「隙 間」

2012年08月12日(日) 特別阿保列車〜土佐編その二〜

さて。

土佐の高知のはりまや橋に、
坊さんかんざし買うを見る。

突然の大雨、しばらくしてやんだかと思えば、また大雨。

その繰り返しであった。

天気予報は晴れ。
なのにいつも傘の仕度。

であるわたしは、折り畳みの傘を旅先にも忘れてなどいなかったのである。

しかし。

踊り子らは、熱く、晴れ晴れとした笑顔で、踊っているのである。

これには、傘などまったく不要である。

よっちょれよっちょれ♪
よっちょれよっちょれ♪

祭りだ、祭りだ♪
上町よさこい鳴子連♪

ほにや、ほにや♪
ほにやよさこい♪
ほにやよさこい踊らにゃ損損♪

いつまでも、この中に居続けたい。

旅の前に、そんなに好きならどこかの連に参加すればいいじゃないですか、と言われたのである。

しかしわたしは、決まってこう答えた。

「参加してしまったら、他の連が観られなくなるじゃあないか」

もはや全国によさこいの連がある世の中である。

我が実家がある千葉県にも、柏や稲毛に全国大会に参加できる優秀な連があれば、都内にだってもちろんさらに沢山の連がある。
しかも、本場高知の優秀常連組の連に追い付け追い越せといった連が多数あるのである。

しかしわたしは、それら上手い下手でなく、すべての連のはち切れんばかりによさこいを楽しんでいる踊り子さんらの笑顔を、観たいのである。

つまり、だから、上手い下手や好みかどうかの前に、目一杯、よさこいを楽しんでる、踊っている顔が見られない連には、わたしは一気に興ざめしてしまうのである。

その中で、わたしがいつも、感心を通り越して脱帽し、ペチりと額を叩かされてしまう連がある。

サニーグループよさこい踊り子隊SUNNYS

である。

四歳くらいから中学生までの子どもたち(女児・女子)ばかり百名以上で構成された連である。

よさこい「萌え」担当ということで、その可愛らしさはもはや全国区で有名かもしれない。

しかしその「萌え」だけにとらわれては大事なところを見逃してしまう。

彼女らの全員が、常に、全力で笑顔なのである。
そして、その笑顔で、曲を楽しそうに歌いながら踊っているのである。

芦田愛菜らを輩出したテアトルアカデミーの子役らでも、おそらく全くたちうち出来ないだろう。

もし仮に、わたしが高知に暮らして娘がいたとしたら、間違いなくこちらの連にどうにか参加させていただきたいと思うだろう。

そして本命の「ほにや」はもはや鉄板である。

こちらも、もし娘がいたら、ほにやで踊る娘の姿を、パネルにして居間の壁から決して外さないだろう。

ほにやの踊りは、まさに「たおやか」なのである。見ている者は思わず目を奪われてしまう。

人気は絶大で、登場すると「ほにやぁー」「キャアァー」などの歓声奇声拍手喝采があがる。

これはもはや浜崎あゆみや安室奈美恵のような人気実力アーティストのようなものである。

そして揺るぎなく名実共にトップにあり続ける「粋さ」「格好よさ」「貫禄」がある連として、「とらっく」「帯屋町筋」「上町よさこい鳴子連」「旭食品」等々もまた、「見事」である。

ここでまだ、わたしがお気に入りなのに名が出てきていない連がある。

今回わたしが「やられた」のは、「國士舞双」である。

まごうことなき、実力・歴史・人気共にトップの連のひとつである。

今回の「國士舞双」のテーマは、「あなたのこころをいただきます。ねずみ小僧」であった。

ああ。
もはや節操なくよさこいにやられてしまっていたわたしは、「やっぱり」貞操を守りきれなかった。

まるっきり「蔵理素にそう告げて敬礼をした銭形」状態である。

彼らの受賞チームの大体が、「原宿表参道元氣祭り」で開かれる「スーパーよさこい」に出場するのである。

8月25日26日の二日間。

ああ。
もう。
盆休みからの社会復帰のリハビリどころではない。

高知に落としてきてしまったわたしの魂の半分を、少しずつ埋めてゆこう。

さてここまできてなお名が出てきていない連がある。

実はその連、今回出場辞退をしたのである。

辞退の間違った理由をわたしはちらりといってしまったようなので、一応ここで正させてもらいたいと思う。

連の主宰者が、あろうことか恐喝容疑で逮捕されてしまったのである。
それはよさこいとは関係無いが、共に容疑者となった者が暴力組織関係者だったらしい。

よさこい祭りに参加するにあたって、関係者は誓約書を提出する。

「当方は一切、そのような組織との関係はございません」

祭りと暴力組織との関係は歴史も長く、込み入り、なかなか難しい問題であった。
しかしそれが、「安全・安心な祭り」を市民が積極的に取り組むようになり、また暴対法によるものやらで時代は変わってきている。

踊り子らは、一切関係無い。

名実共にトップの位置を手に入れるために努力をしてきた。
主宰によるところの様々な批判の意見があったりもするが、それもこの際は関係無い。

関係無くとも、主宰が組織と関係ありとなってしまったら、祭りへの参加など出来ようわけがない。

「それなら仕方ない」
「それなら当然だ」
「そうすべきは明白だ」

わたしはまさに「仕方ないこと」と、残念に思ったのである。

そう。

ただ残念に思った途端、不意にこみ上げてきたのである。

「仕方ないこと」と、あっさり思ってしまったこと。
わたしなどにそう思われてしまった連の踊り子らの悔しさ。

雨粒が激しく降りだしたのを幸いに、わたしは人垣に生まれた隙間にもぐり込む。

雨をものともせず、夏たちが踊り咲いていた。


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