| 2010年03月30日(火) |
こんな眠り姫はイヤだ! |
「リリィ白銀を救えたのはキミのお陰だよ、照井竜・・・」
『インビジブル・ドーパント』ことリリィ白銀の事件が無事解決した後、 『鳴海探偵事務所』でフィリップは竜に向かって嬉しそうに瞳を輝かせながら言った。
「あの危険なメモリ摘出方法を躊躇無く、しかも正確に行うとは・・・凄い男だよ、キミは。 ・・・・・・・僕のハートも逮捕されちゃったよ。」
恥ずかしそうに頬を桜紅色に染めながら小声で呟くと、 フィリップは竜の肩を両腕で抱き締め、 左頬に“チュッ”と可愛らしい音を立ててキスをする。
「何だよ!人が寝てる間に妙に仲良くなりやがって!」
ベッドで寝込んでいる翔太郎の悔しそうな声が背後から聴こえるが竜は全く気に留めない。
「フィリップ・・・ 俺への礼のキスなら、もう少し右にズラして・・・その・・・」
照井・・・じゃなかった、 照れながらゴニョゴニョと恥ずかしそうに口籠る竜の態度に “え?”とフィリップは訝しそうに眉を顰めた。
「亜樹ちゃんや翔太郎が見てるのに?・・・キミって意外と軽いんだね?」
絡めていた両腕を竜の肩から解くとフィリップは拗ねた様に頬を膨らませて、 ふいっ、と背中を向けた。
「す、すまないフィリップ!俺はそんなつもりじゃ・・・」
向けられた背中に向かって慌てて言い繕う竜の瞳の前で、 くるっと振り返るとフィリップは纏やかな唇の上に意味深な微笑みを浮かべる。
「照井竜・・・ キミは知らないのかい?キスされた後の仲直りの儀式を・・・」
「え・・・っ?」
予想外の言葉に不意を突かれた竜の心臓が“ドクン!”と大きな音を立てた。
(そう云えば、さっきフィリップは俺を殴った時・・・)
“これは翔太郎に教わった、殴られた後の・・・仲直りの儀式さ”
(・・・と云う事は、まさか・・・!)
ツヤツヤと潤ったフィリップの唇が、まるで竜を誘う様に煌いている。 その唇に魅せられたかの様に竜はフィリップの両肩に掌を乗せると、 自らの唇をそっと近付けて行く・・・
「左も粋な事を知ってる・・・」
「よっぽど良い夢を見てるみたいね・・・竜君てば」
竜が眠ったまま瞳を覚まさなくなってしまったと云う知らせを受けた亜樹子とフィリップは 彼が住むマンションの部屋にやって来た。
竜は柔らかいベッドの上で幸せそうな微笑を浮かべながら、 スヤスヤと安らかな寝息を立てている。
「何だか・・・起こすのが悪いみたいな気になるねェ・・・亜樹ちゃん」
左手の人差し指で自分の下唇の縁をなぞりながらフィリップは呟く。
「でも!ここは心を鬼にして起こしましょう!行くわよ!フィリップ君!」
「わかったよ!亜樹ちゃん!」
“せぇの!”と声を揃えながら二人は金文字で“起きんかいボケ!”と書かれた 緑のスリッパを同時に竜の頭に“スッパ〜ン!”と思いっ切り叩き込んだ。
次回 『Hな眠り姫/決死のツインスリッパ!』
「ダメだ・・・亜樹ちゃん、やっぱり起きないよ」 「やっぱ来週まで待つしかないわね・・・」
そんな訳で来週もお楽しみに!・・・なんちって(^^;)
| 2010年03月29日(月) |
こんな透明人間はイヤだ! |
(ある日の『鳴海探偵事務所』の地下ガレージ)
フィリップ 「最近『ビートルフォン』が、あまり来なくなった様だね?」
翔太郎 「ああ・・・これで落ち着いて出来るぜ・・・」
フィリップ 「ちょッ!・・・ちょっと翔太郎!? キミ、また身体が本調子じゃないんじゃ・・・!」
(“ガタンッ!”と背後で大きな音がして二人が振り返る・・・だが、誰もいない???)
翔太郎 「なんだ?今のデカい音・・・ まさかまた透明人間とかじゃねェだろうな?」
フィリップ「翔太郎、 どうやら『デンデン・センサー』を仕掛けておいた方が良さそうだね・・・?」
(所変わって『超常犯罪捜査課』)
真倉 「照井さん・・・ 最近ドーパントから排出されたメモリの残骸が ちゃんと『鑑識』へ回されてないらしいんですが何か心当たりは?」
竜 「質問は受け付けない!」
次回 『Rが見てるぜ!?/透明マジカル刑事』
『インビジブル・メモリ』は、ストーカ・・・じゃ無かった、 張込み捜査には便利そうだが、よいこのみんなは使っちゃダメだぞ!
| 2010年03月28日(日) |
こんな張り込みはイヤだ! |
(28話・腕組みをしながらリリィ白銀の自宅前を見張っている照井竜、 その背後から亜樹子が声を掛ける。)
亜樹子「いたわね・・・竜君」
竜 「帰れ。」
亜樹子「・・・とか何とか言って実はリリィさんの事心配してくれてた・・・とか?」
(竜、チラと亜樹子の方を一瞥して)
竜 「バカを言うな、もはや井坂との線はあの女しかいない。 ・・・だからここを張るしかなかっただけだ。」
(突然、二人の背後でバタバタッ!と足音がして、 振り返ると竜と亜樹子の瞳の前にフランク白銀と刃野刑事が立っている)
フランク白銀 「この男です!刑事さん!うちの孫を付け狙っているストーカーは!」
(驚きのあまり大きく瞳を見開く竜・・・そんな竜をビシッと指差すフランク白銀)
フランク白銀 「物凄い形相だな・・・まるで鬼だ! 刑事さん! この男、こんなおっかねェ顔して、毎日ずっとウチを睨み付けてるんですよ!」
刃野 「照井刑事・・・これは一体どういう事ですか?」
竜 「俺に・・・俺に質問するなぁぁぁッ!」
果たして照井はリリィ白銀の生命を救えるのか?
次回 『Rは見ていた/ストーカーはお前だ!』
刃野 「ま、言い訳は署でゆっくり聞かせてもらいますよ。」
竜 「俺に尋問するな!」
刃野 「照井・・・カツ丼喰うか?」
竜 「俺に質問するな!そして呼び捨てにするなッ!」
(28話・フィリップがリリィ白銀を救う方法を検索しているシーン)
「やはり・・・『アクセル』抜きで彼女を救えない。」 フィリップは右手の人差し指で自分の下唇の縁をなぞりながら呟く。
何度繰り返しても『地球の本棚』での検索結果は変わらない。 リリィ白銀の生命を救う為には『アクセル』のキーワードは必要不可欠だ。
「ねぇフィリップ君、やっぱり竜君にもう一度頼もうよ。」
ガレージのソファに横たわっている翔太郎の顔の汗を拭いながら亜樹子が言葉を掛ける。 だがフィリップは、
「僕はイヤだ!彼の所為で翔太郎は・・・」
傷だらけになった翔太郎がハァハァと呼吸を乱しながら苦しんでいる姿を見ると、 竜に対しての激しい怒りだけしか浮かんで来ない。 この怒りを抑え、彼に頭を下げて冷静に物事を頼める自信はフィリップには無かった。
「でも・・・リリィさんの生命が賭かってるんだよ?!」
それは亜樹子が言うまでも無い事だ・・・だが、 フィリップはどうしても彼女に答える事が出来ず、視線を外して無言で俯いた。
「じゃあ、アタシが行って来る!」
そう言って亜樹子はガレージから飛び出して行った。
(ごめん・・・亜樹ちゃん。 でも、僕はどうしても・・・彼を・・・照井竜を許す事が出来ない!)
フ・・・ッとフィリップはソファで苦しんでいる翔太郎に視線を向けると、 そのまま憑かれた様にふらふらと彼の傍らに歩み寄り、ぺたんと両膝を付いた。
「・・・翔太郎」
そっと耳元で名前を呼んでみる・・・だが答えは返って来ない。 翔太郎の意識は、ずっと失われたまま、 『HEAT』の熱で灼かれた傷の痛みにうなされ続けている。
あの時・・・ 翔太郎が放った『ツインマキシマム』の炎に全身を焼かれた瞬間の あの凄まじい熱を想起するだけで身体中の表皮が焦げ剥がされてしまいそうな気がして、 呼吸が止まりそうになる。
だが自分にとってあの灼熱は、 つかの間の苦痛に過ぎず、 変身解除した瞬間、身体の痛みは嘘の様に消失した。
『ダブルドライバー』を通して伝わって来たのは、 燃え盛る炎に全身を焼き尽くされ、 気が狂いそうな激痛に悲鳴を上げている翔太郎の意識だけ、だった・・・
ガイアメモリのダメージは普通の医学では治療出来ない。 本人の回復力を信じるしかない。 もし、このまま翔太郎の生命が尽きてしまったら・・・
「だから『ツインマキシマム』は危険だって・・・ 不可能から止めろって・・・あれ程僕が忠告したのに!どうしてキミは・・・! あんな、照井竜なんかの為に・・・!」
胸の奥から憤りを吐き出すかの様にフィリップは呟き、 翔太郎が眠っているソファの上に置いた右拳をギュッと硬く握り締める。
「この街の人間だから? 彼に涙を流させる位だったら、自分の身体はどうなっても良いって? 死んでも構わないとでも? ・・・・キミの方こそ、もっと周りを見たらどうなんだい!?」
強く握り締めたフィリップの右拳が小刻みに震え始め、 伏せられた彼の瞼から零れた透明な涙が、 白い包帯を巻かれた翔太郎の顔の上に数粒パタパタッと落ちた。
「・・・・・・・・・み・・・ず・・・」
カサカサに乾いた息に混じって漏れた微かな声にフィリップが想わず瞳を開くと、 薄く開かれた鳶色の瞳が自分の顔をじっと見つめていた。
「・・・翔・・・太郎・・・?」
呆然とフィリップは瞳の前の相棒の名前を呼ぶ。
「お前の・・・だったのか?・・・通りでしょっぱいと、思ったぜ・・・」
ハァハァ・・・と苦しそうな息を吐きながら、 形の良い唇の端を上げてフ・・・ッと微笑うと、
「すまねェ、フィリップ・・・」
「・・・え?」
「“周り”処か・・・ あん時・・・俺には、自分の隣も見えて、なかった・・・ やっぱ俺・・・『ハーフ・ボイルド』・・・だな?」
そこまで言葉を吐き出すと翔太郎は、 “うぅ・・・ッ!”と眉間を寄せ苦痛に顔を歪める。
「翔太郎!もう無理に喋らなくて良いから・・・!」
翔太郎は、 ゆっくりと右手を上げると、 心配そうな表情で見下ろしているフィリップの黒髪にすぃ・・・と長い指を差し入れ、 彼の頭の上に右掌を乗せて円を描く様に優しく撫でた。
「この街で一番・・・ 泣かせたくなかったヤツを・・・泣かせちまった、な・・・」
先刻からずっと流れ続けているフィリップの涙を見つめながら、 翔太郎は喉の奥から絞り出す様な声で囁いた。
| 2010年03月26日(金) |
こんな井坂深紅郎はイヤだ! |
(28話・井坂深紅郎が園崎家で食事をしているシーン)
琉兵衛「我が家族を乱す者はこの地上には存在を許さない!」
(井坂、ネクタイを緩めながら立ち上がるとシャツのボタンを外してバッ!と前を開く・・・と 『LOVE園崎』と書かれたロゴの下にミックを抱いて微笑している園崎琉兵衛の写真が プリントされたTシャツを着ている)
井坂「私程熱心なあなたの支持者はいませんよ園崎さん! 全てはあなたの為・・・宜しかったら私があなたのファンクラブの会長に!」
琉兵衛「大した男だなキミは・・・ もう病院には戻れんだろう、しばらく此処でゆっくりしたまえ」
(翌朝、園崎家に滞在している井坂に冴子が声を掛ける)
冴子 「お部屋はどうでした?」
井坂 「ガウンのサイズが合わない事以外は全て快適ですね・・・」
冴子 「ごめんなさい。前の主人の者しか無くて・・・」
(井坂、自分が着ているガウンに刺繍されている“KIRIHIKO”と云うネームを チラと確認する)
井坂「前のご主人は食の細い方だったんですねぇ・・・ガウンがピッチピチですよ。」
冴子 「・・・・・・」
井坂 「私が園崎家の財産を喰い潰しやしないかと懸念なさっているなら、 その心配は不要ですよ。 私は医者ですから元々高収入ですし、いざとなったらギャル曽根と対決します!」
冴子 「やっぱり先生は素敵だわ!」
(その前日の夕方・・・『風都精肉店』での会話)
「おい?井坂先生が夕飯の買い物に来ないぞ?」
「どうするんですか?店長、今日も井坂先生用に牛1頭仕入れてあるのに・・・」
「俺んトコだって井坂先生が買いに来てくれないと売上げが全ッ然変わっちまうよ!」
「ウチもだ!」
「ウチも・・・」
「ウチも・・・」
「ウチも・・・」
次回 『Iの不在/風都商店街のユウウツ』
『W』のメモリの男は、 照井竜の家族だけで無く『風都商店街』の明日も奪うのか?!
| 2010年03月25日(木) |
こんな霧彦さんはイヤだ! |
(2話・園崎琉兵衛から全裸の霧彦にガイアメモリが渡されるシーン)
琉兵衛 「園崎の家の者にのみ与えられるガイアメモリだ、これで死ぬ場合も有る。 言い残す事は有るかね?」
霧彦 「『ナスカ』ってなんスか?」
琉兵衛 「・・・・・・」
霧彦 「自慢のギャグです・・・お義父さん」
琉兵衛 「霧彦君・・・キミもミックに負けないようにね」
次回 『さらばNよ/捨て身の全裸ギャグ』
(今頃の霧彦さんネタでスミマセン(^^;))
| 2010年03月24日(水) |
こんなツインマキシマムはイヤだ! |
フィリップ(『W(ファングジョーカー)』に変身中) 「『ウェザー・ドーパント』を倒すには『ツインマキシマム』しか方法が無い! 『W』と『アクセル』の呼吸をピッタリ合わせて、 『ウェザー・ドーパント』のコア目掛けて同時攻撃するんだ! じゃ行くよ!照井竜!」
竜 (『アクセル』に変身中) 「フィリップ・・・これは俺達二人の『初めての共同作業』と言う訳だな?」
(『結婚式じゃないッ!?』と、 金文字で書かれた緑のスリッパで『W』が『アクセル』の頭上を“スッパ〜ン!”と殴り付ける)
フィリップ 「ちょっと!?真面目にやらないと許さないよ!」
竜 「フィリップ・・・俺は尻に敷かれるのも嫌いじゃないぜ。」
フィリップ 「ああッ!もう!いい加減にしたまえッ!」
(再び『W』が『アクセル』の頭を緑のスリッパで“スッパ〜ン!”と思いっ切り叩く。)
フィリップ 「この際だから、はっきり言っておくけど、 僕がお嫁さんにしたいのは若菜さんみたいな人なんだ!」
翔太郎 「おい、お前ら! さっきっから何やってんだ!いいから、さっさと攻撃しちまえ!」
竜 「そう言えば・・・左、 確か、お前、フィリップをお袋とか呼んでいたな・・・ と云う事は、 つまり左はフィリップの息子と言う訳か・・・?」
翔太郎 「だ・か・ら!そう言うのは『モノの例え』だっつってんだろうがッ!」
竜 「左・・・ 今日から俺をお義父さんと呼んでくれて構わないぜ。」
翔太郎&フィリップ 「もう・・・テメェ(キミ)なんか死んでも構わねェ(ないよ)ッ!」
井坂深紅郎(『ウェザー・ドーパント』に変身中) 「ほほぅ〜キミが照井ユウジの息子、竜君ですか? (『W』の左側に視線を向けて) そしてキミが照井ユウジの息子の息子の翔太郎君・・・ (『W』の右側に視線を移して) そしてキミが照井ユウジの息子の嫁のフィリップ君・・・と言う訳ですね? ・・・・・・シュバッ!(舌なめずり)」
竜・翔太郎・フィリップ 「お前まで話をややこしくするんじゃないッ!!! 」
(『W』と『アクセル』が手にした 『マキシマムドライブ!』と金文字で書かれた緑のスリッパが、 『ウェザー・ドーパント』の頭に“スッパァ〜〜ンッ!!!”と同時炸裂する。)
次回 『Wで攻撃?!/プロポーズ大作戦』
フィリップ「どうしよう?翔太郎、 さっき照井竜が強引に僕の左手の薬指に嵌めて行ったガイアメモリが、 抜けなくなってしまったよ・・・」
翔太郎 「何だと?・・・って、おい! それ、どう見ても婚約指輪じゃねェかよッ?!」
これで婚約も決まりだ!・・・おめでとう照井!!(違)
| 2010年03月23日(火) |
こんなお袋はイヤだ! |
「おとっつあん、お粥が出来たよ。」
ホカホカと白い湯気が立ち登っている粥が入った椀を乗せたトレイを運んで来た フィリップはベッドで眠っている翔太郎の傍から声を掛けた。
「・・・ん?」
翔太郎は長い睫毛に縁取られた瞼を開いてフィリップの姿を認めると、 ゆっくりと上半身を起こしながら、
「おぅ、いつもすまねェなぁ、ゴホッゴホッ・・・って・・・・・・誰が『おとっつあん』だッ!?」
「おかしいな? 寝ている病人に対して粥を差し出す時に掛ける言葉は、これで間違いない筈だが?」
フィリップはベッドの上に上半身だけ身体を起こした翔太郎の太腿の上にトレイを置くと、 細い首を傾げながら、艶やかな唇を右の人差し指で撫でる。
「言葉自体は間違っちゃいねェんだがな・・・使い処がチョット間違ってるみたいだぜ? ところで・・・このお粥、お前が作ったのか?」
「あ、ああ・・・初めて作ったけど、どうかな?」
内心、不安を抱きつつ翔太郎は椀に添えられているスプーンを手にして粥を掬い、 恐る恐る口に含んだ。
「う〜ん・・・ん?うぅ〜ん???」
「どうしたんだい?翔太郎?」
「この味・・・どっかで・・・あ!判った!」
口腔内で粥を咀嚼した後、 しばし何事か想い巡らせていた翔太郎は突然思い当たったかの様に フィリップの顔を真正面から見つめた。
「このお粥・・・! 俺のお袋が作ってくれてたのと同じ味だ! おい、フィリップ!お前まさか、わざわざ『検索』して作ったのかよ?」
煮立てた白飯に卵を溶き入れてダシ醤油で薄く風味付けられた懐かしい味に、 嬉しそうに声を弾ませる翔太郎の顔を、 キョトンと黒い瞳で見つめ返しながら、フィリップは首を横に振った。
「いや違う。 この粥のレシピは、 以前、僕が風邪を引いた時にキミが作ってくれた時のモノだが・・・」
「え?俺が作ったヤツって・・・マジかよ?」
翔太郎は改めて瞳の前の粥とフィリップの顔をチラチラ見比べつつ、 再びスプーンに粥を掬って口に含んでみた。
改めて冷静に舌の上の粥の味を分析してみて・・・翔太郎は気付いた。 『お袋の味』・・・と言うよりも正確には『左家の食卓の味』と云う方が正しい。
翔太郎は幼い頃から良く母親の手伝いをしていた。 自炊する様になってから今まで意識した事は無かったが、 現在台所に並んでいる調味料は母が愛用していた種類とほぼ重複している。 無意識の内に使い慣れた物を選んでしまっているのだろう。
フィリップはここ1年余りとは云え、 毎日欠かさず翔太郎が作った料理を食べているし、使われている調味料も同じだから、 同じ味を再現するのは容易だった筈だ。
また翔太郎が作ったレシピを素直に再現したのは、 フィリップに過去の記憶が無い所為も有るのだろう。
数年前、元カノと『きんぴらごぼう』が辛いか甘いかで喧嘩になった事を、ふと苦く想起する。
さっきフィリップが粥を口に入れた瞬間、 『自分が作ったのと同じ味』では無く『お袋の味』だと思ってしまったのは、 自分以外の誰かが作ってくれた食事を口にするのが久し振りだったからかもしれない。
「フィリップ・・・ お粥とは言っても、 こんだけ俺ン家の味が出せんなら、お前いつでもウチに嫁に来られるぜ。」
「嫁・・・って? 何を言ってるんだい?翔太郎、僕は男だよ?」
冗談混じりに掛けた言葉を、真剣な表情で問い返すフィリップに向かって、 翔太郎は、
「だ・か・ら!これは冗談つぅか・・・モノの例えっつーか・・・」
“う〜ん・・・”と眉を顰めて返す言葉を捜し始めた翔太郎に対して、 フィリップはピン!と右手の人差し指を立てた。
「それに『嫁』と云う地位に就くならば、 食事だけで無く、掃除、洗濯など家事全般に長けている必要が有る・・・ それなら翔太郎の方が、僕よりよっぽど『嫁』にふさわしいんじゃないのかい?」
「バカ!何で俺が『嫁』に行かならなきゃならねぇんだよッ?!」
「ええッ?この表現は『モノの例え』じゃぁ無いのかい?」
やはり・・・ フィリップは日本語の使い処がチョット・・・いや、かなり間違っている様だ。 翔太郎は頭を抱えてハァと溜息を吐く。
「僕は・・・ お嫁さんにするなら若菜さんみたいな人が良い・・・」
相棒の悩みなど知らぬ顔で、 フィリップが独り言の様にボソボソ・・・ッと消え入りそうな声で呟いた言葉を、 翔太郎は聴き逃さなかった。
「出たぁ〜〜〜ッ!若菜姫〜〜〜ッ!!」
冷やかす様な口調で言われたフィリップはハッと息を呑み、 カァァッ!と頬を紅赤色に染める。
「お前の気持ちは判るけどよ、どう考えても若菜姫に家事は無理じゃねェの?」
「か・・・家事は僕がやるよ! まだお粥しか作った事無いけど『検索』すれば・・・」
耳まで真っ赤に紅潮させて、 しどろもどろ答える相棒の可愛らしさに思わず翔太郎は微苦笑する。
「そうだな・・・ま、お前だったら『検索』したら何でもすぐ出来そうだもんな。 よォし! じゃ『花嫁』・・・じゃねェ『花婿』修行も兼ねて、 これからは事務所の家事(?)も、お前ェにやってもらうとすっかな?」
「ええッ?やだよ・・・面倒臭い・・・」
途端にフィリップは眉間に縦ジワを寄せゴニョゴニョと語尾を濁して言い淀む。
「あんだとコラ! その面倒臭ェ家事を毎日、毎日、毎日・・・ 文句も愚痴も言わずやってる俺の身にもなってみろ!」
ガツン!と大声で一喝した後、 手元の椀に入った粥をスプーンで掬って黙々と口に運び始めた翔太郎に フィリップは小声で呼び掛ける。
「翔太郎・・・」
「あん・・・?」
モグモグモグ・・・と粥を咀嚼しながらフィリップに視線を向けると、 彼は、ふわりと微笑しながら、こう言った。
「キミの忍耐強さと精神力は確かに素晴らしい・・・ やっぱり僕は翔太郎をお嫁さんにするのが一番良い様だね。」
「何だそりゃ?!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・やっぱり間違ってる?(^^;)
(27話のラストでツインマキシマムを放った後、 怪我(火傷?)をしてベッドで療養している翔太郎君に、 フィリップ君がお粥を運んで来たりするかも?と云う自分勝手な『妄想』と、 「お前は俺のお袋か?!」と言う翔太郎君の台詞を絡ませて書いてみました。
こんな呑気なギャグばかり書いていますが、 翔太郎君がどうなったのか、かなり心配しております。 (ネタばれは絶対見ない主義なので・・・)
おまけ 『こんなNGはイヤだ?』
翔太郎 「お前は俺の嫁さんか?!」
フィリップ 「ちょっ!・・・ちょっと翔太郎?」
・・・・すみません、つい手が滑りました(^^;) )
| 2010年03月22日(月) |
こんな誤変換はイヤだ! |
(26話・堀之内の家で観たDVDで『リコ』と云う名前が、 死んだ里香子の人形の名前である事が判明するシーン)
竜 「『リコ』と云うのは人形の名前だ。 所長、キミは疲れている。少し休んだ方が良い。」
翔太郎 「おい照井?今の台詞は「疲れている」じゃなくて、 「憑かれている」ってのが正しいんじゃねェのか?」
亜樹子 「あ!そう言われてみればそうかも?」
竜 「(ハッ!)し・・・質問は受け付けない!」
亜樹子 「竜君、痛いトコ、突かれている?」
次回 『Bのリズム/風都ウインク買って来て!』
翔太郎 「亜樹子から謎の依頼メールだ。 一体どこで売ってんだ?『風都ウインク』ってのは?」
フィリップ 「翔太郎と僕で亜樹ちゃんにウインクすればイイんじゃないのかい?」
亜樹子 「ちょっと!何でさっきから二人揃って瞳をシパシパさせてるのよ! ところで封筒(と)インクは買って来てくれたんでしょうね?!」
(う〜ん、やっぱりチョット無理が有る・・・ので、もう1本(^^;))
フィリップ 「さあ行くよ!正太郎!」
翔太郎 「よォし!行くぜフィリップ・・・って、 何でお前いきなり全高20メートル、重量25.8トンの鉄人ロボットになってんだ!」
フィリップ「キミの名前をうっかり誤変換したら、何故かこうなってしまったんだよ。」
翔太郎 「俺は、またお前が餅を喰い過ぎたのかと想ったぜ・・・」
フィリップ「夜の風都にガォ〜♪」
竜 「いや!これは『W』の新しい力だ!凄いぞフィリップ!」
翔太郎 「そういう照井・・・お前の武器も何だか妙な形になってんぞ?」
竜 「何だと?・・・ッ! い、いつの間にか俺の剣が石の棍棒に?!」
フィリップ「猿人ブレード・・・って誤変換しちゃったんだね。」
竜 「こ、こんな剣はシュラウドにご返還してくるぜ!」
“それでは次は『風都ミステリーツアー』のコーナーです。 ラジオネーム『アホリズム』さんから・・・
こんにち若菜姫!ぼくの見た男の話をします。
こないだ道を歩いていたら、 黒いレザージャケットと黒いレザーパンツを着た若い男が泣きながら、 重い石の棍棒をズルズルズルズル・・・と引き摺って歩いているのです。
あまりにも棍棒が重いので道路のアスファルトは粉々に砕けていました。
「どうしてあなたは、 そんな重い棍棒を引き摺って歩いているのですか?」と僕が尋いたら、 その男は、 「質問は受け付けない!・・・返品も受け付けて貰えないッ!」と泣き叫・・・”
(バカリズムさんが大好きなので誤変換ネタで色々書いてみましたが・・・ムズカシイ(^^;))
| 2010年03月21日(日) |
こんな冗談はイヤだ! |
「おい、フィリップ!お前一体いつまで『かたつむり』作ってんだ!」
亜樹子や竜との会食を終えて『鳴海探偵事務所』へ帰宅した後も、 ひたすら『デンデン・センサー』を作り続けているフィリップを見兼ねた翔太郎が 声を荒げて窘める。
「あぁ!もう!うるさいな!あともう少しで完成なんだよ!」
「子供は夜更かししてねェで歯磨きしてさっさと寝ろ! ・・・ったく!俺はお前のお父さんかよッ?!」
煩わしそうに眉間に縦ジワを寄せるフィリップに向かって、 翔太郎は右の人差し指を突き付けながらビシッ!と厳しく言葉を掛ける。
「判ったよ!もぅ〜あと少しなのにさ・・・」
不満そうにブツブツ呟きながらもフィリップは作業の手を止めて後片付けを始める。
「それにしてもシュラウドが設計するガジェットは本当に素晴らしいよ!完成が楽しみだ! う〜ん、ゾクゾクするねぇ・・・」
フィリップは左の人差し指で艶やかな下唇を撫でつつ、 うっとりしながら『デンデン・センサー』の設計図を眺める。
そんなフィリップの様子に翔太郎は、ふと不安そうに眉を顰めた。
「ところでフィリップ・・・シュラウドから送られて来てる、その設計図だが、 ・・・・・・無料なんだろうな?」
「ハァ?いきなり何を言い出すんだい?翔太郎。」
突然の質問に驚いたフィリップは黒い瞳をパチパチ瞬きする。
「ほら!良く有るじゃねェか! 初回だけは190円の雑誌で、 毎号付いて来るヤツを組み立てて行くと 最後に何かスゲェモンが出来るっつ〜の? あぁいうのを知らねェ内に定期購読とかさせられてんじゃねェのか?」
「まさか!?そんな筈無いだろう?キミの考え過ぎじゃないのかい?」
「シュラウド・・・キミが設計したガジェットは本当に素晴らしい。今日も感度良好だ。」
シュラウドが設計し作製したガジェット『ビートルフォン』から送られて来る『鳴海探偵事務所』の画像と音声を、 竜は今日も自宅マンション内でチェックしている。
「ん?何だと?・・・左の奴、せっかくキミが好意でフィリップに送っている設計図に対して、 あんな事を言ってるぞ? 次からは金を取ってやれ、シュラウド・・・」
背後で次にフィリップに送る予定の設計図を書いているシュラウドに声を掛けると、 彼女は顔を上げてコクと肯いて、再び作業をしながら竜に尋ねた。
「幾ら位取れば良いかしらね?」
「・・・今のは冗談だ、シュラウド。」
どうやらシュラウドと竜は、まだイマイチ和んでいないらしいぞ!
次回!『Rの冗談/賞金500万円は誰の手に?!』
真倉「ダメですよ!刃さん!今の照井さんのアレ・・・笑っとかないと!」
刃野 「えっ?!今の照井警視のアレ・・・冗談だったのか?ややこしや〜」
頑張れ照井竜! R-1はチョット遠いみたいだぞ!!
| 2010年03月20日(土) |
こんな市会議員はイヤだ! |
(『仮面ライダーW』DVDvol 2映像特典『もしも亜樹子が市会議員だったら?』を観て 勝手に『妄想』しちゃいました。 まだ観てない方は完全にネタばれしておりますので注意して下さいね。)
「ボディガードをお願いしたいの。」
楠原みやびに変わって風都の市議会議員に当選した鳴海亜樹子が、 私立探偵である左翔太郎の事務所に 焦茶色のスーツを着用してボディガードの依頼をしにやって来た。
「命を狙われてる、って事か。 アンタは派手なパフォーマンスが多い。きっと敵も多いんだろうな・・・」
どうやら翔太郎の言葉が核心を突いたらしく、亜樹子は途端に感情を露にした。
「風都市民は政治に無関心過ぎます! 政策を実現するにはパフォーマンスも必要です! さっそく明日から守って頂きます!子供と一緒に・・・」
「子供?」
「そう・・・」
「子供って・・・」
どう見ても中学生・・・じゃなかった、 自分より年下の亜樹子に子供が居ると云う事実を聴いて翔太郎は訝しそうに眉を顰める。 すると、 「おりゃ!えい!」と可愛らしい掛声と共に現れたのは何とフィリップだった。
上は素肌にランニングシャツ、下は膝丈でカットしたジーパンを穿き、 頭の後ろに麦わら帽子を引っ掛けている。 腰には黄緑色の虫採籠を下げ、手に持った巨大な虫取り網を、ブンブン振り回している。
亜樹子を「ママ〜」と呼び、 “よしよし”と頭を撫でて貰っている様子は、あどけない子供の様だ。
「明日は今までで一番派手なパフォーマンスをするの。」
「・・・と言いますと?」
亜樹子の言葉に翔太郎は軽く身を乗り出す。
「皆で踊るんだ〜♪」とフィリップが明るい声で答えたその時、 バタン!と音がして『鳴海探偵事務所』のドアが開き、 入って来たのはコックローチ・ドーパント・・・では無く、 何と!両腕に赤い薔薇の花束(推定50本)を抱えた照井竜だった。
「お、おい!?照井! 何でVol.2の映像特典にいきなり出て来てんだ!? テメェの出番はまだDVD3枚分も先じゃねェかよ!」
顔を見た途端に悪態を吐いた翔太郎の事など、 最初から視界に入れず竜は亜樹子の真正面にスッと歩み寄る。
「所長・・・いや元所長か。 市議会議員当選おめでとう、かなりご活躍の様ですね・・・」
「え?」
亜樹子は竜に言葉を掛けられた事に驚いて瞳をまんまるく見開いた。
「あなたの事務所に行ったら、 ボディ・ガードを雇う為に此処に来ていると伺ったので・・・」
そう言いながら竜は赤い薔薇の花束を亜樹子に向かってスッと差し出した。
「ええっ?ウソ!?そんな・・・!りゅ、竜君が、こ、これを!? ア、ア、アタシに・・・?!」
真っ赤に頬を紅潮させて亜樹子が自分を指差しながら半信半疑で尋ねると、 竜はコクと肯きながら頭を下げ、こう言った。
「息子のフィリップ君を俺に下さい!・・・お義母さん!」
「はぁ〜〜〜?」
途端に亜樹子の声から気力が音を立てて抜け失せる。
「ま!そんなこったろうと思ったぜ・・・」
呆れた様に翔太郎はフゥと溜息混じりに呟く。
「フィリップ・・・ 今日のキミには、いつもと一味違う野性的な魅力を感じる・・・。」
竜はフィリップの手から巨大虫取り網を取り上げてポイッと床に投げ捨てると 抱えていた赤い薔薇の花束をス・・・ッと手渡した。
「オジサン誰?ママの知り合い?」
フィリップはイマイチ状況を把握出来ていないらしく 両腕いっぱいに赤い薔薇を抱えたまま、 不思議そうに細い首を傾げて竜の顔を見つめている。
「おい照井!てめぇ!人の相棒に何、勝手にプロポーズなんかしてんだ!?」
ガタッ!と翔太郎は椅子から立ち上がり、竜に向かって怒声を上げる。
「判ったわ! フィリップ!竜君と結婚しなさい!」
しばしやり場の無い憤りにブルブルと小刻みに両肩を震わせていた亜樹子が 意を決した様にキッ!と顔を上げて宣告した。
「えええェェ〜〜〜ッ!?」
予想外の亜樹子の言葉に翔太郎、フィリップだけで無く、 プロポーズした当の竜までもが想わず驚嘆の声を上げる。
「この世はやっぱりお金よっ! 翔太郎君みたいに うだつの上がらない私立探偵なんかの相棒をやっているより、 キャリア組でお金持ちの竜君と結婚した方が良いに決まってるわ! 私も次の市議会選に備えて資金が必要だし・・・」
「おい!亜樹子! うだつの上がらない私立探偵たぁ何つぅ言い草だ!聞き捨てならねェな!?」
「何言ってんの?本当の事でしょ?」
噛み付く様に反論した翔太郎の鼻先を、 負けずに噛み返さんばかりの勢いで亜樹子は激しく言い返す。 そんな亜樹子に向かってフィリップは右の人差し指でツヤのある下唇を撫でながら、 戸惑いがちに呟く。
「ねェママ、こんなオジサンと結婚なんて、僕イヤだよ!」
「何ですって!? フィリップ!ママの言う事が聞けないの?」
「だってママ・・・ 僕は若菜さんみたいな素敵な人をお嫁さんにするのが理想なんだ!」
「フィリップ、 あんな素手でコーヒーカップを粉砕する様な女はキミにふさわしくないぜ。」
「何だって!?若菜さんへの侮辱は許さないよ!」
いつの間にか普段通りのキャラクターに戻ったフィリップが、 竜を睨み付けながら、鋭く言い放つ。
「とにかく!まずは結納の日取りから決めましょうか?竜君!」
「そうですね!お義母さん!」
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってよ!二人とも!!」
フィリップの両側から、ガシッ!とそれぞれ肘を掴むと、 亜樹子と竜はフィリップの身体を抱きかかえて足早に探偵事務所のドアを出て行った。
「おい!待て!俺の相棒を勝手に照井なんかと結婚させて堪るかよ! そもそも男同士じゃ結婚出来ねェだろうがッ!?」
翔太郎は慌てて亜樹子達の後を追い掛けてドアの外へ出ようとする・・・ だが、突然瞳の前に黒い大きな影が現れ、翔太郎は足を止めて反射的に身構えた。
「あのぉ・・・明日の派手なパフォーマンスの練習をするって聴いて来たんですけどォ?」
「うるせェ!邪魔すんな!!」
翔太郎は床に落ちていた巨大な虫取り網を拾うと眼前に立ちはだかった コックローチ・ドーパントのヌラヌラ油光りしている頭にスッポリと被せ、 『こんなDVD特典映像はイヤだ!Vol.2』と金文字で書かれた緑のスリッパで 力いっぱい殴り付けた。
| 2010年03月18日(木) |
Pとの遊戯/人形達は夜に囁く |
月齢29・・・ まるで夜獣の爪の様に細く輝く月光の下、青年は一人佇んでいた。
黒いレザーのジャケットとパンツを身に着けた青年の姿は、 ほぼ暗闇の中に溶け込んでいた。 彼の右掌に握られたガイアメモリだけが黄金色の光を放っている。
そのガイアメモリは数日前、彼が倒したドーパントの身体内から排出され、 粉々に粉砕した筈の物だった。
本来ならば鑑識に回さなければならないガイアメモリの残骸を青年は、 密かにある女に渡していた。
“このメモリを再び使用出来る様に直せるか?”
女は青年に彼専用のガイアメモリとメモリの有害物質をフィルタリングする為のドライバー、 更に武器やビーグル等も作り、与えてくれた。
彼女は粉々になったメモリの基盤を一瞥しただけで答える。
“このメモリの基盤はもう破壊されている。 何とか応急処置は出来るが、使用に耐えうるのはせいぜいあと1〜2回。 同じ能力のメモリを作るにはかなりの時間が必要。“
“では応急処置を頼む”と青年は言った。
“ドライバーは?”と云う女の問いに青年は不要、と答える。
“ドライバーを新しく作るのにはメモリ以上に時間が掛かるんだろう? どうせこのメモリが1〜2回しか使えないなら・・・“
青年の言葉に女は美しい眉を不安そうにスッと顰めた。
“あまり無茶はしないで・・・”
青年が拡げた右掌の中心に有る金色のガイアメモリの盤上に、 “Puppeteer”と云う文字が月光を受けてキラキラと浮かび上がっている。 まるで青年を誘うかの様な妖しい煌き・・・。
青年は意を決すると右掌でガイアメモリをギュッ!と力を込めて握り締め、 左手首に思い切り突き刺した。
「ウゥ・・・ッ!!」
熱く灼ける様な苦痛に青年は整った顔立ちを歪めた。
“Puppeteer”とガイアウィスパーを発すると、 ガイアメモリは青年の白い皮膚を穿ちながら身体内へ挿入って行く。
“・・・っくぅ・・・ッ!・・・ぁああああああッッ!!”
普段、彼専用のドライバーを介して挿すのとは比較にならない程の苦痛が青年を侵触する。
身体中の全細胞がまるで沸騰するかの様な熱い高揚感と、 脳が蕩ける様な恍惚感に魂が溺れそうになる・・・
それらを青年は精神力で必死に堪え、何とか正気を保とうとした。
やがて・・・ 突然、精神の全てがクリアになり、 細い月の明かりと数本の街頭のみで照らされた暗闇の街の姿が まるで赤外線マスクを装着してでもいるかの様に、はっきりと視えた。
青年は改めて自分が立っている場所にある建物をじっと見つめる。
『かもめ×ビリヤード』と書かれた看板が掛かった古い建物・・・ その内部に向かって青年は両腕を上から思い切り振り下ろした。
青年の両手の指先から放たれた無数の銀色の糸が勢い良く放たれ、 やがて、それは彼の想い人を捕らえた確かな手応えを示した。
永い・・・とても永い時間・・・ 気の遠くなる様な時間が過ぎた後、 “コトン・・・”と硬い音がアスファルトに響いた。
“コトン、コトン、コトン・・・”と硬い靴音に共鳴するかの如く、 青年の心臓も次第に高鳴りを増して行く・・・。
やがて、建物の裏手の暗がりからフッと人影が現れた。
ゆるやかなウェーブで流れる黒い巻毛にはピンクのリボンが可愛らしく飾られ、 シルバーグレーのワンピースの上にパープルのジャケットを羽織っている。 白銀の月光に照らし出された肌はまるで陶磁器の様に白く、 まるで人形の様に美しい少女・・・では無く、 少女と見まごうばかりに端正な顔立ちの少年だった。
奇しくも少年の華奢な身体は青年の指先から放たれた無数の銀色の糸に絡め取られ、 全ての自由を奪われた傀儡・・・人形と化している。
やがて・・・ その少年は青年のすぐ眼前でピタッと立ち止まった。
少年の黒い瞳はぼんやりと虚ろに見開かれ、 瞳の前の青年はおろか、一切何も写してはいない。
青年は銀色の糸ごと少年の、 細い身体をすぃ・・・と抱き寄せる。
“さぁ・・・? これから何をして遊ぼうか?”
青年はそう囁きながら、少年の顎を右手の指先で軽く摘んで上向かせる。 リップグロスを塗っていなくても、 銀色の月光を浴びた少年の唇は妖しく艶を纏って青年を惑わせる。 少年の唇に青年が自分のそれを近付けた・・・ その時、
“やめてよ・・・!”
操りの糸に縛られている筈の傀儡が、 何故か突然、青年の意思に逆らう言葉を発した。
驚いた青年が手の動きを止めて少年の顔を見つめる・・・と、 “ピョン!”と緑色に輝く丸い小さな蛙型ガジェットが少年の衣服の中から飛び出し、 ピンクのリボンの傍らにちょこんと乗った。
“やめてよ!今、そんな気分じゃないし・・・”
緑色の蛙は 意識の全てを糸に依って奪われている筈の想い人の声で繰り返し囁く・・・。
“やめてよ!今、そんな気分じゃないし・・・ やめてよ・・・”
機械仕掛けの緑蛙の声など無視して、 このまま力尽くで奪ってしまえば、 少年の身体も意思も一時は思いのままになるに違いない、 だが・・・
“お前の身体の自由を奪い、 お前の心の自由を奪い、 こうやって無数の糸で緊縛しても、 それでも・・・こうやって俺を拒絶するのか?”
青年は唇の端を引き歪めてフッと微笑うと、 両手の指先から伸びている銀色の糸をシュン!シュンッ!と巧みに揺らした。
グラ・・・リ・・・と瞳の前の少年の身体が大きく傾く。 そして、 そのまま踵を返すと、 ゆらゆらゆら・・・と華奢な身体を揺らしながら、 ゆっくりと少年は建物の中に戻って行く・・・。
“コトン、コトン、コトン・・・”と黒いパンプスの硬い踵がアスファルトを叩く音が、 次第に遠ざかって行き、やがて消えた。
“ウゥッ・・・!!”
突然、灼ける様な激痛が身体の奥底から発ち上がり、 青年の左手首を皮膚の内側から熱鋭く挿し貫いた。
“Puppeteer”とガイアウィスパーを発しながら白い光と共に排出されたメモリは、 アスファルトの上に落ちてパキ・・・ンと音を立てて砕け散った。
青年はその破片を靴の底でダンと踏み付け、 力を込めて思い切り押し潰した。
“ねェ・・・”
ふいに暗闇の中から呼び掛けられ、青年は顔を上げる。
声のした方を見ると、そこには白いブラウスに赤いベルベットのワンピースを着た 一人の幼い少女が佇んでいた。
あどけない幼女が、 こんな夜更けにたった一人で歩いている事に驚いた青年は、 思わず自分の瞳を疑い、 数回パチパチと瞬きを繰り返してみたが、 少女の姿は月光の下から消える事は無かった。
真っ直ぐに伸びた美しい黒髪、 クリクリとした愛らしい瞳、 さくらんぼの様な可憐な唇、
青年は、その少女の顔に見覚えが有った・・・。
“ねェ・・・お兄ちゃん、遊ぼうよ。”
少女のどこか寂しげな声が夜の闇を震わせる。
(ガイアメモリの直挿しは精神を蝕み、やがては・・・)
そんな誰かの言葉が青年の脳裏を一瞬掠めて、すぐに消えた。
“ねェ・・・お兄ちゃん、遊ぼうよ・・・。”
青年は右手を伸ばして幼い少女の左掌をそっと握った。 まるで氷の様にひんやりと冷たい手・・・。
“そうだな・・・何をして遊ぼうか?”
青年の問いに少女はニッコリ微笑って、 “ブランコに乗りたい”と答えた。
“じゃあ、風花公園に行こうか?ちょうど菜の花が咲いている頃だ。”
青年は少女の冷たい手を握りしめたまま、暗闇の中に向かって静かに歩き始める。
その少女の名前を尋かなくても、 なぜか青年は知っている様な気がしていた・・・。
“では、おなじみ『風都ミステリーツアー』のコーナーです。 ラジオネーム『窓拭きサンタ』さんから・・・
窓拭きのバイトの帰りで遅くなった帰り道、 深夜の『風花公園』の前を通り掛ったら、 黒いレザージャケットと黒いレザーパンツを着た若い男が、 誰も乗っていないブランコを押してるんです。
時々笑いながら話掛けたりもしてました、 まるで小さい女の子が乗ってるみたいに・・・
俺はメチャメチャ怖かったんですが思い切って尋いてみたんです。
「何でキミは誰も乗ってないブランコを押してるんだい?」
すると、その男は、 「俺に質問するな・・・」と言って・・・”
| 2010年03月17日(水) |
こんなフロッグポッドはイヤだ! |
“所長!キミは美しい・・・最高の女性だ!”
亜樹子は、フィリップが作った緑のフロッグポッドに、 自分が吹き込んだ言葉を竜の声で何度も何度も何度もリピート再生させ続け、 うっとり聴き入っている。
「また、そんな使い方して・・・」
半ば呆れた風にフィリップが呟く。
「照井竜本人に言われている訳じゃ無いだろう? そんな言葉を聴いて、何か意味が有るのかい?」
「当ったり前でしょ!」
亜樹子は瞳を輝かせながら、右拳をグッと握り締める。
「たとえ現実は辛くても、 こうやって好きな人の声で自分を褒めてもらう事によって、 明日を元気に生きる活力が湧いて来るのよ!」
「そうなのかい?それは興味深いね・・・」
「そうよ!『言魂』ってとっても大切なんだから・・・」
その時、 バサッ!と『修復中』の紙が貼られたブルーシートを払い除けて、 「邪魔するぞ。」と、 フロッグポッドから流れて続けているのと同じ音声で言いながら竜が現われた。
「えっ?やだ!りゅ、竜君じゃない!」
“「所長!キミは美しい!最高の・・・”と再生していたフロッグポッドの停止スイッチを 亜樹子は慌てて押した。
「また来たのかよ!・・・って言うのも、もう何だか面倒臭くなって来たぜ・・・」
報告書打ちをしていた翔太郎は忌々しげにチッと舌打ちする。
「ちょっとぉ!竜君たら、いきなり来ないでよ!もう・・・」
頬を赤らめながら恥ずかしそうにモジモジ呟く亜樹子を尻目に、 竜はフィリップに近付いて声を掛ける。
「白い人形型のドーパントに襲われたそうだな?ケガは無かったか?」
「あ、ああ・・・」
フィリップは躊躇いがちにコク・・・と肯く。
「やはり、この事務所は不用心極まりないな・・・。」
竜は事務所内を見回しながら苦々し気に言い捨てた後、 真正面からフィリップの顔をじっと見つめると、
「フィリップ、俺のマンションに来い! 『セ○ム』でセキュリティが完璧に守られた『風都ガーデンパーク』の最上階だ。 ミュージアムの連中やドーパントはもちろん、誰にも手出しはさせない。 もちろんそれだけじゃない、 選りすぐりの腕利きSP達にキミの身辺を24時間ガードさせよう。」
「やめてよ! そんな風に四六時中監視されたら息が詰まって仕方無い・・・!」
不機嫌そうに眉間に縦ジワを寄せるフィリップの言葉に、すかさず翔太郎が便乗する。
「そうだ!それじゃまるで監禁してるのと一緒じゃねェかよ!? 犬だってずっと閉じ込めたままじゃストレスでハゲちまうだろうが!」
「ちょっと翔太郎?僕は犬じゃ無いよ。」
「こないだ着ぐるみ着てただろうが!」
「だから、あれはセントバーナード犬を・・・」
いつの間にか痴話喧嘩を始めてしまった二人に動じた様子も無く竜は静かに言う。
「フィリップ、 俺の部屋には通信カラオケが有る。 防音設備も完璧だから、いつでも歌い放題だ。」
「ほぅ、それは興味深い!ゾクゾクするねぇ・・・」
途端に瞳をキラキラ輝かせながら、 右の人差し指で自分の下唇を撫でるフィリップを嗜めるかの様に、
「おい!フィリップ!」
「冗談だよ、翔太郎・・・ 僕は照井竜のマンションに行く気なんか全然無いから・・・」
「じゃ、フィリップ君の代わりに、 アタシが竜君のマンションに行っちゃおうかしら〜?」
「俺が却下する!」
スパッ!と竜に即答されてしまい、亜樹子はガックリと肩を落とした。
「亜樹子は組織に狙われてる訳じゃねェんだから、 別に照井のマンションになんか行かなくたって良いだろ?」
「そういう事じゃないのよ!全く! やっぱり翔太郎君には女心が判ってないわね!」
プンプン!と頬を膨らませながら怒り出した亜樹子と彼女を宥め始めた翔太郎を無視して 竜はフィリップの説得を続ける。
「フィリップ、冷静になって良く考えてみろ! 今日だってガンナーAがキミの危険を察知してドーパントを攻撃しなかったら、 今頃キミはどうなっていたと思う!?」
「・・・あ!」
フィリップは“閃いた!”と言わんばかりにピン!と右手の人差し指を立てて、
「そうだ! 今日僕が助かったのは、 この事務所の地下ガレージに格納されていたガンナーAのお陰に他ならない。 だからつまり、 僕はこの事務所から出ない方が安全だと云う事じゃないのかい?」
“邪魔したな・・・”と、小声で呟くと竜は踵を返して、 『修復中』の紙が貼られたブルーシートをバサッ!と払い除け、 事務所の外へ出て行った。
「どうしたんだ?照井の奴、急にテンション下がっちまったみたいだぜ?」
「相変わらず感情の起伏が激しい男だね・・・」
竜が出て行った後、 翔太郎とフィリップは不思議そうに顔を見合わせながら言い、 亜樹子はしばらくションボリしていたが、 やがて、緑のフロッグポッドの再生ボタンをぽちっと押し始めた・・・。
“竜、ありがとう! 今日はキミが用意してくれていたガンナーAのお陰で助かったよ。 やっぱりキミは頼りになる、翔太郎とは大違いだ! これからはずっとキミに守ってもらおう!”
「『言魂』は大切、か・・・ 所長の言う通りかもしれんな・・・」
ピョン!と、 黒いレザーのジャケットの胸ポケットから飛び出した赤いフロッグ・ポッドが、 ちょこんと竜の頭の上に乗り、 フィリップの声で何度も何度も何度も繰り返し囁き続ける・・・
“竜、ありがとう!今日はキミが・・・”
翔太郎 「おい照井! 何でお前、マキシマムドライブでエンジンソード使う時、 必殺技の名前言わねェんだ?」
竜 「質問は受け付けない!」
翔太郎 「ははァ〜ん! さては必殺技の名前を思い付かねェんだな? よぉし! じゃ俺が考えてやる!『Aの字斬り』ってのはどうだ?」
竜 「そ、そんな名前は受け付けない!」
フィリップ 「翔太郎・・・ アクセルの必殺技の名前は照井竜の好きにさせたまえ!」
次回!『Aの必殺技はA〜っと(え〜っと)?/そんな必殺技名はイヤだ!』
かつて『ガイアメモリ』を使用して復讐しようとした人間達を救おうと 必死で奔走する翔太郎の姿をフィリップはいつも傍らで見つめていた。
『ガイアメモリ』の力に完全に呑まれ、 人間には戻れなくなってしまった九条綾さえ、翔太郎は信じようとしていた。
もし、この男の命が奪われたとしたら、 おそらく自分は鬼と化して復讐するだろう、とフィリップは想う。
だが、もし・・・ 翔太郎では無く、フィリップの命が奪われたとしたら?
“こんな事をしてもキミの為にならない!復讐なんてやめろ! 復讐なんかでキミの哀しみは消えやしない!”
かつての彼自身の様に、 そう言って翔太郎を止める人間が、 もしその時、彼の傍にいなかったら?
この優しい男も、 鬼になってしまうのだろうか?
怒りと憎しみと云うマイナスの感情に支配され、 身も心もドーパントになって、 ただ獲物を引き裂く事に悦びを見出す哀しい復讐鬼になり果てて・・・
あの微笑も、 人としての感情も、 何もかも忘れてしまうのだろうか? 『ハーフボイルド』 その優しさ故に・・・。
そんな筈は無い、 翔太郎に限って・・・とフィリップは想いたかった。 だが・・・
フィリップは胸の中に抱いた花を散らさぬ様、 無情に吹き渡る風が当たらない様に守り庇いながら、 ハードボイルダーを駆る翔太郎の背中に必死にしがみついていた。
やがて『風都メモリアルパーク』の駐車場に辿り着き、 「送って行こう。」と竜に掛けられた言葉に対して、
「いや、此処からなら事務所まで歩いて帰れる。」
「ミュージアムに狙われている人間が何を言って・・・いや、 やはり俺の送りは不要だな、お迎えだ。」
竜の視線の先に瞳を向けると、 翔太郎が運転するハードボイルダーが駐車場に勢い良く滑り込んで来るのが見えた。
「翔太郎・・・。」
事務所に戻った翔太郎はフィリップがいない事に気付き、 スタッグフォンのGPS機能を使って慌てて追い掛けて来たのだろう。
キィィッ!と音高くブレーキを掛けながらバイクを停めてヘルメットを外すと 翔太郎はフィリップと傍らの竜を鋭い瞳でギロッと睨み付けなから ツカツカと歩み寄って来た。
「フィリップ!お前・・・何、勝手に出歩いてんだ?! しかもよりによって照井と一緒ってのはどう言う訳だ?!」
「すまない、家族と友人の墓参りに付き合って貰っていた。」
噛み付かんばかりに竜に詰め寄り掛けていた翔太郎は 彼の返答を聴いてグッと言葉に詰まった。 だが、すぐに、
「照井・・・てめェ、 まさか、墓地の中で俺の大事な相棒にちょっかい出すなんて 不謹慎な真似はしてねェだろうな?」
「安心しろ、今日は手も握らせてもらっていない。」
「ったり前だ!コラァッ!」
両肩を怒らせて憤る翔太郎には瞳もくれず、 「じゃあな、フィリップ」と竜は静かに言い残し、 ヘルメットを被ってディアブロッサに乗り、そのまま走り去って行った。
「おい?本当に照井に何もされてねェだろうな?」
「大丈夫、手も握らせてないよ。」
此処へ来るまで竜のバイクにタンデムして来た事は言わない方が良さそうだ・・と 内心密かに想いつつ、 不安そうな顔付きで尋ねる翔太郎にフィリップは微笑みながら答える。
安心した様に溜息を吐きながら、 ふと翔太郎はフィリップの右手の花束に瞳を留めた。
「へェ、フリージアか、イイ匂いだな・・・照井に貰ったのか?」
可憐な黄色い花束に鼻を寄せて、 クンクンと匂いを嗅ぎながら翔太郎は尋ねる。
“照井から貰った花なんて捨てちまえ!”とでも言うのではないか?と一瞬想ったが、
「まぁ、花には罪は無ェからな・・・。」と、まるで花の様に優しく微笑った。
「さぁ帰ろうぜ!亜樹子も心配してっからよ!」と促され、 フィリップは手渡されたヘルメットを被り、ハードボイルダーの後部に跨る。
「ちゃんとジャケットん中にしまっとけよ! 花が風に散らされちまわないようにな!」
背中越しに掛けられた言葉にコクと肯くと、 フィリップは翔太郎の背中にキュッとしがみ付いた。
「フィリップ・・・ もし左を誰かに殺されたら、キミはどうする?」
「え?」
突然、竜にそう問い掛けられてフィリップは戸惑い、黒い瞳を大きく見開いた。 竜は長い睫毛に縁取られた瞼をフッと瞬かせながら更に問い掛ける。
「かけがえのない人間を理不尽な手段で奪われた哀しみや怒りは 当事者で無ければ判らない。 もしそうなったら、キミはどうする? 俺や九条の様に『ガイアメモリ』を使って復讐しようなんて考えないと言い切れるか?」
「僕は・・・」
フィリップは右手の指先で自分の下唇を撫でながら頭の中で考えを巡らせる・・・。 その答えをはっきりと見付けられない内に竜は問いを重ねて来た。
「左は・・・アイツはどうするだろうな?もしキミを誰かに殺されたら・・・?」
予想外の質問にフィリップは想わず言葉を失う。
「“復讐なんかした処で何の意味も無い”とスッパリ割切るかな? それとも案外、俺や九条と同じ様に・・・」
「翔太郎が? キミや九条綾の様に・・・だって?」
もし自分が殺されたら? そんな事、今まで考えてみた事も無かった。
「有り得ない話じゃないだろう? だが、仮にそうなった時、 もしキミ達が『ガイアメモリ』を使って復讐したとしても俺は止めないぜ。 俺は左の様にお人好しじゃ無い・・・ 『ハーフ・ボイルド』じゃないからな。」
確かにこの男は九条綾が阿久津を倒すのを止めなかった。
「もちろん無実の人間を手に掛けた時には遠慮無く逮捕させて貰うぞ。」
今まで自分がして来た事を棚上げした台詞を言いながら、 竜は唇の端を上げてフフッと薄く微笑った。
「私用に付き合わせて悪かったな。 その花は持って帰れ、せめてもの礼だ。」
「あ・・・ありがとう。」
立ち上がった竜と並んでフィリップは歩き始めた。 右手の中のフリージアの花が風に揺れて甘く芳しい匂いが、ふわりと鼻腔に忍び込む・・・。
やがて竜はある墓石の前で足を止めた。
『九条家之墓』
(ああ、やっぱりそうか・・・)
あらためて瞳にする彼女の墓碑銘はフィリップの胸に翳を落とす。
「四十九日には、まだ少し早いがな、花屋で妹の好きな花を見付けたついでだ。 「ついで」・・・は余計だったか?九条。」
花立は空だったが、 墓前にはピンクのデイジーの花束が手向けられており、 残っている線香の欠片も比較的新しい。 彼女の家族か・・・ 或いは『美人』だった彼女に密かに好意を寄せていた同僚の誰かが捧げたのかもしれない。
竜は先刻の家族の墓と同様に打ち水をし、 花立にフィリップが持っている花束からフリージアを数本抜いて供え、 蝋燭と線香を手向けた。
しばし瞳を閉じて合掌した後、墓石の方を見つめたまま竜はフィリップに尋ねる。
「九条は間違っていたと思うか?フィリップ・・・」
「照井竜・・・。」
「最終的に彼女はガイアメモリの力に侵食され、もう人間には戻れなくなってしまった。 だから、もちろんあれは正しい選択では無かった。 だが・・・俺もシュラウドに出会ってアクセルドライバーを貰わなければ、 間違いなく九条と同じ手段を選んでいた。」
項垂れた竜の両肩が小刻みにブルブルと震え始め、右拳がギュッと硬く握り締められる。 奥歯で噛み潰された様な言葉が彼の喉の奥から悲痛に絞り出された。
「俺がこの1年間、この風都を離れていたのは、 一刻も早く『ガイアメモリ』を手にして、 『W』のメモリの男に復讐したいと云う、 どうしようもない渇望からムリヤリ逃れる為だった・・・!」
九条綾の墓前で風に揺れる無邪気な黄色い花の甘い匂いに、 フィリップは噎せ返りそうになる・・・。
『WASP』『WOODCOCK』『WRY』・・・など、 『W』の頭文字が付くメモリは幾つか作ったが、 その中に竜の家族を凍死に至らしめた能力を保持していた物は無い。
だから竜の敵である男が持っている『W』のメモリを作ったのは、 フィリップの前にミュージアムの研究所に居た人間に違いないが、 九条綾を復讐鬼に変えた『トライセラトップス』のメモリは、 フィリップが作った物だった。
“彼女・・・ 『ガイアメモリ』なんか手にしなければ、きっとすごく良い刑事だったと思うんだ!” 真倉俊の言葉がフィリップの耳の底に甦る。
拳銃しかり、 この世界に蔓延るあらゆる種類の武器と同様に、 『ガイアメモリ』も作る人間では無く、 使う人間に罪が有るのだとミュージアムの研究所に居た頃は信じていた。
まるで無邪気な子供の様に何の罪悪感も無く・・・
これまでもフィリップが作ったメモリは、 手にした人間をドーパントに変え、 彼らが傷付けた人々、壊した建物・・・など、 必ず残酷な結果を伴いながら何度もフィリップの瞳の前に現れた。
さぁ数えろ! 此処にも1つ お前の罪がある・・・と。
やがて『風都メモリアルパーク』に到着すると、 フィリップは竜に続いてディアブロッサから降りた。
竜はフィリップに、「悪いが持っててくれ」とフリージアの花束を渡し、 霊園で借りたバケツに柄杓を入れて水を汲むと、墓地内へ向かって歩き始めた。 フィリップは黙って竜の後に追いて行く。
やがて辿り着いたのは『照井家之墓』と刻まれた墓石の前だった。
竜は墓石に打ち水をし、 フィリップが持っていた花束から数本だけ引き抜いて花立に立てると、 水鉢に新しい水を注ぎ、 レザージャケットのポケットから取り出した蝋燭と線香にライターで火を点けて手向けた。
「フリージアは妹が大好きだった花だ。」
「『フリージア』・・・ アヤメ科フリージア属の半耐寒性の球根植物、 葉は劒形で数枚垂直に立ち、 露地植えでは春に草丈が50〜100cmくらいになり穂状花序をなし、 白・黄色・紅・ピンク・赤紫・藤色・オレンジ色などの6弁花を咲かせる。 花言葉は色によって異なり、黄色は『無邪気』・・・」
「判った、もう良い・・・」
竜に制されて、 フィリップは『フリージア』に関する項目を口述するのをピタッと止めた。
「俺の妹も花言葉通りに『無邪気』で可愛いヤツだった。 生きていれば、この4月から高校生になる筈だった、 高校に行ったら、 俺よりイケメンの彼氏を作ると張り切っていた・・・」
「キミの妹さんは彼氏のハードル初期設定が、かなり高過ぎるんじゃないのかい?」
フィリップの言葉に竜はフッと苦笑した。
竜と二人で並んで瞳を閉じて、しばし合掌礼拝する。
(『家族』か・・・。)
フィリップには家族の記憶が無い。 だからもし自分の家族が殺されていたとして、 その事実を知ったとしても、 竜の様に復讐しようと考える以前に何の感情も湧いて来ないだろう。
フィリップにとって『家族』と云えるのは翔太郎と亜樹子だけだ。
「さて・・・ もう少しだけ、俺『に』付き合ってもらおうか。」
促す様に言いながら竜は立ち上がり、バケツを片手に持ってスタスタ歩き始めた。 フィリップは無言で後を追いて行く。
『鳴海探偵事務所』の床に座って、 お気に入りのハードカバーの本を捲っていたフィリップは、 ガチャッ!と云うドアが開く音と同時に、 空気に漂って流れて来た甘い香りに、ふわ・・・りと鼻腔を擽られ、顔を上げた。
「照井竜・・・また来たのかい?」
おなじみの来訪者は黒いレザーのジャケットに同色のレザーパンツを身に着け、 右手に黄色いフリージアの花束を持っている。 花の本数は2〜30本と云う処か・・・
竜は、まるで自分の事務所でも有るかの様にズカズカと入り込み、 (これはいつもの事だが・・・) フィリップのすぐ傍に立つと頭上から問い掛けた。
「左と所長は留守か?」
「ああ、二人ともペット探しの聴き込み捜査に行ってる。」
「そうか・・・ なら、一緒に来い、 ちょっと俺に付き合ってもらいたい。」
フィリップは一瞬、 訝しそうに眉間に縦ジワを寄せたが、 眼前の竜の姿を上から下までジロリと一瞥した後、納得した様に肯いた。
「・・・判った。」
「ほぅ?今日は、やけに素直だな?」
「俺『と』付き合え・・・だったら、即、断らせてもらうけどね・・・」
フィリップは左の指先で自分の下唇をつぃ・・・と撫でると、
「キミのジャケットのポケットには『線香』が入っている、 そして右手にはフリージアの花束。 ・・・と云う事は、これからキミが行く先は誰かの墓参りに違いない。 身内でも無い僕をわざわざ連れて行きたがるからには、 それなりの理由が有っての事なんだろう?」
フィリップの指摘を聴いた竜は唇の端を満足そうにフッと上げた。
「頭の良い人間は察しが速くて助かる。 こっちがいちいち説明する手間と時間が省けるからな。 じゃ、早速、俺『に』付き合ってもらおうか?」
「別に構わないよ、 いくらキミでも墓前で不埒な真似をする人間とは考えられないからね。」
翔太郎が聴いたら、 猛烈に怒り狂ってたちまち巨大化しそうな答えを返すと、 フィリップは防寒用にグレーベージュのジャケットを羽織り、 事務所のドアに鍵を掛けて外に出た。
あらかじめ竜が用意していたらしいハーフサイズのヘルメットを被って ディアブロッサの後部席に跨ると、竜はエンジンを掛けてバイクを発進させた。
| 2010年03月07日(日) |
こんなサイン会はイヤだ! |
(25話、 某書店で『少女と人形の家』の著者、堀之内慶應のサイン会が行われているシーン。 並んでいる人の列を無視し、最前列に居た人物を掌で払い除け、 堀之内と直接対面する竜。)
竜 「自分の娘をモデルによくこんな安っぽいお涙頂戴の小説が書けるもんだ。 娘の事・・・愛していないんだろう?」
堀之内 「どちらさまですか?」
(竜、懐から出した警察手帳を開いて堀之内に示す。)
堀之内 「刑事さんですか・・・」
竜 「お前の小説をけなすと命令された娘が命を狙いに来る・・・と言う 怖い噂もありますね?」
堀之内 「いやぁ・・・貴重なご意見のお礼に改めて私の作品をお送りしますよ。」
竜 「楽しみに待ってます。」
(サイン会場を出た後、亜樹子が竜に尋ねる。)
亜樹子 「今のどういう事?」
竜 「餌を撒いた・・・ これでヤツからサイン入りの著作が送られて来る筈だ。 わざわざ著作を購入したり、ああやって長時間列に並んだりしなくても、 こうすればサイン本は手に入る。」
亜樹子 「なるほど、さすが竜くん・・・って、それってただのクレーマーじゃん?」
竜 「質問は受け付けない!」
(シーン変わって『超常犯罪捜査課』・翔太郎と刃野がこぶ茶を啜っている。)
刃野 「あ、翔太郎・・・こぶ茶飲み終わったら、 そこに積んであるダンボール幾つか持って帰っていいぞ。」
翔太郎 「なんスか?これ・・・ うわっ! この大量のダンボールの中身全部『すっこんぶ』じゃないっすか!」
刃野 「先々週、照井さんが、 “お前の処の製品をドーパントの『ガイアメモリ』と見間違えた。 まぎらわしい商品を作るんじゃない!“って製造元に電話したらしいぜ・・・」
次回 『Cからの電話/責任者出て来いや!』 よいこのみんなはまねしちゃだめだぞ!!
| 2010年03月05日(金) |
Guilty Sky |
前方から歩いて来た人影に“ドン!”とぶつかられた弾みで、 少年は右手に握りしめていた赤い風船の紐を離してしまった。
「あッ!待ってよ!」
みるみる蒼空へと舞い上がって行く赤い風船を追うのに夢中で、 隣を歩いていた母の掌を握りしめていた左手を、 いつの間にか離してしまっていた事に気付かなかった。
母とはぐれてしまった少年は、 とぼとぼ泣きながら彷徨い歩く内に、 ようやく赤い風船を見付けた。
だが、風船はかなり高い樹木の枝に引っ掛かっていて、到底少年の手は届かない。
風船を取りにも行けず、 はぐれてしまった母を探す気力も無く、樹木の下で泣いていると、
「どうしたんだ?お前・・・」
突然、頭上から声が掛けられた。 声のした方を見上げると、 少年より頭一つ分程大きい、鳶色の瞳の少年が見下ろしていた。 年齢は少年より大分上らしい。
泣いていた少年が樹上の赤い風船を右手で指差すと、
「ああ、あれか! よォし!ちょっと待ってろ!」
そう言うと背の高い少年は、 すんなり伸びた長い手足を駆使してスルスルスルッと樹木を登って行った。
そして枝に絡まった糸を巧みに外し、
「よっ!と」
足の裏で樹木の幹を踏切って軽やかに跳躍すると 次の瞬間、スタッ!と地面に降り立った。
「ほら!」
鳶色の瞳の少年は、 泣いていた少年の右手首に赤い風船に付いている紐をくるくると2〜3回巻いて、 キュッと縛り付けてやる。
「ほ〜ら、こうすればもう飛んでかねェぞ! だから、もう泣くな!俺はこの街の誰にも泣いて欲しくねェんだ!」
“うん!”と少年は肯いたものの・・・ 赤い風船が手に戻った安心感からか、 ふいに母親の事を想い出してしまったらしく、 今度は“お母さん、お母さん・・・”と呟きながら、しくしく嗚咽し始めた。
「ああ!もう!しょうがねェな!」
少年は泣いている少年の左手首をグィッと掴むと、
「来い!お前のお母さん一緒に探してやっから!」
人ごみの中を当て所無く二人でテクテク歩き続けている・・・と、 赤い風船を持った少年は人ごみの中に母親に良く似た女性を発見し、 慌てて駆け寄ろうとし、突然方向転換した。 その弾みで鳶色の瞳の少年はグラッとバランスを崩し地面に倒れ込む。
「うわッ!」
赤い風船の少年は、一瞬よろけただけで転ばずに済んだが、 転んでしまった背の高い方の少年は右肘を大きく擦り剥いてしまった。
「あ、痛ッてェ! おい!勝手に行き先変えんなよ!危ねェじゃねぇか!」
「ごめんなさい・・・そのキズ痛い?」
少年がシュンと項垂れてすまなそうに言うと、 背の高い方の少年は優しくフッと微笑しながら、 左掌で小さな黒い頭をよしよしと撫でる。
「気にすんな!こん位のキズ舐めときゃ、すぐ治っちまうからよ!」
「舐めれば治るの?」
少年は黒い瞳をキョトンと丸くすると、 もう一人の少年の右肘の傷に滲んでいる真っ赤な血に唇を近付けて、ぺろッと舌で舐めた。
「ちょ・・・っ!お前がじゃねェよ!」
キズを舐められた少年は驚きに声を上げながら、サッ!と右肘を引っ込めて、 自分の舌でぺろっと舐める。
初めて舐めた他人の血は公園の鉄棒の味に少し似ていた・・・。
それから二人でまたしばらくテクテクテクテク・・・と歩く内に、
「あ!お母さんだ!」 声を上げた少年は傍らの背の高い少年の顔を見上げる。 少年が笑顔で肯くのを確認してから、改めて左掌を離すと、 白いワンピースを着た母の元へ駆け出して行った。
「まぁ良かった!・・・探したのよ!」
母は心配に泣き腫らした黒い瞳を細めて少年を見つめ、小さな身体をキュッと抱きしめた。 そして少年の右手にある赤い風船に瞳を留めると、
「あら、その風船も見付かったのね・・・ 随分高い処まで飛んでしまったと想ったけど、誰かに取ってもらったの?」
母の問いに“うん!”と肯いて振り返った時には、 もうあの背の高い鳶色の瞳の少年の姿は無かった。
彼の名前を尋かなかった。 自分の名前も言わなかった。
だから彼には、 もう二度と逢えないかもしれない。
そう想った途端、 黒い瞳の少年の胸の中に、 急に寂しさが込み上げて来た。
「あの子と・・・また遊びたいな。」
ぽつり・・・と少年が呟く。
「珍しいわね、 人見知りのあなたがそんな事言うなんて・・・その子が欲しいの?」
コクン・・・と少年が肯く。
「そうね・・・ じゃあ、その子にしようかしら?・・・・」
「あの子を僕にくれるの?お母さん?」
少年の問いに、 母は紅赤い唇で美しく微笑うばかりで、何も答えてはくれなかった。
或いは、 その時の母の答えが、 幼い少年には理解出来ない単語の羅列だったのかもしれないが・・・。
(『ビギンズナイト』以前に逢っていたかもしれない、誰かさんと誰かさんのお話。
誰かさんのお母さんが『ダブルドライバー』を作ったのではないかしら?と云う勝手な予想を元にお話を書いてみました。)
| 2010年03月01日(月) |
こんなリクエストコーナーはイヤだ! |
“ただいまの曲は『Queen&Elizabeth』さんのデビューシングル『Love♡Wars』でした。”
「へぇ・・・大したモンだな、クイーンとエリザベスも・・・。 自分達の歌が、こうやってちゃんとラジオで流れるんだもんな。」
ある日の昼下がり、 『園崎若菜のヒーリング・プリンセス』を、 フィリップはいつも通りラジオの真ん前に陣取って、 翔太郎は自分のデスクで資料整理をしながら聴いていた。
“さて次の曲は、最近リクエストが増えている謎のデュオ『仮面シンガー』さんで 『Finger on the Trigger』です!“
「翔太郎!僕達の歌が若菜さんのラジオで紹介されてるよ!」 「えっ?マジかよ?」
翔太郎は思わず声を上げながら立ち上がると、 フィリップの背中にピッタリと身体を密着させ、二人一緒にラジオに耳を傾けた。
それは間違い無く、 先々週の『フーティックアイドル』の番組内で二人が熱唱した音源だった。
やがて曲は小さくフェイド・アウトして消えて行き、 スピーカーからは再び若菜の声が流れ始める。
“凄いですね!『仮面シンガー』さん! 惜しくも1週目でジミー中田に負けてしまったんですが、 最近ジワジワと彼らの曲のリクエストが増えているそうです!“
「お!俺達、凄ェじゃん!」
翔太郎の嬉しそうな言葉にフィリップも微笑いながら肯く。
“私も『仮面シンガー』さんが出演した回の『フーティックアイドル』は、 自宅のTVの前で父と観てたんですけど、 フィリップく・・・あ、いえ、黄色いマスクの子がとっても素敵でした。
マスクしててもなかなか端正な顔立ちなのが判って・・・ 若菜、大FANになっちゃいました!もうハートがフルフルです!“
「・・・だってよ!良かったな、相棒!」
翔太郎はラジオの前で耳まで真っ赤に紅潮させているフィリップの頭を右拳で、 コツンと軽く小突いた。
“あ!? 今、ブースの外にフィリップ君・・・じゃなかった、 フリップが出たんですけど、 今度『仮面シンガーさん』に『ヒーリング・プリンセス』に、 ゲストとして遊びに来てもらうと言うのはどうでしょう?“
「どうする?相棒、若菜姫がラジオに遊びに来てくれって言ってるぜ?」
「え?そ、そんな! わ、若菜さんの瞳の前になんか行ったら、僕、何も話せないよ・・・。」
“ああ!若菜さん!僕のハートもフルフルだよ・・・!”と、 ときめきに激しく脈動している心臓の真上を右掌で押さえつつ、 うわ言の様に呟いているフィリップを眺めながら、 翔太郎は可笑しそうに鳶色の瞳を細める。
“もちろん恥ずかしがり屋の『仮面シンガーさん』は、 黄色いマスクを付けたままでOKですよ! あ!そうそう・・・忘れる処でした、 青いマスクを付けた助手さんも是非いらして下さいね。“
「誰が助手さんだっっっ!!」
“それでは次は『風都ミステリーツアー』のコーナーです。 ラジオネーム『ナマクラって呼ぶな!』さんから・・・
若菜姫、聴いて下さい。
僕が仕事をしていたら、 道端で黒いレザージャケットと黒いレザーパンツを着た若い男が 破れた『すっこんぶ』の箱を、とても大事そうに拾って、 満足そうにニヤニヤ微笑んでいました。
「そんな破れた『すっこんぶ』の箱なんか、どうするんですか?」と 僕が尋いたら、 その男に「質問は受け付けない!」と怒鳴られ・・・”
次回 『Aの伝説/すっこんぶの謎』 これで決まりだ!
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