風紋
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以前訪れ、そしていつか再び訪れようと思っていた場所を訪れた。今日は、ひとりで。
ひとりでここを歩くのは初めて。
歩いたり、止まったり、迷ったり、座れる場所を見つけて座ったり…と、かなり長い時間、その場所を彷徨っていたように思う。急に思い立って行ったので、地図も何も持っていなかったのだが、意外と、身体が道を覚えているものだなぁとも思った。この坂。この曲がり角。そう、この道。
しかし、微妙に距離の感覚がずれていたりもした。遠いと思っていた場所が意外に近かったり、その逆も。
以前訪れた時とは、季節も時間も違う。私自身も、同じ「私」でありながらも、その時とは違う私であるとも言える。あの時から、随分いろいろなことがあった。思い通りになったことも、思いがけず嬉しかったことも、思いがけず困難なこともあった。
夕焼けの空が見えた。あぁ、ということは、あの方向が西? 夕方の、少しずつ少しずつ暗くなる街。冬にしては穏やかな気温の日。風もそれほど強くない。けれど、時間のせいか、ひとりでいるせいか、妙にさびしい…気のせい?
近くの公園では、中学生らしい女の子3人がキャッチボールをしていた。ソフトボール部かな?…にしては、制服姿…。
見えないものは見えない。見えなかったものはわからない。でも、欠片ほどのものでいいから、近づきたい。「わからない」と言い切りたくはない。でも。
私はこの場所をどう見ることができるのか? 私はこの場所をどう聴くことができるのか? 私はこの場所からどのような匂いをかぐことができるのか? 私はこの場所をどう味わうことができるのか?(いや、「場所」を「食べる」わけにはいかないか…) 私はこの場所にどう触れることができるのか? 私はこの場所にどう向き合うことができるのか? 私はこの場所を大切な場所で好きだと思っているけれど、本当に私はそう思っていいのか? そもそも私はここに来ていいのか? 今日、私はここに来て良かったのか? 私がここに今日来たことは許されることではなかったのではないか?
答えのないまま、その場所を後にした。駅に戻って、電車で帰った。恐らく、ここにはまた来るだろう。来たい。でも、行ってよいのか? その答えを誰に求めればよい? 答えはあるのか?
私は私でしかない…。私以外の誰でもない…。
○ 夜、「歌劇『サムソンとデリラ』より“バッカナール”』」(サン・サーンス)(Bacchanale from "Samson and Delilah" / Camille Saint-Saens)を聴いて、泣きそうになった。今日に限って、なぜだろう。何となく私の中では“冬の曲”というイメージがあるのだ(根拠はない)。
(2003/12/23,23:45記)
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