人形遣い黒谷都さんのパフォーマンス『循環畸系』を六本木ストライプハウスギャラリーにて観覧。
定員35名の狭い客席の随所には 造形作家 松沢香代さんの人形やオブジェが飾られている。
赤や黒などの糸や布の繊維、 針金等で造られたオブジェが、 人の身体に張り巡らされた毛細血管や 神経繊維を連想させた。
やがて客席が暗くなり、 舞台の前に下ろされたままの白幕の両側に 飾られた布製の不格好な人体のオブジェが 奇妙な脈動を打始める。
もちろんオブジェの裏側から遣い手の方が動かしているに過ぎないのだが、 何だか、とうの昔に神様に見捨てられてしまった異形の生物が、 薄明の照明に依って、かりそめの生命を持ったかの様に見えた。
オブジェの脈動が終わり、 開いた白幕の向こうは全ての壁が深い碧緑色の布で包まれていた。
壁のあちこちから白い『腕抜』が生えている。 ゴムですぼめられた袖口の形が『フジツボ』を連想させるので、 (きっと此処は『海底』なんだろうな)と勝手に想定してしまった。
舞台下手の白いオブジェも、何だか『珊瑚』みたいな形状だし、 あながち間違いではなかろう。
その『珊瑚』みたいなオブジェの陰から黒谷都さんが登場。
真白く塗られた顔に大きく見開かれた瞳の黒谷さんは、 まるで迷子になってしまった幼女の様にも見え、 また迷子になってしまった我が子を捜し求める老いた母の様にも見える。
布を丸めて造られた人形の頭部を口に咥えたり、 細い指先や足の指で挟んだりして、 あたかも生きているかの様に自在に動く人形・・・・
つかの間の生命を吹き込まれた人形を抱き締めたり、口付けたり、 また黒谷さん自身の胸の上に被せた緑の布で作った乳首を含ませたり、 一緒にゆらゆら踊ったりする姿は、 まるで己の分身と永遠に終わらない追い駆けっこをしているかの様だった。
“鬼さん こちら 手の鳴る方へ
鬼ヶ島へは行かないで
アタシを置いて 行かないで・・・”
| 2007年02月19日(月) |
聖バレンタインの帰還 4 (『カブト』ネタです) |
聖バレンタインの帰還 4 “ぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺち・・・・・・・・・”
“何か”が、加賀美の左頬に規則的なリズムで“ぺちぺちぺち・・・”と 平たい音を立てて当たっている。
(・・・っぅ・・・ん?)
頬に与えられる刺激に依って、 深い闇海の底に沈み込んでいた加賀美の意識が ゆったりと上に向かって浮上して行く・・・
“ぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺち・・・・・・・・・”
左頬を掌で叩きながら、誰かが耳元で自分の名前を呼んでいる。
“・・・賀・・美・・・!・・・加・・賀美・・・ッ!”
聴き覚えのある、耳に慣れ親しんだ声。
ああ、でも・・・ 一体誰の声だっただろう?
頭がぼんやりして、思考がちっともまとまらない。
少しでも気を抜くと、 意識が、またあの深い深い闇海の底へ転がり落ちて、 そのまま“ずぅ・・・っ”と沈んで行ってしまいそうになる・・・
“お・・い・・ッ!・・・・加・・・美・・・!・・・っかり・・・ろ・・・!”
口調の必死さから察するに、 声の主は、おそらく大声で叫んでいるだろうと想われるのに、 ブツ・・・ブツ・・・と、途切れ、途切れ、に、 そして随分と小さくしか聴こえないのは何故だろう?
“ぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺち・・・・・・・・・”
・・・と、 平手打ちと同じリズムで頭蓋骨が小刻みにグラグラ揺らされた所為で、 ぼんやりしていた意識の輪郭が次第に鮮明になって行く。
ふ・・・っと、 何気無く瞼を開け様として、その余りの重たさに加賀美は愕然とした。 まるでぴったりと貼り合わされてしまっているかの様に 瞼はピクリとも動かない。
“加・・賀美・・・ッ・・・・・! お・・い・・ッ!・・・瞳・・・・開・け・・・ろ・・・ッ!”
再び闇の中へ落ちて行きそうになる意識を必死に繋ぎ止めながら、 加賀美は満身の力を瞼に込めて、ぐぃぃ・・・ッと持ち上げると、
(あれ?・・・ひょっとして、俺・・・天国来ちまった?)
開いた瞳に鋭く突き刺さる白く眩い光の中に天使が居た。 ギリシャ彫刻の様に端整な顔立ちの天使に加賀美はうっとり見惚れる。
(やっぱキレイだな、天使は・・・でも何で、そんなシケた顔してんだ?)
天使は、ひどく怒っている様な、噛み付きそうな表情で、 加賀美の鼻先に向かって声を荒げている・・・らしいのだが、 叫んでいる声がほとんど聴こえないのでピン!と来ない。
(どうして微笑ってくんねェのかな?天国なのにサービス悪ィぜ・・・)
“ぱちん!”と一際強く左頬が叩かれる。
「おい!べルトは何処だ?」
あまりの痛さに、 一瞬、意識のフォーカスが、 す・・・と鮮明になり、突然、天使の声がはっきり聴こえた。
(ベル・・・ト?)
「ベルトだ! 加賀美!ベルトは何処に有る?」
じんじん・・・と熱く疼く左頬に顔をしかめながら、 耳朶に引っ掛かったその単語の意味を、 ぼんやりと霞が掛かり始めた頭の中を必死に探って、 何とか手繰り寄せ様と試みる。
「あ・・・」
声を出そうと喉に力を入れた途端、口腔内に溜まっていた血で ゴホゴホッとむせた。 咳き込んだ弾みに鼻腔から溢れ出た血が、 ぬるぬる・・・り、と、生温く頬を伝って行くのが酷く気持ち悪い。
「加賀美ッ!」
“パタパタパタ・・・ッ”と、 まるで雨粒の様に天使の涙が血濡れた頬の上に降り掛かる。
「て・・・ん・・どう・・・?」
ようやく加賀美は天使の名前を想い出した。
天使に触れたい、 腕を伸ばして抱き締めたい衝動に駆られたが、 腕処か指一本持ち上げる力さえ、もう身体中の何処にも残っていない。
「アパー・・・トの・・・タンス・・・引き・・出し・・・一番上の右、がわ・・・」
かろうじて残っている僅かな力を振り絞って喉の奥から搾り出した声で、 ベルトの有処を伝え終えると、 加賀美の意識は再び暗い闇海の底へと滑り落ちて行く・・・
| 2007年02月18日(日) |
聖バレンタインの帰還 3 (『カブト』ネタです) |
ヒラ・・・と、 タキシードの裾を白く翻えらせながら、 剣の姿は道の曲がり角の向こうに消えた。 「待て!」
加賀美は全速力でその角を曲がったが、 遥か100M先の大通りへと続く一本道の何処にも剣の姿は見当たらない。 チッ!と舌打ちすると、 走るスピードを更に上げて、眼前の一本道を駆け抜けた。
大通りに出た途端、左右の視野がぐん、と拡がる。
加賀美は立ち止まり、 キョロキョロと周囲を見廻してみたが、 やはり剣の姿は何処にも無かった。 ハアッ、ハァッ、ハァ・・・ッと、 乱れた呼吸を整えながら、ガックリと両肩を落とし、溜息を吐く。
(見失っちまったか・・・)
やはり相手はワームだ。 音速を超えて疾走する対象を普通の人間の視力が捉えられる筈が無い。
(ちっくしょうッ!何でベルトしてなかったんだ!俺!)
もしライダー・ベルトを装着していれば、 クロック・アップ出来ていれば、 剣に擬態したあのワームを絶対に逃がしはしなかったのに・・・
「くそッ!」
アスファルトの路面に唾と共に苦々しく吐き捨てる。
無駄だと想いつつも 加賀美は大通り沿いの歩道を小走りに駆けながら剣の姿を探した。 あの剣はワーム(或はネイティブ)の生き残りだろうか?
だとすれば一体、何の目的で剣に擬態して『サル』に現れたのだろう?
一年前に終結したあの闘いで、 ワームは完全に殲滅された訳では無かった。 だが、 人類に害をなす存在では無いと判断された善良な心を持ったワーム達は、 普段は人間の姿に擬態したまま人類と共存し、平和な日常を送っていた。 ひよりの様に・・・ (剣だって、 もし生きていれば、 ひよりみたいに俺達と一緒に平和に暮らせたかもしれないのに・・・) 己の正体をワームだと知らないまま、 姉の敵を取る為に仮面ライダーの一人として ワームと戦い続けていた剣の事を想起する度、 胸の奥を切り裂かれる様な痛みがズキ・・・と走る。 だが、剣を手に掛けたあの男の行動を恨んだり、 責めたりする気持ちには、なれなかった・・・
早咲きの紅梅が蕾を綻ばせ、甘い匂いを周囲に漂わせている。 その香りに誘われる様に、 ふと顔を上げて見ると、 大通りの下を交差して流れる河に沿って紅梅の樹が立ち並んでいた。
その河に架かった橋の上に小さな人影が佇んでいる。 小さく丸められた背中の持ち主は加賀美が良く見知っている人物だった。
(あれ?じいやさん?)
かつて神代剣に忠義を尽くしていた穏やかな面差しの老人が、 橋の手すりに身体を預ける様にして、もたれ掛かっている。
その顔色が蒼褪めて視えるのは、 老人が項垂れているから・・・と云う理由ばかりでは無さそうだ、と、 気付いた加賀美は「じいやさん!」と呼びながら駆け寄った。
間近で見ると、老人の顔はかなり憔悴していて、 かなり疲れている様子だ。 もしかしたら、何処か具合でも悪いのかもしれない。
加賀美に気付いた老人は薄い微笑を口元に浮かべて軽く頭を下げた。
「大丈夫ですか?随分気分悪そうですけど・・・」
老人の顔を覗き込みながら心配そうに加賀美が問うと、
「剣坊ちゃまにお会いになられましたか?」
(・・・・・・っ?!)
全く予想外の答えを返され、加賀美は想わず絶句する。
「先程、お会いになられましたでしょう?坊ちゃまに・・・ いかがでしたか? 坊ちゃまは、 以前と変わらない凛々しいお姿をしておられましたでしょうか?」
「じいやさん、あなた一体何を知って・・・」
老人は自分から問うたにも関わらず、 加賀美の答えを待たずに、 フゥと溜息を吐くと、 まるで独り言の様に小さな声で静かに呟き始めた。
「坊ちゃまが亡くなられたあの日から、 私はただの抜け殻になってしまいました。
坊ちゃまにお仕えする事は私の生き甲斐でございましたから、 坊ちゃまを失くした後の私は、まるで生ける屍・・・
せめてミサキーヌ様のお手伝いをと、 坊ちゃまがお好きだった料理を幾ら作ってみても、 坊ちゃまに食べて頂けない料理など全く意味が有りません。
ですから、 どうしても、私はもう一度坊ちゃまにお仕えしたかった、 せめて、もう一度お会いしたかったのです。
たとえそれが、人の道から大きく外れる事で有ったとしても・・・」
老人の瞳から溢れ出た涙が痩せこけた頬を伝って流れ落ちる。 掛ける言葉を見付けられず、呆然と立ち尽くしている加賀美の方に、 やがて老人はゆっくりと顔を向けた。
「その為に私は『アクマ』に魂を売り渡しました。 こんな老いぼれの魂でも、意外と高く買って頂けましたよ」
「・・・じいやさん?」
老人の瞳が哀しそうに細められた瞬間、 “ズヌシュ・・・ッ!”と云う鈍い音を立てて、 灼ける様な衝撃が加賀美の左胸を熱く刺し貫いた。
「・・・あ・・・?」
濃碧緑色の触手が左胸から、ずぶぅん!と抜けると同時に、 ゴボゴボゴボゴボッ・・・と赤黒い血が溢出してシャツをみるみる濡らした。 何か叫ぼうとしたが、 喉の奥が血液で塩辛く塞がれてしまい、呻き声すら漏らせない。
「申し訳ございません、本当に」
すまなそうに見下ろしている老人の哀しそうな顔が、 急速に暗くなる視界の闇に包まれて行く・・・
(続く)
| 2007年02月17日(土) |
聖バレンタインの帰還 2 (『カブト』ネタです) |
加賀美は、 天道が剣に手を下した場面を実際に目撃した訳では無かった。
ただ天道から、 その、あまりにも哀しい事実を聴かされただけで・・・
クリスマス・イブが終わってからも、 しばらくの間ずっと、剣の死が信じられなかった。
だから、
「やぁ・・・我が友カガーミン♪」
雪の様に真白い頬の上に、 ニッコリと優美な微笑を浮かべる剣は、以前と全く変わらない姿に見える。
ひょっとしたら剣が死んだと云うのは天道が吐いたウソで、 実は何らかの事情で、少しの間、身を隠していただけなのかもしれないと、 そう信じてしまいそうになる。
いや、出来るなら、このまま何の疑いも抱かずに信じたい・・・彼の帰還を。 だが、
「お前・・・本当に剣か?」
加賀美にそう問われた剣は、 質問の意味が判らないと云わんばかりに瞳をぱちくりと瞬かせながら首を傾げた。
「何を言ってるんだ?カガーミン?」
もし瞳の前の彼が剣本人では無いならば・・・
いや仮に剣本人であったとしても、どちらにせよ彼は人間では無い。 そのほとんどが既に死滅したとされている筈の異種生物『ワーム』
加賀美は反射的に腰に手を伸ばし掛けたが、 今日が非番で有った事を想起して、くやしさに臍を噛む。 畏怖すべき力を持つ脅威の生命体と対等に闘う為の武器を、 あいにく今の加賀美は持ち合わせていない。
そして・・・
かつて、こんな時には必ず時空を超えて飛来した筈の、 あの紺青色の甲蟲は、 未だに姿を見せないばかりか、その羽音すら聴こえて来ない。
(どうする?とりあえず厨房行って包丁でも取ってくるか?)
その時、 “ビシッ!”と蓮華が手元に有ったチョコレート・ソースの瓶を剣に向かって投げ付けた。
「うわっ!な、何をする!」
想わず顔を庇った剣の両腕に当たった瓶から飛び出たチョコレート・ソースが 彼の純白のタキシードに飛び散った瞬間、 ゆら・・・りと剣の姿がゆらめき、 その肉体の輪郭が、碧緑色をした異形の姿と混じり合ってぼやけた。
「やっぱり!」
鋭く叫びながら蓮華は、 チョコレートクリームがパンパンに充填された『生クリーム絞り袋』の先端を剣に向ける。
“チッ!”と舌打ちすると碧緑色のワームは剣の姿に戻り、 素早く踵を返してダッと厨房を飛び出した。
「待て!」
“カララララ〜ン!”と鐘の音を立てながらドアを開けて店を出て行った 剣の後を加賀美は慌てて追い掛ける。
(この手の芝居は、もう、うんざりなのに!)
先刻、一瞬だけ剣が変化したワームはサソリ・ワームでは無かった。 やはり彼は加賀美が知っていた剣とは別人だった。
「・・・ちくしょうッ!」
無性に腹が立って、腹が立って・・・ そして、どうしようも無く、くやしくて堪らなかった。
(続く)
今日はアクション教室XYZの稽古日。
ほとんど残業無しで定時に会社を出られたので、 今日は遅刻しないで稽古に行けるぞ!と想っていたら、 突然鞄の中の携帯電話がブルブルブルブル・・・と痙攣した。 (↑基本的にマナーモード派)
電話の相手は派遣元の会社の経理担当Tさんだった。 「ななか(仮名)さん、 さっき『タイム・シート』裏返しでFAXで送信しませんでしたか? 真っ白で何も読めないですよ!」
やっちまった(涙)
何で私はこうなんだろう・・・ 持ち前のそそっかしさでいつもこんな些細なミスを連発してしまうのだ。 『天然ボケ』で失笑されている内は良いのだが、 他人に迷惑を掛けてしまう様なミスに繋がったら洒落にならない。
今回も『タイム・シート』は自分だけでは無く、 同じ派遣会社の方2名の分も一緒に送信してしまったので、 このままではお二方の給与支払いにも支障が出る可能性が有る。
Tさんは翌朝でも構いませんとおっしゃって下さったのだが、 あまりにも申し訳無くて、 急いで会社に駆け戻り、自分の分も含めて3人分再度FAXし直す。
お陰で稽古に遅れてしまい、 ストレッチと倒立勝負に参加出来なかった・・・残念。
| 2007年02月15日(木) |
聖バレンタインの帰還 1 (『カブト』ネタです) |
(三島と根岸を倒してから一年後・・・
ワームはほぼ殲滅されZECTは解散、 加賀美 新は警察学校を卒業して都内某『派出所』に勤務、 天道 総司はあの『鈴木さんが造った豆腐』を買う為にパリへ行き、 人々は命を賭けて闘ってくれたヒーロー達の名前を忘れてしまう程、 平和ボケしていたが、 そんな世の中に新たな新の敵が出現しつつあった・・・その名は、)
東京タワー近くにある(らしい)フランス料理店『ビストロ・サル』 まるで戦争の如くバタバタと忙しかった店内もランチ・タイムが終了し、 ディナー・タイム前の仕込と従業員の食事、休憩の為に一時閉店している。 さて『今日のひよりみ・まかない』を食べた後、 ひよりと店長の弓子はそれぞれ私用で外出してしまい、 店内の厨房で蓮華は一人ごそごそと何やら拵えている。
「出来た〜! 『バレンタイン・スペシャルメニュ〜〜〜vvv』」 ぱちぱちぱちぱち・・・と完成した料理の皿の前で一人手を叩いていたが、 ふと、華奢な肩を“すとん”と落としてフゥ・・・と溜息を吐いた。
「でも・・・最近誰も試食してくれなくなっちゃった・・・
師匠はパリから帰って来ないしィ、 加賀美先輩はおまわりさんになっちゃってから、 忙しくてなかなか食べに来てくれないしィ、 ひよりさんは見向きもしてくれないしィ、 弓子さんは一口食べただけで、お腹壊して一週間入院しちゃって以来、 アタシが厨房に入るのも禁止してるしィ・・・
でも料理作るのって、超〜楽しィ〜♪から、やめられないのよねェ〜♪」
“カラカラカラ〜ン”と鐘の音が響いて誰かが店内に入って来た。
「あ!すぃませ〜ん!まだ準備中なんですけどぉ・・・」
店内に入って来た人物を人目見て、想わずハッ!と蓮華は息を呑んだ。
その人物は、 まるで結婚式の新郎かジャ●ーズのコンサート衣装の如く派手なフリルでフリフリフリ・・・と飾り立てられた純白のタキシードを身に纏っていた。
だがそんな衣装を簡単に着こなしてしまう程、彼の顔立ちは端整で美しい。 ボーク●製スーパードルフィかビスクドールを想わせる綺麗なその顔に、 人懐こそうな微笑みをニコニコ浮かべながら青年は厨房に入って来た。
「美味そうな料理だな?これは何と云う料理なんだ?」
「あ・・・は、はい! 『バレンタイン・スペシャルメニュー』の『ちょこッと★チョコレート』です、 けど・・・」
問われて反射的に答えを返してしまいながらも蓮華は、 彼がそこに存在してる事実が信じられなかった。
だが、瞳の前の人物は平然とした態度で蓮華が作った料理の皿の上から、 およそ1立方センチメートル程度の直方体の塊をチョイと摘み上げ、 “あ〜ん”と口に放り込んでモグモグ咀嚼すると、
「う〜ん・・・今度はもっと沢山食してみた〜い〜!」
その時、 “カララララン・・・”と鐘の音を響かせて『サル』の扉が開き、 また誰かが店内に入って来た。
「ウィ〜ッス! 弓子さ〜ん!頼まれてた『義理チョコ』買って来ました〜〜〜!」
『義理チョコ』がパンパンに詰め込まれた大きな紙袋を抱えた加賀美巡査 (今日は非番らしい)は店に入ると、 何気無く厨房を覗き込んだ途端、 「・・・・・ッ?!」 想わず抱えていた袋を床に落としてしまった。
袋の中のハートの大半は、 瞬時に半分こか、或いは粉々に粉砕してしまったに違いない。
加賀美は蓮華の傍らに立っている人物を 大きな瞳を見開いて凝視したまま、 凍り付いてしまった様にその場に立ち尽くす。
ゴク・・・ッと反射的に喉を鳴らして、唾を飲み込みながら、 加賀美は彼の名を呼んだ。
「・・・・・・剣?」
(続く)
(自分勝手に『カブト』の続編みたいな物をつらつら書き始めてみました。 好きな物をのびのびゆったりマイペースで 心安らかに書いて行きたく想います)
| 2007年02月14日(水) |
Finger Ball (『カブト』ネタです) |
「・・・で、最後の仕上げに飾り用のココアパウダーか粉砂糖を振り掛ければ『オレ様風チョコレート・ブラウニー』の完成だ」
「すご〜い!天道君て、本っ当に何作らせても上手なのねぇ〜!」
『ビストロ・サル』の厨房で、店長の弓子が、 たった今、天道が完成させたハート型の『チョコレート・ブラウニー』に 感嘆の眼差しを向けながら、パチパチと賞賛の拍手を惜しみ無く浴びせる。 「これなら田所さ・・・」と、言い掛けて、ハッ!と慌てて弓子は口ごもる。 「い、愛しいあの人のハートもGET出来るかも・・・ね!」
「当たり前だ、オレの作った『チョコレート・ブラウニー』を一口食べれば、 誰でもこの魅惑的な味の虜になる。 たとえ相手がどんな奴だろうと一発KO間違い無し!だ」
「・・・それって、何かヤバイ物でも混ぜてあるんじゃないのか?」
ボソッと小声でひよりが呟いた時、 “カララララン・・・”と鐘の音を響かせて『サル』の扉が開いた。
「ウィ〜ッス! 弓子さ〜ん!頼まれてた『義理チョコ』買って来ました〜〜!」
『義理チョコ』がパンパンに詰め込まれた大きな紙袋を抱えた加賀美巡査 (今日は非番らしい)は店に入った途端、 “クンクン・・・”と鼻の穴をヒクつかせると、
「お!スゲェ美味そうなチョコの匂い!」
ダッ!と、瞬時に厨房へオーダーを通す窓の側に駆け寄り、 ヒョイと厨房内を覗き込んだ。
「あれ?天道・・・お前が作ってんのか?」
「ああ、弓子さんに頼まれて、勝負用チョコレートケーキをな」
「え?マジ!超〜美味そうじゃん! ねぇねぇ!弓子さん!当然俺の分も有るんでしょ?」
「ああ、加賀美君は買って来て貰った『義理チョコ』の中から 適当に好きなの1個取って良いわよ」
ニコニコ微笑いながら非情な言葉を放つ弓子に 加賀美は不機嫌そうに声を荒げた。
「ええ〜〜〜ッ!せっかく休み返上で買いに行って来たってのに、 俺には一個105円(税込)の『義理チョコ』だけっすかぁ?」
「文句が有るなら借金全部返してから言ってちょうだい!」
ビシッ!と鼻先に人差し指を突き付けられ、 加賀美はグッ!と言葉に詰まる。
「さぁて、ラッピング、ラッピング〜と♪さぁ!ひよりちゃんも手伝って!」 「何で僕が・・・」
“チョコを食べて〜♪ララララ〜♪ついでに私も一緒に食べ〜て〜♪”
どうやら自作らしい歌を高らかに熱唱しながら弓子は ハート型の『チョコレート・ブラウニー』を片手に、 ひよりと共に店の奥へと消えて行った。
「なぁ天道・・・ チョコッと位チョコ余ってんだろ?」
チェッと軽く舌打ちしながら厨房の中を覗き込むと、 天道がボールに残ったチョコレート・ケーキの材料を指で掬い取って、 ぺろ・・・と舐めている。
チョコレートソースに塗れた、細く節立った指を咥えてキュッと軽く吸う 形の良い唇に時折ちろ・・・ッと桃色の舌が覗いて・・・
「何だ?」
不機嫌そうな声と共にジロッと鋭い瞳で睨み付けられて、 ようやく加賀美はハッと我に返った。
「いや、あの、その・・・ 美味そうだな、と想って・・・あ、え〜と・・・その、チョコが!」
照れ隠しから、つい、しどろもどろした喋り方になってしまう加賀美を 胡散臭そうに眺めていた天道は、
「そうか・・・じゃコレでも喰え」と、 手に持っていたボールを加賀美の手元にグイ!と押し付けて来た。
「わッ!何だよ・・・もう、ほとんど残ってねェじゃんかよ!」
「ああ、もう!いちいちうるさいヤツだ!」
ぷい・・・ッと天道は踵を返して、厨房の奥へ入って行ってしまった。
あの指に・・・
器用そうに動く、あのしなやかな細い指に、 ツ・・・と、自分の舌を這わせてみたくなる・・・『切望』
そんな事を想像しただけで、両耳朶が熱く熱く火照る。 舌がカラカラに渇いて喉が張り裂けそうだ。
(何、考えてんだ?俺・・・)
ふと厨房の中に視線を向けると、 天道は水道でバシャバシャと手を洗っていた。
すっかり穢れが洗い落とされた彼の指に、もし口付けたら、 きっとこのボールの中に残ったチョコと同じ味が、 ほんの少しだけ残っているのだろう。
甘くて、微かに苦い・・・
『生協の白石さん』がようやく借りられたのでサクサク読む。 (これはアッ!と云う間に読み終えられた)
農工大の生徒さんから寄せられた『ひとことカード』への白石さんの返答は、 「上手い!」とか「面白い!」とか云う単純な形容詞では表せない、 白石さんの答えの一つ一つに人間らしい優しさが感じられ、とても癒される。 ・・・かと云って偽善的ないやらしさも無い。
あえて形容するなら『ほっこり』した炊き立てご飯の湯気みたいな感じ、だろうか?
『銃とチョコレート』(乙一著)を、ようやく読了。
『児童文学』として書かれた作品なので、 本はブ厚いが、その分文字が大きいのですぐに読めるだろうと鷹を括っていたら、 予想外に時間が掛かってしまった。
物語の半分位迄は割とまったりした『子供向け』っぽい展開だった所為か、 読むスピードもダラダラと遅かったのだが、 折り返し地点を通過して、 それまでの価値観が180度逆転してから以降は俄然面白く読めた。
・・・と云っても物語が突然面白くなった訳では無い。 (あ、面白くなかった訳でも無いですよ(^^;)) 物語の登場人物が急に現実味を帯びたので感情移入がし易くなったのだ。
やっぱり人間の『外見』に簡単に誤魔化されてはいけない。
善良そうな人が実は悪党だったり、 悪党に見える人が実は単に生き方が下手なだけの善人だったり・・・
こう云う事は物語の中では数え切れない程テーマとして描かれているのに、、 物語の中では、その問題も解決され、教訓として生かされてたりしているのに、 本を読み終えた人々が生きる現実世界では、さして何の変化も無いのが寂しい。
『見た目が9割』なんて本がベストセラーになったりしてるし、 私自身もしょっちゅう騙されているし・・・
物語の本筋である『冒険』に胸をワクワクさせつつ、 上記の事、 そして主人公の少年が『移民』として差別されている事等について、 読んだ子供達が学び取れる本なのでは無いか?と想った。
個人的には『戦争』の話をもっと詳しく書いて欲しかった。
付記・読み終えてから気付いたが、 これは別に『児童文学』なのでは無く、 主人公が幼い少年だから、作者がその少年と同じ目線に立って書いた文章であるに過ぎない。
常に主人公の瞳の高さで物語を綴る事が出来る乙一さんは、やっぱり凄いなぁ・・・
| 2007年02月09日(金) |
風車小屋の謎を解き 怪盗の秘密を暴け! |
猛烈に頭が痛い。
・・・と云っても別に風邪を引いた訳では無い。
今の会社で新しい仕事を前任の方から引き継がせて頂いているのだが、 覚えなければならない事が山程有り、ただでさえ少ない脳細胞を全力でフル稼働させている所為であろう。
一昔前に多用されていたフロッピー・ディスクにデータを記憶させる際、 “ガガガガッ、ガガガッ、ズッ、ズッ、ズズズッ・・・”と、 いかにも「今、データを磁気テープに書き込んでいる」と云わんばかりの音がしていたが それとまるっきり同じ音が常にこめかみの辺りにガリガリ響いている。
まぁでも、ほんの二ヶ月前は仕事が決まらなくて、 かなりストレスを溜めていたのだから、それに比べれば贅沢な悩みだ。
“大変だ”等と弱音を吐いたりしたら、バチがバチ〜ン!と当てられてしまう。 (・・・と云いつつ、吐いているダメなワタクシ)
明日は待ちに待った休日なので、 覚えなければならない事でパンパンに膨張し、破裂しそうな脳細胞をゆっくり休息させてやるとしよう ・・・と云いつつ、きっと図書館から借りた乙一さんの本を読んだり、レンタルした『牙狼』のDVD観たりとかしてしまうんだろうな。
(だって、ほら、早く返さなきゃならないしさ(^^;))
諸君!私は『仮面ライダーカブト』が好きだ!
・・・とは云っても、 この『ブログ』やプライベートの友人、知人達は、 もう散々聴かされて既に耳にタコが出来ていると想う。
『カブト』と云う作品が面白いと云う理由も有るのだが、 主演男優さんがあまりにも格好良くて素敵な方だと云うのも大きな要因である。
すっかり彼の大FANになってしまった私は、 先日、歳甲斐も無く、その方の『握手会』に行って来た。 しかも、その『握手会』に参加するからと云う理由だけで、 わざわざ前日ネイル・サロンに行ってラメやらラインストーンやらで、 普段ささくれだらけで無残にガビガビになっている爪をキラキラ華麗に飾って貰ってしまった。
ちなみに私がネイルサロンに行ったのは、生涯でこれが二度目である。
そして更に、 その俳優さんが愛用している香水を先日購入して以来、毎日付けている。
ちなみに私は香水の類が苦手なので、 ブランド物の香水を付ける処か、買うのも生まれて初めての経験だ。
「もう、アタシって本当にバカみたいでしょ?」と苦笑しながら、 この話を知り合いの方にした処、 「ななか(仮名)さん、 それは『バカ』じゃないです・・・その行動は『乙女』ですよ」と言われてしまった。
そして、 「今日からななか(仮名)さんを『乙女チャン』と呼ぶ事にします」
来週3×回目の誕生日が来ると云うのに『乙女チャン』と云うあだ名を頂戴してしまった。 (でもカワイイ呼び名なので何だか嬉しい)
ちなみに『乙女チャン』・・・ぢゃなかったワタクシは前述した通り、 その俳優さんが愛用なさっている香水を付けて『握手会』に行ったのだが、 同行した知人曰く、 「ななか(仮名)さん、 自分が香水を付けちゃったら、 握手して貰った時に俳優さんの匂いが判らなくなっちゃうじゃないですか!」
彼女の言葉に、 私ごときなど『乙女』としてはまだまだ未熟・・・と痛感した(^^;)
| 2007年02月01日(木) |
ななかさんには先見の明があると云っても過言ではないのだ! |
祝!『時効警察』復活!
このオダギリジョーさん主演の作品は、 「最近のドラマはつまらない!面白いのはクドカン脚本作品だけ!」と想い込んでいた 私の身勝手な価値観を根底から覆してくれた素敵なドラマだった。
「既に『時効』になってしまったドラマを趣味で捜査する」と云う ゆる〜く脱力した感じのシチュエーション、 これでもかこれでもかこれでもかこれでもかこれでもかこれでもか・・・と 云わんばかりに詰め込まれた『小ネタ』の炸裂っぷり、 オダギリジョーさん始め『時効管理課』の人達の、 の〜んびり〜のほほ〜んとした雰囲気の良さに私は夢中になって観ていた。
番組が終わってしまった時には哀しみの余り、 想わず『DVD』を全巻衝動買いしてしまったのだが、 私が『DVD』を全巻買い揃えたのは『木更津キャッツアイ』に次いで二度目。
『木更津キャッツアイ』も放映当時、 私の周囲では誰も観ていなかった、番組名を知っている人すら皆無だったのに、 番組終了後にジワジワと人気が高騰し、何と!二度も映画化された。
続編が制作されるのは人気が高いと云う事だから、 もしかして私には先見の明が有るのかもしれない。
・・・だとしたら、 私が『時効警察』に次いで三番目に『DVD』を全巻買い揃えている 某特撮番組も、 いつか続編が制作されるやも? そう想ったら、途端に人生に希望と光明が見えて来た(^^)
話は変わるが、 私は趣味がマニアックなので流行モノに疎く、 オシャレな一般市民の方々から、 『私が好きな作品』に対しての罵詈雑言をいつも受け続けて来た。 だが最近は罵詈雑言を受けた作品が数年後に大ヒットしている事が多い。
『エヴァンゲリオン』もそうだった・・・
あれも続編が制作されるそうだが、 前作の完結の仕方もアレはアレで納得していたので、ちと複雑。 最近リメイクされて、昔の悲惨な結末がガラッと変わった『Zガンダム』も、 『戦争』に依って喪われるモノの重さが却って伝わらなくなったのではないかと想う。
ちなみに『エヴァンゲリオン』のリメイクで、 私が最も気になっているのは、 果たしてシンジ君がカヲル君を殺すのか殺さないのかと云う点である。
「自分の好きな人を、父親に嫌われたくないばっかりに殺しちゃったシンジ」 と云うのは、 当時物凄くイヤだったのだが、 とは云え、 今更「何も無かった事」にされてしまうのにも、かなり抵抗がある・・・・・複雑。
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