歌舞伎役者と浪人の恋を描いた、歴史小説です。 当時の風俗が活き活き描かれていて、歌舞伎に全然詳しくない私でも、この世界の仕組みや状況が、自然に頭の中に入ってきました。脇役の俳優達、興行主、奉行、幕府といった周りを取り巻く人たちの描き方が上手いです。 実在した、八代目市川団十郎が主人公なのですが、彼は人気絶頂の最中、32歳の若さで自害してます。その理由は謎ですが、このお話の中では、暗い過去を持つ浪人・宮永との恋に破れたため、となっています。 これが、恋なんていう生やさしいものではなく、全身全霊をかけて、団十郎は宮永を愛し抜くのですが、宮永には事情があって、それに完全に答えることは出来ない。団十郎もそれは分かっていて、でも自分を止めることは出来ない…。見ていて、とても歯がゆく、切なくなりました。 宮永の盲目の妹(実は娘)小菊ちゃんと、彼女を見守る二人の幼なじみ、重蔵と駒三の行方にもやきもきしました。三人とも、健気で良い子なんですよ。そして、団十郎の弟・猿蔵は本当に嫌な奴。最後、どうなるのかと思っていたら…。でも、宮永には本当のことを知っていて欲しかったな。 ハッピーエンドとは言えないけど、色んな人の生きざまが胸に残り、結局人は一人なのだと思わされながらも、心に残るお話でした。 この本は、いってしまうわさんのレビューで知りました。こちらの方が遙かに的を得たレビューですので、よろしかったら、ご参考にどうぞ。 すでに絶版なのですが、文庫より全集の方が、図書館に置いてある率が高いみたいです。もし興味を持たれた方がいらっしゃったら、「杉本苑子全集<3> 傾く滝」で探してみてください。
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