次第その辺の引き出しを開けていた。 「おろすから手伝って」と姉が叫んでいる。 福田さん(仮名)のおばさんが 「これは・・」と言って花鋏を持ってきた。 おじさんも上ったであろう梯子の階段に上る。 紐を切った瞬間に おじさんの上半身が倒れ その辺の棚に頭をぶつけたら 大変だと考えていた。 もう息もしていないおじさんなのに。 姉と母と福田さん(仮名)のおばさんが 必死におじさんの体をつかんでいる。 おじさんと同じ位置に立ち ピンと張った紐をつかみ 「切るよっ」と言った。 首から後ろに伸びている二本の紐の近い方を切った。 おりない。 一本の紐におじさんの全体重がかかるのがわかる。 無我夢中で 腕を伸ばしもう一本の紐も切った。 その後の姉と二人での蘇生処置。 薄いセーターと下着の白いシャツをハサミで切った。 姉が拳で おじさんの胸を叩く。 そして「いち、に、さん」と両手で押す。 「まーちゃん、二回入れたら10回押してっ」 なんの事かわからないまま 心臓マッサージを替わった。 姉が人工呼吸をした。二回息を入れる。 「いち、に、さん」と 10回 おじさんの胸を押した。 取り除いた筈の紐が まだきつく絡まっているかのような 首の黒い跡を見ながら 何回 おじさんの胸を押しただろうか。 慌ただしく玄関から 「現場は?」と救急隊員が飛び込んできた。 「上ですっ」 心臓マッサージをそのまま引き継ぎし 搬送されるおじさんを 見送った。 突然 静かになった家の中で 妙に冷静におじさんの心臓が 再び動き始める事はないだろうと思った。 多分、姉もそう思っていた。 警察が到着し鑑識と刑事さんが到着 何度も何度も同じ事を聞かれる。 おばさんから電話が来た事、 119番でおろしていいと言われ おじさんをおろした事、 母と姉と私の生年月日から携帯番号まで聞かれた。 警察の人の無線で おじさんの死亡が確認された。 主の誰もいない家に とりあえず 母と福田さん(仮名)のおばさんを残し 買い出しや炊き出しの為 一度 姉と家に帰った。 母の綺麗に食べ終わっているものと 私の 残り三分の一のものと 姉のほとんど手付かずの そうめんの小丼が 置きっぱなしになっていた。 申し訳ないと思いながら 私ってひどい人間だと思いながら 手を二回、石鹸でゴシゴシと泡立てて洗った。 この世には祖父母や父母、叔父叔母、 親戚達の 病院での穏やかな死にしか 立ち会わない人もいるであろう。 おそらく 私はそれ以外の多くの 不幸でやりきれない死というものを 何度か経験している。 おじさんが死んでしまった事に 「どうしてこんな事を」と泣く事はもうない。 何度も経験をすることで 不幸な死に「慣れ」てしまう現実。 その昔 母がインチキ坊主に 「次女は仏縁がある」と言われた事を思い出した。 そうなのかもと 少し思った。 買い出しに行き家に運んだ。 ご飯を炊き おにぎりを作り家に運んだ。 おでんのような煮物をつくり 家に運んだ。 おじさんが家に戻ってきた。 挨拶をし、焼香をし 母と姉と家に戻ったのは もう12時近かった。 これが 日曜日の出来事だった。 この十夜一夜に、この日曜日の事を 書こうかどうしようか 非常に悩み、考えました。 そしてこれがその結論です。 これを読んで過去の辛く悲しい気持ちや場面が フラッシュバックしてしまった方や 不快な気持ちになってしまった方には 申し訳なく思っています。 本当にごめんなさい。 私は大丈夫です。 ため息の数が少なくなったら いつもの MZOと十夜一夜に 戻ります。 Marizo -
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