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梅子
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2019年06月24日(月)
三浦しをん先生トークレポ

2019.6.24、
三浦しをん先生と、書評家・永江朗さんのトークイベントが、
京都産業大学で行われました(学生以外も参加可能)。
お二人は、事前に募集した質問を読みながら、トークされてました。

■「風が強く吹いている」について■
詳細なプロットノートを、スクリーンに映して見せてくださいました。
1〜10区まで20大学、全ての選手のタイム表
作中に出てこない選手まで、全て設定がある。
ある年の箱根駅伝のレースを参考に作成されたそうです。


三浦:タイム表が細かすぎて、
頭おかしいと思われるでしょうけど、電波を受信したわけではないんですよ!
原稿の時点では、主人公の学校は「法慶大学」でした。
法政大学と慶應大学を足して。
けど編集さんが「響きがちょっと」とおっしゃるので、
「寛政大学」に変えたんです。もちろん、私は読み方も計算してつけたんです!
誰がどこの区を走るのかは、実際に箱根駅伝を走った大学の監督にも
「俺ならこの選手を一区にするね〜」等と意見を聞きました。
選手が10人しかいないので、往路1区の人が復路10区の付き添い、
という風に、選手同士が全員、誰かの付き添いをします。
それが時間的に可能なのか。
当時はジョルダンとかネットの時刻表がなくて、紙の時刻表を見ながら計算しました。

永江:「点と線」みたいだよね。

三浦:そうです。時刻表を片手に、清張先生は「点と線」を書き、
私はかぜつよを書きました。
ハイジと走は一応仲良くて、ニコチャンとユキも仲良くて、
キングは誰とも仲良くはない感じです。

プロットノートにキャラクター相関図がありました。
確かにキングさんは誰ともつながってない。
双子と王子、ムサと神童はつながってた。
ハイジと走は「一応」ってつくの、なんでなんでしょうね? 
活字倶楽部のインタビューでも「実際はそんなに仲良くない」
みたいなことをおっしゃってましたね。
走のキャラ設定に「ハイジさんについていく」ってあって可愛い。
双子の説明で「一人だけに彼女が? 揺れる二人の心」
みたいな記述がありました。
プロットノート、アオタケの見取り図の横に、大家さん家が描いてあったんですが、
ニラのイラストも手描きされてて、可愛かった。
次々と画面をスクロールしていかれる。
三浦先生が大学職員さんに「そんなに拡大しなくていいです。
じっくり見てもらうようなものじゃないし」とおっしゃってましたが、
私はじっくり見たいです!!(涙)


三浦:箱根駅伝って1年に1回なので、
取材できる量は限られてて、書くのに時間がかかりました。
DVDも出てないので、駅伝オタクにビデオを借りました。
書下ろしなので、最後まで書き終わっても、タイトルが決まってませんでした。
箱根駅伝を見たら、アナウンサーの人が「風が強く吹いています」
と言ってたので「これだ!」と。
母が小田原出身なので、よく沿道で応援してたそうなんですよね。
私も箱根駅伝は前から好きで。
ドラマ性があるし、皆、箱根駅伝が大好きだから、
私の小説も売れるはずと思って出版したら、売れなかったです(笑)
よく考えたら、関東の大会なんですよね。
関西の皆さんは箱根駅伝は見てませんか?
私は裏番組があることにも気づかないくらい、日本人は全員、
箱根駅伝を見てると思ってました。
箱根にも取材に行ったんですけど、寒くてお腹を壊して死にそうでした。

永江:作家さんはスポーツする人が多いよね。
桐野夏生さんはボクシングとバレエやってるらしいよ。
三浦さんはしないの?

三浦:運動したくないです! 絶対に嫌!

永江:このプロットノート、全部手書きなんだね。

三浦:原稿執筆はパソコンですが、取材のメモとかプロットは全部、手書きです。
その方が頭が働くみたいです。

風強は、最初にきっちりプロットを決めて書くので、
途中でラストを変えることはなかったそうです。
他の作品は、描いてる途中で、ラストが決まってないこともあるそう。
三浦先生が風強のプロットノートを出して話してくださったのは、
京産大の学生さんから「取材はどうしているのか? 
どうやって小説を書いているのか?」という質問があったからでした。
ありがとう学生さん。

席は、関係者席と一般席に分かれてました。
一般席の前の方に座ってたら、開始前に、三浦先生が隣に座らはって、
めちゃ緊張しました。
最初は大学関係者の挨拶があって、15分くらいお隣同士でした。うわー。
若々しくて女性らしい方でした。
三浦先生の履いてらしたスニーカーは、風強のコラボ商品
(走モデル)でした。ネイルも靴とおそろいの紺色で可愛い。


**********
■かぜつよ以外の話■

永江:「ののはな通信」は書簡体小説ですね。なぜ書簡体で書こうと?

三浦:書簡体なら、相手に情報を隠すことができるというのが興味深いなと。
三人称だと情報を隠すとフェアじゃないけど、書簡体なら全部書かないのは当たり前なので。

永江:参考にした本はある?

三浦:無いです。宮本輝さんの「錦秋」や、連城三紀彦さんの作品、書簡体は素晴らしい小説がたくさんあるので、読み返したら、自分は書かなくていいやって思いますから。

永江:「ののはな通信」は、島清恋愛文学賞と河合隼雄物語賞を受賞したんですよね。

三浦:そう。ところで、机に貼ってある肩書なんですけど、なんで直木賞作家なんでしょうね? 
他の賞でもいいのに。

永江:可愛いだけの女子じゃない、怖い面もあるところが、女子高出身の三浦さんらしい描写です。

三浦:この世に可愛いだけの女子なんていません!

永江:タイトルのつけ方について、質問が来てます。

三浦:連載前に予告を出す時、まだ原稿を書いてなくて、
けどそんなことは言えないから「鋭意、製作中です」みたいな顔をして「『まほろ駅前多田便利軒』、タイトルはこれしかないですね」と伝えました(笑)
「まほろ駅前多田便利軒」は、まほろ駅前で多田って人が便利屋をやってる話だから。
そのまんまなタイトルですね。
私はタイトルつけるの苦手ですね〜。
「内容そのまんま系」か「本文を読んでから意味が分かる系」(「愛なき世界」など)のどちらかでつけることが多いかな。
「舟を編む」は、私が舟という言葉を考え、
編集さんが「編むはどうですか?」と言ってくださったので「いいね!」と。
私は、ネットで自分の本の感想を見るの大好きなんです。
鋼のメンタルなので。
…うそです。気にします(笑)
「愛なき世界」は「最後まで読んだけど、タイトルの意味が分からない」って感想を見たんですよ! 
なぜ!? 私の書き方が悪かったのかしら。
夏目漱石は、合ってないタイトルが多いですよね。
それから、門、彼岸過迄、とか。
森鴎外は、中身にぴったりなタイトルが多い気がします。
阿部一族、高瀬舟。

永江:ラノベでは長いタイトルが増えたんですよね。
「俺の妹がこんなにかわいいはずがない」くらいから。
設定を細かく説明しないと、売れない時代なんでしょう。

三浦:タイトルも作品の一部と言いますから。短編は特に。

永江:質問。「取材はどうしてますか?」

三浦:「舟を編む」は、広辞苑と日本国語大辞典の編集部を1〜2回、取材しました。
辞書作りの本はたくさん出ているので、本を読んで調べました。

永江:北原保雄さん(名鏡国語辞典を作った人)は「『舟を編む』は正確に描かれている」
っておっしゃってましたよ。

三浦:それはありがたいです。
「光」は取材してないんですよ。出てくるのも実際に知ってる街で。

永江:次は、装丁はどうやって決まりますか? という質問です。

三浦:ハードカバーは「こういう装丁にしてください」とイメージを伝え、
装丁家さんも指定することがあります。文庫はお任せですね。

永江:「愛なき世界」はカバーを外した、本体に仕掛けがあるんだよね。

三浦:帯も編集さんが書くんですけど、人によって個性があって、
寝言? っていうようなポエム書く方もいらっしゃって(笑)面白いです。

永江:講談社現代新書は、昔、カバー裏にまで文字を印刷してたんだよ! 価格との闘いだね。

三浦:私は本屋さんでジャケ買いすることもあるので、表紙は大事ですね。
…あれ? 今の学生さんってもうジャケットが分からないかな? CDで音楽を聞かないですよね。
本文も大事。字組が読みにくいとか、余白が少ないとか、誤植が多いとか、雑に作られた本は「私に校正をさせてください!」って言いたくなります。中身が良いのにもったいない。

永江:次は、就活についての質問です。「Sという出版社を受けたのですが
『格闘するものに〇』のK社のような面接でした。私は落ちましたが、主人公のセリフにスカッとしました」。
(※「格闘するものに〇」はデビュー作で、三浦先生自身の出版社の就活体験を書いた作品です)

三浦:許せませんね! それは怒っていいです。圧迫面接をするような会社はいずれ滅びます。間違ってると思ったら、堂々と世に訴えていいんですよ。

永江:他にも「『格闘するものに〇』でS社とK社をこき下ろしていましたが、作家になってから、仕事に不都合はありませんでしたか?」という質問が。

三浦:支障はないです!

永江:三浦さんは就活中に、小説家としてスカウトされたんだよね。

三浦:そうです。出版社の入社試験の作文を読んだ編集さんが「作家になれば?」って言ったんですが、
当時は(こっちは何十社と落ちて、この会社に通らなかったら無職なんだ! いいから私を編集者にしろ!)と思っていました。

永江:コネ入社とか、なかったの?
(※三浦先生のお父様は、有名な国文学者です)

三浦:ないです!

永江:7月に川合隼雄物語賞の授賞式で、また京都に来るよね? 
「ののはな通信」はKADOKAWAの本だけど、他の出版社の編集さんもぞろぞろ来るの?

三浦:私、そういうの大嫌いなんです! たまに、編集者にベビーシッターやらせたり、引っ越しを手伝わせる作家がいるけど、公私混同じゃないですか?
「物語全体に怒っている雰囲気を感じますが、怒りが創作のエネルギーなんですか?」という質問もきています。その通りですね!

永江:三浦さんって、小説は最初から順番に書くの?

三浦:そうです。小説を書く人にはわかってもらえると思うんですけど、
冒頭って肩に力が入って「傑作書くぞ〜」ってなるんです。でも段々、力が抜けてくる(笑)

永江:高橋和巳さんはバラバラに書いてたそうだよ

三浦:私には無理ですね。凄いです。

永江:「愛なき世界」は、主人公たちが最後どうなるかは決めてたの?

三浦:最後、主人公がどういう気持ちか、どういう世界が見えるのかということは考えてましたが、
くっつくかどうかは成り行きで。「ののはな通信」は、最後、二人がどういう気持ちになるのかは決めずに書いてましたね。

永江:「ののはな通信」は、最後、世界が広がりを見せて終わるよね。続編を書いてほしい。
ところで、最近読んで面白かった本は?

三浦:最近、本をあまり読んでないんですよね。
EXILE一族のDVDを見るのに忙しくて。せっかく「読書の楽しみ」っていうテーマのトークイベントに呼んでもらったのに。

永江:僕が今日、ラジオで紹介したのは「日本人は「やめる練習」が足りてない」(野本響子)です。
マレーシアは、学校も部活も仕事も、すぐやめてチェンジするんだよ。小学校に入るのも何歳でもいい。学校の先生もすぐやめる。日本も、いじめで悩むくらいなら、これくらいゆるい考え方の方が良いよね。

三浦:むちゃくちゃ良いですね。しなくていい苦労を強制するって、大嫌いなんです! よく「我慢や苦労が人を育てる」って言う人がいますが、そんなわけあるか!

永江:他には『我らが少女A』(高村薫)。これはまだ発売前です

三浦:合田刑事シリーズですね! 絶対読みます!

永江:高村さんって大阪にお住まいなのに、東京の地理に詳しくて、非常にリアリティのある描写だよね。凄い才能。

三浦:私が面白かったのは「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」(ブレイディみかこ)です。
イギリスに住む、日本人&アイルランド人夫妻の息子の話。
イギリスは階級社会。主人公はハーフなので差別されて、でも白人でも自分より貧しいクラスメイトはいて。関係は複雑。
文章がエッジが効いてて上手くて、今の世界の状況を、中学校というフィルターを通してみることができる、優れたノンフィクションです。

永江:最近、中国の作家が日本で人気だね。「折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー」収録の短編が良かった。北京がおりたたみ式になってるっていう設定の短編。
北京の人口が増えすぎちゃって、上流の人はずっと地上に住んでるんだけど、中流・下流の人は、地下をシェアして住んでる。
映像化も決まってるんだ。作者は郝景芳(かくけいほう)。数学か経済学で博士号2つ持ってて、凄い美人なんだよ。
「ノースライト」(横山秀夫)も良かった。建築家の話。横山さんだから、どんな惨劇が待ち受けてるのか…とドキドキしたけど、良い話だった。
ドイツ在住の詩人が書いた「前立腺歌日記」(四元康祐)もいい。病気の話でもあり、詩でもある。

三浦:私はBLを読みますからね。前立腺という言葉になじみがあります。…こんなシモの話を、大学でしても大丈夫でしょうか?

永江:昨日、書評を書いたのは「老いと記憶」。脳トレってボケ防止に効果ないらしいよ! ポケモンGOが脳には良いらしい。知らない場所に行くからね。
僕は慶應大学で授業をもってて、その生徒に、なんとか坂(欅坂か乃木坂?)がいるらしいんだけど、テレビ持ってないから、顔が分からないんだよね。

三浦:芸能人の名前、覚える以前に知らないわけですね(笑)

永江:20代の女性は皆、同じ顔に見えるんです。

三浦:私もEXILEにハマる前は、そう思ってましたよ(笑)でも、今は違うんだって分かりました。

永江:質問です。「どうして読書だけが推奨されるのでしょう。楽器やスポーツでも良いではありませんか」

三浦:本当にそうですよね。「大学生の読書時間が短い」って言いますけど、「大学生の1年間の楽器演奏時間が0時間」という新聞記事は出ないじゃないですか。

永江:「読書の楽しみ」ってお題で呼ばれましたけど、こんな楽しいこと、自分一人で独占したいです。
「大学生の5割が、1年の読書時間0」って記事が新聞に出ましたが、あれにはカラクリがあります。
医学部生・薬学部生が一番読書時間が短いんですが、一番多く勉強してるのも医師薬生なんですよね。逆に、一番勉強時間の短い文学部生が一番本を読んでいるという。

三浦:本当ですね。ただ、あえて読書の良さをあげるなら、自分の心を理解し、人の気持ちを想像するには、言葉が必要だということです。
言葉を知らなければ、モヤっとした情動があっても、自分の感情を把握できない。
それを身に着ければ、例えばスポーツで強くなることにだって、役立つのではないでしょうか。
ただ、私も実用書は読む才能がなくて、理解できないんですよね。
ドストエフスキーも読んでない。数年前、仕事の企画で読んだ「罪と罰」だけ。他は読んでないです。「罪と罰」はエンタメで面白かったですね。

永江:記憶に残ってる、小説の一文ってあります? 私は「完璧な文章などといったものは存在しない。完璧な絶望が存在しないようにね」(村上春樹)です。

三浦:春樹の主人公がいかにも言いそう〜! 私は「生が、そうであるように、死もまた永遠ではない」(丸山健二)です。

永江:自分で描いた作品って読み返します?

三浦:全く。本になる時は、嫌になるくらい読み返してチェックしますけど、本になってしまった後は、読み返しませんね。

大学の方:「10月発行の『リブ』(京産大の広報誌)にて、今日のトークを特集しますので、お楽しみください。webにも掲載されます。

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身近にかぜつよ友達がいないので、トークイベントから帰ってからも、誰にも興奮を直接伝える機会がないです。
良かったら気楽に、質問等あればください。
ekiden

ekiden newsさんのツイートを引用。